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太陽にほえろ! 1974・第98話「手錠」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

太陽にほえろ! 1974・第98話「手錠」(1974.5.31 脚本・柏倉敏之 監督・野村孝)

永井久美(青木英美)
松沢達夫(溝口舜亮)
中光商事社長(五藤雅樹)
大型犬の飼い主(菅沼赫)
三原雄次(上田耕一)
北里溶接所工員(広田正光)
サラリーマン(今井和男)
高村透
春江ふかみ

予告編の小林恭治さんのナレーション
N「ゴリが刺された!手錠が光る、デカの執念が燃える」
溝口舜亮の声「いいか、このままほっときゃ、お前は死ぬんだ」
ゴリさん「俺の仲間は決して裏切らないぞ、どんなことがあっても、きっとここを見つけ出す。どうやっても逃げられないんだからな」
N「次回、「手錠」にご期待ください」

 今回は日活出身の野村孝監督初参加作品。裕次郎さんの『夜霧のブルース』(1963年)や宍戸錠さんの傑作『拳銃は俺のパスポート』(1967年)を手がけてきたアクション映画の監督である。柏倉敏之さんの脚本は、ゴリさんと犯人が手錠で繋がれたまま逃亡生活を送るという、スタンリー・クレイマー監督の傑作『手錠のまゝの脱獄』(1958年)以来の王道パターン。手錠で繋がれた二人が、激しく半目し合いながらも心を通わせていく人間ドラマ。映画ではシドニー・ポワチエとトニー・カーチスの黒人と白人の二人が極限状況のなか、逃亡を続ける。石井輝男監督の『網走番外地』(1965年・東映)もこのパターン。高倉健さんと南原宏治さんが手錠のままの脱獄を繰り広げた。

 ゴリさんと手錠のままの逃亡を続ける犯人を演じた溝口舜亮さんは、俳優座花の15期生。原田芳雄さん、太地喜和子さん、栗原小巻さん、小野武彦さんたちそうそうたるメンバーがいる。僕が子供の頃夢中になった「江戸川乱歩シリーズ 明智小五郎」(東映・東京12チャンネル)ではタイトルロールの明智小五郎を演じた。この時の芸名は滝俊介だった。今回は、ゴリさんと手錠で繋がれたまま鮭缶を食べるシーンがとてもいい。「太陽にほえろ!」には2作出演している。

第98話「手錠」(1974年) - 松沢達夫
第318話「カレーライス」(1978年) - 黒沼の仲間

 
 捜査一係の朝。久美がせっせと机を拭いている。ゴリさんは手鏡を手に必死に白髪を抜いている。そこへジーパン「おはようございます」。いつもより早い。「今日は給料日ですから」とニコニコ。「あら、春も終わったのにずいぶんこの辺(頭頂部)狂い咲きしてますね、ピラピラと」とゴリさんを揶揄う。「いやあ、泊まり明けのデートってのはつらいですね」「何を言うか、これは武士の嗜み」とゴリさん。「は?何か今、おっしゃいましたか?最近、耳が遠くってね」とジーパン。「いいか、ジーパン。刑事なんてのはな、いつどこでどんなことがあるのかわからんのだから、身辺だけは常に綺麗にしておかなくちゃいかん」とゴリさん。そういう覚悟が必要なんだと、髪の毛の手入れを続けている。

久美「ゴリさん、その鏡持ってっていいわよ、デートのプレゼント!」

 信用金庫から二人の男がアタッシェケースを持って出てくる。駐車場で三原雄次(上田耕一)と松沢達夫(溝口舜亮)が、二人に「(車に)乗れ」と命じる。

 多摩川の河川敷。パトカーが止まっている。殺人事件の現場検証が行われている。ジーパン、殿下、長さんが鑑識課員とともに検証に立ち会っている。手袋を手にボスが到着。「被害者は?」。山さんが報告する。運転免許証から、中光商事・経理課員である桜井新一と服部悟郎と身元が判明。凶器は拳銃。目撃者は今のところいなかった。山さんは近所へ聞き込みに向かう。長さんは中光商事を調べることに。ジーパンは解剖手術に立ち会って、摘出された弾丸を調べるようにボスが指示をする。殿下は被害者の遺体の近くにあった靴ベラを発見、指紋照合をすることに。ゴリさんはボスと一緒に署で待機することとなった。

