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『零戦黒雲一家』(1962年・日活・舛田利雄)

敵機数百、零戦一機!やくざ部隊の一六作戦!
日活が総力を結集した破天荒の航空大アクション!!

製作=日活/東京地区封切 1962.08.12/10巻 3,003m 110分/カラー/シネマスコープ/併映:渡り鳥故郷へ帰る


 舛田利雄監督と石原裕次郎。舛田監督がデビューしたばかりの1958(昭和33)年の『錆びたナイフ』から、石原プロモーション製作の1972(昭和47)年『影狩り ほえろ大砲』まで25本の作品を共にした、いわば盟友。監督自身がオーディオ・コメンタリーで「戦友だった」と語っているように、黄金期の日活撮影所をフィールドに、二人は日本映画の「ある時代」を築き上げた。裕次郎のスクリーン・イメージは、幾多の舛田作品によるところも大きい。

 この『零戦黒雲一家』は、助監督時代に市川崑監督の『ビルマの竪琴』(1956年)の現場体験はあるとはいえ、舛田監督にとっては初の戦争映画。従来の日本映画では通例化していたミニチュア特撮による戦闘シーン中心のものではなく、実機を飛ばしての空中戦を再現するというリアルな空戦アクション映画を目指して、それが見事に成功している。

 昭和30年代半ばより、映画界ではちょっとした戦記映画ブームとなっていた。円谷英二特技監督率いる東宝特撮陣による『太平洋の嵐』(1960年・松林宗恵)や『太平洋の翼』(1962年・同)といったパノラミックな特撮映画が大ヒット、それが少年誌の画報記事や漫画、プラモデルなど、少年たちにもそのブームが波及していた。

 そうしたなか、ハリウッド映画的な爽快な戦争アクションを目指したのが本作。原作は 高倉健主演の『殴り込み艦隊』(1960年・東映)の原作など戦記ものを得意とした萱沼洋。脚本は、小林旭の航空アクション『太平洋のかつぎ屋』(1961年・松尾昭典)『嵐を突っ切るジェット機』(1961年・蔵原惟繕)などを手がけた星川清司と、ほとんどの自作の脚本に参加している舛田監督。リアルな航空アクションは、裕次郎が気骨のあるパイロットを演じた『天と地を駈ける男』(1959年)で経験済み。

 今回は、太平洋戦争中に活躍した「零式戦闘機」通称ゼロ戦を主役に、壮快なスカイアクションを展開。零戦として登場する飛行機は、ロッキード社のAT-6テキサン機。第二次世界大戦の頃から米軍の練習機としても使われ、戦後、自衛隊の練習機として活躍していたもの。それをペインティングして零戦役に起用している。シルエットは実際の零戦とは異なるが、ミニチュアもAT-6の形にしているので、映像のなかでは違和感がない。余談だが、舛田利雄監督が20世紀フォックスのエルモ・ウイリアムズの依頼で、日本版監督をつとめた『トラ・トラ・トラ!』(1970年)に登場する零戦もテキサン機だった。

 現代の自衛隊の演習シーンから、浜田光夫が昭和18年の太平洋ソロモン諸島での鮮烈な体験を回想するというオープニングが印象的だが、当初は自衛隊の演習ではなく、現代の若者風俗を描く予定だったという。舛田監督は後の『あゝひめゆりの塔』(1968年)のファーストシーンで、その手法を実現している。

 裕次郎が演じた中尉・谷村雁 は、ガチガチの軍人というよりは、それまでの裕次郎同様、型破りなパワーを秘めたヒーロー。ならずものたちの航空隊員たちは、反発をしつつ、その魅力に惹かれて行く。これまでギャングやチンピラ役が多かった日活バイプレイヤー陣が、よりパワフルに個性を発揮している。内田良平や、郷鍈治、高品格といった“おなじみ”の顔が実に魅力的で、それぞれのキャラクターが際立っている。さながら集団アクションの趣がある。なかでも近藤宏が演じたコンプレックスを持つ”大学“こと柴田忠一 二飛曹のキャラクターは、『天と地を駈ける男』で、やはり近藤が演じた挫折していくパイロットのリフレインでもある。

 情熱的な裕次郎のヒーロー谷村に対する、クールな二谷英明の八雲上等飛行兵曹。日活らしく国家よりも個人というタイプを好演。そこに現れる渡辺美佐子扮する奈美。度重なる危機的状況を経て、二人の男たちが厚い友情で結ばれるという展開は、アクション映画の王道でもある。

 主題歌「♪黒いシャッポ」は佐藤勝作曲、作詞は舛田監督。浜田光夫扮する予科練が吹くハーモニカの音色に併せて、裕次郎が劇中唄うシーンはしみじみとした名場面。当初、シナリオの#95では、ドモ久(高品格)が、ドラム缶風呂を炊きながら唄うことになっており、撮影前に収録されたプレスコ音源が日活に残っている(コメンタリーに収録)。

 終盤。部下たちに「生きろ」と命ずる谷村。死ぬことより生きることの難しさを説く主人公。ここに舛田監督のメッセージがある。後に『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』(1978年・舛田利雄)で、ヤマトが白色彗星帝国の超巨大戦艦に艦隊特攻を試みようとする時に、艦長・古代進が乗組員たちに放つメッセージは、本作のリフレインともとれる。本作を機に舛田監督は数多くの戦争映画を手がけることになるが、その作品に通底するテーマは一貫している。

*DIG THE NIPPON『零戦黒雲一家』解説に加筆訂正しました。


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