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太陽にほえろ! 1974・第108話「地獄の中の愛」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第108話「地獄の中の愛」(1974.8.9 脚本・播磨幸治 監督・木下亮)

永井久美(青木英美)
戸川巌(田口計)
北沢良(谷岡行二)
津森恵(菅本烈子)
津森泰造(五藤雅博)
黒幕(青沼三朗)
粕谷正治
城南大学バスケットボール部部員(吉中正一)
山尾範彦

予告編。小林恭治さんのナレーション。
N「地獄を支配する黒い麻薬が若者たちの肉体を蝕む。一瞬、藤堂の顔に暗い影が。死の商人を父に持った恵(菅本烈子)は、恋人・良(谷岡行二)との幸せを捨て、父の償いをしようと自ら地獄への道を。そんな恵を救うべく、良の愛は、そして藤堂は・・・。次回「地獄の中の愛」にご期待ください」

 ボス・藤堂俊介(石原裕次郎)主役回。「飛び出せ!青春」で太陽学園サッカー部のゴールキーパー谷岡行二を演じた谷岡行二(のちに広規)さん二度目のゲスト出演。今回は、学生時代の裕次郎さんのようにバスケットボールに青春を賭ける正義感溢れる青年を演じている。ボスが可愛がっている後輩たちが巻き込まれる麻薬密売事件。殿下が麻薬中毒に陥る第79話「鶴が飛んだ日」同様、麻薬撲滅キャンペーンへの協力として企画されたエピソード。ボスが苦悩し、捜査もうまくいかない。ベテラン田口計さんが強かな麻薬密売人を憎々しげに好演。

 裕次郎さんが麻薬組織の陰謀を暴くという作品は、日活映画『清水の暴れん坊』(1959年・松尾昭典)以来、数多く作られてきた。

 警察広報からの撲滅キャンペーンの一環だったり、マスコミのキャンペーンと連動したこともある。今回は、ボスの通っていた城南大学バスケット部のマネージャーの女の子とその父親と麻薬をめぐる運命の皮肉の物語となっている。

 深夜、バイクが疾走している。ジグザグ運転をしたバイクはダンプカーと激突。横転して死亡する事故が発生。

捜査一係。ボスは捜査課員を集め「睡眠薬じゃない。こいつは麻薬だ」と被害者の高校生が重度の麻薬中毒であったことを伝える。「まだ十七かそこらの高校生でしょう?」とゴリさん。麻薬の恐ろしさを知らず、シンナーか睡眠薬のつもりだったんだろうと山さん。しかし高校生にはそう簡単に手に入るものではないだろうと長さん。ボスは一枚の写真を見せる。戸川巌(田口計)。3年前麻薬密売容疑で逮捕されるも、証拠不十分で不起訴となっていた。「この男を徹底的にマークする!」ボスは強い決意を見せる。

 戸川巌の映像にボスの声「奴は利口な男だ。戸川は自分では実際、麻薬の密輸や密売に手を出していない」「それはどういうことですか?」と山さん。「いわば闇のブローカーだ。安全に密輸された麻薬を、国内の密売組織に仲介して、その利鞘を取る。このやり方なら人手はいらん。ということは安全だ、ということだ」。戸川は赤坂あたりにある戸川芸能を隠れ蓑にしている。

 捜査第一係。山さん「しかし、よほど確かな密輸ルートと手を組んでいないと、麻薬の確保は難しいでしょう。第一密売組織が直接、密輸組織と取引をすれば、戸川の出る幕はなくなる」。ボス、キリリとした表情で「俺たちの狙いもそこだ、戸川が麻薬を一体、どこから手に入れ、どこに捌いているのか?それが組織なのか、個人なのか?そいつを突き止めるんだ」。

 田口計さんは、山本薩夫監督の『愛すればこそ』(1955年)でデビュー。数々の映画、ドラマに出演したが、声優としても活躍。『キングコングの逆襲』(1967年・東宝)では主演のローズ・リーズンの声を演じている。「太陽にほえろ!」では本作を皮切りに、計4話出演している。

第108話「地獄の中の愛」(1974年) - 戸川巌
第279話「愛と怒り」(1977年) - 安田
第357話「犯罪スケジュール」(1979年) - 芝岡部長
第592話「空白0.5秒」(1984年) - 椎名監査官

