娯楽映画研究所ダイアリー 2022年2月21日(月)〜27日(日)
2月21日(月)【佐藤利明の娯楽映画研究所】娯楽映画の昭和〜時層探検のススメ
2月21日(月)『抱かれた花嫁』(1957年・松竹・番匠義彰)・『オンボロ人生』(1958年・松竹・番匠義彰)・『兇弾』(1946年・英・ベイジル・ディアデン)
これからラピュタ阿佐ヶ谷で松竹グランドスコープ第一作『抱かれた花嫁』。昭和32年のワイド浅草探訪へ。上野動物園や日光にも脚を伸ばします。拙著「番匠義彰映画大全」世界で唯一のリアル販売です!
続きましてはイーストマンカラーも鮮やかに、新宿のバタヤ部落をファンタジックに描いた寓話「オンボロ人生」。番匠映画レギュラーの皆さんのイレギュラーなキャスティングが楽しい!ハマクラ先生もご出演^_^
ラピュタ阿佐ヶ谷「番匠義彰 松竹娯楽映画のマエストロ」で1958年「オンボロ人生」を堪能。原作者加藤芳郎さんが演じる押し入る先が、高屋朗さん宅!ガマ口ギャグも!浜口庫之助先生の演技力に驚嘆! 新宿ミラノ座前のE ・H・エリックさんのシーンの映画看板を食い入るように見詰める!桂小金治さんが、ブルース・リー「ドラゴンへの道」に先駆けて、レストランのあのギャグを^_^
今宵の娯楽映画研究所シアター。イギリスのベイジル・ディアデン監督のリアルな犯罪映画『兇弾』(1946年・英)をスクリーン投影。プロデューサーはマイケル・バルコン。戦後「バルコン・タッチ」として映画ファンに注目されたドキュメンタリー・タッチの作風が素晴らしい。
戦後間もないロンドン。タイトルバックは、警察署から出動したパトカーが、逃走車を追跡する車載カメラの主観ショット。音楽は流れず、パトカーのサイレン、無線連絡の声が緊迫感を高める。これがクライマックスであることは、あとでわかるのだが。
引退直前のベテラン警官ジョージ・ディクソン(ジャック・ワーナー)は、独身の新人警官アンディ・ミッチェル(ジミー・ヘンリー)を自宅に下宿させるなど面倒見がいい。コーラスのサークルで楽しむ警官たちなど、彼らの日常が淡々と描かれるなか、宝石店強盗が発生。
警官たちが現場に駆けつけるが「ここからは俺たちの出番」とスコットランド・ヤードの刑事ロバーツ(ロバート・フレミング)とチェリー警部(バーナード・リー)が仕切る。セクショナリズムも描きつつ物語が展開していく。
ロンドンの昼と夜が、リアルに描き出されていて、もうそれだけでご馳走。犯人は三人の若者たち。母親の横暴に耐えかねて家出したダイアナ(ペギー・エヴァンス)、その恋人トム・ライリー(ダーク・ボガート)、スピッド(パトリック・ドーナン)たちが犯行を重ねる。ついに、ジョージがトムの兇弾に撃たれて瀕死の重傷となるが・・・
デビュー間もない、ダーク・ボガートが虚無的な若者を好演。その無軌道ぶりと「醒めた感覚」が戦後の混乱を象徴している。子供達が遊んでいるのは、ロンドン空襲の記憶も生々しい焼け跡。老警官ジョージは、25歳の息子を戦争で亡くしていて、夫妻は新人警官アンディを息子のように可愛がる。ここにも「戦争の影」が色濃い。全編ドキュメンタリータッチで、警官たちのチームワーク、組織のドラマと、社会の歪みで転落していくアウトローとなる若者たちを対象的に描いていく。
逃亡者となったトムを追い詰めていく刑事と警官たち。グレイハウンドのドッグレース場でのクライマックスは、キャメラ、編集、モブシーンともに素晴らしい。アマプラで配信中なので、おすすめです!
