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『続 社長紳士録』(1964年・松林宗恵)

 東京オリンピックに湧き立つ昭和39(1964)年2月29日、古澤憲吾監督の航空アクション『今日もわれ大空にあり』(三橋達也主演)と二本立てで公開された「社長シリーズ」、第22作にして最終作として作られた『続社長紳士録』。脚本は、シリーズ全作手がけてきた笠原良三さん。演出は松林宗恵監督。プロデュースは東宝の製作本部長・藤本真澄さん。といういつもの面々が、これでシリーズ打ち止めと、いつもより豪華に、お祭り感を出しつつ作り上げた。

 『社長紳士録』のロケ地は鹿児島だったが、今回は新潟の豪華版。今ではさほど珍しくないが、「社長」シリーズは、日活の小林旭「渡り鳥」シリーズとともに、日本各地(時には海外も!)の風光明媚な観光名所をスクリーンで見せてくれる「観光映画」でもあった。毎回、各地方の観光課からの誘致合戦が繰り広げられていたという。

 大正製袋社長・小泉礼太郎(森繁久彌)、総務部長・富岡(加東大介)、営業部長・猿丸(三木のり平)、秘書課長・原田勉(小林桂樹)。新潟の北越瓦斯が化学肥料の大量生産に乗り出すと聞いて「先手必勝」の精神で猛攻をかけることに。幸い、猿丸部長の東台大学時代の同窓生が、北越瓦斯の柿沼重役(田崎潤)ということで、早速、クラブ「パピオン」で接待攻勢をかける。

 のり平さん、今回もエンジン全開。「パッといきましょう」の「パッ」「パッ」「パッパラパー」と増量。で小泉社長、猿丸部長、原田課長が新潟へ。出張に際して、用意周到の猿丸部長は、芸者のカタログ「新潟芸者総覧」なる冊子を用意。社長とともにお目当ての芸者をチェックする。もう最終作なので、今までのようなビジネス上のトラブルや緊張感もなく、楽しく新潟で芸者遊びに興じる。

 ここでナンバーワン芸者・菊千代(新珠三千代)が登場。一方的に社長にモーションをかけて、アフター御座敷の約束を取り付ける。一方、房代(司葉子)と新婚ホヤホヤなのに社長のお供は不満の原田課長は憮然とお座敷でひたすら料理を食べまくる。小林桂樹さんは、渥美清さん同様、食べながらの芝居が見事。本当に美味しそうに食べながら、セリフをフツーに喋る。

 で、そんな原田課長に一目惚れするのが、シリーズで桂樹さんの相手役を務めてきた藤山陽子さんの芸者。ホテルの部屋まで、酔った猿丸を送ってきた彼女が、原田課長の部屋へやってくる。その時、原田は愛妻・房代と電話中。「今の人誰?」ということで、夫の浮気疑惑が湧いてくる。

 この作品で、桂樹さんの家庭のドラマがクローズアップされ、社長夫人・久慈あさみさんと司葉子さんが、夫の浮気疑惑で共闘するという展開になってくる。とはいえ、今回はさほどの大事件も起きず。少し物足りないと感じていると、待ってましたと出てくるのが、前作で「猿丸ちゃ〜ん」とのり平さんを追いかけ回していた、鹿児島の日本澱粉社長・日当山(ひなたやま)隼人(フランキー堺)。前作のラストで、隼人が房代と幼なじみと判明。今回は男色家ゆえ、独身主義を貫いてきた隼人が見合いのための上京。

 新婚の原田夫婦宅に挨拶に来たまま風邪をひいて、寝込んでしまう。迷惑そうな桂樹さんをよそに「よかよか」と図々しい隼人。おまけに房代との仲を疑って、嫉妬にモヤモヤする桂樹さんがおかしい。

 大団円。小泉社長は、親会社・大正製紙の社長になることが決まり、定年間際の富岡部長(加東大介)」が大正製袋の社長となる。小泉社長とともに本社復帰する原田課長。それなら自分も!と

猿丸「すると、私はどういうことになります?」
小泉「あんた?」
猿丸「はあ、私の立場は?」
小泉「あんたはね・・・細かいところはまだ決まってない」

 大いにクサる。そんな軽い笑いがあって、社長就任前に、小泉夫妻は視察のため世界旅行に出かけることになる。その壮行パーティが壮観。シリーズ最終作なので「さよならパーティ」の趣向でもある。

「これでしばらく皆様とお別れになりますけれども、また会う日まで、ひとつ元気で頑張ろうじゃありませんか。終わりに一言。これまでの長い間、社長シリーズ・・・いや・・・社長の私をはじめ、部長・課長・社員一同に賜りました、温かい愛情とご支援につきましては、心から厚く、御礼を申し上げる次第であります。どうもありがとうございました」

そこで一同「蛍の光」の合唱。パーティの列席者に、森繁社長が挨拶をするシーンが壮観である。出席者は以下の通り。

森繁久彌

久慈あさみ

フランキー堺
三木のり平
小林桂樹
加東大介

プロデューサー・藤本真澄
脚本・笠原良三
監督・千葉泰樹
作家・源氏鶏太
監督・青柳信雄

監督・松林宗恵
司葉子
英百合子

宝田明
新珠三千代
三橋達也
八千草薫

夏木陽介
河津清三郎
草笛光子
藤木悠

団令子
高田稔
池内淳子

田崎潤
大友伸
藤山陽子

田村奈巳
清水由記
桜井浩子
岡田可愛
杉山直
旭ルリ

古谷敏
浦山珠実
勝部義夫
ほか、Bフォームの俳優さんたち

というわけで、鳴り物入りで「社長シリーズ最終作」と銘打ったために、ファンからの惜しむ声、そして何より、全国東宝系映画館の館主から「シリーズ継続」の声が殺到。藤本真澄プロデューサーは、続行を決断。何事もなかったかのように、翌年のお正月映画『社長忍法帖』(1965年1月3日)が製作されることになる。
 

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