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太陽にほえろ! 1974・第109話 「俺の血をとれ!」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第109話 8月16日「俺の血をとれ!」(1974.8.16 脚本・小川英、朝倉千筆 監督・山本迪夫)

永井久美(青木英美)
三郎(水谷豊)
飯田(横光勝彦・のちに横光克彦)
東和航空出版社社員(綾川香)
君子(吉田未来)
運転手(小沢直平)
宝石店店主(松尾文人)
宝石店店員(竹田将二・のちに竹田光裕)
看護婦(菅原慎予)
尾崎八重

予告編の小林恭治さんのナレーション。
N「まだ覚めやらぬ街、慌ただしく逃げていく少年の顔を見たとき、山村は撃つことをやめた。探し求めていた少年との突然の出会いに、山村が生命を晒す。溢れ出る血の流れに、少年がうめき声をあげる。今、何もかもが限界に来た」
山さん「俺の血をとれ、早くしないと、死んでしまうぞ」
N「次回、『俺の血をとれ』にご期待ください」

 山さん主役回。ゲストにこれが四度目の水谷豊さん。そして「特捜最前線」の紅林刑事役の横光克彦さん(この時は横光勝彦さん)。山さんが半年前の事件に関わっていた少年・水谷豊さんを探していた理由がドラマの要となる。宝石店強盗犯に拉致された山さんが、瀕死の共犯少年のために、自らの血を提供するが、主犯の横光さんが、どうしても負傷した水谷さんを助けたかった理由が、あまりにも身勝手過ぎる。それがドラマの陰影となり、拉致された山さんが消耗していく展開は、かなりの緊迫感がある。

 今回のゲスト・水谷豊さんは「太陽にほえろ!」出演は記念すべき第1話「マカロニ刑事登場!」(1972)で初ゲスト、これが四作目となる。

第1話「マカロニ刑事登場!」(1972年) - マモル 役
第30話「また若者が死んだ」(1972年) - 次郎 役
第54話「汚れなき刑事魂」(1973年) - 牧恭一 役
第109話「俺の血をとれ!」(1974年) - 三郎 役

 脚本はこれがドラマデビュー作となる朝倉千筆さん(小川英さんとの競作)。女性ならではの視点で、特に犯行グループのひとりに、元・看護婦の女性を入れ、また山さんの少年への想いなど、心理ドラマが色濃くなっている。朝倉さんはのちに朝倉和泉として「還らぬ息子 泉へ」(中央公論社)を上梓。その後は「スプーンおばさん」(1983年)、「とんがり帽子のメモル」(1984年)、「おねがい!サミアどん」(1985年)などのアニメのシナリオライターとして活躍している。

 横光克彦さんは、大学卒業後に劇団青俳に入団し、NHK名古屋「中学生日記」の先生役、NHK朝の連ドラ「北の家族」で人気を博す。中でも昭和53(1978)年、「太陽にほえろ!」による空前の刑事ドラマブームに拍車をかけた「特捜最前線」(ANB)の紅林刑事役が代表作となる。その後、政界に転身。立憲民主党の衆議院議員として活躍中。「太陽にほえろ!」では、計3話に出演している。

第109話「俺の血をとれ!」(1974年) - 飯田
第164話「バラの好きな君へ」(1975年) - 安田邦明
第236話「砂の城」(1977年) - 川村真治

 早朝、徹夜明けのジーパンと山さんが、眠そうな顔をして街を歩いている。ジーパン「張り込みって奴は無駄骨ってわかると余計に身体にこたえますね」「よくあることだ、いちいち気にしていたら身が持たんよ」と山さん。ジーパンが山さんに「コーヒー飲みますか? 買ってきますよ」「頼む」。山さん一人で歩き始めると、物音がする。目の前で四人組の強盗が逃走するところだった。主犯格の男(横光勝彦)はポケットに拳銃をしまい、ピンク色のブラウスの女(吉田未来)、そしてまだ若い少年だった。

 「待て!」山さんが拳銃を向けると、立ち止まった少年が振り返る。「三郎!」。山さんの顔なじみの少年・三郎(水谷豊)だった。三郎の手には拳銃が握られている。「なんだいてめえは?」。その時、牛乳屋の自転車が騒ぎを聞いたのか転倒。三郎は牛乳配達に気を取られて拳銃を向ける。その隙に山さんが三郎に近づいて、乱闘! 拳銃を持つ手を押さえて捩じ伏せる。「放せ!このやろう!」発砲する三郎!

 自動販売機コーナー。ベンダーでホットコーヒーを買っているジーパンの耳にも銃声!

