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太陽にほえろ! 1974・第91話「おれは刑事だ! 」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第91話「おれは刑事だ! 」(1974.4.12 脚本・小川英、中野顕彰 監督・児玉進)

永井久美(青木英美)
矢部進(伊東四朗)
高辻誠一郎(渥美国泰)
スリの源三(江幡高志)
洋子(黒沢のり子)
吉見夫人(本山可久子)
吉見(飯沼慧)
ヤクザ(畠山麦)
ヤクザ(仙波和之)
老婆(本間文子)
市川ひろし
渡部市松
田沢祐子
野村光絵
安田隆
星野富士雄
職安の職員(加藤茂雄NC)

予告篇のナレーション
「勝手に刑事を決め込んだ物好きな男、その日から石塚刑事が二人になった。本物刑事と偽物刑事。入り乱れて探索する高価なダイヤモンドの行方・・・目が覚めて昨日までの偽刑事に終止符を打つ。次回「おれは刑事だ!」ご期待ください」

 今回のゲストは伊東四朗さん。1960年代、空前のトリオ・ブームのなか「てんぷくトリオ」で一世を風靡。NHK大河ドラマ「天と地と」(1969年)の鉄上野介役などで俳優としても活躍。軽演劇で身につけたコミカルな芝居や、抜群のリアクションで、テレビのバラエティだけでなくドラマや映画でも活躍。前年「てんぷくトリオ」の戸塚睦夫が急逝。俳優として本格的に活躍を始めていた。今回は、刑事に憧れる元スリのお人好し。スリなのに人助けをするのが好きで、誰よりも正義漢。まるでコントの設定のようだが、そのキャラクターを「太陽にほえろ!」で最大限に活かしている。シリーズで最も「喜劇映画的」な展開となり、喜劇役者・伊東四朗さんが堪能できる。石原裕次郎さんと伊東四朗さんのツーショット、それだけで喜劇好き、裕次郎ファンにはたまらない。

 伊東さんはこの年の夏、『ルパン三世 念力珍作戦』(1974年8月3日・東宝・坪島孝)で銭形警部を演じることになるが、この映画、脚本が「太陽にほえろ!」のメインライターの一人、長野洋さんで、制作が「太陽〜」を撮影していた国際放映。おそらく、この「おれは刑事だ!」出演がきっかけとなったのだろう。『〜念力珍作戦』の坪島孝監督から「伊東さんが出た『太陽にほえろ!』が面白くってさ」と話を伺ったことがある。その坪島孝監督と筆者の対談映像がDVD『ルパン三世念力珍作戦』(東宝)に収録されている。

 商店街を犯人を追って、ゴリさんが走る、走る、走る。途中で老婆にぶつかるが、ゴリさん、犯人を追って住宅街へ。よろけたおばあさんに「大丈夫?」と声をかけて、親切に抱き起こしたのは、刑事風の出立ちの矢部進(伊東四朗)だった。

 ゴリさんは路地で、ひったくりの現行犯を逮捕して、駆けつけた警察官に身柄を引き渡す。「私は七曲署の石塚です」と警察手帳を見せるゴリさん。「あとはよろしく」と颯爽と去っていく。野次馬の中に、さっきの矢部進がいて「はあ、カッコいいもんだな」と惚れ惚れとしている。

 夜の商店街、矢部が歩きながら「私は七曲署の石塚です・・・いいなぁ」と独り言。そこへ「やめてください!」と女性の叫び声。チンピラ三人組が女の子をからかっている。「こら、予算か!」と矢部が止めに入る。チンピラ、矢部の胸ぐらを掴むが「私は七曲署の石塚だ!文句があるか!」と大声で怒鳴る。するとチンピラたち、慌てて逃げ去る。うまくいった。当の矢部がびっくりしている。洋子(黒沢のり子)「どうもありがとうございました」「なんだ、あいつら?」「わかりません。つけてきて揶揄うんで、逃げたら急に・・・」「全く近頃の若い奴らは・・・もっとも俺も若いけど」と頭をかく矢部。洋子、笑う。「良かった。夜道危ないから、家まで送っていくか?」「いえ、もうすぐそこのアパートですから、どうもありがとうございました。刑事さん」と去り際に「スナック・ヤング」のマッチを渡す。「私ここで働いているんです。今度遊びに来てください」。すっかり偽刑事に味をしめてしまう。

 洋子を演じた黒沢のり子さんは東宝テレビ部の「アテンションプリーズ」(1970〜1971年)の南啓子役、「ワン・ツウ・アタック!」(1971年)の芸者・菊千代役などで僕らの世代にはお馴染みだが、その前1960年代には黒沢妙子の名前で、東映『網走番外地 大雪原の対決』(1965年)などに出演。「太陽にほえろ!」には第3話「あの命を守れ!」(1972年)で犯人・練木二郎さんの恋人・尚子役で出演している。

