太陽にほえろ! 1974・第90話「非情の一発」
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太陽にほえろ! 1974・第90話「非情の一発」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第90話「非情の一発」(1974.4.5  脚本・ 長野洋  監督・児玉進)

永井久美(青木英美)
坂田(内田良平)
檜垣五郎(神田隆)
河野(船戸順)
江島マリ(片山由美子)
青沼三朗
塚田末人
相馬優子
今井英次

予告篇のナレーション
「また一人の男がシャバに帰ってくる。出所するたびに事件を引き起こし、刑事の張り込みをよそに、次の狙いを巧みにカムフラージュする」「(山さんの声)あいつは必ず、最後の賭けに出る。俺はそれを止めたい。あいつのためにも止めなきゃならないんだ」「法を無視し続ける男に向けられた山村の拳銃の引き金に力がこもる。次回『非情の一発』にご期待ください」

 前科者の用心棒・内田良平さんと、山さんこと山村精一刑事の男と男の対決。テレビドラマの枠を超えたハードな展開が素晴らしい。内田良平さんは日活「機動捜査班」シリーズで破滅型の悪役やギャングを壮絶に演じていたが、その延長線上にある。裕次郎さん最後の日活映画となった『男の世界』(1971年・長谷部安春)でも演じた、刑務所から出所してきて復讐を遂げる執念の男のキャラクターを見事に演じている。また、内田さんは詩人としても活躍していて、この頃大ヒットした平田隆夫とセルスターズ「ハチのムサシは死んだのさ」の作詞家としても知られている。今回も、この歌が意外なシーンで、しかも効果的に流れる。

 刑務所。キャッチボールをする受刑者たち。その近くで日向ぼっこをしている坂田(内田良平)と河野(船戸順)。出所が近づいている模範囚の坂田に、組織からの「殺しの依頼」を伝える河野。しかし坂田は断る。「プロだろ?」「プロさ」「なぜ断る」「殺しはやらん主義さ」。ジャン=ピエール・メルヴィルのフィルムノワールのような雰囲気がカッコいい。「報酬はいつもの3倍だぞ」「10倍貰っても断る」「怖気付いたのか?」「俺は生まれつき臆病なタチでね」。顔を見合わせず、それぞれ別の方向を見ながらの会話。そこへ看守が「608号、面会だ」と坂田を呼び出す。立ち上がる時、一瞬、タメの演技をする内田良平さん。それを黙って見送る船戸順さん。船戸さんは昭和35(1960)年、「花のセールスマン・背広三四郎」シリーズなどで颯爽と東宝のスクリーンで活躍したナイスガイ。「傷だらけの天使」では松下刑事を演じていた。60年代、好青年の役が多かっただけに、この薄汚れた感じの受刑者役は新鮮。「太陽にほえろ!」では第650話「山村刑事左遷命令」(1985年)の代議士役を演じることになる。

 面会室。山さんが来ている。「しばらくだな坂田」。山さんのサングラスがダーティな感じ。まるでフランスのフィルムノワールのリノ・ヴァンチュラのようでもある。「そろそろ来る頃だと思っていたよ」「一週間で出られるそうだな」「模範囚でね」。二人が長い腐れ縁であることがわかる。「変わらんな」「変わったさ。もう歳だよ」「出たらどうする?」「仕事の心配をしてくれてるのか?」「その仕事が問題さ」。そこで坂田は「嫁さんを貰うのさ。俺もそろそろささやかなマイホームって奴が欲しくなったんでね」とおよそらしからぬことを言う。「まさか江島マリじゃ?」「さすが、調べにソツがねえ。見事なもんだ」「本気か?」「おかしいか?」。山さんは再びサングラスをかけて立ち上がる。「結婚式には呼んでくれるんだろうな?」「来てくれるかい?」「喜んで出席するさ」。敵対しながらも、不思議なシンパシーを感じる。今回はいつもの「太陽にほえろ!」とちょっと違う、暗黒街映画のムード満点である。「マイホームか」と坂田がつぶやく。

