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太陽にほえろ! 1974・第87話「島刑事・その恋人の死」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第87話「島刑事・その恋人の死」(1974.3.15 脚本・柏倉敏之 監督・山本迪夫)

永井久美(青木英美)
水沢悠吉(浜田寅彦)
柚木麻江の母親(幾野道子)
柚木麻江(有吉ひとみ)
岩本正光(中村孝雄)
白井辰純(水谷邦久)
真山京子
雨宮和美
西池の妻(大坪日出代)

予告篇の小林恭治さんのナレーション
「柚木麻江。暴走車は彼女を永遠に島刑事から奪い去った。心の拠りどころを失った島は、自分を傷つけることで苦しみから逃れようとする。死を覚悟の単独捜査。その投げやりな態度に、藤堂の愛のムチが飛ぶ。憎むべきひき逃げ犯を追う島は、皮肉にもその男の生と死の鍵を握るのだった。次回「島刑事・その恋人の死」にご期待ください」

 今回は島公之刑事(小野寺昭)の恋人で幼稚園の先生・柚木麻江(有吉ひとみ)が亡くなってしまうという衝撃回。第70話「さよならはいわないで」で凶悪犯の人質となり、第79話「鶴が飛んだ日」では麻薬中毒になった殿下を心配した。当時、若い女性に大人気の殿下に恋人がいちゃいけないと言う熱狂的なファンの圧力もあって、早々に恋人を殺してしまうことにした。この回は、「帰ってきたウルトラマン」第37話「ウルトラマン夕陽に死す」で坂田アキ(榊原るみ)が、ナックル星人の策略で交通事故死してしまった時と同様、小学生だった僕には大ショックだった。柏倉敏之さんのシナリオは、(1)恋人の死 (2)殺人事件の容疑者逮捕 (3)ひき逃げ犯と殿下のドラマ の3部構成となって、通底しているのは「近親者の死と家族」というテーマ。かなり濃密にドラマが展開されていく。

 新宿駅西口、小田急デパートの前で、柚木麻江(有吉ひとみ)が殿下と待ち合わせをしている。走ってくる殿下をみて、満面の笑みを浮かべる麻江。楽しいデートが始まる。「あたしね、母に手紙を書いたのよ、島さんのこと。そしたら東京に出てくるっていうの」「山形からわざわざ?」。二人の結婚が近いことがわかる。休暇を取って山形へ行こうと思っていたと殿下。「だから手紙書いたのよ。来て!って」。殿下の仕事も理解している麻江。新宿西口公園。歩道橋の上で結婚の約束をする二人。「いいんだね、刑事の奥さんで?」「我慢します。だってもしかしたら・・・刑事じゃない島さんなんて、全然魅力ないかもしれない」「こいつ!」。ああ、幸せな日々が続いてくれたらいいのに。しかしサブタイトルで、二人を過酷な運命が待ち受けていることを視聴者は知っていた・・・。

「どこへ行きたい?」
「まずお鍋買いに行きたい!」
「え?鍋?」
「だって、あなた鍋料理が好きでしょ。だから・・・」

 しかし、幸せな時間は束の間。殿下のペイジャー(のちのポケットベル)が鳴る。麻江も心得ていて「電話ならあそこにあるわよ」と公衆電話を指差す。「デートの最中、気の毒なんだが」とボス。事件は共栄倉庫の裏で発生、すぐに殿下が駆けつけることに。がっかりする殿下に、優しく微笑む麻江。殿下は「出来たら、帰りにアパートに寄るよ」「お夕飯作って待ってるわ。気をつけてね」。幸せな二人。「じゃまた後で」と走り去る殿下を見送る麻江。しかし、これが最後になろうとは・・・

 共栄倉庫。パトカーが止まり、規制線が貼ってある現場に、殿下が到着。山さんが現場検証をしている。被害者は40歳前後の男、身元不明、拳銃で胸を撃たれている。ジーパンによれば慰留品はない。殿下はジーパンと共に、聞き込みに回る。ゴリさん、被害者の身元が割れそうなものはないが、犯人は財布には手をつけていない。そこで怨恨の線が浮かび上がる。長さんが発見者から得た証言では、見つけた時には、まだ被害者の息があったことが判明。被害者はうわ言で「タツ」という言葉を繰り返していた。

