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モノクロで考えるLUMIXの「生命力・生命美」

メインカメラとしてLUMIX S5を迎えて5ヶ月が経った。
フジフイルムネタがある程度落ち着いて来たので、そろそろ本機についても触れていこうと思う。

まず最初に書こうと思ったのが、タイトルにもある通りLUMIXが画作りの思想として掲げる「生命力・生命美」について。
これは私の持つS5だけではなくSシリーズ全体が掲げる思想で「時代や世代が変わっても一貫した画作りを提供する」という真摯なもの。開発担当の方のインタビューなどを読むとセンサーサイズの違うGシリーズにおいても「生命力・生命美」と掲げてはいないが持ち替えても違和感がないようにしているとの事で、メーカーとしてのこだわりを感じる。

「画作りの思想」についてだが、この記事を書くにあたって各カメラメーカーのウェブサイトなどを簡単に調べてみたが、「こんなセンサーです!すごいっしょ!」「ピクチャーコントロールあります!これで安心!」といった内容は書いてあるが、意外にもメーカー側から画作りを定義しているのは(私が簡単に調べた限りでは)LUMIXだけだった。
よくカメラの画作りの話になると「Nikonは色が忠実です」とか「オリンパスと言えばオリンパスブルー!」「フジは変態」など様々見かけるが、これらは色の特性などを主にユーザー側が評価している話な訳で、「メーカーの掲げる思想」とはまた別だと感じる。メーカーによっては世代が変わると画作りも変わるところもあるらしく、そこは各社様々なようでもある。
とりあえず各社それぞれの持ち味を持って設計されてはいるが「思想」として掲げているのは珍しいという事実を知って意外だった。(フジフイルムも画質設計は本当に素晴らしいがフィルムメーカーとしての矜持を全うしている、という印象。新しいシミュレーションを生み出している点で言えばフジの思想が見える、とも言えるかもしれないが)

そんなLUMIXの「生命力・生命美」という画作りに関してだが、実を言えば購入するにあたってそこが刺さったからという訳ではなかった。
以前の記事にも書いた通り選んだ理由としてはSIGMAのレンズを使えるLマウントのカメラで尚且つメカシャッターやサイズなど実用的なのがS5だったから、という事だった。だがSIGMA fpも有力な候補だったので、購入を検討するにあたってどんな画作りなのかをメーカーサイト初め写真家のレビューやいろんな方のインプレッションなど参考にして検討した。そこで信頼している写真家の方がルミックスはモノクロに力を入れているメーカーだと仰っているのを知り、LUMIXでいってみるかとなったのを覚えている。その過程で当然S5のウェブページも見ており、その時にこの思想についても読んだ訳だが

「生命力・生命美を描き切る…それって具体的にどういう事?」と正直思ってしまった。

フジフイルムみたいに「往年のフィルムを再現しました」といった事なら「発色がいいんだろうな」とか「ネガフィルムっぽいんだろうな」とかわかりやすくイメージ出来るが、「思想」では具体的な部分まではわからない。だがスペックだけ載せているメーカーよりかは心理的に好印象なのは間違いなく、私自身何事に於いてもそういったメーカーは好きなので後は自分で試してみようという感じだった。

さて長くなったがじゃあ実際どうなんだという事だが。
(まず前提として私は基本Jpegで撮影をしている。メーカーの画作りが一番わかるのがJpegだからだ。そういった意味で今回の記事はある程度納得感を持ってもらえると思う)
「生命」と聞くと木々の緑や鮮やかな花、動物たちの姿などがイメージしやすいと思うが、私はプライベートの写真は8割方モノクロで撮るし動物の写真などは撮る縁がない。だから本当に私なりの話にはなってはしまうのだが、このS5は「忠実かつ丁寧に、しかし少しの個性と私の視点も入れてくれる」画作りだと感じている。

基本的にLUMIXの画作りはニュートラルだと思う。多少の特徴はあるが、見たままを残すというのもちゃんと出来る画作りだと感じる。
カラーの場合、私は現在スタンダードしか使わないのだが、全体を通して特に緑の発色がよく元気な感じになるが赤色にも結構特徴があるように感じる。鮮やかだが少しコクがあるというか。渋い色味とは真逆の方向性だと言えるが、シャドウが割と締まるので案外硬派な画作りだと感じる。そしてナチュラルやヴィヴィットなど他のスタイルに変えても大きく破綻する事なく、むしろスタンダードとの差を大きく感じられないようにする事で自分の中で一貫した写真を撮れるようになっている。
モノクロも彩度を抜いただけの「モノクローム」は置いておいて、Lモノクロームを基準とすればそのままでも良いモノクロ写真を出してくれる。Lが付くスタイルは露出の基準点などが他と変わるらしく、Lモノクロームは少しアンダーな画作りになる。それでいてディープシャドウが粘ってどっしりとしたモノクロになってくれるので、モノクロ初心者の方でも満足できる写真を撮れるのではないかと思う。シャープネスも高く、細かなコントラストもいいので質感表現もよく出来る画作りだと思う。