 捜査第一係。ボスが山さんの報告を聞いている。「ほう、マイホームね。で、その江島マリってのは?」。山さんが週刊誌のグラビアをボスに見せる。「ファッションモデルです。ま、一流とまで言えませんが、結構売れているようで」。江島マリ(片山由美子)の水着姿。「プレイガール」(東京12チャンネル)で芸名のままの役名で出演していた。僕らの世代では「ジャイアントロボ」のユニコーン機関の隊員・U5こと西野美津子役でお馴染み。セクシー系の女優さんとして少年たちの間でも人気があった。坂田が事件を起こす前に知り合い、服役中も面会に来ていると山さん。「へえ、やるもんですね」と感心するゴリさん。ジーパンは「で、その坂田って男は、一体何者なんですか?」「プロの用心棒ってとこかな」と山さん。「つまり金で雇われて暴力団の親分の護衛もすれば、押し込み強盗の見張り役も務める。腕っ節も強ければ、拳銃の腕も立つ。いわば”一仕事”の契約で食っている男だ」「と言うことは、早く言や殺し屋ってことですか」。そこでゴリさん「いや、ところがこいつは”殺さず屋”なんだ」「殺さず屋?」「つまり、人殺しだけは絶対にやらんという変わりモンだよ。それにしても、こんな若いのとね」と感心するゴリさん。しかし山さんは「奴は結婚なんかしない。坂田は家庭を持って落ち着くような奴じゃない。奴はやる。必ずまた何かやる」と断言する。

 刑務所を出所する坂田。山さんが覆面パトカーで張り込んでいると、江島マリがクルマで迎えにくる。尾行する山さんの覆面車。それに気づく坂田。「デカがつけてる」慌てるマリに「気にするなつけるのは奴の趣味さ」と平然としている坂田。

 マリのマンション。部屋に入ると窓から、張り込んでいる山さんの様子を見る坂田。バスローブに着替えたマリ「さっきの刑事? (坂田に)バカねえ、こっちから丸見えじゃない」「奴はこっちが気づいているくらい百も承知さ」。

 覆面車。山さんの心の声「あいつまさか本気であの女と?」。郵便配達が自転車で通りかかる。

 マリのマンション。「早く汗でも流してきな」と優しく声をかける坂田。マリはバスルームへ。片山由美子さんのガラス越しのシャワーシーン。サービスカットも忘れない。小学生はこれだけでドキドキした。そこへ郵便配達が小包を届けに来る。小包の紐をライターで切る。こうした細かい仕草がカッコいい。中には拳銃、サイレンサー、弾丸、そして現金300万円と、ターゲットの写真。「こいつか・・・高利貸し」。先程の郵便配達員も組織の手先だろう。

 覆面車。山さんが疲れた表情で、張り込んでいる。

 捜査第一係。殿下がゴリさんに「え?じゃ、山さんずっと?」「ああ、殿下が出張していた5日の間、ずっと坂田にかかりっきりだよ」「へえ、相変わらずだねぇ」「またくだ、あの辛抱強さには恐れ入るよ、な」「その辺が山さんとの差ね」と久美がゴリさんをからかう。ボスが長さんの報告を受けている。「すると江島マリに怪しいところは?」「今のところ何も出てきませんね。暴力団関係はもちろん、これといったパトロンもいませんしね。しかし、全くあんないい娘が、どうしてまた坂田みたいな奴に惚れたのか?」。ボスは笑って「蓼食う虫も好き好きさ」。マリのマンションの電話は内線なので、必ず管理人室を通る。その辺は山さんが抜かりなくしていると長さん。「すると問題は、いつどこで、誰が坂田に仕事を頼むかだ」とボス。

 土砂降りの雨。山さんが覆面車で張り込んでいると、ジーパンがやってくる。びしょ濡れのジーパンにハンカチを渡す山さん。ジーパンは「焼き立てですよ」とたい焼きを差し入れる。二人でたい焼きを頬張る。いいシーンだね。「どうですか?」「動かんね全く」と山さん。

 マリのマンション。レコードを聞いている坂田。窓に立つマリは「まだ見張ってるわ。一体、どう言うつもりなのかしら?」「牽制しているのさ」「牽制?」「ああ、あいつは見張ってるぞ、と態度で示すことで、何もさせまいとしてるんだ。つまり、俺が二度と罪を重ねないように、見守っててくれてるんだ。親切な男さ」「あなた、また何か?」心配そうなマリ。それを意に介さずに「マリ、外国に行くとしたら、どこがいい? お前の好きなところでいいぞ」と優しく語りかける坂田。「二人だけで結婚式を挙げるんだ」「本気なの?」「本気さ」「嬉しい!」。