 七曲署・捜査一係。捜査会議でも「タツ」という言葉の意味が話題となる。被害者は犯人の名前を教えようとしたのか? しかし被害者の身元がわからない限り捜査は進展しない。そこで被害者の身元割り出しに専念することに。検死の結果、被害者は最近歯の治療をしている。殿下とゴリさん、ジーパン、長さんたちは歯科医にあたることにする。ゴリさん、子供の時からの歯医者嫌い。対する殿下は「恋人がいるとデートもしなければなりませんからね」と余裕綽々。笑って見送る山さんとボス。

 八百屋に立ち寄り、イチゴを求める麻江。ウキウキしている。大野克夫のハモンドオルガンが、彼女の気分を奏でる。家路を急ぐ麻江に、暴走したタクシーが突っ込んでくる。絶叫と共に倒れる麻江。路上にイチゴが散乱する。運転手降りようとするがやめて、車をバックさせてその場から逃走する。路上にはタイヤの痕跡が残る。

 知らせを聞いて病院に駆けつける殿下。しかし病室の麻江の顔には白い布が掛けられていた。最愛の人の死を前に呆然とする殿下。そっと布を取り、その美しい顔を見る。「麻江・・・」。そこへボスがやってくる。「間に合わなかったのか?」「ボス、僕はこの人と約束をしたんですよ。二人で一緒に鍋を買いに行こうって。この人はそれをとっても楽しみにしていたんです。それをこいつ、約束もはたさないうちに・・・」。耐えられなくなった殿下、病室の外へ。ボスの目にも涙が浮かんでいる。静かに麻江の顔に布をかけてあげるボス。トランペットの音色が切なく響く。病院の庭で男泣きする殿下。握り拳で庭の木を叩き続ける。

 麻江のアパート。小さくしつらえられた祭壇を前に、麻江の母親(幾野道子)が殿下に語りかける。「麻江の手紙には、いつもあなたのことばかり書いていました。あの娘は本当にあなたが好きだったんですね。だから、私も楽しみにしていたんです。あなたと麻江が二人で・・・」泣き崩れる母。「でもね、あの娘は幸せだったと思いますよ。あなたにこんなに良くして頂いたんですから。それが、せめてもの・・・」そのあとは言葉にならない。「お母さん、これからどうなさいますか?」「明日、山形に帰ろうと思っています。この娘を連れて・・・一緒に・・・」。遺影の麻江は微笑んでいる。

 麻江の母を演じた幾野道子さんは、昭和14(1939)年にSKDに入団。敗戦後まもなく『ニコニコ大会 追ひつ追はれつ』(1946年・川島雄三)で、森川信とキスシーンを演じ「日本映画初のキスシーン」を演じた女優として知られている。「太陽にほえろ!」では第59話「生命の代償」(1973年)で北村和夫さんの妻を演じて以来の出演。

 捜査一係。長さんが交通係から戻ってくる。ひき逃げした車は特定できない。手がかりは現場に残された塗料だけ。修理工場にも当たっているが犯人はまだ明らかではない。ジーパンは「ボス、俺にも交通係、手伝わしてください。このままじゃ島さんだって、気が済まないでしょうし、自分も何がなんでも犯人を捕まえたいんですよ」。しかしボスは「落ち着けジーパン。俺たちには解決しなきゃならない事件がある。ひき逃げ事件は、交通係に任せるんだ」。そこへ殿下が出勤してくる。「どうも、ご心配をおかけしました」と頭を下げる。

「大変だったな、もっとゆっくり休んだらどうだ?」とボス。
「でも、一人でじっとしていてもしょうがないですからね」
「殿下、気を落とすなよ」
と山さんが励ます。

 今更、いくら悲しんでも麻江が生き返るわけじゃない。忘れることにしたと気丈に振る舞う殿下は「でも人間なんて儚いものですね。いつどうなるかわからないんですから」とシニカルな態度。ゴリさんに借りた金を返すなど、極力普通に振る舞う殿下は「もうデートする相手がいませんからね」と捜査に向かう。そんな殿下の心情が痛いほどわかるボス、ゴリさん、久美たち。フルートの奏でるテーマが胸に迫る。