 山さん、三郎を押さえ込んでいるところに、背後から拳銃で殴られる。山さんを襲ったのは主犯格の飯田(横光勝彦)。スリーピースを身に纏ったダンディな男。さらに山さんを殴打、意識不明に。「こいつをクルマに乗せるんだ!急げ」と三郎に指示する。

 三郎と運転係(小沢直平)が、山さんをクルマに乗せる。その時、ジーパンがコーヒーカップを両手に、何事かと現場に駆けつける。山さんがクルマに押し込められる!「山さん!」ジーパンはとっさに三郎の脚を撃つ!しかし、クルマは発進。ジーパンはクルマに拳銃を向けるが、強盗は逃走!

 駐車場には、山さんが殴られた時に手放してしまった拳銃が残されていた。♪ジャジャジャジャーン。

 捜査第一係。電話が鳴る。宿直で寝ていたゴリさんが眠そうに出る。「なに?山さんがさらわれた?」飛び起きるゴリさん。

 赤電話。ジーパンが「だからね、俺も何がなんだかさっぱりわからないですよ!」と声を荒げている。「だから、さらわれたのは事実なんですよ!」ジーパンの横には目撃者の牛乳配達。

 ボスのマンション。「拳銃が落ちてた?確かに山さんの拳銃なんだな?で、何者なんだ?その連中は」。ボス、太いストライプのパジャマ。遠藤千寿さんの仕立てたオリジナル。

 捜査第一係。ゴリさん靴を履きながら「ええ、それがさっぱりなんですよ、ジーパンの奴、慌てちゃってね、クルマのナンバーばかりガナってるんですよ」。ゴリさんも相当慌てて、とっ散らかっている。「慌ててるのは、お前の方だろ、ゴリ。よし、すぐに現場に行ってくれ、周辺の店をしらみ潰しに当たるんだ、おそらくこいつは強盗だぞ、ああ、全員招集して、俺もそっちへすぐ行く」。

 逃走車の中で、左足から血を流して、痛そうに唸っている三郎。応急で巻いたハンカチが真っ赤に染まっている。「痛えよ、痛えよ、チキショウ!」。隣の山さんは気を失ったまま。助手席の飯田が叱る。「馬鹿野郎!足の傷ぐらいで情けねえ声出すな」。三郎はうなづいて「わかってるよ」と言いながら痛みに耐えられない。君子「早く手当をした方がいいわ、中に弾が入ってるんだもん、血は止まらないし。(山さんを見て)それにこいつよ!なんだってこんな得体の知れない奴を連れてきたのよ、足でまといになるだけじゃない?」。三郎「そうだよ兄貴、俺にもわけがわからないよ、第一よ、なんだって、こいつら、あそこへ飛び出してきたんだよ?俺たちの計画、知ってたのかい?」。飯田「あんまり余計なこと喋るなよ、デカの前だぜ」。それを聞いた運転係も「デカ?」。

 「ああ、まず俺の勘に狂いはねえ、だからそ、こうやって連れてきた」。飯田、サングラスを外して「デカとなると慎重にやらねえとな」。君子「でも・・・」。飯田「身体探ってみな」。君子、山さんのポケットを調べる。警察手帳が出てくる。「ハジキはどうした?あの時は確か、手に持ってなかったぜ。探せ、もっとよく探すんだ!」。飯田、かなり焦っている。

 被害に遭った宝石店。ジーパン「全然わからないって、どういうんだ?」と店員(竹田将二・のちに竹田光裕)を問い詰めている。「なにしろ、すぐに目隠しされてしまって」「でもあんたねえ、着ているもんとか、年ぐらいわかるだろう?」とイラついている。「それが、男がジーパンを履いているぐらいしか・・・」。ゴリさん「ジーパン?」「ジーパンなら俺だって履いてるよ」とジーパン。「あ、そうだこんなジーパンですよ」「じゃ、まるで俺が犯人じゃないか!」。ゴリさん、ジーパンを制止して「人数がわかっただけでも大収穫だよ」。

 宝石店・店主(松尾文人)に殿下が被害状況を確認している。「ざっと見積もって一億二千万円ぐらいかと」。空っぽのショーケース。「なにしろ、極上のダイヤが入っておりまして・・・」。

 宝石店主を演じた松尾文人(ふみんど)さんは、4歳で初舞台、夢精映画時代から子役として活躍。マキノ・プロで、アラカンこと嵐寛寿郎さんのデビュー作『鞍馬天狗異聞 角兵衛獅子』(1927年)で、初代杉作を演じた。戦後は東宝のバイプレイヤーとして『空の大怪獣ラドン』(1956年)などに出演。「太陽にほえろ!」にも第17話「俺たちはプロだ」(1972年)から第691話「さらば!山村刑事」(1986年)、「太陽にほえろ!PART2」の第9話「見知らぬ侵入者」(1987年)まで計33話出演している。

