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『ブルー・ガーディニア』(1953年未公開・ワーナー・フリッツ・ラング)

 フリッツ・ラング監督&アン・バクスターのノワール『ブルー・ガーディニア』(1953年未公開・ワーナー)をスクリーン投影。アマプラのクラシック映画の充実は、我が映画生活の充実に直結していて嬉しい(笑)

アメリカ版ポスター

 主題歌は子供の頃からレコードで親しんできたナット・キング・コールのトーチ・ソング「ブルー・ガーディニア」。ネルソン・リドル・オーケストラのキャピトル録音は、今でもよく聴いている。この映画のためにレスター・リーとボブ・ラッセルが書き下ろした。

 ノワールといっても暗黒街ものではなく「殺人の記憶喪失」をテーマにした異色ミステリー。失恋したアン・バクスターが、その日はじめてデートしたレイモンド・バーとしこたま飲んで泥酔。翌日、レイモンド・バーはアパートで死体となって発見される。しかし彼女には、犯行時の記憶がスッポリ抜けていて…

 このアイデアがなかなかで『イヴの総て』(1950年)での圧倒的な演技力で高評価を受け、若手ながら「大女優」の風格が出てきたアン・バクスターが「殺人の記憶」がないまま、罪悪感に苛まれて捜査陣に追い詰められ焦燥していくヒロインを「女優芝居」で巧みに演じている。

 ヒーロー役は、リチャード・コンテ。のちにシナトラ一家映画『オーシャンと十一人の仲間』(1960年)などでお馴染みとなるが、本作では飛ぶ鳥を落とす勢いの売れっ子新聞記者でプレイボーイというキャラクター。イタリア系の2枚目で、僕らの世代では『ゴッドファーザー』(1972年)の狡猾なボス、エミリオ・バルジーニのイメージが強い。

 ロサンゼルス。ノーラ・ラーキン(アン・バクスター)、クリスタル・カーペンター(アン・サザーン)、ルース・ミラー(ルース・ストレー)は、電話交換手の仲良し三人組。共同生活をしている。殺人ミステリーマニアのローズ、離婚してボーイフレンド(別れた亭主も含めて)との自由な日々を満喫しているクリスタル。活発な二人とは正反対、朝鮮戦争に従軍している恋人のことを思い続けているノーラは、内気な女の子。

 この三人の仕事や、プライベート・ライフの描写が楽しい。往年のロマンチック・コメディのように、ハリウッド映画を観ている気分にさせてくれる。特に姐御肌のアン・サザーンがいい。かつてはMGMの美人女優だったが、この頃は「酸も甘いも噛み分けた」おねーさんという感じで、彼女がドラマのアクセントとなっている。

 自分の誕生日に、恋人が「東京で従軍看護師と恋に落ちた」と別れの手紙を読んで茫然自失となる。そこへクリスタルへのナンパ電話をかけてきたイラストレーター・ハリー・プレブル(レイモンド・バー)の電話を受け、クリスタルのふりをして誘いを受ける。

 チャイニーズ料理を出すナイトクラブ「ブルー・ガーディニア」で、しこたまカクテルを飲み、上機嫌となった二人は、ハリーのアパートへ。このナイトクラブのショータイムで歌っているのがナット・キング・コール。歌うはもちろん「ブルー・ガーディニア」。もちろんタップリと歌声を聴かせてくれる。これも1940年代のロマンチック・コメディのようで楽しい。

 失恋したノーラにとって、寂しさを紛らわすのにちょうど良い夜となったが、酔いに任せてキスしたまでは良かったが、相手が恋人ではなくハリーと気付いて拒むノーラ。それでも止められぬは男の性ということでハリーは力づくで襲いかかる。レイモンド・バーは巨漢なので、アン・バクスターとのバランスも含めて緊迫のシーンが展開される。ノーラは、マントルピースの火掻き棒を手に抵抗。鏡が割れて、ハリーは倒れる。しばらくして動かないハリーに驚いたノーラは、雨の夜の中、一心不乱で自宅に戻る。

ロビーカード レイモンド・バーとアン・バクスター

 新聞は「ブルーガーディニア殺人事件」としてセンセーショナルに報道。犯人を殺人鬼「ブルーガーディニア」と命名する。ナイトクラブでの目撃証言から犯人は黒のタフタのイヴニングドレスを着てきたことが明らかになり、捜査の手がじわじわと迫ってくる。新聞記者で人気コラムニストのケイシー・メイヨー(リチャード・コンテ)は、新聞の一面に、「ブルーガーディニア」へのメッセージを掲載。それを見たノーラは・・・

 映画はここから面白くなる。「殺人の記憶がない」が「犯人としての自覚がある」ノーラが追い詰められていく心理ドラマ。彼女の様子がおかしいと心配するクリスタルとルース。アン・サザーンは出演場面で100%タバコを手にしている。キッチンでも、目覚めた時でも。フリッツ・ラング監督の、細かい演出が、随所で楽しめる。

 後半の展開は、「え!」「そうなの!」と驚きの連続。ウエルメイドなロマンチックコメディや音楽映画のようなムードで始まり、ハリウッド黄金時代のテイストを残しつつ、この時代に流行したニューロティック・スリラーの味わいもあり、優れた娯楽映画となっている。

というかナット・キング・コールの歌唱シーンだけでも、大満足!

アメリカ版ロビーカード


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