 覆面車のジーパン、山さんに「こんなことして、本当に意味あるんですかね?そりゃ坂田って奴は、犯罪をするために生まれてきた男です。しかし、奴だってもう四十でしょう?結構な美人と結構なマンションで暮らして、今度こそ本当に足を洗う気になったんじゃないんですか?」「ジーパンよ、あいつと俺は同じ世代の人間なんだ。終戦後の食うや食わずの時代に育って、今どうやら、社会の中堅どころ、働き盛りと言われる歳になった。だがな、働き盛りってことは、別の見方をすれば、そろそろ自分の先が見えてくる世代なんだ。ましてあいつは、法の外で身体ひとつで生きてきた男だ。もうすぐダメになることは誰よりも自分自身がよく知っている。それにあの眼だ。きっと何かやる。必ず最後の勝負に出るに違いないんだ」。

 マンションの駐車場。坂田とマリがクルマに乗り込む。山さんが尾行を開始する。住宅街を抜け、高速道路へ。ひたすら走るマリのクルマをつける山さん。下の道に出たところで渋滞にかかり、マリはクルマを止めて、坂田と一緒に降りて歩き始める。山さんも降りようとするが、なんと別な男が乗り込んでクルマを発進させる。渋滞で身動きのできない山さんはまんまと巻かれてしまう。

 レストラン。タバコを吸っている坂田。スープを食べるマリ。そのテーブルの向こうに、若い女と食事をしている中年男がいる。これが坂田のターゲットの高利貸しだ。坂田は席を外すようにマリに促す。ひとりになった坂田は、手袋をはめて、拳銃を取り出し、ナフキンで隠して、テーブルの下からターゲットを狙う。BGMが最高潮に達したとき、坂田はゆっくりと引き金を引く。ボーイが近づく。ターゲットに向かって二発。倒れる高利貸しの男。抱き抱える連れの若い女、血だらけの死体に絶叫する。間髪を容れずに坂田はウエイターにナフキンに包んだ拳銃を渡す。殺人に沸き立つレストラン。「人殺しだ!」何食わぬ顔でウエイターは厨房へ。トイレでその声を聞いていたマリ。何が起こったのかを悟る。レストラの裏手、ホームレスの男がゴミ箱を漁っていると、ウエイターが拳銃をホームレスにそっと渡す。遠くに聞こえるパトカーのサイレン。ホームレスはずた袋に拳銃をしまい、去ってゆく。

 レストランの入口。パトカーに続いて、ボス、ゴリさん、長さんが覆面パトカーから降りてくる。ジーパンが現場検証へ。野次馬と化したレストランの客の中に、坂田とマリがいる。

 ジーパンに「全員足止めしてあるな」とボス。長さんが店のスタッフに事情を聞き始める。ゴリさんは店の周辺を洗うことに。そこへ遅れてきた山さん。現場の惨状を目の当たりにして、野次馬の中の坂田とマリををじっと見つめる。やがて死体の検分を始める山さん。近づいてきたボスに「申し訳ありません。私が見失ったばっかりに」「いや、あんたの責任じゃないよ」。ボスが山さんに「あんた」と呼ぶのは珍しい。ボスもやさぐれた感じ(笑)。山さん、すごい形相で、坂田に近づいて「まさか貴様が殺しをやるとは思わなかったよ」とサングラスを外しながら言う。すごい迫力。負けずに坂田、睨み返して「俺がやったという証拠でもあるのか? 身体検査ならさっき済ましたぜ」。山さんはグッと坂田の腕を掴む。「何か匂うかい?」。掴んだ手を離す山さん。

 七曲署・取調室。坂田を任意同行した山さん。ダンマリを決め込む坂田に業を煮やして机を叩く。「坂田!」。しかし次のカットで、坂田は堂々と七曲署を出ていく。証拠が掴めなかったのだ。

 マリのマンションが、セントラルマンションだとわかるカット。ここは第66話「生きかえった白骨美人」で、自主マニアの老人・田口(浜村純)が管理人を務めていた「三信マンション」と同じ建物でロケーション。