 夕暮れ、三輪歯科。殿下が出てくる。空振りのようだ。ゴリさん、ボスが引き上げて署に帰ってこいと無線で連絡があったと話す。しかし殿下は「このままじゃ帰れませんよ」「明日があるじゃないか」とゴリさん。「人間なんて明日どうなるかわかりませんからね」とシニカルな殿下。自分のことは心配しなくていい、先に帰ってくださいと言い残して、殿下は次の聞き込み先へ。

 七曲署・交通係「ひき逃げ事件捜査本部」にボスが入ろうとすると、山さんが出てくる。二人とも心配なのだ。しかし「まだのようですな、ひき逃げ事件の犯人も」「じゃ、任しておくか」。二人、一係に戻る。

 夜、とある歯科へ殿下が入る。患者の名簿を調べるが空振り。

 翌日、杉田歯科。殿下が聞き込みに。大川歯科、歯科医院、歩き続ける殿下。すっかり夕暮れである。

 さらに翌日。捜査一係。ゴリさんの「無茶だよ殿下」の言葉が大きく響き渡る。「ろくに寝てもいないのに、今度は殿下自身もダメになってしまう」「しかしですね。島さん、捜査に必死になることで立ち直ろうとしてるんですよ」とジーパン。それはゴリさんも承知している。無理が過ぎるとある時にガクッと来るのが心配だ。何より「明日を信じないで、何ができる?そんなニヒルな考えでは、捜査だってうまくいくはずがない」。もっともだ。ゴリさんはボスに、殿下をもう少し休ませたほうがいいと進言する。

 そこへ殿下から電話。「被害者の身元が割れました!」。西池修45歳、板金加工工場を経営している。報告を受けたボス「ご苦労だったな殿下」と労う。ジーパンもゴリさんも嬉しそう。「今、言ったことを取り消さなくちゃな」。ジーパン、ボスからメモを受け取り、被害者宅で殿下と合流することに。

 西池の板金加工工場。事務所で、西池の妻(大坪日出代)が遺体の写真を確認。「ご主人に間違いありませんね」と殿下。妻は泣き崩れる。「お気持ちはお察しいたします。犯人はきっと我々が捕まえて見せます」。何か思い当たることはないかと妻に訊くが、2〜3日帰らないかもしれないと出て行ったけど、こんなことになるなんて・・・と、泣き通し。殿下は自分の気持ちとリンクして辛い。「主人は人に恨まれるような人じゃないんです」。被害者・西池修は、その日、銀行に行くと妻に告げていた。新しい機械を導入するので、銀行から500万円の融資を受けることになっていた。誰か他に、そのことを知っていたものがいるのか? 

「それじゃ、タツという言葉に思い当たるようなことはありませんか?」
「タツ?」

 妻は白井辰純という工員がいるが、今日は休んでいる。事件のあった日は「午後から来ました。寝坊したとか言って」。殿下とジーパンは、妻から白井の住所を訊く。

 ビリヤード「タイガー」。ここは白井の溜まり場である。殿下とジーパンがやってくる。「ジーパン、お前は裏口を張り込んでくれ」。相手は拳銃を持っている可能性があるのに、殿下はひとり店に乗り込む。店内には、白井辰純(水谷邦久)がひとりキューを打っている。演じているのは「マカロニを殺した奴」レインボーマン=ヤマトタケル・水谷邦久さん!「誰だよお前?」黙って警察手帳を見せる殿下。「俺は別に悪いことなんてしちゃいなぜ」と嘯く白井。「署まで来てもらおうか」「ええ」と答えた瞬間、キューを殿下に投げつけ、窓から逃げ出す白井。

 白井を追う殿下。児童公園の回転ジャングルジムに追い詰め、格闘! ヤマトタケシはレスリング選手だったからなかなか強い(笑)殿下も負けじとパンチを腹に食らわす。そのダーティさに、ニヤリを笑うジーパン。殿下が元気になったのが嬉しい。強烈なパンチの一撃で、白井ノックダウン。殿下、手錠をかける。