 中光商事。長さんが社長(五藤雅博)から話を訊く。二人は社員の給料1200万円を引き出しに信用金庫に行ったこと。それを知っていたのは、経理課員全員であることを社長から聞きだす。「昨日は全員いらっしゃいましたか?」と長さん。「うちの課員を疑ってらっしゃるのですか?」「いやいや、これは一応、念のために」。昨日は給料日で忙しかったので全員出社していた。長さんは他に知っているものはいないか「例えば最近会社を辞めたとか」「あ、それはいます」。使い込みをして退社していた。三原の退社後の住所は不明。「使い込んだ金を弁済するという約束だったのですが、取りにやらせたら、引っ越していたんですよ」。

 捜査第一係。ボスが電話に出る。殿下からの報告である。靴ベラは被害者のものではなく「指紋照合の結果、松沢達夫という男のものと一致しました」。松沢は北里溶接所の工員。傷害の前科があった。「よしわかった、こっちの方が近いから、ゴリさん行かすわ、殿下もすぐ合流してくれ」とボス。ゴリさん天丼を食べている。

「しばしお預けと行くか」と丼の蓋を閉めて、割り箸を袋に入れるゴリさん「待ってろよ」「そんな未練たらしい事言うな、天丼一丁ぐらいで」とボス。「俺が見張っててやるから、ほら、行ってこい」と行き先のメモを渡す。

 北里溶接所。ゴリさんが聞き込みにやってくる。「ここに松沢達夫って人いるかい?」と工員(広田正光)に尋ねる。「はあ、松沢が何か?」「いいやなんでもない」「おーい」と声をかけると、そばで仕事をしていた松沢が行方を消している。走り去る松沢を追いかけるゴリさん。走る、走る、走る!雨上がりの砂利道、水飛沫をあげて走る二人。俊足のゴリさんが松沢に追いつく。倒れて揉み合う二人。ゴリさん、松沢を押さえ込んで手錠をかける。しかし松沢は、ナイフでゴリさんの腹を刺してしまう。うめき声を上げて、その場に倒れるゴリさん。ゴリさんは手錠を自分の手にもかけて、松沢を逃がさないようにする。

 しかし、起き上がることができないゴリさんは、松沢に押さえ込まれて、ホルスターから拳銃を奪われる。「鍵はどこだ!」と松沢。拳銃で手錠の鎖を撃って壊そうとするが、ゴリさんの拳銃には生憎弾が入っていない。ゴリさんの上着やズボンのポケットを弄る松沢。

 それを目撃していたサラリーマン(今井和雄)が「どうしたんですか?」と声をかけるが、松沢は無言で銃を向ける。慌てて逃げ出すサラリーマン。松沢はゴリさんの覆面パトカーを見つけ、瀕死のゴリさんに「立て」と車に乗せて発進。「鍵を出せ」とナイフを突きつける松沢「早く出せ」しかしゴリさんは出血がひどく、朦朧としている。やがて背広のポケットから鍵を取り出したゴリさん、そのまま窓から捨ててしまう。

 車を停め、ゴリさんの胸ぐらをつかみ「貴様!」と怒り心頭の松沢。ドアを開けて鍵を拾おうとするが、パトカーが近づいてきたため、やむなく発進する。

 捜査第一係。ボスが「緊急手配をお願いします。犯人は松沢達夫、25歳、盗難車のナンバー、品川55す6205」。山さんが戻ってくる。「目撃者によるとゴリさんは負傷しているようです。現場にもかなり血痕が残っていました。ゴリさん、手錠をかけられた瞬間、連れ去られたらしいんです」。久美が心配そうに近づいてくる。「どうなるのゴリさん、犯人と一緒じゃ病院にも行かれないんでしょ?」「手錠で繋がれたままだからな、そう遠くへは逃げられるはずがないよ」と山さん。「今、長さんたちが捜査しています」。ボス、うなずいて時計を見ると午後1時30分。

 道路で検問をしている警察官と長さん。ジーパンは駐車場の車を調べている。渋滞の車を調べる殿下。

 捜査第一係。時計は午後4時51分。ボス、拳を額にあててじっと眼を瞑っている。「お茶淹れましょうか?」「お茶なんかいらん」。久美心配で仕方がない。ゴリさんの机には食べかけの天丼。久美が片付けようとすると「そのままにしておけ」とボス。見張っていると約束したからね。久美涙ぐむ。ボス「いや、ゴリが帰ってきてなくなっていると、あいつ怒るからな」と優しく微笑む。うなづく久美。そこへ電話が鳴る。長さんからの報告である。「まだです。まだ行方が掴めません。捜査を続けます」「よし、頼む」。