 高速道路を走る戸川の高級車。尾行する殿下と長さの覆面車。「五千万の麻薬というと、どれくらいの量ですかね?」とかつて第79話「鶴が飛んだ日」で麻薬中毒経験がある殿下。「戸川は五千万で買って、一億で組織に売る、これが末端までいくと10億にはなるはずだ、とすれば、2キロから4キロ」と長さん。その量に驚く殿下。「それが末端まで行き渡ればエライことだ」「十七歳といえば、俺の息子と同じ歳だ。オートバイの若者だよ、理屈は言えるが、まだ子供だ。そんな連中にまで麻薬を売りつける。許せんな」と怒りを込める長さん。

 「ヤクかなんだか知らないけどさ、そんなもの打ってオートバイ乗るなんて邪道ですよ、僕らただ、オートバイが好きなんですよ」。ジーパンとゴリさん、オートバイでツーリングしている若者たちに聞き込み。ゴリさん「しかしお前たちのリーダーだったんだろ?」「でも、あいつがヤクを打ってたなんて知りませんよ、よっぽどうまく」と若者が言いかけたところで、ジーパンが彼の腕をまくると注射の痕。「これなんだ?」「これは・・・風邪を引いていた者だから」と苦しい言い訳をして、仲間と一緒に駐車していたバイクへ。

 ジーパン、ポケットから全員のバイクのキーの束を出して「鍵ないのにどうして走るのよ?」。

 ゴルフ場。長さんと殿下がクラブハウスをバルコニーから見張っている。娘と談笑する父親。その隣のテーブルに戸川が座る。父親、娘に「さあ、行こうか?」と立ち上がりコースに向かう。テーブルに置かれた古いマッチで、戸川がタバコに火を付ける。一部始終を見ていた長さん「殿下、あの二人連れが何者か、当たってくれ。クルマのナンバーをボスに知らせるんだ」と小声で指示する。

 殿下はフロントへ、長さんは戸川を尾行する。戸川はトイレに入り、マッチの中の薬包を広げて、指先で舐めて品質を確認。マッチ箱をトイレに流す。長さん、戸川が出て行ったあと、便器に手を入れて流れなかったマッチ箱を拾い上げる。

 先程の父娘、ラウンドを終えて、クルマで家路へ。駐車場近くの電話ボックスでは殿下がボスに報告。「品川55と11−02」クルマのナンバープレートを読み上げる。

 ジーパン、電話ボックスでボスに報告。「クルマの所有者が割れました。いいですか、所有者は津森物産社長・津森泰造(五藤雅博)45歳」「津森泰造?」ボスは心当たりがあるようだ。「東京都世田谷区砧町105番地です」「・・・」「ボス?もしもし!」「あ、続けてくれ」。津森物産は資本金五千万円で、東南アジアの海産物を輸入販売してますが、この業界ではむしろ、堅実なやり方で通ってます」津森泰造には一人娘・恵(菅本烈子)21歳がいる。城南大学4年。ボスの出身校である。ボス、何かを考えている。「あとは山さんにそっち行ってもらうから、合流してくれ」とボス。

「山さん、この男と戸川巌との関係を洗ってくれ、徹底的にだ」強い調子で命じるボス。「徹底的に、ですか?」「そうだ、徹底的にだ」。山さんは何かを知っているようだ。

 鑑識でマッチ箱に付着している麻薬を調べてもらっている長さん。遠心分離器が回転する。

 津森泰造を演じた五藤雅博さんは、武内文平として数多くのドラマやテレビ映画に出演。現在99歳で健在である。特撮的には東宝映像制作「流星人間ゾーン」(1973年)で丹沢博士を演じた。「事件記者」(NHK)、「鉄道公安36号」(NET)、「特別機動捜査隊」(NET)、「特捜最前線」(ANB)などの刑事ドラマで医者や実業家の役を演じている。「太陽にほえろ!」では計15話出演している。