 居酒屋のカウンター。いつものように、ゴリさん、殿下、ジーパンが熱燗で乾杯!「今日は俺の奢りだ」とゴリさん。「あん時の島さんの姿、ゴリさんにも見せたかったな」とジーパン。殿下の合気道にお株を取られて「見直しちゃったよ、島さん」とジーパンもご機嫌である。ギターによるハイテンポのテーマが、三人の嬉しい気持ちを表現している。「殿下、俺も今夜は酔うぞ、よし!」とゴリさん。

 夜の新宿。ひとり彷徨う殿下。麻江の喪失感は大きい。仲間に励まされても、酒をいくら煽っても、悲しみは消えない。

 取調室。”落としの山さん”が白井に「どうして西池修を殺したんだ」とゆっくりと厳しい口調で尋ねる。しかし白井は「俺は知らない」とシラを切り続けている。「西池は息を引き取る前に、ちゃんとお前の名前を言ったんだよ。誤魔化したってそうはいかんぞ」「死人に口無しだよ。そんな出鱈目、裁判じゃ通らないね」「その口を塞いだのはお前だ!」「だったら証拠を見せてみろよ」と強気の白井。「そうすると共犯がいるわけか」と山さん。そこへジーパンが「山さんちょっと」と声をかける。

 白井の部屋から新札で300万円が出てきたとジーパン。被害者が銀行から下ろしてきたものとナンバーが一致している。しかし拳銃は出てこない。

 ゴリさん、再び取調室へ。証拠が出てきた、何もかも話してもらおうか? しかし白井は必死の形相で「俺じゃない、西池を撃ったのは俺じゃない」「そうだ、お前にそんなことができるわけがない」実行犯を聞き出そうとする山さん。

 捜査一係。山さんが戻ってくる。ようやく白井が実行犯を自白した。岩本正光(中村孝雄)28歳、元戸川組組員、現在無職。白井は、今日の10時「あけぼの公園」で岩本と会うことになっている。「よし、ゴリ行ってくれ」とボス。ゴリさんが出て行こうとすると、殿下「僕も行きます」。しかしボスは「お前はいかん。少し休め」と止める。「大丈夫ですよ」とコートを手に出ていく殿下。

「張り切ってるわ島さん」と久美。しかし、かなり無理していることを知っているボスと山さんは複雑な表情。

 あけぼの公園。ゴリさんと殿下が到着するが、岩本はまだ来ていないようだ。ゴリさんは殿下に「ここで張っててくれ」と周囲を一回りすることに。殿下、公園を見渡すと幸せそうなアベックばかり。思い出すのは麻江のことばかり。「まずお鍋買いに行きたい」麻江の言葉、笑顔、白い布をかけた顔、安らかな死顔・・・殿下の脳裏をよぎる。「殿下!」ゴリさんの言葉で我に帰ると、岩本らしき男が立っている。ゴリさんはジェスチャーで、挟み撃ちにしようと指示。ゆっくりと、岩本に近づく殿下。別な方向から来たゴリさんをみて、逃げ出す岩本。殿下とゴリさん、全速力で追いかける。巨大な駐車場まで逃げてきた岩本。ゴリさん、殿下、手分けして追い詰める。ああ、この駐車場、前回の「勇気ある賭け」で、ボスとジーパンが密会した競艇場の駐車場でロケーション。二本撮りだからね。ひとりの女性がクルマから降りてくる。なんと岩本は彼女に銃を向けて人質にしてしまう。

 殿下、拳銃を取り出す。「早まるな殿下!」ゴリさんが叫ぶ。「奴は袋の鼠だ。焦ることはない。俺はボスに連絡をして応援を頼んでくる。それまでは絶対、手を出すんじゃないぞ。いいな」

 捜査一係。ボス「ようし、わかった! すぐ山さんたちを行かせる」。山さんとジーパン出ていく。「ゴリ、相手は凶悪犯だからな、何をするかわからんぞ、殿下にも無理をさせるなよ」。