 夜、原っぱゴリさんの覆面車が停まっている。その近くにあるバラック小屋。中では松沢が石で、手錠の鎖を切ろうと必死である。ゴリさんはじっと目を瞑っている。ナイフで鍵穴をいじる松沢。うまくいかない。ゴリさん起き上がって抵抗をする。怒った松沢はゴリさんの傷口に蹴りを入れる。ひどい男だね。ゴリさん、転がり落ちたナイフを拾おうと懸命だが、失敗に終わる。

 「さあ、立て!」「どこへだ」「手錠の鍵を探しに戻るんだよ」。倒れたままのゴリさんを引きずる松沢。ゴリさん必死の抵抗。「手錠さえ外せばな、お前だって病院に行けるんだぞ!」と松沢。首を横に振るゴリさん。「いいか、このまま放っておきゃ、お前は死ぬんだぞ」「そう簡単に死んでたまるか!それより、このまま俺を連れて行けば、お前は捕まるぞ」とゴリさん。「それじゃ、お前の手首を斬るしか方法はないな」。

 松沢はナイフを構えてゴリさんの手首に向けて振りかざそうとする。ゴリさんの眼、松沢の眼・・・しかし、松沢は斬ることができない。「このまま放っておきゃ、お前なんかどうせ死ぬんだ。それからだって遅くねえや」。ひとまずほっとして目を瞑るゴリさん。傷が痛み、意識が朦朧としているのだ。

 早朝、ボスが七曲署の前の空き地に立っている。山さんが近づく。「ボス」「なんだい山さん、まだ何か見逃していることがないかと思いましてね」「ないようだな、手がかりは・・・」フルートのテーマ、スネークイン。山さんボスに「昨夜は帰らなかったんですか?」「どうせ家に帰っても眠れないと思ってね」とサングラスを外し、目を擦るボス。「山さんもか?」「いえ、まあ」。

 捜査第一係。ボスと山さんが戻ってくる。長さんが資料を広げている。「どうしたんですか?こんなに早く」「なんだ長さんもか」と山さん。みんな徹夜でゴリさんを心配しているのだ。「どうだ?」とボスに訊かれて「まるで手がかりなしです」。殿下とジーパンが「おはようございます」「なんだお前たちも家帰ってないのか?」「ええ、長引くとゴリさん、やばいですからね」とジーパン。

「よし、もう一度初めからやり直そう」とボス。

 殿下と長さん、北里溶接社員寮へ。管理人のおばさんに「松沢には親しくしていた人はいませんか」と尋ねる長さん。「さあね」「例えば寮に電話をかけてくる人とか」。殿下は部屋を捜索している。「なかったですね、そんなことは。いや、あの子は田舎の実家に仕送りをしていたんですよ、だから遊びに行きたくてもお金がなかったんじゃないですか?いつも寮でゴロゴロしてましたよ」。

 その時殿下が、松沢の机の引き出しから一枚の名刺を見つけた。「大友娯楽センター マネージャー 三原雄次」とある。「害者と同じ会社にいたという男じゃないですか?」「そうか、松沢、三原と繋がっていたのか」と長さん。

 大友娯楽センター。殿下と長さんの覆面車が到着。映画館では東映、安藤昇主演『暴力街』(1974年・五社英雄)上映中。この年の4月13日に公開されている。パチンココーナーで「三原さんいますか?」と社員に尋ねる長さん。「今日はお休みですか?」「いなくなっちゃったんですよ」「え?」「あの人、この奥で泊まってたんですけどね、三日ほど前、出て行ったきり、帰ってこないんですよ」。行方はわからないという。

 バラック小屋。ゴリさんの顔色が真っ白になっている。横でタバコを吸っている松沢。破れた壁から初夏の日差しが差している。ふと見ると、シェパードの手入れをしている飼い主(菅沼赫)がいる。ゴリさんはタイヤの下に隠していた針金を取り出し、松沢の注意を引く。その隙に、久美の手鏡をポケットから出して、光でサインを送る。