第98話「手錠」(1974年) - 中光商事社長
第108話「地獄の中の愛」(1974年) - 津森泰造
第175話「偶像」(1975年) - 石丸外科院長
第204話「厭な奴」(1976年) - 英吉
第242話「すれ違った女」(1977年) - 矢追信用金庫警備員
第268話「偶然」(1977年) - 荒井(ビル清掃員)
第294話「逮捕」(1978年) - 青島印刷社長
第334話「窓」(1978年) - 緒方
第406話「島刑事よ、さようなら」(1980年) - 浅見社長
第442話「引金に指はかけない」(1981年) - 尾澤医院院長
第458話「おやじの海」(1981年) - 神奈川県警刑事
第497話「ゴリさんが拳銃を撃てなくなった!」(1982年) - 矢追警察病院医師
第522話「ドックとボギー」(1982年) - 松井の父親
第541話「からくり」(1983年) - 大東警備保障警備員
第708話「撃て! 愛を」(1986年) - 竹内

 夜、上着を脱いで沈鬱な表情をしているボス。久美がお茶を置く。ここで音楽が終わる。「あ、ありがとう」。そこへゴリさん「ボス、あの若い連中、医者に渡してきました、結局アイツらからは、禁断症状以外に何もなかった、と」。長さんドアを開けて「ボス!やっと見つけましたよ」とシャーレーを机に置く。「これは?」「電話で話したマッチ箱ですよ。こいつからほんのわずかですが、ヘロインが検出できたんです」「何?」「ボス、ゴルフ場の若い女連れの男の身元、わかりましたか?」。ボス、少し躊躇うような表情で「ああ、津森泰造って男だ、連れの女は、おそらく娘だろう、今、山さんとジーパンが当たっている」。心なしか元気がないボス。「間違いありません、その津森という男が戸川の取引相手です!その男が麻薬を密輸しているんですよ!」興奮している長さん。しかしボスは浮かない顔。「このマッチ箱に入っていたのは、今度の取引のサンプルだと思いますがね」。天井を見上げて、一呼吸したボス「おそらく間違いないだろう」と大きく頷く。

 「いや、長さんやりましたね」と嬉しそうなゴリさん。「いや、ただこれだけじゃ、どうにもならんからね、取引現場を抑えんとね」と上気している長さん。沈んでいるボスとは対照的。「ゴリ、殿下が一人で戸川を張っている、交代してくれ」「長さん、そのマッチは確かに、その若い女連れが持っていたんだな」「確かですよ、殿下も見ています」「どうかしましたか?」ボスは窓側に立って「いいや」と額の汗を拭う。

  城南大学体育館。バスケットボール部が練習をしている。「おーい!飯にしようぜ」爽やかなキャプテン北沢良(谷岡行二)が部員に声をかける。更衣室でクタクタの部員にタオルを投げ「ちゃんと汗拭いて頂戴!」と笑顔のマネージャーは、なんと津森恵(菅本烈子)だった。「大事な試合の前に風邪でもひかれたら、マネージャーの責任なんだから!ほら、まだ濡れてるじゃない!」と部員の背中を拭く。

「おい恵!俺のトレパンねえぞ」「そこに洗ったのあるでしょ?あんなに汗臭いのいつまでも着てないでよ!」。麻薬中毒のバイクの高校生グループとは対照的な青春がここにある。

「良、あなた確かに、わがバスケット部のエースだけど、少しボールを持ちすぎるわ」「恵、お前マネージャーの他にコーチもやるのか?」「監督です。あなたのね」。二人は恋人同志である。それを見ていた部員「やめてくれよ、腹減っているのに、惚気られたんじゃたまんねぇよ」と冷やかし、一同大爆笑。

 良を演じた谷岡行二(のちに弘規)さんは、特撮ファン的には「バトルフィーバーJ」(1977年)でバトル・ジャパン・伝正夫を演じている、「太陽にほえろ!」では第53話『ジーパン刑事登場!』(1973年)でストーカー犯人を演じ、計4話出演している。

第53話「ジーパン刑事登場!」(1973年) - 木村清
第108話「地獄の中の愛」(1974年) - 良
第169話「グローブをはめろ!」(1975年) - 木下光夫
第261話「偽証」(1977年) - 佐々木敏郎

 その恋人で本作のヒロイン・恵を演じた菅本烈子さんは、現在も活躍中の劇団四季のベテラン女優、「ユタと不思議な仲間たち」「人間になりたかった猫」などファミリー・ミュージカルを中心に活躍している。「太陽にほえろ!」では、計5話出演している。

