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The Holy Lake ~聖なる湖【クイリスマス物語6】


むかし、むかしのおはなしです。
イタリアの北のあるドロミテ山脈の谷間に
それはそれは美しい村がありました。
山から銀が採れるので、
村びとは銀で食器を作って
街へ売りにいき、
食べ物やきものを買ってきました。
皆、自分の家でも銀の食器を使うほど、
豊な暮らしをしていました。
お金はいくらあっても邪魔にはなりません。
銀をとってお金を貯めていきました。


クリスマスの時期は
大地は雪におおわれ、
トウヒの木の枝にも雪が積もって
お日様に当たるとキラキラ光って、
それはそれは綺麗な風景で、
まるで、みんながよく知っている
クリスマスカードのようでした。


村にある教会の尖塔は
見上げる首が痛くなるほど高く立派で
たくさんの人々は
競って献金をして
誰が一番神様から愛されているかと
隣に座る人と比べてばかりいました。

さて、
クリスマスイブの夕方、
一人の少年が村にやってきました。
遠くから山みちを歩いてきたので
たいそう疲れていました。

窓から見える暖かそうな部屋
食卓の上には
美味しそうなご馳走が並んでいます。
暖炉にはたっぷりに薪が
パチパチ燃えています。

少年はドアを叩きましたしました。
トントントン、

こんばんは。
何か食べるものを少し分けてくださいませんか?
暖かい火に少しあたらせてくれませんか?


ところが、どの家もドアを開けてくれません。

なんだ、汚い小僧だなあ。あっちへいけ。

お前に食べさえるものはないさ。

ダンスを踊るのに忙しいのよ。

これから教会に行くからだめだめ。

理由をつけて断りました。

ちょうど教会のミサが始まる頃になりました。
教会へと、向かって歩いていく人の流れと一緒に
少年はトボトボと山の上の方へ歩いて行きました。

立派な教会からは
荘厳なオルガンの音が聞こえてきます。


少年は疲れ果てていました。
足は重くなり、お腹は空き、
寒さで手が痛くなりました。
村はずれまで来ていました。



その時、
煙突から煙の出ている小さな家が見えました。
少年はその小さなドアを叩きました。
トントントン、トントントン、

こんばんは。
何か食べるものを少し分けてくださいませんか?
暖かい火に少しあたらせてくれませんか?


するとドアが開いて、中からおばあさんが顔を出しました。

おやおや、どうしたことかい。
さあさあ、中におはいり。


おばあさんはやさしい笑顔で、
少年を家に迎え入れました。
そして、

何もないけど、あたたかいおかゆをお上がり

暖炉の前にある椅子に座らせ、
暖炉にかけたなべからあつあつのおかゆを
小さな木のボウルに入れて
少年にわたしました。

ありがとう、ありがとう、おばあさん

少年はそういうと、ゆっくりおかゆを食べ始めました。


おばあさんは少年の様子を見ながらやぎの乳を温めてくれました。
そして、どんなわけで、こんな山までやってきたのかと
やさしくたずねました。

おかゆを食べてお腹もいっぱいになり、
身体がぽかぽかしてきて、くつろいだ少年は
おばあさんに身の上をはなし始めました。

大工をしているお父さんと
やさしいお母さんがいること、
これから山を越えて、
人を訪ねていく途中であることを
はなしてくれました。

そしてこんどはおばあさんに
少年が身の上をたずねました。

街で暮らしている息子たちが
一緒に暮らそうと誘ってくれても
生まれ育ったこの村から離れたくないので
一人で暮らしていることなどを語ります。

おばあさんは教会にミサには行かないの?

と少年がきくとおばあさんは答えます。

お金儲けに目が眩み、
自分のことばかり考えて、
神様から離れてしまっていることを
嘆いていることを心にしまい

足が悪くて、教会までいくことができないからね。

と静かに言いました。

少年はおばあさんの目をしっかり見ました。
その目で見られると
おばあさんの心に何か温かなものが
流れてきました。

この子は誰だろう。
とてもよく知っているような気がする。

おばあさん、
おばあさん、
これから起きることに驚かないで。
この家から絶対に出ないでね。


この村の人たちは
クリスマスを楽しくお祝いすることばかりに夢中になって
一番大切なことを忘れてしまった。

扉を叩いても誰もぼくを中に入れてくれなかった。

おばあさんだけが、
ぼくを家の中に入れて、
ぼくに食べさせ、
ぼくを温めてくれた。


その時、驚くほどの音がしました。
雷がいくつも同時に落ちたような音でした。

おばあさんはびっくりしました。
身体が震えてきます。

少年はおばあさんの肩を抱いて言います。

おばあさん 大丈夫だから。心配しないでね。
さあ、ベッドで休んでね。


少年はおばあさんをベッドに連れいき
大工のお父さんだけでなく
もう一人の大切なお父さんもはなしもしました。

おばあさんは安らかな眠りにつき
幸せな思い出の夢を見ました。

次の日、
目が覚めると
少年の姿はすでにありませんでした。
そのかわりに
あたりには
それはそれは芳しいバラの香りがしていました。

その時
少年が誰だったのか
あばあさんにはわかりました。

そして外に出て、ゆっくり坂を降りていくと
なんということでしょう。

そこには村はありませんでした。
そこにあったのは大きな湖でした。



北イタリアのドロミテ山脈の谷間にある
湖に行ってみてください。

冬の晴れた美しい日に
透明度のある湖のそこに
今でも
尖塔のある教会が見えるそうです。

ルース・ソーヤー著 「聖なる湖」を
抄訳してみました。

良いクリスマスをお迎えください。

by Ruth Sawyer  “The Holy Lake ~
of The long Christmas



#ドロミテ山脈
#ルースソーヤー
#クリスマス

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