 飼い主が光に気づく。しかし松沢も気付いて「何やってるんだ!」。飼い主が小屋に近づいてくる。松沢はゴリさんを引っ張って、二階に身を隠す。小屋の扉を開ける飼い主。あたりを見渡す。二階では松沢がゴリさんにナイフを突きつけている。ゴリさんは手元にあった釘を床の隙間から落とす。それに気づく飼い主、しかし犬が吠える。「ジョニー」とにっこり笑って小屋を出ていく。

 松沢は怒って「貴様、やりやがったな!」とゴリさんを蹴る。だめだよ怪我人にそんなことしちゃ!「今度おかしな真似をしてみろ、タダじゃおかねえからな!」。ゴリさんには抵抗する気力もない。

 山さんとジーパンの覆面パトカー。「どこ行ったんすかね? 事件が起きる前、ゴリさん、変なこと言ってましたよ」とジーパン。「刑事ってのはいつどこで何が起こるかわからない、だからいつもその覚悟をしなきゃならない。今になって考えてみると、なんか妙に引っかかっちゃって、嫌な感じですね」。そこへ無線が入る。ボスからである。「玉木町の盛り場で拳銃をぶっ放した奴がいる」「松沢ですか?」と山さん。「はっきりしたことはわからんが、派出所からの連絡によると、人相が三原によく似ている。すぐ行ってくれないか」とボス。

 発砲事件の現場。山さんとジーパンが到着する。山さん「ホシはどこだ?」「玄関の壁の向こうです」と警官。スナックに立て篭もり、拳銃を発射する男。「ジーパン、屋根から確認しろ」。ジーパン、飲み屋街の建物の屋根伝いに、男が立てこもっている店に近づくが、屋根が軋んでしまう。その音に反応した男がジーパンに発泡。その隙に、山さんが男を狙う。ジーパン、屋根から飛び降りて、逃げる男を追う。山さんも追う。

 静かなドラマに、松田優作さんのアクション。「静と動」のメリハリが効いている。路地に追い詰めて男を確保する。しかし男は三原でも松沢でもなかった。

 バラック小屋。ゴリさんが蒼白になってじっとしている。その顔を見て松沢が驚くが、ゴリさん、ゆっくりと瞼を開けて、松沢の方を見て微笑む。どこまでもタフガイ!「死んだと思ったのか?」「フン」「生憎だったな」「どっちみち、もうすぐさ」。ゴリさん「あーあ、腹へった」「なにぃ?」「この二日、まるで食ってねえからな」。天丼食べかけのまま出てきちゃったからね。「ああ、食いてえ、鰻、ビフテキ、とんかつ、天丼・・・」。松沢もたまらなくって「うるさい!」「俺は、お前のところに行く前に天丼食いかけていたんだ、こんなことになるとわかったら、みんな食ってくるんだった」「今度食われるのはお前の方だ、この辺は野良犬が多いからな」「冗談じゃないよ、ここで死んだら、天丼に未練が残らあ・・・」。

 ゴリさん、何か閃いた。「ここは倉庫だったな、倉庫なら、何か食うものがあるかもしれないぞ、探してみようじゃないか」「勝手に探せ」。うめきながら立ち上がるゴリさん、引っ張られる松沢。一緒に動くしかないのだ。「お前も腹が空いているんだろ?食欲のために一時、休戦だ」。やっとの思いで階段を上るゴリさん、松沢それについていく。「暗くてよく見えんな、マッチをつけてくれ」。次第にゴリさんのペースになってくる。立場が逆転しつつあるのだ。

 マッチをつける松沢。あたりを見渡すゴリさん「あった!」と鮭缶を見つける。「だいぶ古いが、食えないこともないだろう」。松沢も目の色を変える。ゴリさん「待て、人様のものをただで食っちゃ悪いからな」と小銭を置く。松沢、ナイフで缶を開けて一人で食べ始める。ゴリさんナイフを取ろうとするが松沢に制止される。「ナイフを渡したくないんだったら、俺のも開けてくれ」。松沢、納得してナイフでゴリさんの分も開ける。完全にゴリさんのペースになってきた。独り占めしないで、ゴリさんにちゃんと鮭缶を開けて渡す。

 小学五年生で最初に見たときは、こうした犯人の心理の変化が嬉しくて、少し見直したり。映画やドラマへの登場人物への共感を意識したのもこの頃。「太陽にほえろ!」はそういう意味での情操教育だったのかと。