 捜査第一係。久美が手紙を持って戻ってくる。「またまた来ました。ゴリさんへの礼状」「また?」驚くジーパンがその一通を読み上げる。

「前略、先日は地理不案内の東京で見物の相手をしていただき、本当にありがとうございました。え、差出人は長野県、一老婆より」
「こっちはね、お産の時にタクシーを拾ってもらいました」
と久美。
「昨日来たのは、買い物帰りの主婦の荷物運びでしたね」と殿下。
「まるで、小さな親切運動だな」とボス。

 そこへ長さんとゴリさんが出勤してくる。「あれあれあれ?なんですか、みなさん朝っぱらから額集めたり」とゴリさん。「また来てますよ」とジーパンに手紙を渡され、怒り心頭のゴリさん。「全く頭に来るな。一体どういうつもりなんだ?この偽物野郎!」「怒ることないじゃない、この人、いいことばかかりしているのよ」と久美。「ばかもん!刑事の名前を騙るいい人孕ってのはどこにいるんだよ!ね、ボス?」。

「ようし、ほっとくわけにはいかん。とっ捕まえてしょっぴいて来い!」とボス。「よしきた了解!」とジーパンを連れて早速出かけるゴリさん。

 街中を歩くゴリさんとジーパン。「ひょっとすると、あっちのゴリさんの方が人間ができてるかもしれませんね」と揶揄うジーパン。ゴリさん怒る。二人が揉めていると、横断歩道で困っている老婆(本間文子)がいる。ジーパン、黄色い旗を持って、老婆をエスコートして横断歩道を渡る。「まあまあ、ご親切に、先日もね、七曲署の石塚さんとおっしゃる刑事さんに手を引いて頂いたんですよ」。それを聞いたゴリさん、おばあさんの手を引いて渡ることに・・・。

 捜査第一係。ゴリさんとジーパン、報告するがボスは「なかなかやるじゃないか、その偽刑事」と大笑い。ゴリさん「ボス!」「ま、そう怒るな」。久美は「私その偽物さんのファンになっちゃった。一度会ってみたいな」「ああ、会わしてやるよ、俺が逮捕してきてな」とゴリさん。そこへ電話、山さんが出る。「隣の和泉署から抗議電話でしてね。石塚刑事が、和泉町で刑事活動をしているというんですがね」「ちょっと待ってください。僕じゃないんですよ。くそ!今日中にとっ捕まえてきてやる」。ゴリさん、鼻息荒く、出ていく。その姿にボスは「捻り潰しそうな勢いだな」とまた笑う。山さんもゴリさんを追って出ていく。

 京王バス。渋谷から室町行き。仲良く座っている矢部と洋子。二人はデートの帰りらしい。「でもあの映画の中の刑事さん、素敵だったわ。ハンサムだしね、スタイルもいいし、それに着ているもんだって素敵だったでしょう?」「そりゃまあそうですがね、現実は映画とはだいぶ違いますよ〜現実はなかなか厳しくってね〜」。ふと前を見ると、スリの源三(江幡高志)が隣の男性の財布を抜き取ろうとする瞬間を目撃。ちょうどバス停で、源三は逃げ出す。それを追う矢部、「え?降りるの?」と洋子も降りる。「やろう、待て!」源三を追いかける矢部。事情が飲み込めない洋子。「どうしたのよ!待って〜」。

 スリの源三を演じた江幡高志さんは、俳優座3期生で、同期に愛川欽也さん、穂積隆信さん、今回ゲスト出演の渥美国泰さんがいる。日活アクションでのチンピラや悪役、東映やくざ映画での脇役などでお馴染み。『続男はつらいよ』(1969年)で寅さんが無銭飲食をする焼肉屋の親父など、印象的な役が多い。「太陽にほえろ!」でも第56話「その灯を消すな」(1973年)でゴリさんに助けられる浮浪者から、第698話「淋しさの向こう側」(1986年)まで計10回、出演している。

 住宅街、源三、矢部に追い詰められる。「おい、いまスった財布を出せ!」矢部に掴みかかる源三。「おい、抵抗するか!俺は七曲署の石塚だ」「すいません旦那。財布は返しますから、見逃してやってください。もう二度と致しませんです」「二度と?嘘つけ、お前は箱師としても相当年季が入っているじゃないか!そう簡単に足が洗えるはずはないぞ!」「いいえ、私ももう歳です。今度捕まったら、もうシャバは拝めないんです。ね、旦那」「よし、行け!」と見逃す。人情刑事ぶりを発揮。偽刑事だけど。洋子「さすが!」と感心する。

源三。小田急線の線路脇から川の方へ。鉄橋の下でスった財布の中からダイヤを取り出して驚く。「こいつは滅多なことじゃ手放せねえぜ」とご満悦。

 交番。「七曲署の石塚です。そこのバス停に落ちていたもんで」と警察官に財布を渡す矢部。隣には嬉しそうな洋子。「わざわざどうも」と敬礼する警官。敬礼して満足げに洋子と腕を組んで立ち去る矢部。

