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『やっちゃ場の女』(1962年6月17日・大映東京・木村恵吾)

 若尾文子さん主演、木村恵吾監督『やっちゃ場の女』(1962年6月17日・大映東京)。脚本は田口耕さんのオリジナル。築地青果市場で仲買店を営んで4代目の女房・小田くめ(岡村文子)が仕切る小田新の長女・小田ゆき子(若尾文子)は結婚や恋愛にも目も暮れずに店を切り盛りしている。頼りにしているのは住み込みの青年・井上精一(藤巻潤)。青森の果樹園の息子で東京に修行に来ているという(シナリオの)設定である。

 ある日、やっちゃ場で景気づけの冷酒を煽った母親・くめが脳溢血で倒れて亡くなってしまう。小田新の経営やBGの妹・早苗(叶順子)、中学生の弟・一郎(手塚央)たちの面倒も見なければならなくなり、ゆき子に重圧がのしかかる。

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 小田家が女所帯なのには訳がある。数年前、父・源造(信欣三)が出奔、佃島で時子(水戸光子)さんと同棲していた。母を捨てた父を恨んでいたゆき子だったが・・・

 ことさら大事件が起きるわけでもなく。姉・若尾文子さんと、妹・叶順子さんが、どちらも藤巻潤さんに好意を抱いて、それが姉妹のヒビとなっていく。同時に、なぜ父が家を出たのか?憎いとまで思った水戸光子さんと父の関係を、受け入れていく若尾文子さんの心理の変化。ちょっとした機微が、木村恵吾監督の丁寧な演出でさりげなく描かれていく。

 築地、銀座、佃島、浅草の距離感も程よく。五輪前の東京風景のロケーションが最高のご馳走。銀座でのお見合い。佃島の父の元から川向こうに帰る、佃の渡しの風情。この映画の二年後に、佃大橋が開通、渡は廃止される

 末弟が、内緒で父に会いに行き「俺が肉奢ってやるよ」と次姉からせしめた3000円で、浅草今半別館でご馳走する。このシーンがなかなかいい。

 クライマックスは、両国の花火大会の夜。いつものようにヴァンプ的な魅力ムンムンの叶順子さんが、姉・若尾文子さんと藤巻潤さんの睦まじい姿を見て嫉妬。その勢いで、課長・根上淳さんに酒を飲まされてホテルへ。根上さん悪い上司だなぁ。で、奔放に見えた叶順子さんは、実は純真な女の子で・・・

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のちの「東芝日曜劇場」のような女性のドラマが展開される。この時代、プログラムピクチャーで女性観客向けに、こうしたメロドラマ未満のシックな映画が作られていたんだなぁと。

 若尾文子さんも、叶順子さんもとにかく美しい。若尾さんのお見合い相手の宇津井健さんの爽やかさ! 特に五輪前の大改造の工事現場での二人の別れ。そして築地の場外で、冷酒をキューっと煽る若尾さんの清々しい美しさ! ああ、映画はこれでいい。と思う瞬間でもある。

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