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「スーダラ節」ブーム、1962年の映画界を席巻!

 2021年2月からスタートした阿佐ヶ谷ネオ書房、3ヶ月連続企画「佐藤利明の娯楽映画研究所シアターSP クレイジーキャッツ大全2021」。その第三回「クレイジー音楽大全2021」が順延されていたが、6月26日(土)、2ヶ月遅れで開催。

 今回は、昭和21(1946)年の植木等さんとハナ肇さんの出会いから、昭和30(1955)年の「ハナ肇とキューバンキャッツ」結成までの、昭和20年代のジャズブームの中のメンバーたちの話を中心に、ミュージシャンとしてのクレイジーキャッツをテーマにお話をした。

 拙著「クレイジー音楽大全 クレイジーキャッツ・サウンド・クロニクル」(シンコーミュージック)で検証したヒストリーを、植木等さん、ハナ肇さん、谷啓さん、犬塚弘さんのインタビュー音源や、当時の写真、ジャズコンサートのプログラムなどで構成して、昭和20年代のジャズブームのお話を中心に展開。

 で、話は自ずとグループ結成6年目、昭和36年8月にリリースした「スーダラ節」の話になるのだが、今回は、それから11ヶ月後の東宝映画『ニッポン無責任時代』(古澤憲吾)に至るまでの日本映画で垣間見える「スーダラ節」ブームを、時系列で検証してみた。

 まず、植木等さんが「スーダラ節」を最初に映画で歌ったのが、昭和36(1961)年12月24日封切『大当り三代記』(松竹京都・的井邦雄)

 レコード音源に合わせて、屋台から出てきて歌う植木さん、その振り付けは、当時「シャボン玉ホリデー」などで歌っていた時のもので「スイスイスーダララッタ〜」のところで、前かがみになり、右手を左右にブラブラさせる。それを完璧に再現しているのはこの映画だけなので貴重(笑)で、歌い終わりにパタっと上向きに倒れる。これもテレビサイズのものと思われる。

年が明けて3月25日封切『スーダラ節 わかっちゃいるけどやめられねぇ』(大映東京・弓削太郎)。グループ助演による、川口浩・川崎敬三主演のサラリーマン喜劇。

『女難コースを突破せよ』 (1962年4月1日・東宝・ 筧正典)では、オチに植木さんが登場。主演の宝田明、小林桂樹、高島忠夫さんを食ってしまう。

 と、少しずつ、植木さんやクレイジーの映画出演が続いていくが、この翌週、4月8日封切『キューポラのある街』(日活・浦山桐郎)で、吉永小百合さんがアルバイトするパチンコ屋で、延々「スーダラ節」のレコードが流れている。日常風景を切り取った、こうしたシーンをみると「スーダラ節」がいかに流行していたかがわかる。

 そしてその翌週、4月15日封切『如何なる星の下に』(東宝・豊田四郎)に植木等さんが出演。森繁久彌さん、池部良さん、それぞれ「ダメ男」で、ヒロインの山本富士子さんんが振り回される。その「ダメ男」陣の「最新型」として「スーダラ節」の植木等さんがキャスティングされたのだろう。NHK「若い季節」で共演していた淡路恵子さんに依存している「スーダラ亭主」で、出番は少ないが、印象的なキャラクター。捨て台詞的に「こりゃシャクだった」と言うのがおかしい。「スーダラ節」のカップリング曲で、フジテレビ「おとなの漫画」のエンディングコールでも流行していたフレーズ。文芸映画にも「スーダラ男」が出てくる。当時のブームが窺える。

 その『如何なる星の下に』と同日封切りが、番匠義彰監督の『クレージーの花嫁と七人の仲間』(松竹大船)。松竹名物「花嫁シリーズ」と、テレビ、レコードで爆発的人気のクレイジーキャッツを融合させた、モダンで楽しいコメディ。渡辺プロダクションのユニット協力で、当時のテレビ界の舞台裏も(カリカチュアされているが)楽しめる。この作品での植木さんは、テレビタレント・峯京子さんの「スーダラ亭主」。クルマのセールスマンをしているが、女房に依存しているのは『如何なる星の下に』同様。

 これは「スーダラ節」のイメージによる「いいかげんな男」。これに「無責任」と追う概念が加わって、「無責任男」に変身するのが3ヶ月後の7月29日公開『ニッポン無責任時代』(東宝・古澤憲吾)

 子供たちにとって、クレイジーキャッツ・ブームがいかにスゴかったかがわかるのが、7月1日封切『山麓』(東映東京・瀬川昌治)。丹波哲郎さんと扇千景さんの夫婦の息子二人が、風呂上がりに「サラリーマンは 気楽な稼業と来たもんだ〜」「ドント節」を歌い出す。祖母・山田五十鈴さんが「教育が良いから、立派な歌唄ってるわね」と皮肉を言う。扇千景さん「困っちゃうのよ、みんな、あれお父さんが教えちゃうの。宴会で仕込んできて」とクサる。そこで大笑い。子供たちは「遠慮するなよグッとあけろ〜」とご機嫌で続ける。丹波さんは豪快に笑う。扇さん「進!お辞め」と叱る。

 そこで、子供たちは「わかっちゃいるけど やめられない〜」「スーダラ節」を、例の右手をぶらぶらさせる振り付けで歌い出す。微笑ましいシーンだが、瀬川監督がクレイジーをお気に入りだったとはいえ、この頃の子供たちの等身大の姿だろう。

 その翌週封切りの、石原裕次郎主演『憎いあンちくしょう』(日活・蔵原惟繕)では、裕次郎さんがジープで疾走しながら、上機嫌で「わかっちゃいるけど やめられない〜」と「スーダラ節」を歌う。レコード発売11ヶ月目、日活映画で裕次郎さんが口ずさむほどの大ヒット曲だったことがわかる。

 その二週間後、7月29日。記念すべき東宝クレージー映画第一作となる『ニッポン無責任時代』が封切られた。これも東宝名物「お姐ちゃん」シリーズと、テレビの人気者の組み合わせ企画。つまり映画界は、テレビの人気者だけでは不安があると「人気シリーズ」に出させるという安全策を取ったことになる。少なくとも企画の段階、プロデューサーが会社を口説く口実として…

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