 坂田が部屋に戻ると、家具も調度品も一切ない。マリは引き払ってしまったようだ。もぬけの殻のキッチンに入った坂田が物音に気づいて、振り返る。「誰だ?」「何を怯えているんだ」と山さんの声。「山村!」「マイホームはお預けらしいな坂田」「・・・」「女は逃げた。なぜだかわかるか?」「・・・」「女はお前にぞっこん惚れていた。前科があろうが、無かろうが、そんなことは問題じゃなかったはずだ。そんな女にお前は何をした?殺しのカモフラージュに利用しただけだ!女はおそらく、そいつに耐えられなかったんだ」「いつからそんな心理学者になった? 忘れねえでもらいたいな、俺はな、たった今、証拠不十分で釈放になったばかりだ」「そのうち証拠が固まるさ」「山村、いつまで俺に構うんだ。そんなに俺を打ち込みてえのか? そんなに俺が憎いのかよ?」「ああ、憎いとも、俺はな、罪を憎んで人を憎まずと言えるほど立派な人間じゃない。俺は犯人が憎い。人を殺し、傷つけ、騙す奴が俺は憎いんだ」。睨み合う坂田と山さん。「どうやらあんたもガキの頃から散々、大人に騙され、イビられた口らしいな。だから俺のことが気になるんだ。つまりだ。一つ間違えば、あんたは俺になっていた」「そう、或いはな」。山さん近づいて「だがな坂田、間違ってもお前は俺にはなれない、わかるか?」「うだつの上がらねえデカにな。なりたくもねえな、まっぴらだよ」。

 セントラルマンションを出て行く山さん。続いて坂田も出てくる。今度は坂田が山さんを尾行する。大通り沿いの公衆電話からボスに電話をする山さん。尾行されている旨を伝え「坂田は我々が江島マリの居場所を押さえていると睨んでいるはずです」「だろうな。でどうする?」「会わせて見るのも手だと思います」「いいだろう。だがな、裏をかかれんように用心しろよ」。

 ジーパン、マリの隠れているアパートの前で張り込み。そこへ山さんがやってくる。その様子を伺う坂田。しばらくして洗濯物を干すためにマリが窓を開けると、坂田がマリの口を押さえて、部屋の中へ入る。

「私、あなたについて行くのが怖かったの」「・・・(ウイスキーを煽る坂田)」「あんなことの出来る人、どうすれば信じられる?」「しょうがなかったんだよ。だがなマリ、もう二度としないよ、あんなことは」「ほんと?」「ああ、本当に。すぐ旅に出よう」と微笑む坂田。「とにかく、二人で旅に出よう」とマリの手を優しく包み込む坂田。

 マリがアパートの外階段を降りてくる。身を隠すジーパン。財布を持って歩くマリ。近所に買い物へ行くようだ。ゆっくりと尾行するジーパン。マリは「東光ストア」に入る。ここは第70話「さよならはいわないで」で、ジーパンが殿下の拳銃を持ったピストル強盗(小原秀明)を追い詰めたスーパーでもある。東光ストアは、現在の東急ストアの前身。

 東光ストアの店内を歩くマリを尾行するジーパン。マリに気づかれている。マリはジーパンを巻いて駐車場へ。あらかじめ止めてあったクルマに乗り込む。駐車場に張り込んでいた殿下の覆面パトカーがそのままマリのクルマを追跡する。住宅街で坂田をピックアップ。カーラジオから平田隆夫とセルスターズの「ハチのムサシは死んだのさ」が流れる。

 嬉しそうに見つめ合う坂田とマリ。外はいつしか夜になっている。「♪ハチのムサシは向こうみず 真っ赤に燃えてる〜」のところで、目の前を大型トラックが横切り、マリはハンドルを切り損ねて激突! 絶叫と共に激突音が響く。