 スナック・ヤング。ゴリさんと山さんがカウンターでコーヒーを飲んでいる。バーテン「けど、石塚さんて人もずいぶん変わってますね」「どう変わってる?」「やることなすこと、全てですよ。例えば看板になると必ずやってきましてね。うちの洋子ちゃんを送り届けてくれるんです」「そりゃいいことじゃないか、ボディガードになって」と感心する山さん。隣でゴリさん、腐っている。しかし、客の間では評判がよくない。この店の女の子は警察の監視つきだと。そこへ洋子が出勤してくる。「ほら、噂の人がきましたよ」とバーテン。「なあに?」「七曲署の刑事さんで石塚さんの同僚の方です」「山村です。いつも石塚がお世話になってます」。前回のダーティ刑事とは真逆の山さん。この状況を楽しんでいるよう。「で、今日もデートですか?」「ええ、でもちょっとだけですよ」。たまりかねてゴリさん「どこで別れたのかい!」と大声で、しかも声が裏返ってる(笑)「え?」「いやいや、捕まえて、ちょっと冷やかしてやろうと思いましてね」と山さん。

「確か、この近くでしたな、石塚くんの住まいは」
「知らないんですあたし、刑事は滅多に自分の家を教えないものだって」
「それはいい心がけですね」
「でも、この近くだと思いますよ、いつか2丁目の床屋さんに挨拶してましたよ」

 立ち上がろうとするゴリさんを、抑えて山さん「そうですか、なるほどねぇ、床屋ならそう遠くへは行きませんからね」「山さん!(大声)」「カリカリしなさんなよ。(洋子たちに怪しまれないように)いやね、捜査がうまく行かないので頭に来ちゃってるんですよ」と店を出ていく。ゴリさん、出ていく時も文句たらたら(笑)

 住宅街、たばこ屋の前を、気持ちよさそうに歌いながら歩いている矢部。口ずさんでいるのは三橋美智也さん、1955(昭和30)年の大ヒット「おんな船頭唄」(作詞・藤間哲郎 作曲・山口俊郎)。伊東四朗さんの十八番だろう。

 すれ違った主婦に「あら、石塚さん!」と声をかけられて「ヨッ!」と手を上げる。すっかり石塚刑事で通ってしまっている。「♪にくいあの夜の 旅の風〜」と歌っていると、クルマの陰から「七曲署の石塚さんだね」と二人のヤクザ(畠山麦、仙波和之)に羽交い締めにされ「逆らえば殺す」と凄まれる。「いや、実は、僕はそのう・・・」「黙ってついて来てもらおうか?」「聞きてえことがあるんだよ」とクルマに拉致される。しかし、火事場の馬鹿力、必死の矢部は抵抗して、クルマから飛び出て、そばにあった蕎麦屋のスーパーカブに跨り逃げ出す。そこへ出前持ちが出てきて、ヤクザと一緒に、矢部を追いかける。今回は、どこまでも喜劇映画のノリ。アクションというより、スラップスティックな場面が続く。

 いいところで、スーパーカブが転倒。よろけるも、矢部、必死になって走り出す。「待ちやがれ!」追いかけてくるヤクザ。路地に逃げ込み、ゴミ箱の影に隠れ、やり過ごす矢部。怖くてたまらない。

 前回同様、サングラスをかけた山さんと、偽物を探して必死のゴリさんが、矢部のアパート「ゆたか荘」にやってくる。「ああ、ここが石塚刑事殿のお住まいか」ゴリさんは張り切って二階へ。矢部の部屋に踏み込むが、部屋はインスタントラーメンと、発売されて間もないカップヌードルが散乱。万年床が敷いてあり、男やもめの独居の詫びしさが漂う。そこへ、命からがらという感じで矢部が帰ってくる。ゴリさんと山さんと鉢合わせをして、びっくりして絶叫!逃げ出すが、すぐにゴリさんに捕まってしまう。「矢部!矢部進だな!」「そうだよ、俺は矢部進だよ、刑事なんかじゃないよ」ゴリさんの顔を見て「アッ! 石塚さん!俺はね、今、あんたの身代わりですんでのところで殺されるところだったんだよ。助けてくださいよ!」「ちょっと」「そりゃ、あんたの名前を騙ったかもしれないけどさ、あんたの身代わりで殺される筋合い、何にもねえもんな」「おい、ちょっと待てよ!」事情が呑み込めないゴリさん。

取調室。ゴリさんが矢部に話を聞いている。
「一体、どういうつもりなんだ? 命を狙われた、なんて、デタラメ言うんじゃないよ!」
「デタラメじゃありませんよ!嘘だと思うんなら、調べたらいいんだ!」
負けじと大声をあげる矢部。
「生意気な口を聞くな!」さらに大声で怒鳴るゴリさん。
「お前のおかげで、俺は一体どれだけ迷惑していると思ってるんだ?」
「嘘じゃありませんよ、俺は何も悪いことをしてないんですから」
「ああ、お前、失業中だって言ったな?」
「はい」
「じゃ、どうやって一体、暮らしを立てているんだ? 働くこともしないで、人助けの金は一体、どこから出てるんだ?」

