見出し画像

chapter3:初校『Go to Togo 一着の服を旅してつくる』

 粗々しいけれども徐々にまとまってきて、ちょっとずつ本の様相が帯びてきたころ、嶋田くんにそのときの進捗具合を聞いた。「うーん、まだ40%ぐらいかなあ」という答えが返ってきたとき、ちょっとなにを言ってるのかわからなかった。ぼくとしては、もう90%くらい書いていたつもりだったので、ぼくと嶋田くんのテンションの高低差に耳がキーンとなった。しかし原稿を実際のA6判のレイアウトに落とし込んだものをPDFで送ってもらうと、たしかにまだ40%かもしれないと思った。4章立てのそれぞれの出来栄えは、1章70%、2章40%、3章30%、4章20%ぐらいで、とても人様に見せられるようなものではなかったと、いまとなってはそう思う。

 ただ、できるだけ早く、2019年末くらいには世の中に出したいと意気込んでいたぼくは、すぐにでも出してその批評を受けたいと思っていた。これまでトライ&エラーで進んできたから、そちらのほうがぼくの肌にも合っているような気もしていた。しかし本づくりに携われば携わるほどに、ぼくの意識は変わっていった。1%でもクオリティを上げる努力をしたと言える状態でないと、批評にたいして真摯に向き合えないのではないかと思った。そうして反省ができないということは、いつまで経っても、いまを超えることはできないのではないかとも思った。

画像1

 本づくりがぼくの気持ちを変えていくなかで、嶋田くんから追加の原稿依頼がきた。トーゴという多くの人たちにとって馴染みのない国での奮闘や、金融機関を退職して起業することのリアルをより身近に感じてもらえるように、(娘と遊ぶのを多少ガマンして)パソコンをカチカチした。現場で足を動かすスタイルのぼくにとっては厳しい課題ではあったけれど、2020年に入ってから、合計して数万字を章やコラムに追記した。より具体的に、より個人的なことを書いているうちに、だんだん抽象化されていく感覚があった。ちょうどそのころに『パラサイト 半地下の家族』がアカデミー賞を受賞したというニュースが流れてきた。

 そのニュースでは、ポン・ジュノ監督の受賞スピーチが脚光を浴びていた。そこでは彼が敬愛するマーティン・スコセッシ監督の「最も個人的なことが、最も創造的なことだ」という言葉を引用して、会場の拍手をさらっていた。たまたまそんな映像にも出会えて、ぼくもその言葉に励まされた。だから自信をもって、ぼくの個人的な気持ちを文章にのせることができた。しかしそうして数万字の追記をしても、嶋田くんは「うーん、まだ60%くらいかなあ」と、さらなる高みをめざしている様子だった。


___

★アフリカドッグス初のショップが西陣にオープン
AFURIKADOGS×Deabalocouture
(アフリカドッグス×デアバロクチュール)
https://afurikadogs.com/


いただいたサポートは、日本から13,000km離れたトーゴ共和国という国に住まう誰かの何かハッピーなものにします。