 捜査第一係。ボス、報告を受けている。「一億二千万か」。殿下「ええ、エメラルドとダイヤが主だそうです」「国内じゃ捌けんだろう」とボス。ホシは国外へ逃亡する可能性が高い。近辺の空港、港の税関に手配をすることに。「しかし、どうして山さん、拳銃を撃たな買ったのかな?」とジーパンが呟く。ボス「ん?」「いや、牛乳配達が言ってるんですよ、拳銃を抜いて、ちゃんと手に持っていたって」。ゴリさん「何かの理由で山さんは拳銃を撃たなかった、そのため奴らに」「しかもその拳銃を落としていった。確かに、山さんにしちゃ、考えられないミスですな」と長さん。ボス、考えている。

 郊外の原っぱ。飯田の外車が停まっている。山さんは車内で手錠をかけられている。飯田「おい、ハジキはどうした?どこへやった!」「ハジキ?落としちまったよ、お前さんに殴られたとき」「ふざけるな、このやろう」と山さんを強く押す飯田。隣で三郎が悲鳴をあげる。

 必死に拳銃を探す飯田。「そういやよう、兄貴に殴られたとき、こいつハジキ持ってたぜ、撃ちもしねえハジキをな」と三郎。「本当に落としたのか?え?ドジな刑事もいたもんだな」「そら全くだ」と山さん余裕たっぷり。君子「どうするのよ?こいつ」。

 飯田、車外に出て、当たりを見渡す。「この辺なら死体が転がってたって、しばらくは見つからんだろう」。拳銃を山さんに突きつけて「出な!」と促す。「出ろよ、出なきゃ、ここで殺ってもいいんだぜ」。山さんは飯田を凝視する。ギターによるスロバラードのテーマ音楽。山さん、ゆっくりとクルマを降りようとすると、シェバードの鳴き声。大型犬を散歩させている男性が歩いている。飯田、それに気づいて「待て、変な真似をすると、あいつの生命はねえぞ」。断念した飯田、後部座席、山さんの隣に座り「出せ!」と指示。クルマは発進する。

 捜査第一係。久美、お茶をボスに出す。そこへ長さん「ボス、例のクルマ、やはり盗難車でした。二日前に盗難届が出てます」。判明したのはそれだけだった。ボス、フィンガーティップ。苛立っている。

 郊外の住宅地を走る逃走車。三郎の容態はますます悪くなる一方。山さん「大分ひどいようだな、大丈夫か?」「フン!まだ音を上げねえよ、この仕事で俺も男になれるんだからな」。飯田、笑って「見込んだだけのことはあるぜ」。嬉しそうな三郎「このぐれえの傷、屁でもねえや、金さえできりゃよ、セスナだってなんだって、欲しいものはなんでも手に入るんだからな」。

山さん「セスナ?」「驚いたかよ、俺うまいんだぜ、飛行機の操縦」と三郎。「そうか、そいつは知らなかったな」「へへ、今日だってよ、これから・・・」調子に乗ってペラペラ喋り出す三郎を諫める飯田。山さん、ピンとくる。

 捜査第一係。電話が鳴る。ジーパンが出て「葬儀屋?どこにかけてるんだよ」と間違い電話にキレる。みんな苛立ってる。殿下「どうしてクルマ、見つからないんですかね?外車でナンバーもわかってるのに」。また電話、ゴリさんが出る。手配の外車が見つかったとの報せだった。「白バイが例のクルマ発見しました。行ってきます」ジーパン、殿下も一緒に出動!

 2台の白バイが、逃走車を追跡中。高速道路の高架下。猛スピードで逃げる犯人のクルマ。乱暴な運転に中では三郎が「痛え!」と叫んでいる。「俺の腕に捕まれ」と山さん。白バイは二手に分かれて、逃走車を追い詰める。しかし・・・飯田、運転係に「ようし、巻けそうだぜ、流石に良い腕しているぜ」。満更でもない運転係。しかし、住宅街に入ったところで正面から先程の白バイが迫ってくる。「こうなったらしょうがない、停めな」と飯田。2台の白バイに囲まれる逃走車。白バイ警官、さりげなくクルマに発信機をつける。