口ごもる矢部。「はっきりいえ!」とゴリさん。
「失業保険ですよ!」
「いくら貰ってんだ?」
「月40000ちょっとですよ。」
「あのな、そんだけの金で、アパート代払って、デートをして、刑事の真似をして、人助けをして、それでやってきたというのか?」
「そうです。朝から晩まで、インスタントラーメン食いながらね」

 捜査第一係。山さん、ボスに報告する。「ほう、すると刑事の名を騙ったのも、その方が人助けがしやすいからってことか?」とボス、また感心している。「ええ、今時珍しい話ですが、どうもそうとしか思えないんですよ。当のゴリさんが腹を立てるのも無理はありませんがね」と山さん。そこへジーパンが「ボス!とんでもない食わせ者ですよ、あの偽刑事」と入ってくる。念の為、警察庁のデータを照会したところ、矢部進32歳、前科二犯のプロのスリであることが判明。7年前に城西刑務所を出所している。

「何?スリ?」驚くボス。山さん、手のひらを口元にあてる、例のポーズ!「こりゃいっぱい、食わされましたかな?」。どこまでも喜劇映画の呼吸。

取調室。西日が差している。
「ええ、そうですよ、俺はスリですよ! しかし、2年ムショに入って出て来てからは、一度もスったことないですよ。本当ですよ。」
「・・・」ジーパン、ゴリさん、山さん、ボス、ノーリアクション。
「ダメですか、信じちゃくれないんすか? ちょっと刑事さん、係長さん、俺嘘ついちゃいないんだ、何にも悪いことしてないんだもん!スリだって好きでなったわけじゃないんだ。子供の頃から親父に叩き込まれて・・・いや、それも必死になって足を洗ったんだ、いくら金がなくても、歯食いしばって・・・」
「おい! あまりカッコいいこと言うなよ、お前が本当に足を洗ったとしたら、それはいつもヘマばかりやるからじゃないのか?」とジーパン。
「ええ、確かにそれもあります。ホント、俺、下手なんだよな、いや、スリだけに限らず、何やってもダメなんだ。七年間働いていた板金工場も、ヘマ続きで、とうとう、ついこの間、クビになっちまったし・・・。そうなんです、俺がやったことで一番うまく行ったのが、石塚さんの真似だけなんで・・・」

「ふざけるな! 迷惑だよ、俺は!」ゴリさん、ヒートアップ!
「落ち着けよ」とボスが宥める。
そこへ殿下が入ってきて「その男が狙われたのは本当です。ラーメン屋の店員、そのほか、目撃者が何人もいます。」
ボス、落ち着いた声で「とりあえず、君の話は信用することにして、何よりもまず、そっちの犯人を突き止めることだ。で、協力してもらえるかね?」
「ええ、それはもう」

ゴリさん、面白くなさそう。

 捜査第一係。ゴリさん、容疑者カードの束を矢部の前に置いて「こんなかから探し出すんだ」。カードを一枚ずつ眺める矢部。「ほう、こんなにたくさんいるんですか?石塚さんを恨んでいる奴?」「ぶつぶつ言うな、探すんだ!」「はい」。時間経過、かなりの容疑者カードが、机いっぱいに広がっている。しかし矢部を襲った男の手がかりはまだない。いい加減くたびれてあくびをする矢部。「あの、13日は明日でしたね?」「そうだ。その13日がどうした?」「言った方がいいかな?」「もぞもぞ言わないでハッキリ!」イライラしているゴリさん。

「なあ矢部、俺が腹を立てているのはな、スリのお前が俺の名前を騙ったからじゃないんだよ。お前は刑事の真似をして、人に感謝されて、いい気持ちになっているだろうけどな。本当の刑事は、俺たちはな、全然違うんだよ、苦労ばかり多くて、人から嫌われて、憎まれて・・・そこんところが、なんちゅうか、俺にとっちゃ、無性に腹が立つんだよ。わかるか?」
「はい、わかります」
「続けよう」
とゴリさん。

 カードを捲る矢部。気がついたら朝方になっている。ゴリさんも矢部も疲れて眠っている。矢部が目を覚ましても、ゴリさん、爆睡中。そっと部屋を出て行こうとする矢部をゴリさん「コラ!」と怒鳴る。

 捜査第一係。久美がデスクを拭いていると、矢部が入ってきてビックリ。追いかけてくるゴリさん。矢部は「ひょっとして今日も返してもらえなかったら、大変なことになると思ってつい」「今日?」とゴリさんの声が裏返る。「正確に言うと、今日の3時までに、あるところに行きたいんですよ」「何?」「全部いっちゃいますとですね。今日の3時までに職安に行かないと、失業保険がパーになっちゃうんです! 今月分だけじゃないんですよ。決められた時間通りに取りに行かないと、失業してないとみなされまして、もらえるはずのあと4ヶ月分、全部パーになっちゃうんですよ」「勝手なこと言うんじゃないよ」「お前はまだ釈放されたわけじゃないんだから」。