第108話「地獄の中の愛」(1974年) - 恵
第466話「ひとりぼっちの死」(1981年)
第556話「南国土佐・黒の推理」(1983年)
第557話「南国土佐・黒の証明」(1983年)
第566話「あいつが・・・」(1983年)

 恵の薬指には、良との婚約指輪が光っている。それを冷やかす部員。入り口の方をみた恵の顔が輝く。「あ!」。ボスがボールを持って笑顔で立っている。「先輩だわ!」「ウッス!」と挨拶。ボスも「おう!」と応える。「先輩!今度の試合が心配で、いても立ってもいられないんでしょう?」と恵が駆け寄っていう。「大丈夫!あたしがついてるもん!」「ようし!それを聞いて安心した。でも女だからって、嘗められるんじゃねえぞ、あいつらすぐ頭に乗るからな」とボス。城南大学バスケ部のエースだったんだ! 裕次郎さんは慶應高校でバスケットボール部員として活躍。高校2年の時に試合中に左足を怪我して断念した。それだけに、裕次郎さん、今回は楽しそうにバスケ部の先輩を演じている。

「あれ?先輩、今日は差し入れがないですね?」「馬鹿野郎、お前ら、俺の薄っぺらい月給袋、空にする気か?」とボールを投げる。「もう空っぽなんじゃないっすか?」と部員。

 ボス、真顔になって「良、ちょっと来い」と体育館の外へ。フェンスに寄りかかってボス「なあ良、お前、恵の亭主になる男だな」「ええ、まあ」と照れて頭をかく良。「デカっていうのはな、いや、刑事ってものは、簡単に言えば、人間の暗い、薄汚い面と、毎日顔付き合わしている商売だ。俺がお前たちを可愛がっているのも、多分そのためだろう。お前や恵の素直な明るさが、俺には嬉しい。たまらないぐらいにな」。良、笑って「照れるなあ」と頭をかく。「恵はお前だけが頼りだ」と真顔のボスに「変だな先輩、俺にそんなことを、恵には立派な親父さんがいるし、先輩だっている。俺もいるけど」「お前しかおらんのだ」とボスは、人差し指で、寮の胸を叩く。「いいか良、このことは、どんなことがあっても忘れるなよ」と言って歩き出すボスに「ちょっと待ってくださいよ、俺、なんのことだか、さっぱり・・・」「それからな、お前と恵に頼まれた仲人の件だが、俺は引き受けるわけにはいかんのだ」。ゆっくり歩き出すボス。

「先輩!」。恵が駆け寄ってきて「どうしたの?先輩」「わかんないよ、さっぱり」。歩いていくボスの背中。ピアノのテーマ、ここで終わる。

 現金の入ったアタッシェケースと、麻薬の入ったアタッシェケース。戸川巌がアタッシェケースを持って、自宅高級マンションからクルマを出す。やはりアタッシェケースを持った津森泰造が豪邸からクルマで出かける。

 戸川のクルマを尾行する、ゴリさんとジーパンの覆面車。「こちら1号車、戸川のクルマは明治通りを広尾方面に向けて進行中です」「ようしわかった、巻かれるなよ」。久美が戸川車の位置を地図にマッピングする。その傍には山さん。一方、殿下と長さんは津森車を尾行中。「こちら2号車、玉川通りを城南方面に向けて進行中」。山さん「どの辺で落ち合うつもりですかね?」「実際に落ち合ってくれればな」とボス。2台の位置がマッピングされた地図を見る。

 ゴリさんとジーパン車、殿下と長さん車。それぞれがピッタリとターゲットに張り付いて都内を走っている。指示を出すボス。走るクルマ、マッピングする久美、カットバックのモンタージュが続く。

 ジーパン「こちら1号車、戸川は芝公園インターより高速2号線に侵入中です」。高速に入る戸川車とジーパン車。長さん「こちら2号車、津森は高速1号線に汐留インターより侵入」。久美がマッピングする。山さん「羽田か?津森なら知り尽くしている場所だ」。久美も「そうだわ、きっと羽田空港よ!」ボス「・・・」。