 白バイ警官「免許証?」。飯田、山さんに拳銃を突きつけ「おい、俺たちに指一本でも触れてみろ、このデカの頭、吹っ飛ぶぜ!」。山さん「サブ!傷の手当を頼め」「うるせえ、こんどしゃべったらぶっ殺すぞ!」と飯田。「消えろ!今度おめえたちの姿がチラッとでも見えたら、こいつの生命はねえぜ!行け!」。逃走車は発進する。

 逃走車。飯田「刑事さんよ、お前さんのおかげで助かったぜ。当分は人質として協力してもらうぜ」。逃走車につけられた発信機。

 ゴリさん、殿下、ジーパンの覆面パトカー。発信機からの信号を受信。「これであと、チャンスさえ待てば、なんとかなりそうですね」とジーパン。「山さんのお陰で犯人の一人の名前もわかったしな」とゴリさん。

 捜査第一係。長さんが「サブか、サブねぇ」と心当たりを思い出している。ボスも「サブ・・・サブ、サブロウ」と呟く。長さん何かに気づいた。「ボス、半年前の傷害事件、覚えてますか? 仲間に裏切られてカーっとなってナイフを振り回した事件、あれが三郎ですよ」「そういや、調べたのは山さんだったな。しかし、あれはただの喧嘩だ、捜査もすぐ打ち切られた」「あれからも山さん一人で、ずっとサブを探していたんです」。長さん山さんのデスクへ。「確か、山さんの机の中に資料が」と引き出しを開けようとするがボスに「いいすか?」「ああ」。この辺りの描写が「太陽にほえろ!」の良さ。ちゃんとルールとマナーを守るショットを入れる。ジーパンは乱暴でもいいけど、長さんはちゃんとしている。

 長さん、調書を開いて、一枚の写真をボスに見せる。三輪車に乗った幼き日の三郎と母親のツーショット。裏書きには「母サチコ三十八才、三郎二才」とある。「サブが逃げた時、落として行ったんです。彼にとっては大事な宝物だったんでしょうな」「3才の時に母親とも死に別れてるんだな」とボス。久美「山さんも確かそうでしたね」「うん」。ここでサックスのテーマが流れる。ボスの顔のアップ。長さん「その後、親戚を盥回しにされて、今は松本って家にいるんですが、この傷害事件以来、一度も帰らないそうです。悪い子じゃない、ただ寂しいだけなんだ、山さん、そう言ってました、早く見つけ出して、写真を返してやりたい、よく話せば、この子はきっとまともになる、ってね」。

 ボス「山さんって奴は・・・確かに、不意をつかれて殴られるか何かあったんだろう、拳銃もその時落とした、だがな、山さんの胸の奥には、どうしてもサブを立ち直らせたい気持ちがあった、いや、自分の力で立ち直らせる自信が強くあったのさ、それじゃなきゃ、むざむざ捕まるような山さんじゃないよ」。ボス振り返って「なあ、長さん、そうだろ?」力強くうなづく長さん。

 郊外の河原。逃走車が停車する。あらかじめ用意してあった別な逃走車に乗り換えようとする飯田。「降りろ!」。しかし三郎は起き上がることもできない。「サブが!大変だ!」運転係が叫ぶ。飯田は、山さんを君子に任せて、三郎の元へ。ベースの音。デンデンデンデーデン、デンデンデデン。山さんは外車の屋根に「セスナ」と書こうとする。飯田が「おい、乗るんだ!」と指示をしたため、「セフ」までしか書けなかった。

 国産の逃走車。後部座席で三郎が朦朧と「痛え、痛えよ」「おい、なんとかしてやれよ、仲間を見殺しにする気か?」と山さん。飯田は「うるせえ、余計な口叩くな!(君子に)お前、なんとかできないのか?」「無理よ、いくら前に看護婦やってたからって、こんなに傷が大きくっちゃ」と君子。

 河原。ジーパン、ゴリさん、殿下の覆面車が、乗り捨てられた逃走車を発見する。あたりには三郎の血痕。「乗り換えたみたいですね」とジーパン。後部座席の血痕をみて「こいつはひでえや」とゴリさん。「これじゃ限界だな、何か手を打つはずだ」と殿下。「医者か?」「小さな町医者だな」「しかしそんな危険なことしますかね?怪我したのはチンピラでしょう」とジーパン。「とにかく、この先へ行って当たってみよう」とゴリさん。クルマに戻ろうとしたとき「ちょっと待った、ジーパンはここで待っててくれ、鑑識がすぐ来る」と言い残してゴリさん発進。「そんな」。夏の熱い日差しの中、一人残されたジーパン「干物になっちゃうよ」。小鳥が囀りのどかな午後。ジーパン、まだボンネットの「セフ」に気づいていない。