 久美が「ね、誰か他の人に行ってもらったら?」「それがその、本人でないとダメなんですよ」「そう」「久美ちゃん、よしなよしな、下手な同情すると、また騙されるんだから」「騙すなんてそんな」「だって、騙したじゃないか! 一番最初に俺の名前を騙ったろ?」「ですから悪意はないんですから」「それから我々にスリの前科を隠していた。それに逃げ出そうとしていただろう?」「今説明して・・・」「いい加減にしろ! みんな正直に話したのか? まだなんか隠してることあるだろう?」ゴリさん怒りすぎ。久美が止めに入るが、ゴリさん大声を出す「え?」。恐れをなした矢部「実はその、昨日、スリをひとり捕まえました」「はは、スリはお前じゃないか!」「そうです。ですが違いまして。その、石塚刑事としてスリを捕まえたんです。ですが、そのスリを逃がしちまったもんで、それを話すとまた叱られるかな、と思って・・・」「当たり前だよ!お前、調子に乗るのもいい加減にしてくれよ、どこで捕まえたの?」頭を掻きむしるゴリさん。

「渋谷から室町行きのバスの中で、確か、松宮のあたりでした」と矢部。
「なんだと?」ボスが出勤してくる。「そのスリが擦ったものは?」
「財布でした。黒い革の」
「その財布、どこへやった?」
「交番に届けましたが、松宮の」

 ボス電話で問い合わせる。スラれたのは、ダイヤモンド入りの財布で、矢部が届け出たものと、財布の作りも一致しないと、交番の警官がボスに話す。「ゴリ、石塚刑事を狙った奴は、何か割り出しができたか?」「それがダメなんですよ。まるで」とゴリさん。「それとどういう関係があるかわからんが、これ読んでみろ」と新聞を差し出すボス。

「八千万円のダイヤ盗まれる バスの中で宝石デザイナー 蒼ざめる持ち主・・・」の見出し。

 吉見宝石デザイナー事務所。吉見(飯沼慧)が横になって、頭を抱えている。「あなた、あなた刑事さんよ」と吉見夫人(本山可久子)が起こしにやってくる。吉見を演じている飯沼慧さんは、文学座のベテランで「新撰組血風録」(1965年)「燃えよ剣」(1970年)では、新見錦を演じていた。夫人役の本山可久子さんも文学座の俳優で、「レインボーマン」(1972年)の母親役、「太陽にほえろ!」でも第16話「15年目の疑惑」(1972年)から第715話「山さんからの伝言」(1986年)、計8回ゲスト出演している。

 ゴリさん、山さん、矢部の三人である。吉見の顔を見て、矢部は「この人です。バスの中で財布をスられたあの人に、間違いないです」と証言する。「派出所に届けてあったのは、本当にあなたのものではなかったんですね」と山さん。「ええ、外見はちょっと似ていますが、中身は全然・・・」と吉見。「すると・・・」ゴリさん。「バスに乗っていたスリだ」と山さん。「え!それじゃ?」と矢部。「ああ、奴は似たような黒い財布をもう一つ持っていた。別の客からスったのか、あるいは自分自身のものかもしれんな、咄嗟にそれでお前を騙したってわけだ」とゴリさん。

「ちっくしょう!あのジジイ、きったねえことを・・・(吉見に)すいません、あの時俺がもう少ししっかりしていれば」と謝る矢部。「大丈夫ですか、しっかりしてください。ダイヤはきっと返ってきますから、ね刑事さん」とゴリさんの顔を見る。「それで、何か手がかりでも?」と吉見。そこにピンポン、チャイムが鳴る。

「吉見さん!」の声。吉見も夫人も挙動不審。「何度も電話をかけても出ないもんでねぇ。心配でやってきたんです」「申し訳ありません、どうぞ」と男を招き入れる。高辻誠一郎(渥美国泰)である。ゴリさんたちが刑事と知って「一日も早く犯人を挙げてもらえなければ」「あなたが?」「ええ、私がダイヤの持ち主、高辻です」とゴリさんに答える。「そう、高辻誠一郎さん、確か、建設会社とナイトクラブを一つ、お持ちでしたな」と山さん。

「あなたは?」
「お忘れですかな、ほれ、例の政財界を揺るがした、大きな詐欺事件、あの時、あなたを調べさせて頂いた、七曲署の山村ですが」
「そんなことありましたっけ?」

 吉見の横に座った高辻は「私に入ってくる保険金は五千万だ。そこで差額の三千万円は、あなたに支払って頂かんとな」「三千万!」「保険会社もあなたに、五千万円を請求してくるだろうし、あんたも大変だろうが、責任はとってもらわんとな」何か裏がありそうだ。ゴリさんと山さん。矢部は「ちっくしょう、あの箱師の野郎!」

