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『夜のひとで』(1967年9月2日・松竹大船・長谷和夫)

ラピュタ阿佐ヶ谷「蔵出し!松竹レアもの祭」で、長谷和夫監督『夜のひとで』(1967年9月2日・松竹大船)をピカピカのプリントで!

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原案・脚本は植草圭之助さん。東映からフリーになったばかりの三田佳子さん主演による「異色のアート・エロチシズム大作!」(当時のキャッチコピー)。

セバスチャン・ジャプリゾのミステリー風の構成。貞淑な未亡人が魔性の男に魅入られ、その男なしには居られない身体になってしまう。しかし、彼女をひたむきに愛する純情な青年がいて… というプロットを、古都京都の風光明媚なロケーションのなかで展開。女優・三田佳子の美しさとエロティシズムを全面に押し出して、という着想で。

これが大映の増村保造監督ならば、かなり体温の高い作品になりそうだが、長谷和夫監督だけに、良くも悪くも松竹大船クオリティに^_^ しかし、さすがに三田佳子さんは美しく、スクリーン映えする。まさに眼福である。

歳の離れた夫に先立たれた、柿崎雅子(三田佳子)は、亡夫の墓を守りながら静かに暮らすことを望んでいた。しかし、義理の娘・千賀子(しめぎしがこ)の婚約者・堀川冬樹(細川俊之)に一途な想いを告げられ戸惑う。

そんな雅子にプレイボーイのカメラマン・佐伯省三(高城丈二)が言葉巧みに言い寄られ、身を任せてしまう。めくるめくひと時を過ごした雅子は、いけないことと思いつつ、省三の虜になり、関係を続けていく。

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貞淑な未亡人が、二人の男の間で、揺れ動く。省三とのアンモラルな結びつき。冬樹のひたむきな想い。カラダとココロ、モラルの葛藤。これぞメロドラマの極北! 千賀子は、冬樹の義母への想いを知り傷つき、雅子は叔父・北山(柳永二郎)から、柿崎家から出て行くように命じられる。

まさに生々流転。とにかく高木丈二さんが悪い男で、雅子を自分好みの女に仕立て上げた挙句、外国人に抱かせようとする。その仕切りをしているのが、省三の愛人・岸井由香子(楠侑子)。彼女がメフィストフェレスのような役どころで、身の置き所のない雅子は(おそらく由香子の手引き)で外国人相手の秘密クラブ(のような店)のホステスとなる

状況が今ひとつ掴みにくいのは、演出によるところだろう。思い詰めた冬樹が、そのクラブに現れ、ストレートに想いを雅子にぶつけ、彼女は冬樹の肉体を受け入れる…

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で、クライマックスは、驚愕のサスペンスとなる。松竹マーク明けのアバンタイトルで、洋館で男が背中にアイスピックを突き立てられて死んでいて、楠侑子さんが立ち尽くしているシークエンスが展開。さらに断崖から二人の男女が乗った車が転落、爆発する。観客に提示された、この「謎」がラストで回収されるのだけど、ああ、そうだったのか、程度なのが残念。

しかし三田佳子さんの美しさを、スクリーンで味わうのは格別であり、この時期の松竹プログラムピクチャーが、いろいろ試行錯誤していたことが、よくわかる一編。

エノケン一座の如月寛多さんが、三田佳子さんの父親役で出演。出番はわずかだが、さすがにうまい。また、『渚を駆ける女』(1964年・酒井欣也)の路加奈子さんが三田さんの親友のブティックオーナー役を演じているが、芝居が格段に上手くなっていた!

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