2月22日(火)『死の接吻』(1947年・FOX・ヘンリー・ハサウェイ)
都内で「名探偵コナン ハロウィンの花嫁」劇場用プログラムの取材で3年ぶりに脚本・大倉崇裕さんにお目にかかる。とはいえ、いつもSNSでやりとりをしているので「お久しぶり」という感じでもなく、話は縦横無尽にあちこち縦断して、とても楽しい取材となりました。
今宵の娯楽映画研究所シアターは、昨夜のロンドンを舞台にした『兇弾』と同年のハリウッドのフィルムノワールの傑作、ヘンリー・ハサウェイ監督『死の接吻』(1947年・FOX)の紐育犯罪地図を堪能。
ニューヨークの実景、こちらもドキュメンタリー風に始まる。クリスマスで賑わう街並み。前科者のニック・ビアンコ(ヴィクター・マチュア)は、どこからも就職を断られ、妻と二人の幼ない娘のために仕方なく宝石強盗団に加わる。しかし、逃走寸前に警官に撃たれて逮捕されてしまう。二人の仲間は逃走。
ルイス・ダンジェロ検事(ブライアン・ドンレヴィ)は、娘たちに会いたくないか?と司法取引を持ちかけるが、仲間を売るわけに行かないとニックは断る。それから四年、服役中のニックは、昔なじみ近所の娘ネッティ(コリーン・クレイ)から、妻が仲間と浮気した挙句に自殺。二人の娘は養護施設に入ったことを聞かされる。ニックは娘に逢いたさにルイス検事にコンタクトを取る。
結果的に仲間を売り、仮釈放となったニックは、組織の殺し屋トミー・ユードー(リチャード・ウィドマーク)に接近、検事のために情報を引き出すが…
展開の面白さもさることながら、リチャード・ウィドマーク演じる狂気に満ちた殺し屋が圧倒的。不敵な笑みを浮かべながら、裏切り者の母親である車椅子の老婦人(ミルドレッド・ダンノック)を縛り上げて、階段から突き落とす狂気。これまでの犯罪映画には、これほどまでのダーティな殺し屋はいなかったのでは?というほどの異常者を見事に演じている。
ウィドマークは、本作で第5回ゴールデングローブ賞新人賞を受賞。性格俳優としてのキャリアをスタートさせた。
後半、殺人罪でトミーを起訴、ニックが証言台に立つが証拠不十分で無罪となり、トミーが釈放される。ニックはネッティと再婚、二人の娘も引き取り、ささやかな生活を送っていたが、トミーの復讐を恐れて…
これもまた完璧な「犯罪映画」の傑作。自らトミーを裁くため、ニックが立ち向かうクライマックスは、ヴィクター・マチュアがタフガイぶりを発揮。捨て身の行動に出る。
久しぶりに観たが、本当に面白い。ヴィクター・マチュアの焦燥感。リチャード・ウィドマークの狂気。そしてコリーン・グレイの可愛さ! わずか98分の尺だけに密度の濃いドラマが展開する。未見の方は、是非是非! これまたアマプラで配信中!
2月23日(水)『ブルー・ガーディニア』(1953年未公開・ワーナー・フリッツ・ラング)
フリッツ・ラング監督&アン・バクスターのノワール『ブルー・ガーディニア』(1953年未公開・ワーナー)をスクリーン投影。アマプラのクラシック映画の充実は、我が映画生活の充実に直結していて嬉しい(笑)
2月24日(木)『赤い陣羽織』(1958年・歌舞伎座=松竹・山本薩夫)
午後から京橋の国立映画アーカイブで、出版社の方々と、現在進行中の「熊井啓」監督本のための参考上映。初公開以来となる作品で、熊井監督自身も成功作とは言い難い、とされていた。ソフト化もテレビ放映もないままだったので、とても新鮮に楽しむことができた。終映後、共著者の皆さんと感想を話し映画談義。この時間が一番楽しい。
木下順二の戯曲「赤い陣羽織」(1947年)は、ペドロ・アントニオ・デ・アラルコンの短編「三角帽子」(1874年)をもとにした寓話的な戯曲。入婿で女房殿に頭の上がらないお代官が、妻の家伝の「赤い陣羽織」を着て、権力を傘にふんぞりかえっている。働き者のおやじの女房「おかか」に言い寄って鼻の下を伸ばしたことから大騒動が幕開けする。戯曲をもとにして歌舞伎化、オペラ化がされてきた。その戯曲を、十七代目中村勘三郎主演で、歌舞伎座製作による「松竹グランドスコープ」大作として映画化。勘三郎さんが代官、おやじ=水車の番人・甚兵衛に伊藤雄之助さん、その妻・おかかに有馬稲子さん。そして代官の妻に香川京子さん。これは面白い。勘三郎さんのオーバーな演技、恐妻家なのに、有馬稲子さんに懸想して、なんとかモノにしようと策を弄する滑稽さ。その要人・藤太役の井上昭文さんがおかしい。香川京子さんの凛とした美しさ。丁寧に作られた寓話的喜劇の傑作。