 この憎々しげな高辻を演じた渥美国泰さんは、スリの源三役の江幡高志さんとは、俳優座養成所3期生で同期。劇団新人会の設立に参加、その後、昭和40(1965)年に劇団雲に入団。舞台、映画に活躍していた。東宝ニューアクションの『野獣都市』(1970年・福田純)『野獣狩り』(1973年・須川栄三)、『野獣死すべし復讐のメカニック』(1974年・須川栄三)に出演。「太陽にほえろ!」ではゴリさん篇の第56話「その灯を消すな」(1973年)の悪徳企業家、第73話「真夜中に愛の歌を」(1973年)の盗作・作曲家など、悪役が多い。第672話「再会の時」(1985年)まで計11回出演している。

 アパートの自室でスリの源三(江幡高志)が縛られている。矢部を襲った二人のヤクザ(畠山麦、仙波和之)が源三を監禁している。「消えたダイヤ。交番に届けてあった、謎の財布か・・・」「おい、食いてえんだろ?もう1日半、何も食ってねえじゃねえか」「いい加減に強情を張るのはやめて食ったらどうなんだい?」。ちゃぶ台の上には店屋物の鰻重。源三は「嘘じゃないんですよ。あの財布はダイヤごと、あの男に取られたって、言ってるんじゃないですか!」「そうかい、俺は食うぜ」と鰻重を食べ始めるヤクザ(畠山麦)。隙をみて、源三が逃げ出そうとするがヤクザ(仙波和之)に倒されて、「てめえ逃げんのかよ!」と、二人にボコボコにされる。「すいません、言いますから勘弁してください。言いますよ」と源三、観念してしまう。

 捜査第一係。長さんが机にスリの容疑者の写真を並べて、矢部に確認させている。「あ、こいつです」と一枚の写真をピックアップする。「源三じゃないか。なるほど、こいつなら財布をすり替えることぐらいお手のもんだ」と長さん。

 ヤクザ(畠山麦)が受話器の向こうに「そうか、あったか?」「遊園地のベンチの下に埋めてあったぜ」とダイヤを手にしてご満悦のヤクザ(仙波和之)。「あとはわかってんな」「ああ、わかってる」電話を切って、源三をナイフで刺す。ひどい男だ!

 長さんの覆面パトカーが、源三の住処の近くに停まる。ちょうどその時ヤクザ(畠山麦)が走って逃げ去る。アパート、源三の部屋のドアが全開。長さんが2階に駆け上がる。無惨な源三の遺体。

 捜査第一係。「源三を殺した容疑者の二人組は、矢部君を襲った二人組と同一人物と思われますが」と長さんの報告。ボス「残念ながら、一足遅かったな。連中が源三を殺したってことは、すでにダイヤが連中に渡ったってことだな」。連中は石塚刑事がダイヤを持っていると信じていたから、偽物の矢部を襲った。その時点では、二人は源三に騙されていたとボスが推理。大正解! 捜査会議を横で見ていた矢部、惚れ惚れとした表情で「ああ、すごいな、さすがプロだな。どんどん謎が解けていきますもんね」と久美に話しかける。

「ちょっと待ってください」と殿下。「ではなぜ、その二人がダイヤのことを知っていたんですかね?」
「それがこの事件のポイントだ。つまり、あの二人の背後でダイヤの在処を知っている奴が、糸を引いていたってことだ。目下の調査から判断して、吉見さんの財布の中にダイヤがあることを知っていたのはただ一人、当のダイヤの持ち主だ」
とボス。
「高辻誠一郎・・・しかし、まさか持ち主が自分で・・・」と言いかけてゴリさん気づく。「そうか、保険金か!それに吉見さんからも損害賠償金も取ろうってわけだ」
「汚い野郎だな」とジーパン。感心する矢部。
「これはあくまでも推理だ。ただし、それを裏付ける資料がある」とボス。

「数年前のことだが、高辻は同業者にかなり悪質な脅しをかけたことがある。その時浮かんだのが、風体人相共に、問題の二人とぴったりだ」と山さん。「それにもう一つ、高辻の経営している高級ナイトクラブは、このとこと左前でな、やってることが派手な割には内情は火の車だ」と長さん。

 犯人は高辻だ。しかし現状では何一つ証拠がない。長期戦になりそうだ。と捜査一係の面々。「絶対的な確証がない限り、逆捩を食わされる恐れがある」とボス。そこに矢部が割って入る。「ちょっと、長期戦はないでしょう?それじゃ罠にハマった吉見さん夫婦は、一体どうなるんでしょう?」ゴリさんが制止するが、矢部は続ける。「俺は、俺はね刑事さん。忘れられないんですよ。あの吉見さんが、損害賠償八千万と聞いた時の、本当に悲しそうな顔。ね、なんとかしてあげてくださいよ。今すぐなんとかしてあげてくださいよ」と懇願する。

「しかしな、我々の仕事は犯人を逮捕することにあるんだ」とジーパン。
「違う、それは刑事なんかじゃない!」必死の矢部。
ボスはじっと、矢部の顔を見つめる。
「犯人なんかより、まず困ってる人を助けたらどうなんです?それが警察の仕事じゃないんですか?人を助けるのが刑事の商売じゃないんですか?」矢部は続ける。山さん、矢部の顔を見ている。ゴリさん、ジーパンも深く考えている。矢部の熱意に、心動かされているのだ。長さん、殿下も、我が身を振り返っているようだ。

