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西園寺命記~青龍ノ巻5~その21

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  *  *  *

 メイはソファで疲れた体を横たわらせていたが、ふと起き上がると、翔太と紗由のいる部屋に戻った。

 なぜか、そこへ戻らねばならぬ気がしたからだ。

 部屋には、神箒の“本体”と、それが入っていた箱が置かれていた。

「これは…若青龍さまの元へ…ですね?」

 翔太と紗由の遺影に話しかけるメイ。

 答えを待つ前に、神箒を木箱に納め、部屋を出た。

  *  *  *

 大勢の獣神たちから“気”の寄付が行われたにもかかわらず、相変わらずステージに横たわったままの若青龍。

 メイは、ステージの上の若青龍に声を掛けた。

「古の青龍さまの復活に必要なものは、ここに置いておきます!」

 だが、若青龍は何も答えない。

 その周りを飛び回っているドラゴちゃんたちは、コピーの神箒で、ポンポンと若青龍を叩いている。

 その様子に、メイはふっと微笑むが、背後に強い気配を感じ、振り返った。

 そこには、車いすの老人がいた。

 花巻の“命”と、神楽が一緒にいたので、怪しい人ではないだろうと思ったものの、その異様な雰囲気にメイは目を奪われていた。

“我が怖いか、朱雀の若姫”

 頭の中に響く声に、メイは不思議な感覚を覚えた。

 その波動は、彼の言葉を自分の中で増幅させていく。

 そうだ、私は朱雀の者なのだ…そう思いながら、メイは彼に頭の中で応える。

“怖くはありません…でも…声に独特な響きをお持ちなのですね”

“ほう…怖くないと…さすがは華織さまの直系だ”

“西園寺華織とお知り合いなのですか?”

“紗由ちゃんを通じて、私を救ってくださったお方だ”

“紗由さんともお親しかったんですね…翔太さんともですか?”

 老人はメイのその問いに答えず、車いすから立ち上がり、声を出した。

「清流旅館七代目と親しくないものが、今ここに来ようか?」

「…わあ…頭の中でお聞きするより、すてきな響きのお声…」

 答えの内容をまるで無視したメイの言葉に笑い出す老人。

「神楽の次によいおなごじゃ」

「いけません」不機嫌な声の神楽。

「何がじゃ」

「その“お声”で嘘をついては」神楽が老人の手を握る。「今、あなたさまの心はメイさんのことで満たされている。それは華音さんを通じ華織さんへとつながる思い。私ごときがたどりつけるものではありません」

「…いや。神楽は別格ゆえ」笑う老人。「まあ、それでも、どんなにコーヒーが好きでも、トマトジュースが飲みたい朝はあるからのう」

「彼女は合格でよろしいのですね」

「然り」

「では、次期当主の精査に」充が言う。

「やつは不合格じゃ」

「お館さま!」

「不満か、神楽」

「おそれながら、彼はあなたさま同様、誰よりも西園寺を継ぐ者。そして清流旅館の血を継ぐ者でございます。確かに、力に関してはご不満の点もございましょうが…」

「そこではない」

「では、何が…?」

「周囲が優しすぎる。皆が手出しし過ぎて、誰の手柄なのか意志なのかわからんわ」

「あ…」

「おまえたちは、ミコトとこの祭りを何とかしようと必死すぎて、本来の目的から離れている」

「本来の目的とは?」

「これはいったい何の祭じゃ?」

「…赤ん坊の怒りを流す祭です」

「では、それをまずいたせ。獣神たちを喜ばせるのは二の次であろう」

「お待ちください!」メイが割って入る。「怒りを流すことの本来の意味は何なのでしょう?」

 勝手に口から出て来る言葉に戸惑いながらも、言葉を続けるメイ。

「清流旅館をお守りいただく青龍神のご加護を、神様と人間、相互に実感する機会なのではないでしょうか」

「ほう?」

「ならば、与え続けて下さっていらっしゃる青龍さまへの感謝をする機会があってもよいのでは。60年に一度くらいは」

「ふむ。では問うが…」老人がメイを見つめる。「ミコトは何が出来るのだ?」

「ミコトさんは…」唇をかむメイ。「ミコトさんには、人に…応援してもらう力があります!」

「応援してもらう力?」

「それって大切なことだと思います。結局、人と人とのつながりで、すべてのことは成り立っているんです」

「ほお…」メイに歩み寄る老人。「そなたは、そういうことを拒否していたように思えるが。西園寺から、どんなふうに扱われようが、自分だけの力で生きて行けばいいと…違うか?」

 問われたメイの頭に、その声が木霊するように何度も響き渡った。

“これは…何…?”

 そう思いつつも、その思念を振り払うメイ。今は、ミコトのことを話しあっているのだ。

“心を落ち着かせたい時はね、メイ”脳裏に華音の声が蘇る。“心臓、ハートに注意を向けなさい。心臓で呼吸をしているように想像するの”

 思いをいったん脳ではなく、心臓へと向けるメイ。

 心臓と共に呼吸をしているうちに、気持ちが落ち着いてくる。

 だが、メイが気持ちを落ち着かせたその頃、当のミコトには大変なことが起こっていたのだった。

  *  *  *

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