「うまいな」とゴリさん、しみじみ。松沢もうなづく。「鮭缶がこんなうまいものかと思わなかったよ。最も、俺は小さい頃は、この鮭缶も食わしてもらえかったけどな」。ゴリさんの顔を見る松沢。

「故郷はどこだ?」とゴリさん「北海道」「何してたんだ?」「開拓だ」「苦労したんだなぁ」。その一言に食べる手を止めて、ゴリさんの顔をみる松沢。ピアノのスローバラードのテーマが流れる。

「どうしてあんな事件を起こしたんだ?1200万もの金を奪わなくたって、鮭缶ぐらい食えただろう?」「それだけでよ、生きてる甲斐があるってのかよ、このままじゃ一生うだつが上がんねえもんな、俺はよ、もっとパーっと生きてえんだい」。鮭缶を貪りながら松沢が本音を吐露する。「そいつはわかるなぁ、しかしなぁ、もっと他に、もっと他に、何か方法がなかったのか?お前は拳銃を持ってない、撃ったのはお前じゃないだろう?」。食べる手を止めて、松沢、顔を上げる。「だったら、まだ間に合うぞ、もう一度、考え直すんだ」。松沢の顔のアップ。「いいか、どうせ、逃げ切れるもんじゃないんだぞ」。

 松沢、鮭缶を床に置いて「立て!」と無理矢理立ち上がる。ゴリさん、腹の傷が痛んで立ち上がれない。「どうするつもりなんだ?」「いいから立て!」「もう少し食わせろよ」。松沢、ゴリさんの顔にナイフを突きつける。

 夜、バラック小屋を出てくる松沢とゴリさん。「人が来たら、酔ったふりしろよ」と松沢。道路の高架下までやってくるが、ゴリさんの体力が持たず、立ち上がれない。松沢はゴリさんを引きずりながら歩いている。ゴリさんを抱き上げて立ち上がらせる松沢。

 電話ボックス。松沢が電話をかける。狭いボックスの中に二人の男。ガラスの反射で、電話番号を暗記するゴリさん。

 三原が潜伏している旅館。電話に出る三原「8時に来いっていったろ、どうしたんだ?なに?刑事と」「だから、行けないんですよ、こっちへ来てくれませんか?手錠を切るヤスリをお願いしますよ、きっとですよ、待ってますからね」。

 三原を演じた上田耕一さんは、特撮ファンには「ゴジラシリーズ」への助演でお馴染み。全部で12作品、シリーズ最多出演を誇るバイプレイヤー。「ウルトラセブン」第23話「明日を捜せ」(1968年)では、シャドー星人のスーツアクターと声を演じている。「西部警察」には7作品、「太陽にほえろ!」には計3作品出演している。

第98話「手錠」(1974年) - 三原雄次
第231話「孤独」(1976年) - 青葉中学校教諭
第333話「刑事の約束」(1978年) - 刑事

 深夜2時、捜査第一係。ゴリさんの机には、食べかけの天丼。ボスがそっと蓋の上のゴリさんが使いかけの割り箸を手にする。山さんが入ってくる「どうだ?」「いいえ・・・」。山さんはボスに「少し寝たらどうですか?」「ああ」「昨夜も寝てないんでしょう?」。疲れ果てたボスの顔。「ゴリだって二晩、寝てないはずだ」。山さん黙ってお茶を淹れて「ボス」と手渡す。「ありがとう」とボスは湯呑みを、天丼の脇に置く。ボスの気持ちを察する山さん。いい場面だね。

 バラック小屋、ゴリさんの覆面パトカー。ゴリさんは眠っている。松沢、鮭缶を食べ尽くしてしまった。「三原はまだ来ないのか?もう諦めろ、お前は裏切られたんだよ」「うるせえ」と空き缶をゴリさんのお腹にぶつける松沢。「そんな人じゃねえよ!」。ゴリさん、力を振り絞って言う。「俺の仲間は決して裏切らないぞ、どんなことがあっても、きっとここを見つけ出す」。松沢の真剣な顔。「もうどうやっても逃げられないんだから、自首を、自首しろ、今なら、まだ遅くはない」。松沢、立ち上がり、壁の穴から外をみる。先日のシェパード・ジョニーの飼い主が犬を撫でている。

 それを見て、何かを考えている松沢。飼い主が投げたボールを追いかけるジョニーが、ゴリさんのクルマを見つけて、空いた窓を覗き込んでいる。「どうした?ジョニー」飼い主がクルマに近づく。