津森車と戸川車、それぞれ高速を走っている。

ボス「ゴリ、殿下、焦るなよ。奴らの手のうちだ」。

 離陸するジェット機。羽田空港の駐車場に、戸川車、津森車がそれぞれ駐車する。1号車も空港へ。クルマを降りるジーパンとゴリさん。2号車も到着。

 戸川、クルマを降りる。その手には現金入りのアタッシェケース。津森も麻薬入りのアタッシェケースを持って、クルマを降りる。ジーパン、ゴリさん、様子を伺っている。殿下、長さんも、二人をじっと見ている。タバコに火をつけ、あたりを伺っている戸川の目に、駐車場に入ってくる2台の白バイが目に入る。殿下、長さん、慌てる。ゴリさん、ジーパンも何事かと。やがて戸川と津森がゆっくり近づくが、様子がおかしいことに気がつき、取引は中止。

 戸川は空港事務所の方へ歩く。尾行するゴリさんとジーパン。つけられていることに気づいた戸川、走り出す。ゴリさん、ジーパン、手分けして追う。

 津森は空港ターミナルへ。2階の出発ロビーへの階段を上がる。殿下と長さんに尾行されていることに気づいて、走り出す津森。空港の人混みに紛れて姿を消す。長さん「ちきしょう、殿下、向こうだ」と走る!

 一方、戸川は貨物事務所の方へ逃げるが、ジーパンと殿下に挟み撃ちされる。ゆっくりと戸川に近づくジーパン、ゴリさん。ここでも木下亮監督の演出は音楽を廃して、ジェット機のエンジン音だけで、緊迫感を高める。

 空港ターミナル。殿下が津森を追っている。搭乗案内のアナウンスが臨場感を高める。長さん、ターミナルから出てきて、当たりを見回し、モノレール乗り場への階段に気づく。発車ベルが鳴るホーム、階段を駆け足で降りる長さん。発車間際の浜松町行きの車内を覗き込む。ドアが閉まり、モノレールが動き出す。その時、長さんは津森の姿を発見するが時すでに遅し! 赤電話からボスに報告。ここでハモンドオルガンの追跡のテーマ。

 長さん「もしもし、あ、ボス。逃しました、津森を逃しました」の声。映像はモノレールの座席に座りアタッシェケースを膝に置いている津森の姿。「モノレール、空港からのモノレールに乗っています。黒いアタッシェケースを持ってます。手配を、緊急手配をお願いします」。

捜査第一係。「ようし、わかった長さん、気を落とすな」とボス。「緊急手配だ!」。

 東京モノレール「流通センター駅」で津森が下車する。大田区平和島6丁目にある。開業時は「新平和島駅」だったが、1972年1月に「流通センター駅」に改称された。改札を出たタイミングで、二人の警官がホームへ。行き違いとなってしまう。タクシーの乗った津森、緊急手配のパトカーとすれ違うが、悠々とタバコに火をつけている。

 羽田空港。ゴリさんとジーパンが戸川を連行。「さあ、乗るんだ」とゴリさん。「これは一体、どう言うことかね?」と戸川。「今にわかるよ」と覆面車に押し込む。長さんと殿下、ゴリさんとジーパンと合流。津森を取り逃してしまったことにがっかり。戸川、ひとり覆面車の中で余裕たっぷりの表情。

捜査第一係。ボス、敗北の表情。

 取調室。山さんが戸川のアタッシェケースを机に置き「中を拝見できますかな?」「あ、どうぞ、どうぞ」財布から鍵を取り出し「私はね、警察には協力を惜しまない主義でしてね」と笑って山さんに渡す。ケースを開くと中には現金が詰まっている。戸川と向き合っているボス。「こりゃすごい、ぴったり、五千万円ってとこですかな?」と山さん。「これで何をお買いになるつもりでした?」「いや、まあ、色々とね。ところでいつまでこうしているつもりですかな?」「あんたの相棒が見つかるまで、だよ」と山さん。「相棒?なんのことやら」と笑って惚ける戸川。ボス、立ち上がって「山さん、しばらく付き合ってやってくれ、嫌だろうけど」。戸川「何をいうか!私は協力してやってんだぞ!」「それほど綺麗な身体でもねえだろう?え?こっちがその気になれば、ふた晩でも三晩でもぶちこむ材料はいくらでもある。そうして欲しけりゃ、そうするぜ」とボス。アタッシェケースの蓋をパタンと閉めて、部屋をでてく。この、ぞろっぺいな言い回し。まるで「鬼平犯科帳」の長谷川平蔵みたい。ちょうど東宝テレビ部で松本幸四郎さん(のちの松本白鸚)の「鬼平犯科帳」を製作していたから、ボスのキャラクターと鬼平が重なる部分も多い。