そして、自分の好みがわかっていれば、それに応じて細かくカスタムが出来る。シャドウやハイライトは勿論、シャープネス、ノイズリダクション、彩度、色相、粒状感にカラーノイズまで!(Lクラシックネオのみ)

私自身素のLモノクロームも好きだが、もっと重厚で暗い表現が好みなので、シャドウとハイライトはそれぞれ少し固くし、ノイズリダクションも下げる。そして露出は基本アンダーで撮る。そして最近は粒状シミュレートを弱目にかけるとさらによくなると気が付く。
この粒状感が結構好みで、条件が揃えばモノクロフィルムで撮ったような仕上がりになる。

個人的にはちょっとノイズが乗る方がモノクロの場合は見ていて気持ちがいい


私の特に好きな被写体は植物や木々など自然のモチーフで、そういった被写体を撮る際に大事にしているのは「存在感」を写す事だ。カラーならそれを色で表現出来るかもしれないが、モノクロの場合は形だったりテクスチャだったり、もしくはそのものの「佇まい」で表現する事になる。
そしてそれにはテクスチャを描写してくれる画質や絶妙なトーンカーブ、こちらの意図を反映させられる懐の深さが必要となる。これに対して今ではS5の事をだいぶ理解出来たのもあって、かなり理想的な写真を生み出す事が出来ている。まさに見た世界をLUMIXの個性と私の意図で描写するといった感覚だ。
おまけにJpegで撮っているのに「え、RAWで撮ったっけ?」というぐらいシャドーに情報が残っているので現像でも意図した通りに調整しやすい。粒状感のシミュレートもJpegでしか出来ないのを考えるとRAWで撮る理由が私の場合は無くなってしまった。


現像をしていてふと、これは私の求める「存在感」と「生命力・生命美」というのは似たようなものなのかもと思った。
(そもそもこれまでは深く考えていなかったのもあるが)「生命力・生命美」という言葉はメーカーの作例にあるような大自然だったり生物の営みだったりにベクトルが向いているように思っていたのが、私のようなモノクロで自然を撮る人間にもぴったりではないかと思った。勿論私の未熟な写真では伝わりきらないだろうが、モノクロ写真の素晴らしい作品からは生々しい生物の力を感じる事が出来ると思う。色がない分それがダイレクトに伝わってくるという意見もあり、私もそう考える一人だ。
実際、S5のモノクロは私の写真を一段階進めてくれたと感じていて、非常に感謝している。


ちなみにここで改めてメーカーサイトの説明文を見てみると

「生命力・生命美」を描ききる。
その一瞬に被写体が見せる生命の輝き、モノが重ねてきた歳月の重さ。人間の視覚と心の働きはすばらしく、肌触りや温度感、空気感、歴史といった見えないものさえ、眼にしただけで感じ取ることができる。
そのような『感性』がとらえたものを、しっかりと表現すること。それがLUMIXの目指す絵作り、「生命力・生命美」。

 Panasonic 「Sシリーズ システムの理念と思想」より

やはり撮り手が感じたものを表現するというのが根幹なようで、私が感じていたものと大方ずれてはいないようで安心した。この文章を読むともっと大自然を旅してみたくなるから良い文章だと思う。
ただ静物写真を撮る人が困るかもしれないから「生命」という言葉の定義を広げないといけない!などと思ったがそれは冗談として、実際このSシリーズは質感の描写がとても良いと感じるので、無生物相手でも良い写真を残してくれる。


濡れた石と金属の質感が素晴らしい
瓦のトーンが…良い


メーカー側が掲げる思想をどう捉えるかはユーザーの自由だ。
共感して使うのも良し、全く気にせず使うのでも良し。
カメラはあくまで道具であって、それをどう使うかは結局購入した人に委ねられる。
個人的には、こうして改めてメーカーさんに共感出来る部分などを考えてみると「選んで良かった」と思えた。最近は特に自然を撮るのが好きになっているので、S5のモノクロでこれからも追い込んで行くのが楽しみだ。
今後もこの「思想」をブラッシュアップして、良いカメラ開発を続けられるのを応援している。


美しい夕景を見ると自分が生きている事を感じられる。これも生命力・生命美を写すという事になるだろうか?

camera
LUMIX DC-S5
lenses
SIGMA 20mm F2 DG DN Contemporary
SIGMA 35mm F2 DG DN Contemporary
SIGMA 45mm F2.8 DG DN Contemporary
SIGMA 85mm F1.4 DG DN Art


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