 次のカットは、雨の火葬場で傘を差して立ち尽くす坂田の後ろ姿。マリは亡くなったのだ。ゆっくりと山さんが近づいていく。二人の男の後ろ姿。今回はどこまでもフィルムノワールのイメージで演出している。画面は坂田のアップ、後ろから傘を差して歩いてくる山さん。「可哀想なことをしたな。今更悔やみを言っても始まらん。俺は、謝りに来たんだ」。振り返る坂田。山さんは続ける。「俺は、あの娘を泳がせることで、バックにいる黒幕の存在を知ろうとした。その結果がこれだ」「マリにはなんの関係もなかった。一つだけ信じてくれ、マリはなんの関係もなかったんだ。それを・・・俺は許さん!」「惚れていたのか?」「俺はいつもガキの頃から、とてつもない夢を見続けてきた。いつもその夢にかけ、いつもしくじった。それでも俺は、俺なりの夢にかけ続けることで、生きがいを感じていたんだ。マリは俺にとって、最後の夢だったのかも知れん」「夢を見るのもいいだろ。しかし、お前の夢は間違ってる。お前はただ現実から逃避しているだけだ。現実を見つめる勇気がないんだ」「やめろ!もう遅い・・・」「坂田、つまらんことを考えるのはよせ。坂田!これ以上お前に勝手な真似はさせんぞ」「ほっといてくれ。それとも何か、あんたに俺を逮捕できるネタでもあるのかい?」。坂田はその場を立ち去る。山さんの心の声「一体、誰が坂田に?そうだ・・・刑務所の中だ」。

 刑務所。山さんが受刑者名簿を調べている。しばらくページを繰っていたが「こいつだ」と目星がつく。河野(船戸順)を取り調べる山さん。「知らんと言ったら知らんね。坂田なんて奴、あったこともねえよ」「お前、刑期は3ヶ月だったな」「それがどうした?」「俺がお前をここへ呼んだことは、今頃所内で誰も知らないものはいないだろう。つまり、お前は、警察のイヌじゃないかって噂が立つわけだ」「なんだと?」「ということは、当然、お前が仲立ちをした黒幕の耳にも入るってことだ」と立ち上がる山さん。ダーティだねぇ。「ということは、刑期が終わって表へ出た途端に・・・」「てめえ、デカのくせに、人を脅迫する気か?きたねえ、汚ねえぞてめえ!」「汚いのは百も承知だ。だがな、この部屋にきた時から、お前の運命は決まってしまったんだよ。河野、助けが欲しかったら、吐け、坂田に何を伝えた? 誰から頼まれて、何をやれと伝えたんだ?」「・・・」諦めたような河野の眼差し。

 新宿駅南口。階段を降りる坂田。ゴリさんが尾行をしている。

 刑務所。「なんだと?坂田が殺しをやったのは、俺のせいだというのか?」「そうさ、奴は初めは断ったよ、けど、あんたが面会に来た後で、気が変わったんだよ。坂田はな、これ以上、あんたに付け回されるのがごめんだから、最後の大仕事をやって高飛びするんだって。そうさ、あんたにあった後で、奴は決心したんだよ!」と河野。山さん無言。

 捜査一係。山さんがボスに報告している。ジーパン、殿下もいる。「東名経済会・檜垣五郎か・・・」とボス。檜垣五郎(神田隆)の写真を机に置く。「名前は立派ですが、実態はれっきとした暴力組織です」と山さん。「奴がここまで伸してきたのは、大町隆三の金の力が大きいと言われてますが、ま、それだけにかなり弱みを握られていたようです」「そうか、それで自分のところと関係のない、一匹狼の坂田を使って」と殿下。「やりましたね、山さん、これで檜垣も坂田もいっぺんに逮捕できるってわけだ」とジーパン。

 「いや、無理だ」とボス。「は?」とジーパン。「河野の自白だけでは決め手にならんよ。檜垣も坂田も惚けるに決まっている。それに河野にしても土壇場になって、自供を覆す可能性もある」とボス。ジーパンは「しかし、黙って指を咥えているわけにはいかんでしょう?」。そこで山さん「俺が檜垣のところへゆく」「いくら山さんでもいきなり乗り込んで吐かせるのはちょっと無理じゃないですか?」と殿下。「俺は檜垣のボディガードに行くんだ」と言う山さんを見上げるボス。「そんなバカな」とジーパン。

「バカな話さ。だが警察は証拠がない限り動けなくても、坂田にはそんなものいらん。俺は坂田に言った。二度と勝手な真似はさせん、とな。だから、俺は檜垣を守るために行く」
「山さんの言う通りだ。殿下、一緒に行け。いいな、二度と坂田に殺しをさせるな」
とボス。

