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攻めのDX。如何にして課題とデジタル技術を結びつけるか

 「守りのDX」は、前の記事で生産性指標を用いて、取り組んでいけると記載しました。一方、「攻めのDX」は、どのように取り組んでいけばいいのかいうことになります。
 以下に「攻めのDX」を考える上で、「QRコード」活用事例から、自社の課題とデジタル技術を結びつけ、「攻めのDX」につなげていくことを考えてみます。

「攻めのDX」推進の留意点

 「攻めのDX」「守りのDX」という言葉は、(株)NTTデータ経営研究所の「日本企業のデジタル化への取り組みに関するアンケート調査」の中で、取り上げられています。
 「攻めのDX」については、「顧客を中心としたステークホルダーや自社だけではなくエコシステムをも巻き込むテーマ」と定義され、1)既存の商品・サービスの高度化や提供価値向上、2)顧客接点の抜本的改革、3)ビジネスモデルの抜本的改革の3つに分類されています。
 いずれにおいても、自社内の業務をターゲットにするのではなく、商品・サービスそのものや、顧客との接点業務に関することがターゲットになります。
 「攻めのDX」を推進していくためには、顧客や市場、社会環境に対する分析や検討が必要になります。 
 商品・サービスに対する顧客の満足度・不満点、顧客の購買意識の変化、社会の要求の変化などから、今後の顧客行動を予測し、デジタル技術を活用して商品・サービス、提供方法などに劇的な変化を起こすことで、競争優位性を確保することが、必要になると考えます。

「攻めのDX」を考える上での「QRコード」活用事例

 「攻めのDX」を推進する上で、 重要となるのが以下の2点です。

①解決することで、競争優位性を確立できる課題点の発見
②発見した課題の解決をデジタル技術を活用して実現する方法・方策の検討

 つまり、「競争優位性を確立するアイデアを、デジタル技術活用により実現できるか」がポイントになります。「攻めのDX」には、教科書的な解決方法がありませんので、いかに課題内容を把握し、最も適合したデジタル技術活用を検討することが重要です。

 「攻めのDX」を考える上で例として、QRコードの活用について、記載したいと思います。

 QRコードは、1994年に自動車部品メーカーであるデンソーの開発部門(現デンソーウェーブ)が、自社の生産現場からの要望を受けて開発したもので、小さなコードの中に大容量情報が格納できるものです。開発前は、部品管理情報を格納した複数のバーコードを並べて読み込んでいたものを、作業効率が悪いため多量の情報を1回の読込みで取り込めるようにすることで、効率化を図ったものです。当初、QRコードは、製造現場や倉庫などで活用されています。

 以下に3つの事例を記載します。今では普通に使われていますが、最初に課題解決のためにQRコードを活用すれば解決できると考えた人は、「目の前にある課題に対し、どのように考え、QRコードを選択をしたか?」について考えることで、新たな「攻めのDX」のネタ発見の助けになるのではないかと考えます。つまり、「歴史に学ぶ」ということです。

(1)QRコードによる自社サイトへの誘導
(2)QRコードをコインロッカーの鍵として使用
(3)QRコードを入場券として使用

 なお、検討する上で、デジタル知識も必要になります。以前の記事にデジタル技術に対して、何ができるか程度の知識でいいと記載しました。QRコードの場合は、以下の3点程度でいいのではないかと考えます。

・大容量の情報を小さなコードで表現できる。
・汚れ・破損が多少あっても、読み込むことができる。
・どのような方向からでも読み込むことができる。

(1)Q Rコードによる自社サイトへの誘導

 パンフレットやチラシなどに自社サイト接続先情報を格納するQRコードを印刷し、 スマートフォンのカメラで読み込んでもらって、自社サイトに誘導するというものです。
 概要を下図に示します。

図1 QRコードによる自社サイトへの誘導のイメージ

【課題と問題点】
・自社サイトが閲覧されていない。
・必要情報にたどりつけていない。
・URLが長いため提示していない。
・URLの打ち間違いが発生する。

【デジタル技術の状況】
・大容量、小サイズのQRコード
・スマートフォン普及(サイト閲覧はPCからスマホへ)
・スマホカメラでQRコード読込み
・プリンタの高解像度化(QRコード専用プリンタは不要)

【QRコード活用理由】
・QRコードにURLを格納可能(入力と同じ効果)
・パンフレットなどに印刷可能
・スマホカメラからで簡単にサイトにアクセス可能

【実現内容】
・商品パンフレットにURL格納QRコードを印刷。スマホカメラから読込み、該当サイト閲覧

【効果】
・顧客は簡便な操作で、サイト閲覧が可能
・長いURL入力が不要。サイト閲覧の増加

(2)QRコードをコインロッカーの鍵として使用

 駅などに設置されているコインロッカーの鍵をQRコードに代替えさせるというものです。
 概要を下図に示します。

図2 QRコードをコインロッカーの鍵として使用のイメージ

【課題と問題点】
・近傍に予備キー保管場所が必要
・利用者鍵紛失対応要員が必要
・対応要員は近傍に待機が必要
・鍵紛失時は交換完了まで使用不可

【デジタル技術の状況】
・大容量、破損に強いQRコード
・小型のQRコード読込装置
・高解像度の小型熱転写プリンター
・耐環境性小型液晶ディスプレイ

【QRコード活用理由】
・QRコードに鍵情報を格納可能
・多桁数のランダム情報により不正開錠を防止可能
・紙印刷QRコードを鍵に変更可能
・紛失時は再発行が可能

【実現内容】
・小型液晶ディスプレイ、小型プリンタ、読取装置を設置
・遠隔での状況確認と操作可能
・預入時にQRコードの鍵を発行
・取出時にQRコードを読込み、正規情報の場合は開錠。