 捜査第一係。ボスが電話に出る。「なに?場所はどこです?」山さん、長さん、ジーパン、殿下がデスクのそばへ。「盗難車が見つかったぞ!場所はここだ」とメモを長さんに渡す。「ゴリさんはこの近くですね!」「おそらくな」。出動する刑事たち。ボス「久美ちゃん、お茶くれ」。久美の顔に笑顔が戻る。「はい」。

 バラック小屋のそば、ゴリさんのクルマ発見現場に到着する、山さん、ジーパン、長さん、殿下たち。「あなたですか?連絡をくれたのは?車はどこに?」「あのそれが・・・」と飼い主が指さすが、クルマはない。「電話をして戻ってきたら、もうないんです」。

 走行するクルマ。ゴリさん「どこへ行くんだ?」「俺の、仲間のところさ」と松沢。「三原か?」「ああ、もうすぐだからな。手錠さえ外せば、お前だって病院に行けるんだからな」。

 バラック小屋の中に入る長さん。空の鮭缶を見つけ、二階に上がり、ゴリさんたちが潜伏していた形跡を発見する。ゴリさんが置いた、鮭缶の代金、310円を見つけ、ゴリさんが生きている確証を掴む。この時の下川辰平さんの表情がいい。立ち去ろうとした長さん、振り返って箱に手を入れとゴリさんが残したメモがあった。血で書かれた電話番号。三原の潜伏している旅館の番号である。

 ジーパン電話を調べて戻ってくる。「八王子郊外の富士旅館です」。殿下、クルマを発進させる。

 八王子に向かう松沢のクルマ。吊り橋を渡る三原を見つけて「三原さん!三原さん!」と声をかける。三原は手に現金の入ったバッグを下げている。クルマから降りようとする松沢。ゴリさんを無理矢理引きずり下ろす。吊り橋を渡る松沢とゴリさん。三原が袂に立っている。「早く来い!」。ゴリさんはもう歩けない。それでも三原の元へ行こうとする松沢を、三原が拳銃で撃つ。裏切られた! 次の瞬間、さらに三原に撃たれた松沢は橋から宙吊りになってしまう。

 手錠で繋がれたまま、宙吊りの松沢「引き揚げてくれ!」。手錠で繋がった二人の手には血が滲んでいる。必死に引き揚げようとするゴリさん。体制を維持するだけでやっとだ。ゴリさん、足をもう一方の橋の縁に引っ掛けて踏ん張るが・・・。このシーン、スタントマンを使っているとはいえ、生身の人間が手錠だけでぶら下がっているのは、初見の時、かなり手に汗握った。左手で金網を掴み、必死に松沢を引き揚げようとするゴリさん。非情にも三原は、ゴリさんの右手を狙って撃つ。朦朧とする意識の中、ゴリさんは松沢は助けようと懸命。

 銃を構える三原が、向かいの道路を見ると、殿下たちの覆面パトカーが走ってくる。三原は走ってくるジーパンたちに発泡するが、弾が尽きてしまう。ジーパンと殿下が三原を追う。山さんと長さんがゴリさんを助け、松沢を引き揚げる。

 現金のバッグを手に砂利の谷を駆け降りる三原、ジーパンが飛びかかり、もみ合いながら落下する。ジーパンの怒りの鉄拳が炸裂!殿下が手錠をかける。

 病院。点滴を打つゴリさん。目が覚める。枕元にはボスがいる。「どうだ?心配かけてすいません。松沢、どうしました?」「ああ、傷は大したことはない。お前に感謝してたぞ」「あ、そうだ、俺の天丼、どうしました?」「ああ、あれは食った」「いや、あのボスが?」「ああ、どうせお前、ダメだろうと思ったからな」「そりゃないですよボス。俺、この通りちゃんと」。ボス、指パッチンして「その代わりな、これをやる」と内ポケットから紙を出して渡す。

「なんすかこれは?」「これはな、今日から1ヶ月間、お前が布袋屋で食う天丼の代金を全部俺が払うって誓約書だ」「これはすげえや、さすがボスだな」「ただしだな、当分は重湯だ。天丼が食えるようになるのは、半月もして退院してからだな」「じゃ、この保証書はですよ、半月しか役に立たないってことじゃないですか?」「そういうことだな、それが嫌なら早く良くなるんだな」「ボス、これはね、明日にでも退院させてください。アイタタ・・・」。


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