 菊池外科病院。逃走車がやってくる。「こんなでけえところへ連れ込めるわけねえだろ」と飯田。君子「ちょっと待って、輸血の道具と血をとってくれば、なんとかなるわ。サブ、血液型何?」「B」「任しといて、病院なんてどこも同じようなもんよ」と君子、病院の中へ。「ドジ踏んでくれるなよ、あんまり待たせるようなら、先に行くぜ」と飯田。「いいわよ、そしたら例の小屋で待ってて」。

 河原。鑑識課員が到着して現場検証。ジーパンが立ち会っている。まだボンネットの文字に気づいていない。

 病院の中、君子、ナース服を盗んで、看護師姿になって、輸血道具を手際良くポケットに入れて、冷蔵庫の血液をピックアップしようとすると「あなた何科?」と看護婦(菅原慎予)が声をかけてくる。「外科の新米です」「そう」。しかし靴を見て「あんた誰?何してるの?」揉み合う二人。「誰か!誰か来て!」と叫ぶ。医師がやってきて「なんだ君は?」。

 逃走車、郊外の住宅地を走っている。三郎、蒼白になっている。かなり苦しそう。「ああ、悔しい、あともう少しで血液が盗れたのに!」と君子。「道具が揃っただけでもいいじゃないか」と飯田。「入れる血がなきゃ、何にもならないじゃないの」「道具があるなら弾だけでも早く抜いてやれ」山さん、憮然と言う。「わかってるよ啓二さん、しかしあんたも変わってるよな、手前の生命よりこいつの事の方が気になるのかい?」と飯田。

「ああ、それがデカって奴の習性でな」。飯田「ケッ(運転係に)おいどこか目立たないところに停めろ」。

 河原、現場検証が続いている。ジーパン、ウロウロしている。その時、山さんが残した「セフ」の文字を発見する。ゴリさんの覆面車が戻ってくる。「ダメだ、手がかりなし」。ジーパン、ゴリさんに文字を見せる。「セフ、か。どいうことだこれ?」「いや、わからんですよ」。覆面車の無線機が鳴る。「今、菊池病院から輸血道具が盗まれたと連絡があった。すぐ行ってくれ」とボス。

 廃屋。三郎の足から弾丸を摘出する君子。三郎の絶叫がこだまする。君子「まずいわ、動脈を大きく傷つけて」。飯田「(血を)止められねえのかい?」「ええ、処置はするけど、とにかく輸血しなくっちゃ、ね、B型かO型ならいいんだけど」と飯田、運転係に訊く。しかし運転係も君子もA型、飯田は「AB型だ」。どうすることもできない。「死にたくねえよ!」叫ぶ三郎。「俺、死にたくねえよ、なあ、兄貴、頼むよ、病院に連れてってくれよ、お医者さん呼んでくれよ、兄貴、俺の本当の兄貴になってやるって、言ったじゃないかよ、なあ」。飯田「無理を言うなよ、別なルートで逃げるしかねえな」「兄貴・・・」。

「俺の血をとれ」と山さん。「B型だ。どうした?血が必要なんだろ? 早くしないと死んでしまうぞ」。ピアノのテーマが静かに流れる。

 捜査第一係。三郎と母の写真がボスのデスクの上に。殿下「そうだったんですか」「このサブっていうチンピラを山さん、コツコツ一人で探し回ってたんですね」とジーパン。ゴリさんは「無茶だ、無茶ですよ、敵ん中に一人で飛び込んでいくなんて、あの時銃を撃っていれば、なんとか食い止められた筈でしょ?」。ボス「そいつはどうかな?」「は?」「山さんは骨の髄からデカだ、常に徹底的に相手を調べ、確信のないことは滅多にやらん」「山さんはサブを立ち直らせる自信を持っている、というわけですか?」と殿下。「おそらくな、しかしだからこそ、俺も心配なんだ。山さんはその確信に、平気で生命をかけるからなんだよ。ま、ここで考え込んでてもしょうがない」ここで音楽が終わる。「今のところ、そのセフが唯一の手がかりだ、場所の名前、人の名前、片っ端から調べるんだ」。

 長さんが入ってくる。「ボス、サブを洗っているうちに、飯田っていう男に突き当たりました。ここ一週間ぐらいのうちに、二人は急速に近づいています。元神戸の寺林組のヤクザだったって事なんですがね」。ボス「神戸の寺林組っていうと、とっくに解散してるな」「その辺の事情は兵庫県警に問い合わせましょう。気になるのはそいつの女なんですよ、君子っていうんですがね、そいつが元看護婦なんです」。

