『花の恋人たち』(1968年・齋藤武市)

 1960年代半ばから、日活ではアクション、青春映画と並んで、華やかな女優陣がズラリと顔を揃える女性映画もまた数多く作られていた。それまで青春映画のヒロインをつとめて来た吉永小百合が、二十歳を迎え、娘から女性へと美しく変貌していく時期でもあり、お正月映画では恒例となっていた。
 1965(昭和40)年のお正月映画は、芦川いづみ、浅丘ルリ子、吉永小百合、和泉雅子の『若草物語』(64年森永健次郎)が作られ、1966(昭和41)年のお正月は、芦川いづみ、十朱幸代、吉永小百合、和泉雅子の『四つの恋の物語』(65年西河克己)が封切られた。そして1968(昭和43)年1月3日に公開されたのが、この『花の恋人たち』である。
 原作である吉屋信子の「女の教室」は、1939(昭和14)年に東宝で『女の教室』三部作(阿部豊)として、竹久智恵子、千葉早智子、霧立のぼる、神田千鶴子主演で初映画化。戦後は1959(昭和34)年に大映で『女の教室』(渡辺邦男)として、野添ひとみ、叶順子、岸正子、浜田ゆう子主演で再映画化されている。
 その三度目の映画化となる本作は、医者を目指して、国家試験の勉強をしている女子医大のインターン七人、それぞれの恋愛やドラマを描いた華やかな女性映画。吉永小百合は、奈良岡朋子の母親に女手一つで育てられた苦学生のヒロイン操。彼女はその境遇を、友人たちには知られないように、明るく振る舞っているが、その夢は、国家試験に合格することと、研究論文で学長賞を受賞して、その賞金を学費にあてること、
 彼女の親友で、経済的には恵まれている轟有為子(十朱幸代)もまた成績優秀で、学長賞を狙っている。ドラマは、操と有為子の友情とライバル関係を軸に、クラスメートたちの、それぞれの生き方を描いていく。婚約者のアメリカ転勤が決まり、学生結婚をした細谷和子(伊藤るり子)の苦悩。天真爛漫で茶目っ気タップリの仁村藤穂(和泉雅子)。陶芸家との結婚をとるか、医者になるかに悩む伊吹万千子(山本陽子)だけでなく、羽生与志(浜川智子)、留学生のホウ・エイ・ラヤ(斎藤チヤ子)もまた、結婚問題でゆれ動いていた。
 七人のヒロインをめぐる男優陣もそれぞれ個性的。研究室助手・吉岡忠男に浜田光夫。操とは幼なじみということは、級友たちには伏せているという関係だが、操は吉岡に好意を寄せている。有為子の弟で、足に障害を持つ轟麟也に川口恒。いつも元気な藤穂は、そんな麟也への同情からほのかな愛情を抱いている。アメリカ転勤をするために、急遽結婚をすることになる和子の夫で、エンジニアの弓削士郎には、日活青春映画ではおなじみ山内賢。二人のユーモラスな夫婦生活が笑いを誘う。
 また万千子に求婚をする陶芸家・宇津木恵之助に和田浩治。当初、この恵之助の役は、舟木一夫が予定されており、日活のプレスシートやキネマ旬報のキャスト表では、舟木の名がクレジットされている。しかし舟木は多忙を極めたため、急遽、山本陽子の弟役が作られ、舟木は結婚で医者を断念する姉の代わりに医学部を目指そうと決意する高校生役で出演している。
 舟木は挿入歌「くちなしのバラード」(作詞:万里村ゆき子 作曲:河村利夫)を歌い、エンディングには「北風のビギン」(作詞:西沢爽 作曲:和田香苗)が流れる。「くちなしのバラード」はレコードとは歌詞違いの映画バージョン。主題歌「恋人たち」(作詞:佐伯孝夫 作曲:吉田正)は、吉永小百合が歌っている。また川口恒が、ギターを弾きながら歌うのはジャッキー吉川とブルーコメッツの「北国の二人」(作詞:橋本淳 作曲:吉田正)。
 監督は『愛と死をみつめて』(64年)で、吉永小百合と浜田光夫の「難病もの」の傑作を演出した斎藤武市。恋愛や、結婚、そして医者としての仕事など、彼女たちが直面する出来事を、ときにはユーモラスあふれる演出で描きお正月映画らしい華やかなムードのなかに、日活映画らしい“自己の確立”といったテーマもさりげなく通底させている。

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