2月25日(金)「花嫁の抵抗」(1958年・松竹・番匠義彰)・「橋」(1960年・松竹・番匠義彰)・「花形歌手 七つの歌」(1953年7月14日・大映東京・枝川弘)
ここのところ多忙で、映画スケジュールを組むのにひと苦労。週2回はラピュタ阿佐ヶ谷で番匠特集を観るのが基本なので、それに試写と劇場公開作品のフォロー、取材仕事との兼ね合いが‥ まずは『ウエスト・サイド・ストーリー』を劇場でもう一度観たいのと、大好きなアガサ・クリスティーの『ナイル殺人事件』をなるたけ大きなスクリーンで観たい(早めじゃないと)。このあたりの按配が難しいのだけど、思案中が一番楽しいのかも(笑)
今回は「東京人」2009年11月号で特集された大瀧詠一さんと川本三郎さんの対談に至る(それまでの映画研究の)経緯なども、当時の資料を交えてチラリとお話します。いわば「映画カラオケ」実践のススメということで「東京下町”時層探検”」ご一緒に!今回は会場が阿佐ヶ谷地域区民センター第4・5集会室
ラピュタ阿佐ヶ谷で番匠義彰監督「花嫁の抵抗」(1958年)。市ヶ谷界隈、そして東京観光での日本テレビのテレビ塔の晴がましさ! 桂小金治さんの馬丁のおかしさ!相変わらずの永井達郎さんの三枚目ぶり! 眺めているだけでも楽しい番匠の「花嫁シリーズ」第二作。ポスターに「花嫁シリーズ第3弾」とあるのは、野村芳太郎監督「花嫁のおのろけ」を第二作とカウントしているので。番匠としては第二弾ということで。
ラピュタ阿佐ヶ谷・番匠義彰特集「花嫁の抵抗」。鈍感男子・田村高廣さんと小山明子さん、パワフル芸者・有沢正子さんの恋のトライアングル。拗れに拗れて、あの爽やかなラスト。娯楽映画はこれでいいの巻。桂小金治さん最高!
ラピュタ阿佐ヶ谷・番匠義彰監督「橋」(1960年)。美麗プリントをスクリーンで堪能。冷淡な細川俊夫、頑固な笠智衆。岡田茉莉子の若さゆえの迷い。大木実の狡さ。人々のさまざまが錯綜し「花嫁シリーズ」のように拗れるも、真っ直ぐな石濱朗の「善意」が爽やかなラストに導いてくれる。番匠の代表作。
「橋」(1960年)は、大佛次郎原作、番匠による東京の「橋づくし」映画です。タイトルバックは隅田川の「勝鬨橋」で始まり築地川の「三吉橋」、築地川南支川の「備前橋」そして築地明石町(隅田川沿い)まで。笠智衆さん、岡田茉莉子さん父娘が、引っ越したアパートがあるのは、渋谷の「並木橋」です。今の渋谷区三丁目。突き当たりを走る私鉄は東急東横線。昔は並木橋駅がありました。ラスト、岡田茉莉子さんと石濱朗さんの新しい恋が「並木橋」から始まるのです。つまり「橋」で始まり、「橋」で終わる映画なのです。
夜なべ仕事の合間に「花形歌手 七つの歌」(1953年7月14日・大映東京・枝川弘)で休憩。大映歌謡映画の歌唱シーンダイジェスト集。内海突破さんの借金苦のプロモーターが起死回生のオールスター歌番組を録音。放送局に200万円で売れると、借金取りに言い訳する。しかし、窓からそっと釣り糸を垂れ、その録音テープを盗んだのが、黒田剛さんの泥棒。日活移籍前に前科を重ねていたことが判明(笑)
放送局からは矢のような催促。困り果てた内海突破さん、夜の街へ録音機片手に飛び出す。
で、江利チエミさん「カモナ・マイ・ハウス」、神楽坂はん子さん「芸者ワルツ」、津村謙さん「上海帰りのリル」、美空ひばりさん「おさげとまきげ」、近江俊郎センセ「湯の町エレジー」を歌っている現場に潜入(という設定)で密かに録音を続ける(笑)
締めはコーちゃんこと越路吹雪さんが「セシボン」を!これが絶品!素晴らしい。疲れも吹っ飛ぶ。こういう短編アンソロジーを放映してくれる衛星劇場は素晴らしい!きっと、番匠義彰特集もやってくれるでしょう!とさりげなくアピール(笑)というわけで、ストックフィルムで構成された夢の歌謡映画、全巻の終わり!