 ジーパン「それですよ、病院に現れたニセ看護婦ってのは」「じゃサブは医者行かなくても助かる、ってわけだ」と殿下。「いや、それは無理ですよ、肝心の血液に手をつけてないんですからね」とジーパン。「しかしだな、もし同じ血液型のものがいれば」とゴリさん。「あれだけの血を一人の人間から採ると、それだけでダウンしちゃいますよ。ま、俺のお袋が病院に行ってるから知ってるんですけどね」。

「1500CCを一度に採ると、かなり意識が朦朧としてきます。2000CC採ると生命に関わりますね」。ボスは訊く「長さん、サブは何型だね?」「B型です」「B型?」。♪ジャジャジャジャーン。ボス驚きの表情で「山さん・・・」。

 廃屋。山さん、採血をしている。君子がちゃんとナース服を着ている。三郎に輸血を開始する。飯田イラついて「じれってえな、直にスパッと入れるわけにはいかないのか!」「ショック死でもしたらどうするのよ。もう800も入れてるのよ」「とにかく早くしてくれ、いつまでもこんなところにいるわけにはいかないからな」。

 山さん、ぐったりしているが、飯田の表情を見て、何かを読んでいる。

スナック「セフティ」、スナック「セブン」、クラブ「セブンスター」、喫茶「セフ」。殿下が聞き込みに回っている。電話帳の「せの部」を調べる長さん。BGMはフルートとギターによるテーマ。ゴリさんとジーパンは渋谷駅ハチ公口でチンピラたちに聞き込み。

逃走車。三郎と山さん、眠っている。

 捜査第一係。ボス電話で報告を受けている。「ないか?こっちにも新しい情報がないんだ。ああ、続けてくれ」と電話を切る。長さん「山さんが残したんだとすれば、何かあるはずなんですけどね」「なあ長さん、一つだけ気になることがあるんだ。チンピラのサブ一人のために、飯田がなぜ危険を冒してまで病院に寄ったか?ってことだ」「それなんですよ、調べた限りでは飯田って奴は、そんな優しい男とも思えませんしね」「とすると、考えられることは、サブじゃなきゃできない、重大な仕事が残っているってことかな?ブツの始末とか、逃亡方法・・・」。

「まあしかし、サブを預かっている松本って家は相当な財産家ですな、セスナまで持っている」長さんの何気ない一言にボス「セスナ?」「ボス、それじゃ?」「山さんはセスナと書こうとしたんだ、ところが、スのところで邪魔された」「ええ、で、操縦するのはサブってことに?」。

「手がかりはセスナだ、長さん、山さんが万一、血を採らせていたら・・・」

 飛行場。セスナが並んでいる。キャメラがパンすると逃亡車が小屋の脇に停まっている。作業小屋の中では飯田がイラついている。三郎の輸血を続ける君子。パイプに手錠をかけられて身動きが取れない山さん。「それだけ血を入れてまだダメなのかよ?え?」飯田が怒鳴る。時計を見て「12時を回ったぜ、3時半にここを出ねえと時間までに着かねえぞ」

「すまねえな兄貴、でも心配ないよ、2時間半で飛んで見せるぜ」と三郎。「止血剤が効いてきたみたい、でもまだ操縦は無理ね」と君子。「途中で気絶でもされたら、俺たちパーですからね」運転係が心配そうに言う。「船はかっきり6時半に出るんだ、乗り損ねてみろよ(バッグの宝石を手に)こいつはただの石ころだ」と飯田。

 それを聞いていた山さん。空な目で「なるほど、神戸から脱出か?セスナで警察の目を潜るとは、考えたもんだな」。飯田真顔で「それもサブ次第だよ、そのためにはあんたの血を最後の一滴までもらうぜ」。山さん少し考えて「サブ」「なんだよ、馴れ馴れしく呼ぶなよ」「お前がなぜ大事にされているか、わかるか?神戸まで行くのに必要な、ロボットだからさ。それだけのことさ。わかるか?こいつら、誰もお前の生命なんざ、気にしちゃいない」。三郎たまらなくなって「黙れ、黙れ、兄貴、そいつ黙らしてくれよ」。必死に止める君子「動いちゃだめ!」。山さんは続ける。「信じていたい気持ちはわかるが、みろ!こいつらの慌てた顔を!」。山さん立ち上がろうとすると、飯田の蹴りが顔面に入る。「うるせえぞ、この死に損ない」。山さん意識を失う。