山さん「ウチのボスを怒らせん方がいい。さあ、世間話でもして」と開いたままのドアを閉める。

夜、個人タクシーで、津森が帰宅する。手には麻薬のアタッシェケース。殿下と長さんが出迎える。「津森泰造さんですね」「そうだが」。長さんは警察手帳を見せる。殿下は運転手に「どこから来た?」と訊いている。「そのカバンの中、拝見できますか?」「なんの容疑か知らんが、それは任意かね、強制かね?」「どちらでもお好きな方で」「何?私は疲れている、断る!」「そうですか、じゃ、麻薬等密売容疑で緊急逮捕します」。手錠をかける長さん。「君!」憤然とする津森。

 そこへ恵がクルマで帰宅。手錠をかけられた父親を目の当たりにする。津森、長さんに「君、後悔するぞ」「お父さん?」「恵、心配するな、すぐ帰ってくる」。恵、殿下の腕を掴み「言ってください、父が何をしたというんですか?」「麻薬の密売容疑です」と殿下。「麻薬?そんなバカな・・・(津森に)お父さん、大丈夫!私、藤堂先輩に電話して助けてもらいます」と声をかける。「我々のボスですよ、その藤堂さんは」と殿下。恵、愕然とする。

 取調室。津森のアタッシェケースの中身、TIME誌や外国の雑誌、新聞など、ビジネスマンのもので、麻薬ではなかった。イラつくボス。手の指を動かしている。長さん「ボス、きっと鞄をすり替えたんです。これじゃないんだ」と悔しそう。津森の胸ぐらを掴んだ長さん「おい!どこへやった!」と責める。ボス「長さん」と諫め「津森さん、あんたの会社、ちょうど一年前、手形をパクり屋にやられて、倒産寸前にまでなった。ところがまもなく、会社は立ち直った。なんの実績もなしに、だ。おそらくあんた、その時から、実業家ではなくて、小汚いダニに成り下がったんでしょうな」。そっぽを向く津森。

深夜、恵がクルマを飛ばしている。

 取調室から出てくる津森、ボスに「藤堂さん、恵はいい先輩を持ったもんです」と言い残して立ち去る。長さん「ボス、なぜもっと粘らせてくれなかったんですか?」「長さん、つけるんだ、但し堂々とな。山さん、戸川の方も放してやれ、あっちはゴリさんに頼もう」とボス。「麻薬の受け渡しが遅れれば、組織の方がせっつく、二人とも動けなくするんだ、そうすれば必ずボロを出す」。

 城南大学、バスケットボール部部室。恵がロッカーに隠してあったアタッシェケースを取り出す。おそらく父から預かったものだろう。恵、何かに気づいたようだ。

 捜査第一係。マップのルートを殿下が説明。「この大井町競馬場から南町まで。それから世田谷の弥生町から自宅まで。この足取りははっきりしている。問題は南町から矢追町までの間です。この間に、どっかに捨てたか、隠したか?」。ミッシングを考えるボス。ジーパンも地図を見つめている。ボス、じっと地図をみながら、ある地点を指差す。「学校だ!」。

 深夜、城南大学グラウンド近く。呆然と佇む恵。良が走ってくる。「恵、どうしたんだ?」「良、助けて!私、どうしたらいいか、わかんない!」。

 ボス、覆面車で城南大学に向かう。ピアノのテーマが流れる。「ボス、山さんからの中継を報告します」と無線から久美の声。「ボス、やっぱり恵さん、今さっき、学校へ来たそうなの、黒いアタッシェケースを持って出ていくのを用務員の人が見ているんですって、ボス、あの・・・」「ようし、わかった!」。

 恵、良の目の前でアタッシェケースを開けると、中には麻薬がギッシリ。「これが本当に麻薬なのか」と驚きを隠せない良。「間違いないわ、今日の夕方、父が学校に来て、決して誰にも見せるな、って」。良、立ち上がり「しかし、これが本当に麻薬だとしたら、先輩に知らせるべきだ!」「それはできないわ、いくらなんでも自分の父親を・・・」「でもな恵、君のお父さんは大変な罪を犯しているんだぞ!絶対に先輩に知らせるべきだ!罪は罪だ!」。