ボスが口を開く。「確かに君のいう通りだ。それが刑事の仕事だ。だがな、現実には高辻を逮捕しない限り、我々の手で吉見さんを救うことができないんだ。それが俺たちの限界だ」

たまらずに出て行こうとする矢部。「おい、どこへ行くんだ?」とゴリさん。
「だから、あの高辻の奴をつけ回して、もう一度、ダイヤモンドをスリとってやるんですよ!」
「バカなこと言うんじゃないよ。お前さん、スリから足を洗ったんじゃないのか?」
「それじゃ、他にどんな手があるんですか? あいつが盗まれたはずのダイヤモンドを持っていたら、それだけで逮捕できるんでしょう?そうなんでしょう?」

「いや、それは・・・」
「ねぇ、石塚さん!」

「君がまたスリを働いたら、理由はともあれ、我々は君を逮捕しなくちゃならないんだ。それでもいいのか?」とボス。
うなづく矢部。
「もしかすると、これは全て無駄骨になるかもわからん。ダイヤも取り戻せず、君はまた何年か、刑務所暮らしをする羽目になるかもしれんぞ? それでもいいのか?」
矢部は迷わず「はい!」。
ボス、矢部の肩に手をかけて、みんなに言う。
「俺はこの偽刑事とやるつもりだが、異論がある奴はいるか?」

 新宿・歌舞伎町クラブリー。高辻の経営する高級クラブ(の設定)である。ここは渡辺プロ所属のスマイリー小原とスカイライナーズが専属バンドとして連日出演、ハナ肇とクレイジーキャッツやザ・ピーナッツも出演。『ニッポン無責任時代』(1962年)の脚本家・田波靖男さんが、初めて打ち合わせしたのが、ここのクレイジーキャッツ・ショーの合間、渡辺プロ社長・渡辺晋さんが青島幸男さんを、田波さんに紹介。その出会いがやがて傑作を生み出すことになった。そのクラブリーに殿下と長さんの覆面車が到着。店の脇にはゴリさんと山さんの覆面車も横付けする。

 もう一台の覆面車には、ボス、矢部が乗っている。ジーパンは「こんなことをしてうまくいくのかな?」「ああ?」「ボスのいうことに逆らうわけじゃないですけどね、高辻がいつもダイヤを持っているとは限らないでしょ。だとしたら、こんな張り込み、いくら続けても・・・」「うん、だがな、ごく親しい知人から、警察が近々高辻を逮捕に踏み切る。その前に強硬に家宅捜索も強行すると聞かされたら、奴はどうするかなぁ」とボス。ジーパン思わず「汚ねえな」「なんだ?」とボス。矢部の熱意に絆されてのボスの強行作戦である。

 クラブリーの店内から、高辻が出てきてタクシーを捕まえる。周囲を窺いながら車内へ。ジーパンに発進の指示を出すボス。捜査一係の全員で、高辻の尾行開始!感づかれないように、三台がうまく連携してタクシーをつける。歌舞伎町から大ガードの方へ抜ける。新宿どおりにはまだ「アサノセメント」などがあった。人々が暮らしている息吹を感じる。やがてタクシーは新宿駅西口地下ロータリーへ。高辻、タクシーを降りて歩き出す。

 ボスたちもクルマを降りる。矢部に指示を出すボス。「いいか、改札へ入るまでが勝負だぞ」「はい」「しっかり、ってのはへんだけど、ま、しっかりな」とジーパン。矢部、サングラスをかけて高辻を追って、新宿駅へ。長さん、殿下も矢部を追う。ゴリさんは地上にクルマを停めて、山さんと共に駅へ入る。

 何も知らない高辻、歩いている。その後にピッタリと張り付いている矢部。ハンドカメラで撮影しているので、当時の空気が伝わってくる。エスカレーターを昇る高辻。高辻に続こうとするジーパンを「上には山さんたちが張っている」と静止するボス。「奴は必ず降りてくる」。殿下と長さんも西口地下広場にいる。エスカレーターの高辻。その後ろには矢部。新宿駅地上改札口前に、ゴリさんと山さんが張り込んでいると、高辻が現れる。距離を測りながら立ち止まる矢部、指を回してウォーミングアップ。スリの面目躍如とばかりに。

 切符売り場の行列に並ぶ高辻。財布を取り出したところをみはからって、矢部が近づくが、なかなかうまくいかない。ゴリさん、動こうとするが、山さんに制止される。切符を購入して歩き出した高辻の先に回った矢部。今度はエスカレーターの前に立つ。山さんに促され、階段から降りるゴリさんたち。エスカレーターの矢部、その後ろの高辻。果たしてうまくいくのか?西口広場に出た高辻、必死に矢部に殿下と長さんが「頑張れよ」と声をかける。今度は、高辻の右前方から近づく矢部。しかし、目の前に小さな子供がいて失敗! 思わず残念がるボス。スリが失敗して捜査係長ががっかりするおかしさ。高辻はどんどん歩いていく。まもなく改札口だ。高辻の目の前を、梱包した冷蔵庫が台車で運ばれて、ぶつかりそうになる。大事そうにアタッシェケースを抱える高辻。どうやらダイヤはアタッシェケースに入っているようだ。