 駐車場。殿下が叫ぶ。「岩本、もう逃げられはしないぞ。諦めて出てこい!」「うるせえ、貴様みたいなチンピラ刑事に捕まってたまるか」と人質を抱えて叫ぶ岩本。

「何い!」
「近づくな、近づくと撃つぞ」

殿下、ゆっくりと立ち上がり、岩本に向かって歩き出す。その手には拳銃が握られている。
「撃てるもんなら撃ってみろ!」
殿下の足元を撃つ岩本。

 しかし殿下を怯まない。ゴリさん戻ってきて「山さんたちがすぐに応援に来るんだ。無茶するな!」。そして、岩本の目を逸らすために動き出す。
殿下は「岩本、どうした?怖いのか?撃て、撃ってみろ!」
殿下に拳銃を向ける岩本、その瞬間、ゴリさんが岩本を撃つ。飛びかかる殿下! 格闘! 殿下、怒りのパンチが炸裂する。倒れ、這いながら拳銃を掴もうとする岩本の手を、足で踏む殿下。おお、ダーティ・ハリーみたいだ! 殿下、岩本の腕を掴み、手錠をかける。

 一係。ボスが怒っている。

「どうして、あんな勝手な真似をした? ゴリはお前に、早まるな、と言った筈だぞ。」
「しかし、犯人は逮捕しました」
「逮捕はした。だが、あの時、ゴリがいなかったら、どうなっていると思う? お前、今頃、死んでたかもしれんぞ」
「どうせ一度は死ぬんです。死ぬのが怖くちゃ、刑事なんてつとまりませんよ!」

 たまりかねたボス、一撃を食らわす。
「馬鹿者!」
ジーパンのデスクまで吹っ飛ばされる殿下。

「お前は確かに、勇敢に岩本に立ち向かった。その手で白井も逮捕した。だが、俺は、少しも嬉しくないぞ。お前、生きる気力をなくして、ただがむしゃらに突っ込んでいっただけだ。」
「・・・」
「いいか、殿下。甘ったれるんじゃねえぞ。生命を粗末にするような奴は、俺は部下に持ちたいとは思わん」

 さすが裕次郎さん。この貫禄と説得力。小学生がファンになるわけだよ。ここでの絶対的な価値観だからね。

 そこへ長さんが戻ってくる。「あ、ボス。ひき逃げの犯人、割れました」。ボスの顔が輝く。犯人は個人タクシー運転手・水沢悠吉。娘の話によると、一昨日、家を出たきり、帰ってきていない。交通係が、一係の応援を求めているという。「俺が行きます」というジーパンにボス、殿下に向かって「お前も一緒に行け」「ボス・・・」「ぐずぐずするな」「はい」。殿下はジーパンと一緒に出ていく。いい場面だね。ボスは殿下の悲しみ、苦しさを一番わかっている。

「殿下、しっかりやれ(ボスの心の声)」

 水沢悠吉(浜田寅彦)の自宅。娘に「お父さんはどこにいるんです」と殿下。「わかりません」。悠吉はどこへいくとも言わずに出て行ったきり。「隠してるんじゃないでしょうね。お父さんはひき逃げをしたんですよ。そのために、ひとりの人間が死んだんだ。あなたどう思ってるんです!」強い口調の殿下。

「逃げ回って、それで済むことじゃないでしょう。」
「申し訳ありません。どうか、父を許してやってください。父は、本当はそんなことができる人じゃないんです。」

 十五年間一度も無事故だった悠吉だったが、妻が急に倒れて、病院へ駆けつけるところだった。普通の状態ではなく、咄嗟にどうしていいか分からなかったと泣き崩れる娘。ジーパン、殿下、たまらない気持ちになる。

「それでお母さんは?」と殿下。
「命は取り止めましたけど、入院したままです。長くかかりそうなんです。私、父に変わって、どんな償いでもします。父を許してやってください」。土下座をする娘。

 覆面パトカーからボスに報告するジーパン。「そのまま張り込みを続けろ。いいか、焦るなよ」とボス殿下の様子がおかしい。心配したジーパンが訊く。「彼女のこと?」「ああ、もし彼女が生きていたら、なんていうかな? と思って。やっぱり、ボスと同じことを言うんだろうな、きっと・・・」。ジーパン、タバコを殿下にすすめる。