 山さんは無言で頷いて、殿下と共に部屋を出て行く。

  新宿・ドヤ街の簡易宿泊所。坂田がベッドに横になって週刊誌を読んでいる。そこへ、レストランで拳銃を受け取ったホームレスが現れて、ズタ袋から拳銃の包みを渡す。坂田は胸ポケットに拳銃をしまって、週刊誌をホームレスに渡す。週刊誌を開いてニヤリと笑うホームレス。拳銃の代金が挟んであったのだ。

 檜垣五郎の屋敷。「ハハハ、わしがなんでそんな男に狙われなきゃならんのだ?」と山さんと殿下を前に、一笑に伏す檜垣。「理由はあなたが一番、よくご存知のはずですが」と山さん。「見当もつかんね。帰ってもらおう。仮にどっかの気の触れたやつがワシを狙っていたとしても、ここには腕っぷしの強いのが何人も揃っているんだ。警察の世話になんかならんよ」「なんですって?」といきりたつ殿下を押さえて、山さんはソファーに盗聴マイクを仕掛けて「どうも、失礼しました」と頭を下げて辞する。

 神田隆さんは、僕らの世代では時代劇の悪役や、やくざ映画の狡猾な親分のイメージが強いが、戦前、東京帝大文学部卒業のインテリで、そのルックスを買われて映画界入り。戦後は東映の「警視庁物語」シリーズの捜査主任役を演じていた。これは「太陽にほえろ!」に先駆けての刑事ドラマのルーツ的作品。いわば山さんの大先輩にあたる。

 新宿南口のドヤ街。労務者に化けたゴリさんは坂田を張り込んでいる。雑貨屋の軒先からボスに報告、目の前には、ブルマァクの「ウルトラマンタロウ」怪獣シリーズのソフビが下がっている。「奴はまだ動きません。何かを待っているようですね。出てきました」と公衆電話を切り、坂田の尾行を始める。

 たばこ屋で、タバコを買う坂田。映画館のポスターが貼ってある。山本薩夫監督『華麗なる一族』、ジャック・ドゥミ監督『モン・パリ』のポスター。ゴリさん、坂田の尾行を続ける。

檜垣邸の前に、覆面パトカー。殿下と山さんが張り込んでいる。

簡易宿泊所。坂田戻ってきて、檜垣邸の間取りを書いた紙片を開いて作戦を練っている。

 捜査第一係。ジーパンと長さんがいる。ボスは部屋を歩き回っている。そこへゴリさんから報告の電話。「よし、わかった」と電話を切り「坂田が動いた」とボス。檜垣邸に向かう坂田。その後を追う地下足袋の足。ゴリさんである。突然、坂田が走り出す。ゴリさん、追いかけようとすると、突然、四人の労務者に襲われ、行手を阻まれる。。ゴリさん、乱闘開始!

覆面パトカー。殿下、山さんに「来ますかね、奴は?」「来る、必ず来る」。

檜垣邸。ブランデーグラス片手に落ち着かない檜垣。電話が鳴る。「もしもし、坂田?」。

覆面パトカー。盗聴器の音を聞いて殿下と山さん「!」。

「人違いじゃないのか? ワシはお前のような奴は知らん」と檜垣。
「今更、惚けるのはよせ。約束の殺しの報酬に5割の色をつけて、東雲の貨物捜査場に、10時までにもってこい。事あらば、俺はこの足でサツに行って、何もかもぶちまけるぜ!」
電話ボックスの坂田。
「わかった。東雲の操作場だな? もちろんだ。必ず自分で行く」。

 覆面パトカー。殿下と山さん、一部始終を聞いている。檜垣邸の門が空き、クルマが発進する。「東雲操作場か?」と山さん。追跡開始。無線連絡「こちら1号車・・・」。

捜査一係。ボス「よしわかった。行くぞ」とジーパン、長さんを連れて出動!

