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『女王陛下の007』(1969年・英・ピーター・ハント)

ピーター・ハント監督『女王陛下の007』(1969年)を、「月曜ロードショー」吹替版DVDをスクリーン投影。当時、衝撃のラストに賛否両論(否が多かった)あったが、今ではボンド映画の傑作の一つになっている。ジョージ・レーゼンビーを広川太一郎さん、ダイアナ・リグを田島令子さん。つまり「600万ドルの男」「バイオニック・ジェミー」のカップルでもある。1979年4月2日にTBS「月曜ロードショー」で放映された。

この映画のボンドは、終始「私」として行動する。スペクター首領・ブロフェルド(テリー・サバラス、森山周一郎さん)を追跡する「ベッドラム作戦」を外されたボンド。じゃじゃ馬娘・トレーシー(ダイアナ・リグ)に手を焼く、マフィアの父・ドラコ(ガブリエル・フェルゼッティ、木村幌さん)に、ブロフェルドの居所と引き換えに、トレーシーと付き合うことを承諾。

しかし、ボンドとトレーシーは初対面の時から惹かれあっていて・・・というラブ・ストーリーと、ブロフェルドとの対決が並列で描かれていく。あくまでも「私」の戦いをするボンドに、全面協力するマフィア・ドラコ。この奇妙な関係もいい。

そしてボンドとトレーシーの愛のテーマ、ルイ・アームストロングの「愛はすべてを越えて We have all the time in the world」が素晴らしい。そのモチーフが全編にわたって、二人の愛のテーマとして流れる。

中盤、スイスのピッツグロリア山頂のスペクター基地から、命からがら逃げてきたボンドを助けるトレイシー。この逃亡シーンの焦燥感、ボンドの感じる恐怖は、それまでのコネリー・ボンドでは描かれなかった描写。それゆえに、ボンドも人の子、という感じがいい。

で、スキーチェイス、そして雪崩に巻き込まれたトレーシーが、ブロフェルドに囚われの身となる。Mにその救出要請を断られたボンドが、ドラコに協力を仰いで、マフィアの私設軍隊で、スペクター基地をヘリコプターで急襲するクライマックス。何度見てもかっこいい。ヘリからボンドが飛び降りるタイミングで、モンティ・ノーマン作曲「ジェームズ・ボンドのテーマ」が流れる鳥肌シーン!

お姫様を救出する白馬の王子。それがこのジェームズ・ボンド。このクライマックスは、クリストファー・ノーランが好きすぎて『インセプション』で再現しているが、『ノー・タイム・トゥ・ダイ』のキャリー・フクナガ監督は、この映画にあって他のボンド映画にない「ドラマ」のエッセンスを、巧みに新作に活かしている。改めて『女王陛下の007』を見返して、ああ、だから『ノー・タイム・トゥ・ダイ』が良いんだなぁと実感。

しかし「月曜ロードショー」吹替版をみると、143分の本編が121分に編集されてオンエアされていたことがわかる。それでも面白かったんだよなぁ。テレビで観てしばらくして、ユナイトの上映権利が切れるというので文芸坐で、ボンド映画全作上映という快挙があり、そこで初めて全長版を観て、観たことないシーンの連続で大興奮したことを覚えている。

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