 ちょうどその時、水沢家の電話が鳴る。水沢悠吉(浜田寅彦)からだった。「今どこにいるの? 心配していたのよ。早くうちに帰ってきて!」「ダメなんだよ。俺はもう、ダメなんだよ。啓子、母さんを頼む」「お父さん!」。そこへ殿下とジーパン入ってくる。「父は死ぬ気なんです。死んでお詫びする気なんです」。受話器を奪う殿下。

「僕は七曲署の島です。いる場所を言ってください!」
受話器の向こうからガスの音が聞こえる。
「水沢さん、その音はなんです?」

ラブホテル、ガスのゴムホースが抜かれている。
「刑事さん私は、人をひき逃げしました。すぐに手当をすれば、助けられたかもしれません。逃げ出した、卑怯な私は、こうしてお詫びするほかは、仕方がないんです・・・」
「いけない、水沢さん、死んじゃいけない!」

 ジーパンからの無線を受けたボス。「ようし、わかった。すぐ逆探知をする。殿下にはできるだけ時間を稼がせろ」。ゴリさんが電電公社に逆探知を依頼。電話局、交換器の映像に、殿下のが水沢を説得する声がオーバーラップ。

「ご家族のことも考えてください。あなたがいなくなったら、娘さんはどうなるんですか? 病気の奥さんはどうなるんですか? 早くガスを止めるんだ!」
「だけど、亡くなった人にもご家族がある、私がおめおめと生きていたら、その方々に合わせる顔が・・・」
「水沢さん!
「私はやはりこうするよりほかに・・・」
「あなたが死ねばどうなるんですか? 家族が喜ぶと思うんですか? 彼女が生き返るとでも言うんですか!」
「私は・・・もう・・・」
「待ってくれ!あんたには僕の話を聞く責任があるんだ。」
「赦してください・・・」
「僕の恋人だったんですからね、彼女は・・・」

 それを聞いた水沢、受話器を再び耳に当てる。
「彼女を亡くしてから、僕は自棄になった。生きていたってしょうがないような気にもなった。だけどな、生き残ったものには責任がある。今はそう思うんだ。どんなに辛くても生きていかなくっちゃならないんだよ。」

 ジーパン、戻ってきて、話を伸ばすように殿下にジェスチャー。

「水沢さん、俺はあんたが憎い。だから、だから俺は、あんたがそのまま死ぬなんてことは許さない。どうしても、どうしても生きていてもらいたいんだ。生きて、自分のしたことの償いをしてもらいたいんだよ。わかるか?水沢さん」
そこで啓子が「私に貸してください」と電話を変わる。「刑事さんの言うとおり、私たちにはこれからしなくちゃならないことがある。だからお父さん、勇気を出して、ガスを止めて!」
はっとなる水沢。「わかったよ、啓子、わかった」とガスを止めようとするが、力尽きてしまう。えー!とオンエア当時思いましたよ。

 捜査一係の電話が鳴る。ボスが出る。「わかったぞ、水沢はモーテル旅路だ」。ゴリさん、山さん、長さんが覆面パトカーで出動!

「水沢さん!早くガスを止めてください。水沢さん!」殿下は叫ぶが、水沢は意識を失っている。モーテル旅路に電話して、ガスを止めさせればいいのに。

 ゴリさんのクルマ→水沢→クルマのモンタージュで緊迫感が高まる。ようやくモーテルに到着する山さん、窓を開けて「水沢、しっかりしろ!」。

 捜査一係。果たしてどうなったのか? 誰もが無言のまま。そこへ長さんが戻ってくる。「水沢がな意識を取り戻したぞ。助かるそうだ」
「よかったですね島さん」とジーパン。
「腹減ったな俺、ここんところロクに飯も食ってなかったからな」と殿下、ゴリさんに近づいて「金貸してくれませんか?」「よし、うまいもんでも食ってこい」とお札を渡す。
殿下、改まって「ゴリさん、ありがとう」。ゴリさん涙ぐむ。それを見て笑っているジーパンと長さん。山さん、ボスもニヤリ。

 部屋を出ていく殿下に「それいつ返してくれるんだよ?」「ま、月末ですね」
みんなで大笑い。で、ゴリさん「あのうボス・・・」
ボスは財布から万札を出して渡す。喜ぶゴリさん。
ボス「おい、ただし月末だぞ!」と空っぽの財布を見せる。

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