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柏木龍馬×Audiの動画から

久しぶりに写真についてのことを書こうと思う。
昔は毎日なんだかんだと書いていたのに、忙しかったり疲れていたりを言い訳に最近はめっきり書く事がなくなってしまった。
今と大きく環境変わってないはずなんだけどあの時の私はどんな生活をしていたのだろうか、とか考えても仕方ないので、とりあえずまずは文字を打ち込んでみようという事で再開していく。

という事で、今回は柏木龍馬氏という写真作家の方から学んだ事を書いてみようと思う。といっても別にご本人から何か教わった訳ではなく、昨年行われた柏木龍馬氏とアウディがコラボした写真展のプロモーションビデオを見て、勝手に気がついた事を。

ちなみに皆さんは柏木龍馬氏をご存知だろうか。写真作家として主に海外で活動されているので、知らない方もいるのではないだろうか。
柏木龍馬氏はNewsweek誌のカバーフォトでプロデビューを飾り報道写真等の分野でご活躍された後、写真作家に転向。パリのギャラリーと専属契約し、しかもみんなの憧れLEICA社のオフィシャルアンバサダーに就任されて作品制作を行っている。
現在は主にモータースポーツの世界大会等のオフィシャルフォトグラファーとしてコンセプトアートなどを作画されている。
「写真家」ではなく「イメージコンセプター」とご本人が名乗る通り、写真を撮るという行為より「作画をする」という行為を大事にされている方。なので撮影対象の下調べやコンテを創る事に時間を掛け、伝えたいイメージの為に写真を撮る、というスタイルで制作されている。

そして昨年アウディとライカ社の全面協力の下、写真展「Hyper Monochrome RS exposition Audi / Leica」を開催し、そのプロモーションムービーがYouTubeにて観る事が出来るのだが、この動画が私の今回の話のきっかけとなる。



まずこの動画、単純にとてもかっこいい。

私は車やモータースポーツに関して全く詳しくないのだが、打ち合わせをするドライバーの中野信治氏と柏木龍馬氏、サーキットを走るアウディの車体、そしてそれを作画するべくLEICA TL2+Apo Summicron 50mm F2を構える氏の姿、それらの魅力が短い時間に凝縮されている。
私は以前から柏木龍馬氏の作画や写真への姿勢が好きだったのだが、氏はメディアに頻繁に出る方ではない。しかも特殊な撮影スタイルな分、撮影する姿はどんなものかというのは非常に気になっていたので、この動画は食い入るように見ていた。

さて、そんな時に気がついた事が今回の本題。

それは何なのかというと
「構えにブレがない」
という事。

動画内で氏がLEICA TL2を構えたまま身体を横に振ってパンする姿が見られるのだが、その姿を見て「これだ!!!」と衝撃を受けた。

柏木龍馬氏はLEICA TL2を構える姿が本当に美しいのである。
そしてそれが何故なんだろうとよく観察してみると、鍛えられた身体から生まれる体幹と彼自身によって編み出されたLEICA TL2の構え方から生まれるのだと思った。

カメラや写真について語る人は今では掃いて捨てる程いる訳だが、フィジカル面を語る人はあまりいない。無理な体勢でもブレなく撮る事が出来る体幹。パッと構えた時に水平垂直を出す身体のコントロール。
これらを身につけることは写真を撮る上での基礎だと私は考える。手ブレ防止機能も水平垂直を編集するソフトも今では簡単に手に入るが、まず大事なのは「撮る時点で克服をする」ことだと思う。それには自分の身体を鍛える必要があるし、カメラの扱いを熟知する必要がある。

元々音楽をしている時からフィジカルが大事だと思っていたので身体を鍛えてはいるのだが、それを写真においてビジュアル的なイメージで捉える事は出来ていなかった。だから動画で氏の構える姿を見て「これだ!!!」となったのだ。

そう言えば戦後日本を代表する写真家、土門拳もカメラと同じぐらいの大きさのレンガで素振りをした(弟子にもさせた)と本で読んだ。何の為の素振りかと言うと「カメラをパッと構えた時に自然にファインダーが眼前に来、水平垂直になる」為の素振り。今聞くとばかばかしく思えるかもしれないが、実際綺麗に素早く構える技術は必要だ。
その上、土門氏は「外国人の写真のようなマチエールが出ないのは我々日本人が貧弱だからだ」と日本人らしからぬ肉食だったとも聞く。こういった考えに共感出来るのも私が彼の作品に惹かれる要因かもしれない。

さて話が少しそれたが、先述した通りこういった技術は機械に任せたり後から加工する事で何とでもなる問題でもある。でもそうではなく私は出来るだけ自分の身体やアナログな意味でのカメラの扱い方で何とかしたいと思っている。なぜなら「マエストロと呼ばれる人はこういった事が出来る人なんだろう」と柏木龍馬氏を見て思ったからだ。そして、なれるかは置いておいて、そんな存在を私は目指したい。

この考えには賛否あるかもしれないし私自身確信がある訳でもないのだが、マエストロと呼ばれる人の要素の一つとして、こういった基礎的な事を超人的なクオリティでアウトプットに変える事が出来る、という物があるのではないかと思った。
柏木龍馬氏が作画で使うのはカメラ1台と単焦点レンズ1本だけ。そしてその単焦点レンズはライカのApo Summicron 50mm F2のみ。ライカだから当然マニュアルフォーカス。モータースポーツをマニュアルの単焦点1本で作画しているのである。一般的には一眼スタイルの手ぶれ補正が付いて高速連写が可能なカメラで望遠ズームレンズなどを使って撮るものだ。氏曰く「ピントは目測で、ほとんど外す事はない」との事。

氏が芸術の本場のギャラリーと契約し、ライカという歴史的なカメラメーカーのアンバサダーを務めているのは作品が素晴らしいのは勿論の事、こういったアナログかつ基礎的な技術を、超人的なクオリティで行って作画にしているからという理由もあるのではないかと思う。小手先だけではない試行錯誤や鍛錬の先にあるものには説得力が生まれるし、芸術においてそういった部分は評価されるのではないかと思う。
だから私も身体を鍛え、構え方を常に見直し、出来るだけシンプルな操作で撮影を行うように日々努めようと思った。写真の中身も大事だが、写真を撮る為の基礎的な技術も完璧にしたいと思っている。私はインスタグラムにお洒落な写真を載せる人になりたい訳ではない。

こうして書いてみると私は結構アナログな人間だなぁと思う。こういった考え方は時代には合わないのかもしれない。今から頑張る人にとっては間違った選択なのかもしれない。
だがあくまで私が目指すのは、カメラを構える姿や写真へ向き合う思想もちゃんと確立されている写真家なのだと実感出来た。

そんな事をいろいろ考えて気づくきっかけになった柏木龍馬氏にとても感謝している。ご本人からすれば知らんがなという話ではあると思うが。今後も応援させて頂きたい。

わかりにくいお話だったかもしれないが、こんな人なのね、とでも思って頂ければ。



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