 改札口の前、時刻表を見上げて、腕時計で時間を確かめる高辻。ボスとジーパン、殿下と長さん、ゴリさんがゆっくり近づいていく。矢部は小走りで高辻に近づいて「くそ、こうなったら、やぶれかぶれだ」。そこへ山さんが来て「アタッシェケース」と一言、立ち去る。「アタッシェケースだ!」走り出す矢部。改札の前で、矢部の腕をつかんで、アタッシェケースを奪う。「何をするんだ! おい待て、泥棒!」と叫ぶ高辻。ボス、ジーパン、長さん、殿下、ゴリさんが走る。「おい、その男を捕まえてくれ!』高辻の叫び声。「おい待て!」西口地下広場で、ジーパンたち、段取り通りに、矢部を取り押さえる。

ボス(矢部に)ひったくりの現行犯で逮捕する!」
高辻「あ、これはどうも、どうも」
ゴリさん「ちょっと待ってください。これがあなたのものであるかどうか、確認のために一応、中を調べさせてもらいますよ。高辻さん」
ギョッとなる高辻。

 ボス、やったな、という笑顔で矢部をみる。矢部、安堵の表情。こういう時の裕次郎さんの笑顔、本当にいいね。殿下と山さんに囲まれて任意同行する高辻、覆面車で七曲署へ。クルマに乗ろうとする山さんに、遠くから「いや、どうも、どうも!」と手を振る矢部。山さん、サングラスを下げて笑顔で挨拶。このショットもなかなか良い。役に立つことができて、満足気な矢部、クルマに乗ろうとすると、ゴリさん「おい、ちょっと待った! 今何時だ? 職安は3時までだったな」「2時半です」と矢部。「まだ間に合いますよ、ゴリさん」「よし!」。ゴリさん「ボス、お先に!」とクルマを発進させる。「おいおい!」ボス、置いてきぼりに。殿下のクルマが停まって「ボス、やられましたね」「ああ」でも嬉しそうなボス。「行こう!」と署に向かう。

 職安に向かうゴリさんの覆面パトカー。後ろには淀橋のガスタンクが見える。時計は3時5分前。なんとか職安に到着したが・・・すでに3時のベルがなる。「お願いします」とゴリさん。係員「ダメですね、締め切り時間を過ぎたら受け付けないと、ちゃんと書いてあるでしょう?」。ゴリさんとジーパン、必死に職員たちに「お願いします」と懇願するが、無視されてしまう。「あんたタバコ吸ってないでさ」とジーパン。しかし誰も彼も仕舞い支度をしている。典型的な公務員たち。「あのすいません」「おしまいです」と非情な職員(加藤茂雄)に警察手帳を見せるジーパン。「あの男はね、我々に協力したおかげでこうやって遅れてしまったんですよ。お願いしますよ」「規則は規則ですよ。例外は認めるわけにはいかんですよ」「あんたねえ、たった1、2分のことで、タバコ吸って・・・」「規則ですよ」

「何言ってるんですか?何が規則ですか!」怒鳴るゴリさん。「あの人が警察の協力したってのは事実なんですよ!あんな人は滅多にない。善意の塊みたいな人なんですよ!規則規則ってね、それは俺たちだって、規則規則って言いますよ、しかし、あの人は言ったんだよ、俺たち警察や、あんた方は、人を助けるのが仕事じゃないんですか!規則規則って、そんな規則なんてのはね・・・」ゴリさん、心からの熱弁をふるう。

「ゴリさん、良いんです。もう良いんですよ。ゴリさんがそう言ってくれただけで、俺はもう十分だ」嬉しそうな矢部。

 捜査第一係。お疲れ様の乾杯。日本酒をみんなで飲んでいる。「どうもご苦労様」とボス。「ところでボス、署長は矢部くんのことを何か?」と山さん。「ああ、言われる前にこっちから先に言っといた。今回の矢部くんの行為は、窃盗であってスリじゃない。したがって初犯だ」。一同歓声をあげる。「しかも、あそこで盗んでなければ、高辻に逃げられたかもしれない、善悪差し引いてまだ、お釣りがくるんじゃないですか?」にっこり笑うボス。

「よってだ、説諭の上、放免、って奴だ」。一同、大喜び。その時、ドアが開いて、真っ黄色のツーピースでおめかしした洋子が笑顔で入ってくる。「俺が呼んだんだよ」とボス。「今回のことは全部話しておいた。ま、二人でゆっくり話し合うだな」「はい!そうします」と満足気な矢部。洋子の明るい笑顔。「とにかく、頑張ってみます!」照れながら、洋子と二人で部屋を出ていく。

「おい、ゴリ、偽刑事でもちゃんと彼女がいるんだ、しっかりしろよ」とボス。


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