 捜査第一係。ボス電話で「ああ、そうですか?皆正規のメンバーばかり、ええ、わかりました。一応、松本家のセスナから目を離さんでください」。殿下「ダメでしたか?」「ああ、今日フライトプランが出ているのは、身元が確かな人たちばかりだ。松本家のは出ていない」。殿下「ちきしょう」。ゴリさん「ちきしょう!せっかくここまできたのにな、何か抜け道がある筈だよ。なあジーパン、お前もしセスナで逃げるとすればどうする?」「どうするって?そんな俺に聞いたってわかりませんよ、俺、犯人じゃないから」。

 ボス「セスナの飛行距離は、約900キロ、国外まではムリだ、国外に出るとすれば、どこかの大きな飛行場か、港付近・・・」。長さん「港・・・ボス!神戸なら飯田の縄張りですよ!」「県警に連絡して、今日、出港届を出している船を徹底的に洗ってくれ!密航の恐れもあるからな」とボス。

「すごい、こんなの私が一生看護婦やってたって拝めやしないわ」と君子、盗んできた宝石を手にして興奮している。指輪をはめて、飯田に「ねぇ、これ持ってちゃダメ?」「ムショから出られなくなっても良きゃな」。君子、残念そうに指輪を外す。「ふくれるなよ、そんなの欲しけりゃ、いくらでも買ってやるぞ」「そうか、私たちお金持ちだったわね。さあ、それじゃ最後の仕上げ」と君子、山さんの採血の準備をする。

「まるで吸血鬼だな」と山さん。飯田、酒瓶を手に「望み通りの人助けだ。死んでも文句はねえだろう?」。山さんの口に無理やりウイスキーの壜をあてがい「飲めよ、血が増えるぞ!」。むせる山さん。冷徹に笑う飯田。それを見ていた三郎が叫ぶ「やめろ!兄貴、やめてくれよ」「なんだと?そいつ、俺に血をくれたんだ、俺はもう大丈夫だからよ、だから、殺さないでくれよ」「おい、おめえ、俺に指図する気か?おい!」逆ギレする飯田。君子「やめなさいよ」と止める。「今、サブを興奮させちゃダメじゃないの」。イラつく飯田。山さんをじっと見つめる三郎。

 捜査第一係。ボス電話で「第八白新丸?わかりました。手配頼みます」。ボス、みんなに「神戸港、6時半出港の貨物船に男女二人が乗り込むことになっているらしい」「しかしそれじゃ、男女二人って、奴ら四人でしょう?」とゴリさん。「そうか、とどのつまりは、自分と女だけで逃げるつもりなんだよ、奴は」。ボス立ち上がって「神戸まで3時間とみて、あと2時間以内に奴らはセスナで出発する、ちょっと出てくる、すぐそこだ」とボスが出ていく。

「出血が止まったわ」「飛べるんだな!」「任しておいてくれよ兄貴」三郎、言った後に山さんをみる。意識を失っている山さん。「気にすんなよサブ、デカなんて人を騙すのが商売なんだ、あんなのに騙されるようじゃ、大物にはなれんぞ」と飯田。「騙されたりなんかしないよ、デカなんかに」と三郎、兄貴に媚を売る。「ただよ、俺の身体の中に、あいつの血が流れていると思うとよ、なんか変な気がしてよ」。飯田笑いながら「そんなことはよ、外国行って楽しくやりゃ、すぐに忘れちまうさ。相棒、ちょっと歩いてみなよ」と三郎を促す。三郎歩く練習をする。意識不明の山さん。

 東和航空出版社。ボスは旧知の社長(綾川香)の話を聞いている。「飛べる?管制塔のレーダーに引っ掛からずにか?」「低空で飛び続けるんだ、こいつはかなり腕がいるぞ」「だが、空港にはコントロールタワーがあるだろう?」「民間の小さな飛行場にはないね」「じゃ、埼玉の千里飛行場はどうだ?」「うん、ない。だが、離陸には許可が必要だ、ただし、手がないわけじゃない。まず民間飛行場に自分の飛行機を置く、点検しにきたふりをして、飛んだ上にあっという間に離陸する、あとは低空飛行で神戸まで飛ぶ、レーダーに引っ掛からなければ、誰にも追いかけられない」「なるほどね」とボス。

七曲署玄関。ゴリさん、ジーパン、殿下、長さんが覆面車で発進。メインテーマがスピーディに流れる。

 三郎が歩く練習をしている。つらそうだ。転んでしまう。「サブ!」「これで大丈夫なんすか?」運転係が心配そうに飯田に訊く。「あと200採れ」「いいよ、もう大丈夫だよ兄貴」。君子「気にすることないわよ、どうせあのデカ始末するんだもん」。冷酷な女だね。採血の準備をして山さんの腕を縛る。