 恵、納得できず、左手薬指の指輪を外す。「恵、俺はただ・・・」。恵、何かを良に言いかけたところでカットが変わる。

 ボス、校内で立っている。そこへ良が歩いてくる。茫然自失としている良、ボスに気づいて「先輩!」「良、恵はどこだ?」。良、黙ったまま、返された婚約指輪を見せる。「どこ行ったと訊いてるんだ。どこだ?」「わかんないんですよ、ただ黙ってこれを。俺、どうしょうもなくて」。ボスの鉄拳が飛ぶ。「馬鹿者!お前が支えてやらなかったら、恵はどうなる?」「先輩、じゃ、知ってるんですね?あのこと、あのカバンのことを?」ボスが行きかけると、良「先輩!見逃してやってください、恵が可愛いなら」無言で立ち去るボス。「先輩!」。

 津森邸。リビングで蒼白の津森、苛立っている。電話が鳴る。「恵、今、どこにいる?預けたもの、大丈夫だろうね?」。電話ボックスの恵「安心していいわ、父親を自分の手で警察に渡すようなことはしないわ」「見たのか?中身を?」。電話ボックスの電話帳置きにアタッシェケースが乗っている。「恵、よく聞きなさい、これは戦いだ、音を上げた方が負ける。私がどんな苦労して今の会社を作り上げたと思う?」。受話器を持つ恵の頬を伝う涙。「そのおかげでお前は大学にも行けるし、スポーツカーにも乗れる。好きなことをやって来られた・・・」「不思議だわ、そんなこと言うお父さんなんて。なんだか急に他人みたいに思えるわ、今までに会ったこともない、小さい時からずうっと二人きりだったもんね。なんだかずうっと遠くへ行っちゃったみたい、誰も彼も、みんな・・・急に遠くへ行っちゃったみたい」泣き出す。「恵、私はね、刑事に見張られて、あまり動けない、いいかい?お前が私の代わりにあの品物をしっかり守るんだ。それが娘としての務めだ。そうだろ?」。無茶苦茶のこと言う親父だね。

 「お父さん、私があなたの代わりにしなければならないことは?もっと他にあるの、あなたの娘として、私は、私のやり方で・・・」電話が切れる。

 夜道を歩く恵の手にはアタッシェケースが。ここで音楽が終わる。

捜査第一係。ボスが電話で長さんからの報告を受けている。「そうか、帰って来なかったか」「ええ、津森は寝ないで待っていたようですがね」。電話を切るボス、精神的にかなりシンドそう。

 渋谷の繁華街、現在の健在の老舗のバー「門」の前を歩く戸川。ゴリさん、堂々と「すいませんね、火を」と声をかける。タバコを渡して歩き出す戸川。イラついている。尾行を続けるゴリさんの笑顔に、さらに苛立つ戸川。

 戸川芸能。電話に出る戸川。「約束の品はどうしたね?」。黒幕からだった。「期日はすでに過ぎているはずだが?」「刑事の眼が厳しくて」「こちらには関係のないことだ」受話器を秘書に渡して電話を切る。顔の見えない黒幕。戸川、蒼白となる。ブラインド越しに外を見ると下の電柱にゴリさんが張り込んでいる姿が見える。津森に電話をする戸川。

 津森邸。「バカな?君は自分で墓穴を掘るつもりか?それに、現在、私の手元にはない」と電話を切る。外を見ると、門の向こうで長さんが張り込んでいる。

 城南大学バスケ部部室。苦悩する良。部員が「おい良、恵が来なくなって、もう一週間だぞ、何があったんだよ?」「家の方にも帰ってないんだ、友達の家にも、どこにもいない・・・どこにも」とため息をつく。「どうすりゃいいんだよ、チキショウ」と叫ぶ良。「俺は恵を失いたくないんだ、あいつと一緒にいたいんだ!一緒にいたいんだよ!」。