 夜の道を走る檜垣のクルマ。追う山さんたちの1号車。しばらく走っていると、山さんの心の声「おかしい、何かおかしい、坂田ほどほ男が、相手がまともに取引に応じると思うはずがない。危険なのは目に見えているはずだ・・・」気づいた山さん「殿下!ライトを上向きにしてくれ。いいから早く!」確認した山さん「停まれ!」。覆面車、急停車する。「山さん!」クルマを降りて「奴らをつけてくれ!俺は屋敷に引き返す」とタクシーに乗り、「青山へ行ってくれ」と檜垣邸へ戻る。

坂田、ゆっくりとした足取りで檜垣邸へ。

タクシー。「急げ!責任は俺が持つ」と山さん。

檜垣邸。檜垣、大きな欠伸をする。すると男の影が障子の向こうに見える。
「動くな!」
「さ、坂田!」
「そうだよ、俺だよ。まんまと一杯食わしたつもりだろうが、お生憎様だったな」
「何をしようってんだ」

坂田、拳銃を構えて・・・
「聞きてえのか?惚けやがって。俺はな、今夜、生まれて初めて、銭にならねえ仕事をするんだ!」
「待ってくれ、金ならいくらでも払う!」
「俺は、約束破る奴はでえ嫌いだ! まして、てめえの秘密を守るために、女まで平気で殺せるような奴は、尚更だい!」
「あ、あれは事故・・・」

「うるせえ! 檜垣、おめえはこれまで手を汚さずに、散々うめえ汁を吸って来たんだろう? だがな、今夜は貴様自身の血をたっぷり吸わしてやるよ」

 そこへお手伝いが来て「キャー!」
その隙に、檜垣が隣の部屋に逃げ出す。しかし坂田は襖越しに発砲! 絶叫して倒れる檜垣。太腿を撃たれたようだ。やっとの思いで廊下に這い出す檜垣を追い詰める坂田。「いい加減諦めな、俺から逃げられると思っているのか?」

「坂田!」山さんである。
「山村!」
「坂田、貴様を逮捕する」
「いいだろう。だが、その前に、こいつを始末する」
「よせ!」
と銃に手を掛ける山さん。
「おっと、それ以上手を動かすと、おめえから先に撃つぜ」
「坂田! お前の今度の夢は、殺人鬼になることか?」

睨み合う二人。ゆっくりと銃を抜く山さん。
「拳銃を捨てろ!」
ニヤリと笑う坂田。
「捨てろ!」
「・・・」

そこへボスが現れる。
「坂田、お前には山村の気持ちがわからんのか?」
「わかったところでどうなる? どけ!」

「た、助けてくれ」と山さんにすがる檜垣。
山さん、坂田に向けて銃を撃つ。ズキューン!

坂田、拳銃を手放し、ゆっくりとその場に崩れる。
「太陽にほえろ!のテーマ」スローバージョンがスネークイン。
山さん、坂田に近づく。坂田虫の息で・・・
「いい腕じゃねえか、強え男だよ、お前は・・・」
満足げにうなづいて、坂田、絶命する。
山さん、憐れみの表情・・・。

 捜査一係。みんなでお茶を飲んでいる。殿下「それじゃ、檜垣の起訴は決まったんですか?」。ボス「ああ、決まった。殺人教唆、収賄、脱税その他もろもろ・・・まあ、どう足掻いても有罪、免れんだろう」「天網恢々ですな」と長さん。「は?何がカイカイですか?」とジーパン。「なんだお前、そんなことも知らんのか?」と長さん。「天網恢々蘇にして漏らさず。悪の栄える試しなし、ってことだよ」「そう言う事だよ。ま、近頃の若いのは、学がないね」とゴリさん余裕たっぷり。「若い?じゃもう、ゴリさんも歳ってことかな?」とジーパンが揶揄う。「若くても知ってんだよ、そう言うことは!」とゴリさん。

 その輪に入らずに、ひとりデスクでタバコを吸っている山さん、立ち上がって「さあて、久しぶりにツモって来るか。ボス、何かあったら連絡ください」といつもの雀荘へ。

久美「山村さん、あんなことあったのに、ちっとも変わらない」
ボス「変わるわけないさ、山さんはいつものように、自分の仕事を、自分なりにやり遂げただけさ」とお茶を飲む。



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佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)の娯楽映画研究所

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娯楽映画のあれこれを綴ってまいります。近刊「クレイジー音楽大全 クレイジーキャッツ・サウンド・クロニクル」(シンコーミュージック)、「石原裕次郎 昭和太陽伝」「みんなの寅さんfrom 1969」(アルファベータブックス)、「寅さんのことば 生きてる?そら結構だ」(幻冬舎)