2月26日(土)
3月4日、DIG&PADレーベルから中平康監督『地図のない町』(1960年)初DVD化!公式サイトにてデジタル・ライナーノーツを執筆しました。
2月27日(日)「佐藤利明の娯楽映画研究所SP 娯楽映画のVOL.2 下町篇 ジャズの浅草行けば」
かつての映画本は「観られないからこそ語る」が主流でした。ビデオ時代以降は「観られることを前提に語る」解説にシフトしてきました。今回は「観られないからこそ語る」→「観たくなる」→「観られる環境が生まれる」をイメージして「番匠義彰 はじめの一歩」として企画しました。
Twitterで読者から<“公式ガイドブック”であるこの本の目的とは違うかも知れないけど、各作品について「あれよあれよ」の中身も詳細に書いていただけてたら、“記憶装置”として、個人的には切実に有難かったところ>との書き込みがありました。
実は、ここは悩みました。「番匠映画」の特徴であるクライマックスの「あれよあれよ」の展開をディティールまで言及しなかったのは「必ず観られる日がくる」を願ってのことです。ラピュタ阿佐ヶ谷の評判がCSでのオンエア、配信に発展するに違いないと思っています。
2009年、番匠義彰全作品放映を、衛星劇場プロデューサーに相談。13ヶ月に渡り「番匠義彰フィルモグラフィ」放映。1時間の特番「特集番匠義彰を語る」の構成・出演をしました。ブームに至りませんでしたが、この時にテレシネしたニュープリントが今回のラピュタで稼働しています。13年越しの結実です!
娯楽映画研究家の仕事として、映画を観る、語るための「環境を整える」ことは重要です。昨年、ラピュタ阿佐ヶ谷「蔵出し!松竹レアもの祭」で番匠義彰作品を多めにセレクトしたのも、今回の特集上映の伏線でありました。特集決定の知らせを受け、チラシ原稿を書くことになり、ならばと書籍を企画。
Amazonでペーパーバックが出せることを知り、執筆、レイアウトに悪戦苦闘していたら友人・中川右介さんがDTPを申し出てくれました。新聞連載でイラストを描いてくれた近藤こうじさんにはデザインまでお願いしました。多くの友人の協力で出版にまでこぎつけました。
しかも、著者も定価購入の書籍を、わずかの手数料だけで販売してくれているラピュタ阿佐ヶ谷の支配人・石井紫さん。本当にありがたいです。で、多くの人に「番匠義彰映画大全」と特集上映が届いているようで、ああ、良かったなぁと、しみじみ。ありがとうございます!
「佐藤利明の娯楽映画研究所SP 娯楽映画のVOL.2 下町篇 ジャズの浅草行けば」阿佐ヶ谷地域区民センター。主催ネオ書房。
今年のテーマは「映画”時層”探検」。VOL.2の今回は「下町篇」。まずは東京の街をテーマにした「シティソングの変遷(1936〜1967)」として「東京ラプソディ」→「夢淡き東京」→「東京の屋根の下」→「若い東京の屋根の下」→「東京ナイト」と、シティソングが歌った東京風景とその映画化についてのお話。
そして「浅草映画”時層”探検」として、隅田川、隅田公園、雷門、国際劇場、花やしきなどなどのご紹介。江戸時代以来「雷門」がなかった話。昭和35年に松下幸之助さんが「雷門」を建立。初めてスクリーンに登場したのが石原裕次郎さんの『堂々たる人生』(1961年・日活・牛原陽一)でした。
そして、昭和6年竣工の「浅草松屋」と映画をテーマに、当時の広告や資料などとともに「屋上スポーツランド(遊園地)」の変遷を映画を通して辿りました。ラピュタ阿佐ヶ谷で上映の番匠義彰監督『空かける花嫁』(1959年)に登場する屋上遊具「スカイクルーザー」のあれこれを…
あっという間の2時間で、この続きは次回、3月27日(日)「娯楽映画の昭和VOL .3 東京映画地図」を開催します! 詳細決まり次第、ネオ書房から告知します。
よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。