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『社長行状記』(1966年・東宝・松林宗恵)

「社長シリーズ」第24作!

 東宝名物「社長シリーズ」も回を重ねて24作目。昭和41(1966)年1月3日、クレージーの『無責任清水港』(坪島孝)と二本立て封切りの『社長行状記』は、シリーズの中でも最もシックな雰囲気がある。

 今回は、紳士服メーカー「栗原サンライズ」が舞台。社長・栗原弥一郎(森繁久彌)は、折からの不況もなんのその「サンライズ・バイタリティ」で乗り越えようと意気軒昂。営業課長・佐々又吉(三木のり平)が心許ないので、栗原社長自ら積極販売に乗り出そうとする。折しも、ライバルの大阪衣料が、名古屋の尾張屋デパートの栗原サンライズの扱いを奪おうと虎視淡々。ならばと、常務・後藤貫十(加東大介)、営業課長・佐々、秘書課長・児島啓吾(小林桂樹)を伴って名古屋出張へ。

 いつもながらの展開は、観ていて安心する。名古屋の料亭で尾張屋社長・小田中政之介(山茶花究)がご執心の芸者・一二三(池内淳子)に、鼻の下を伸ばす栗原社長。面白くない小田中社長は座敷を中座してしまう。

 昭和30年代後半の森繁社長は、高度成長を牽引していく頼もしき企業のトップで、こんなしくじりは久し振りのこと。シリーズ初期には、女性関係でビジネスチャンスを失いかけることがあったが。この『社長行状記』は、昭和39(1964)年から始まった構造不況の長いトンネルからようやく抜け出そうとしていた昭和41年の正月映画。なので、全体的にビジネスが低調、資金繰りに苦悩する姿も描かれている。後篇も含めて、栗原社長の「脇の甘さ」「お人好し」からくる失敗を描いていると言う点でも異色作である。

 照明・石井長四郎、撮影・鈴木斌による映像のルックは、シリーズで一番シックなトーンでまとめられている。その中でカラフルなのが、フランキー堺が演じる、日系フランス人・安中類次の登場シーン。名古屋から大阪へ移動した栗原社長、昔なじみのナイトクラブ・パンドラのマダム・町子(新珠三千代)に逢いにいくと、ステージで酔っぱらった安中が歌っている。
「こんど、ワタシ、歌いますでゴザイマス」

♪みんながグースカ寝ている朝早く
 ご飯をパッパカ炊いてくれる人
 掃除洗濯皿洗い
 なんでもチョコマカやってくれる人
 
 パンツの紐がこんがらがって解けぬとき
 やさしく解いて風呂に入れ
 ハナが垂れればそれを拭き
 顔を洗ってくれる人
 夢に出てくるその人は
 夢に出てくるその人は
 アア アハハ ハハハハハハ〜ィ
 それはボクでございました
 それはボクでございました

 
 山本直純作曲によるコミカルな、この挿入歌が楽しい。バンドのコンガを叩く。さすがドラマー。抜群のリズム感である。ここで歌った挿入歌のメロディが「安中のテーマ」として随所に流れる。これがシックな『社長行状記』の爆笑ポイントとなる。安中類次という名前も、フランス人だから「ルイージ」というわけである。

 余談だが「スーパーマリオ・ブラザース」のマリオとルイジは、フランス映画『恐怖の報酬』(1952年・アンリ=ジョルジュ・クルーゾー)のマリオ(イヴ・モンタン)とルイジ(フォルコ・ルリ)に由来するが、見た目は、フォルコ・ルリがマリオ、イヴ・モンタンがルイジであるが・・・

 さて安中類次。女性にモテるし、女好き。ドンファンを気取っている。で、児島課長と最悪の出会いをして、以来犬猿の仲となる。『サラリーマン清水港』(1962年)、『社長漫遊記』(1963年)のリフレインで、この児島課長の態度がビジネスを停滞させるかと思いきや、ビジネスはビジネスの海外流となる。ところが、安中類次、栗原サンライズの秘書課員・原田伸子(原恵子)に懸想したり、児島の妻・洋子(司葉子)にサービスするなど、児島が心穏やかではない。

 そんななか、フランスからデザイナー・チオール(スタンリー・ヒース)と夫人(キャシー・ホーラン)が来日。佐々部長の発案で、接待旅行を行うことに。夫人のリクエストでミキモト真珠島へ。海外からの要人には、評判がよかったミキモトパールだが、植木等さんの父・植木徹誠さんが少年時代、ミキモトの飾り職人をしていたことを思い出す。

 チオール夫人を演じたキャシー・ホーランは、この後、松竹特撮映画『吸血鬼ゴケミドロ』(1968年・佐藤肇)、『昆虫大戦争』(1968年・二本松嘉瑞)にも出演。東映の『ガンマー3号 宇宙大作戦』(1968年・深作欣二)、『緯度0大作戦』(1969年・本多猪四郎)と三年間の日本での芸能活動で特撮映画4本に出演、さらに「快獣ブースカ」「怪奇大作戦」「バンパイヤ」「河童の三平 妖怪大作戦」にも出演。その後、アメリカに帰って、ダラスの航空会社・ブラニフ航空でキャビン・アテンダントをしていたという。

 で、二見浦に行った一行。はりきって、観光ガイドをするのり平さん。「この岩と岩の間に、サンがシャインと出てきて、岩間サンシャイン」とシャレる。子供のように石の上に登るのり平さんを、森繁社長がいさめる「きみ、みっともないから降りなさい」「はい、さいですか」とショボンとするのり平さん。「マイ・オンリー(降り)・サンシャイン」とクサる。この呼吸!

 相変わらず浮気に鼻の下を伸ばしている森繁社長だが、構造不況の煽りで、年末に太田剛左衛門(東野英治郎)への支払い6000万円を作らねばならなくなる。年の瀬、児島課長をともない、資金繰りに全国の取引先へと東奔西走する栗原社長。その胸の内は、妻・峰子(久慈あさみ)にも社員にも明かせない。しかし、あと少しというときに、尾張屋デパート社長・小田中に断られてしまう。果たして・・・

 この金策のシーンで、苦悩する森繁社長、それを支える桂樹秘書課長。『三等重役』(1952年)以来、長年培ってきた、スクリーン上での人間関係のイメージに支えられて素晴らしいシチュエーションとなっている。でなんとかお金をかき集めることができて、ホッと一息。そこで三重のホテルに、大阪からマダム・町子を呼んで、男子の本懐を遂げようとするも・・・といういつもながらの展開もいい。

 松林宗恵監督は、『社長道中記』(1961年)と、この『社長行状記』がことのほかお気に入りで、特に次作『続社長行状記』の思い出について、何度となく伺った。作品としてはことさら派手なものではないが、後期「社長シリーズ」では、ぼくも最も好きな作品である。


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