【効果】
・鍵が不要。予備鍵の置き場が不要
・対応要員の効率化(鍵紛失:預入時の録画情報と本人確認で遠隔地から鍵を再発行)
・鍵紛失時の鍵交換は発生しない
・利用者は鍵を持つ必要がない。紙切れ1枚。

③QRコードを入場券として使用

 施設の入場券を予約時にメール等で送信したQRコードに代替えさせるというものです。
 概要を下図に示します。

図3 QRコードを入場券として使用のイメージ

【課題と問題点】
・発売を効率化しても、入場券の受渡しの手作業が必要(手渡し.郵送)
・入場時の確認・回収作業が必要
・入場券用紙代、印刷費が必要
・入場券印刷の偽造防止が必要
・対応要費を入場料でカバーできない。

【デジタル技術の状況】
・大容量、小サイズのQRコード
・スマートフォンの普及
・スマホ画面に表示したQRコードの読込みが可能(スマホ画面の高精細化)
・QRコードを自動生成、画像化、メール送信が可能

【QRコード活用理由】
・QRコードに入場情報を格納可能
・購入時にQRコードをメールで送信可能。
・入場日時を格納し、入場日時以外の入場を防止可能
・同一のQRコードで複数入場することを防止可能

【実現内容】
・予約サイトでの購入完了時に入場券(QRコード)をメール送信。
・QRコードを表示したスマホ画面を入場ゲートで読込み。
・正規のQRコードと確認された場合に入場ゲート開。
・予約サイトから、QRコードの再発行が可能。

【効果】
・入場券の受渡しの手作業が不要
・入場ロで確認作業が不要
・入場券用紙代、印刷費が不要
・利用者は受取の手間がない

「攻めのDX」成功のポイント

 記述した3例は、いずれもQRコードの3つに特徴を理解し、QRコード活用により課題を解決できると判断して実施したと考えられます。加えて、スマートフォンの普及・高度化、読取装置の小型化、プリンターの小型化・高解像度化などの周辺デジタル技術の進化が加わって、実現することができたと考えます。
 つまり、デジタル技術の特徴を生かした活用方法の検討と実現させるための周辺技術が揃ったことで実現できたと考えます。

 「攻めのDX」を成功に導くためには、目標とする課題実現を阻害する問題点の解決方法をデジタル技術の特徴と紐づけて検討することが重要であると考えます。但し、具体的な実現方法までを自社で検討する必要はないと考えます。課題に対し、「このデジタル技術の特徴点である〇〇〇を〇〇〇〇のように活用することで、問題点を解決できるのではないか」という発想ができれば、後は、ITベンダー等に具体的な実現方法などを検討させればいいと考えます。
 いかにして、課題解決のためのデジタル技術活用の発想ができるかどうかにかかっていると考えています。
 「攻めのDX」には、教科書的なものはなく、各社が考えなければならないことであると記載しました。 このように記載すると知識がないと考えられないということにも繋がります。但し、以前の記事でも書きましたように他社事例の考え方を理解し参照することで、自社の課題解決のためのデジタル技術活用の発想が行えるようになると考えます。

まとめ

●商品・サービスそのものや、顧客との接点業務に関することが「攻めのDX」のターゲット
●「競争優位性を確立するアイデアを、デジタル技術活用により実現できるか」がポイント
●デジタル技術の特徴を生かした活用方法の検討と実現させるための周辺技術が揃ったことで実現できる
●目標とする課題実現を阻害する問題点の解決方法をデジタル技術の特徴と紐づけて検討することが重要
●「デジタル技術の特徴点を活用することで、問題点を解決できるのではないか」という発想が重要

 「攻めのDX」は、「デジタル技術を用いて、自社の商品やサービスそのもの、また、提供方法を変革」するものと考えます。Amazonなどデジタル技術を活用している先進企業は、常に「攻めのDX」を行なっているということだろうと考えます。ただ、このような企業には、「DX推進」という言葉はないと想像しています。つまり、常にデジタル活用しているので、今さらDXと言われてもということだろう。
 デジタル技術を用いての部分を除いた「自社の商品やサービスそのもの、また、提供方法を変革」については、DXという言葉が出てくる前から各企業で行われてきた筈である。ただ、何故かデジタル技術だけが活用されてこなかったということだろうか?
 「攻めのDX」に取り組んだとして、継続して取り組まれていくかが、真の競争優位性の確保のポイントのような気がします。

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