 山さん、やっとの思いで「サブ、よせ!いくんじゃない」「呆れたもんだな、まだ御託並べる気だぜ」と飯田。「いいじゃない、これが最後よ」と君子。「やめるんだサブ、こいつら、仲間なんかじゃない、今にきっとお前を裏切る。半年前のあいつらのようにな」

 三郎「半年前?」「あの時、お前が落としたおっかさんの写真、俺が大事に預かってるぞ」「あんた、それじゃ、初めっから俺のことを知って・・・」山さんの腕に注射針。「知っているとも、何もかも、何もかもだ。サブ、俺は、あの写真を、返してやりたかった、お前に・・・」山さん、意識が遠のいていく。BGMはアコギ。

 三郎、はっと気づく。山さんを見つめている。飯田、そんな三郎を抱いて「血だ、ほらよ、ドジな刑事さんの最後の贈り物だ、ありがたくもらいな」。飯田、じっとしている山さんをみて笑う。「これでもう説教できなくなったな」「1800も抜いたんだもん、ほっときゃいずれお陀仏だわ」と君子も笑っている。三郎、後悔の念でいっぱい。

2台の覆面車が空港に向かって走る、走る、走る。

 「よし、上出来だ!」飯田の大きな声で、山さん目が覚める。「もう大丈夫だな、5分ほど休ましてやるから、少し横になってろ」と飯田は、運転係に「車まで来てくれ、ちょっと忘れ物だ」と声をかける。そのすぐ後、銃声が聞こえる。山さん「飯田に殺されたな、あの運転手」「なんだって?」と三郎。全てを知っている君子が慌てる。「なんでもないわよ、寝言よ」。山さん「その女もグルだ。サブ、クルマが終れば、運転手はいらん」「お黙り!」「セスナが終われば、お前も終わる」「お黙りったら!」と山さんを、君子が殴る。山さん気絶する。

 三郎、小屋を飛び出す。追う、君子。飯田が、運転係の遺体を抱えていた。三郎「兄貴!「この野郎、すっかり怖気づきやがってな、逃げようとしたんだ。さ、早いとこ出かけようぜ」。

 小屋に戻る、飯田、君子、三郎。「元気出しなさいよ、あとは楽しいことばっかりなんだからさ」と君子。三郎、ぐったりしている山さんを見つめる。動き出す山さん。「くそう、しぶとい野郎だ!」と拳銃を構える飯田の前に、三郎が立ちはだかる。「やめろよ、撃たせねえぜ、俺」「サブ!てめえ!」。

「俺、あんたを信じたかった。俺を弟って言ってくれたのは、兄貴だけだもんな、だから、だから、俺黙ってたんだよ、兄貴がO型なのに、AB型って嘘ついた時もな、だけど、もうダメだよ、もう騙されねえよ、俺」。

 飯田は三郎に拳銃を向け「そうかい、じゃお前からやってやる!」。それじゃ逃亡できないぞ! そこへジーパンが飛び込んできて怒りのキック!ゴリさん、殿下「山さん!」、長さんも駆けつける。格闘!ジーパンのチョップ、パンチが炸裂。飯田に手錠をかける。殿下と長さん、山さんに駆け寄流。殿下は手錠を外し、長さんは「おい、山さん!」懸命に声をかける。山さん、気づいて「ホシは?」うなづく長さん。「すまない、迷惑かけたな」「何を言ってるんだ山さん、あんたを助けたのはな、サブなんだよ、サブが助けたんだよ!」。

 殿下、三郎を抱き起こし、山さんゆっくりと三郎を見つめる。三郎も山さんを見つめ「刑事さん、俺もう、こんなことしねえよ、約束するよ」。山さんの目には涙、かすかに微笑む。

 久美、お見舞いの花束を持って、山さんの病室へ。中に入ろうとすると、騒がしい。ゴリさん、ジーパン、ボスの声がする。なんと病床の山さんと四人で麻雀卓を囲んでいた。呆れる久美「ボスまでこんなところにいたんですか?」。山さん「こんなところはないだろう?」「久美ちゃんだってきたじゃないの」とジーパン。「私は山さんが心配だから」と久美。「光栄です」と山さん。「でも麻雀やってるって知ってたら、来ませんでした」。

 ボス「ところで山さんな、あんた本気で、サブに生命やっちまう気だったのか?」「さあて、いえね、本当はね、みんながもっと早く来てくれるんじゃないかと思ってたんですよ」「でも、もし見込み違いで行かなかったら、どうしました?」とジーパン。「来ないなんて、考えたこともなかったな」と山さん。ジーパン、ゴリさんたまらない表情、ボスも。ところが最後にボスが振り込んで、山さん「ロン!」。


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