「そうやって泣いていれば、恵さんが見つかるのかね?」山さんである。

 捜査第一係。ボスが帰ってくる。久美「ボス・・・何か連絡は?」「いいえ、ダメだったんですか?今日も?」。ボスは久美を睨むようにみる。そこに良が部員たちと共に入ってくる。「先輩!俺、恵を探し出します。どんなことをしても」うなづくボス。山さんが後から部屋に入る。ボス「恵の気持ちを考えてみたか?」「ええ、どこにいるか、わかりません、でも、恵は償いをしようとしています。たった一人で、親父のやったことの償いをしようとしている。そうとしか思えません」。ボス、ゆっくりうなずいて「俺も、そう思う」。

 雑踏、恵を探し回る良と部員たち。サックスのテーマ音楽が流れる。二手に分かれて探している。サングラスをかけたボスも、街中を歩く、歩く、歩く。ハモンドオルガンの旋律。必死の良。必死のボス。夜の繁華街。音楽がフェードアウト。キャメラは薄暗い路地に入る。八代亜紀の歌声に、焼き鳥屋の客の嬌声。良の目線である。飲み屋街、派手な格好をして歩いている女がいる。「恵!」良が声をかける。「探したんだぞ!」。ボスも一緒だ。「帰ろう!どうしたんだ?」「いいの、帰りたい時、帰ります」「なんだって?」。恵は左の腕を見せる。注射痕が・・・

 ボス「恵、麻薬はどこにある?どこにあるんだ?」「先輩!それよりも早く病院へ」と良。「連れて帰るところは別にある」とボス。

 津森邸。驚く津森。ボスと良が恵を連れ帰ったからだ。「お前!」。父を凝視する恵の唇から涎が一雫。津森電話へ、ボス止めて「どこへ掛けるんです?」「(その手を)離したまえ、病院だよ。君にはわからんのか?あれは禁断症状だぞ!」「その通りだ!今、病院に入れたところで、恵の病気は治りゃしない」「ばか、放せ離すんだ、貴様、それが警察官のすることか?」。

 「哀れな男だ」「何?」「恵がなぜ自分の身体に麻薬を打ったのか?あんたにはわからんのか?」ピアノのテーマが流れる。「それが恵にできる、たった一つの償いだった・・・私や良にわかるそんなことが、当の父親のあんたにわからんのか?」。

 禁断症状に震える恵を、抱きしめる良。「もういい!たくさんだ!恵、親父がなんと言おうと、先輩がなんと言おうと、俺が、俺がお前を守る、守ってやる!(ボスに)病院へ連れて行きます、誰にも邪魔をさせない!」。良はしっかりと恵を抱き寄せて出ていこうとする。そこへ津森が「恵、どこにあるんだ?」。恵、振り向いて・・・「構わん、言ってごらん。お父さんが預けたものはどこにあるんだ?」。

 悲しい顔で父を見つめる恵。悲しそうに恵を見つめるボス。ここで音楽が終わる。

 夜の羽田空港駐車場。津森が戸川と取引をしている。クルマの中の戸川「よく、刑事たちを出し抜けましたな」。現金の入ったアタッシェケースを受け取った津森、歩き出し、クルマへ。

 翌日、大企業の入っているビル。戸川はあたりを窺いながら、中へ。手には麻薬のアタッシェケース。エレベーターで階上へ。黒幕の部屋。椅子が回転して黒幕(青沼三朗)の顔が明らかになる。戸川は麻薬を渡そうすると、ドアが開き、ボスが立っている。逆光、左手をポケットに入れ、まるで日活映画のヒーローのようなかっこよさ!

「いや、あの、私は気をつけて・・・」と弁解する戸川。ボス、ゆっくりと歩いてきて・・・

 城南大学バスケ部、体育館で練習をしている。ボスが現れる。「よ!」と明るく手をあげるボス。良が「先輩!」と駆け寄ってくる。「恵の具合、どうだ?」「あと一週間で退院していい、って」「そうか、よく頑張った」「ええ、恵の奴、本当に」「お前もだよ、よおく頑張った!」「いやあ、俺は・・・自分の女房になる女のことですからね」と照れながら言う。部員「あーあ、また惚気聞かされるのか?」と大笑い。

 ボス、久々にボールを手に、ダンクシュート!残念ながら失敗!「我が母校のかつての名キャプテンも腕が落ちたもんだ」と良。一同、どっと湧く。ボス「まあ、そういうな!」でストップモーション。



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