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田宮二郎as鴨井大介・大映「犬」シリーズ大全

大映現代劇アクションといえば、やはり田宮二郎「犬」シリーズに尽きる。東京オリンピック直前の1964(昭和39)年から、エレキブーム、GSブーム到来の1967(昭和42)年の大阪、東京を舞台に、拳銃が三度の飯よりも好きなガンマニア・鴨井大介の胸のすく活躍を描いたアクション・コメディ。全作のシナリオを直木賞作家となる藤本義一が手がけ「悪名」シリーズで培った、良い意味での田宮二郎のコミカルな軽さに、モダンな感覚を取り入れて大人気シリーズとなった。


1964.05.02 宿無し犬 田中徳三

『宿無し犬』(1964年・大映京都・田中徳三)。口八丁手八丁、どこまでも軽いフリーランスのヤクザ・鴨井大介を田宮二郎がイキイキと演じているのがイイ。「悪名」シリーズの清次のキャラをさらに現代的にして、朝吉的な人情も加味。藤本義一の脚本は、勢いと歯切れの良いセリフが楽しめるが展開がちょっと粗い。

亡母の墓所が、神戸のヤクザ・須賀不二男一味によってゴルフ場になって、怒り心頭の鴨井大介。敵対の親分・佐々木孝丸にスカウトされ、水島道太郎の食客に。佐々木たちは、組織の経営するキャバレーやホテルに放火しては保険金を得る詐欺で儲けていて、天知茂の刑事が捜査中。天知は大介に協力要請。

天知茂の木村刑事が、むさ苦しく執拗だけど、どこか憎めず、田宮二郎の鴨井大介と名コンビとなっていく。うどん屋のシーンのやりとりが実にイイ。無一文の大介にご馳走するといいながら、捜査協力を拒むと、代金払わず無銭飲食でしょっ引くと脅す。セコイなぁ(笑)

いわばルパンと銭形警部的な腐れ縁。というか、このバディ感覚がルパンに受け継がれたのかも? ヒロインの江波杏子は、須賀不二男の組の五味龍太郎の恋人(という設定)で、大介が惚れ抜くも…

空前のガンブームを反映して、ガンマニアの大介のガンアクションが、シリーズの売りとなる。拳銃使いとしては上手の水島道太郎との対決がクライマックス。とはいえ、須賀不二男が悪い奴(いつも、どの会社の映画でも^_^)なので、対決に乗じて銃撃戦に。西部劇の集団戦のような闘いが楽しい。

展開が粗っぽいので、脚本がもう一捻りあればイイと思いつつ、江波杏子のヒロインの心的変化がもう少し具体的だとなぁとも。坂本スミ子が連れ込み宿の仲居からパンパンになる現代っ娘。木賃宿の風太郎・西川ヒノデはさすがのおかしさ。2本目の映画出演なのに成田三樹夫はすでに貫禄と存在感がある。

1964.09.17 喧嘩犬 村山三男

第二作『喧嘩犬』(1964年・村山三男)。鴨井大介(田宮二郎)が塀の中に入っているところから始まる。前作の続きで、藤本義一脚本は快調。大介のトッポイ・キャラが生き生きとしていていい。出所そうそう成田三樹夫が、親分・遠藤辰雄の指示で大介を迎えにくるも、フリーランスの矜持で断る。

いきなり成田を殴り倒すのが痛快。大介はムショ仲間の海野かつを(奥様とってもワイド、ね)と白タクをはじめ、ナイトクラブのホステス・浜田ゆう子に一目惚れ。しかし、彼女は遠藤辰雄の愛人で、昼は銀行員。今回は鴨井大介のガンマニアぶり、華麗なるガンさばきをフィーチャーして、テンポも良い。

で、成田三樹夫は遠藤辰雄を裏切っていて、工事現場の人夫たちをライバルの組の現場に横流ししていて利鞘を稼いでいる悪党。大介は拳銃欲しさに、遠藤辰雄の会社の現場監督を任されるも、海野かつをが殺されてしまい、怒り心頭。さらには惚れた浜田ゆう子のために一人で組織の連中を懲らしめることに。

田宮二郎のセリフの端切れの良さ、キビキビした身のこなし。徹底的に軽くて、爽快さすらある。同時期の植木等の無責任男はドライだったが、鴨井大介は情にもろくてホットな男。二作目で水を得た魚のような田宮二郎を眺めているだけでも楽しい。

坂本スミ子は、今回も気のいい娼婦の役で、海野かつをの女房。夫が殺されたことも知らずに、帰ってこない亭主を待ち侘びながら「メロンの気持ち」の替え歌を歌うシーンの哀切。大介でなくともほろりとする。この辺り、藤本義一のうまいところ。彼女の切なさと儚さ。

遠藤辰雄の命で大介に近づいてきた浜田ゆう子が、次第に大介に惚れていく感じも良い。大映女優はこうした内面の変化を表現するのが総じてうまい。前作の天知茂の役回りは、山下洵一郎の新聞記者。暴力団の蛸部屋労働を取材するために潜入してくるも、大介とは相棒の関係となり、ラストの別れが良い。

コメディ・リリーフ的な玉川良一のテキトーな感じがおかしい。ムショでは兄貴、兄貴と慕いながら、シャバに出ると成田三樹夫の子分になってデカイ顔をしている。ハジキが欲しい大介のためにイカサマ賭博を手引きするシークエンスは、パターン通りだが楽しい。

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1965.01.13 ごろつき犬 村野鉄太郎

シリーズ第三作にして初のカラー作『ごろつき犬』(1965年・村野鉄太郎)。藤本義一脚本も、田宮二郎も快調で、フリーランスのガンファイター・鴨井大介のキャラはますます魅力的に。タイトルバックは「平凡パンチ」の表紙の大橋歩。ポップでオシャレなイラストが、カラー化を祝福。

前作の最後で関西を後にした大介は、バイクで和歌山への逃亡ツーリング中。美女・久保菜穂子に見惚れてバイクは崖下に落下炎上。ならばと久保に誘われて串本温泉へ。ホテルの仲居・坂本スミ子に惚れられるルーティーン。未亡人・久保から夫の仇を打って欲しいと頼まれた大介は大阪へ。例によって成田三樹夫の悪党も登場。

大介が成田にガンプレイをアピールするシーンがいい。成田が食べていたリンゴの芯を打ち抜き「タネも取っておいた」。次に三個のリンゴにマッチを差して一発の弾丸で着火して、次に全てを吹き飛ばす。今回はダイステクニックも(同ポジだけど)を披露するし、ますますゲーム性が高まっていて、楽しい。

敵のボスの正体が不明なまま、組員・山下洵一郎の恋人・江波杏子に一目惚れした大介は、江波の養父・中田ラケットの通夜を出してやるお人好しぶりを発揮。今回のコメディ枠として中田ダイマルも気のいいおっさんの役で登場。果たして敵のボスは誰なのか? というミステリー・タッチの展開。

第一作以来の、天知茂のしょぼくれ刑事・木村も再登場。例によって「ご馳走してやる」とうどん屋へ。しかも注文したのは「うどん抜きの汁」のみ(笑)大介の拳銃不法所持を黙認する代わりに捜査協力を依頼。というルーティーンが楽しい。

そしてクライマックスは宿敵・根上淳との対決へ。華麗なるガンプレイが売りになっているので、あの手この手の創意工夫。スマートさを目指している感じがイイ。今回もまたヒロインとは「愛しながらの別れ」もあり。天知茂の木村刑事とのバディ感覚はますます濃密に。これがシリーズ映画の楽しいところ。

大橋歩デザインのタイトル

1965.03.06 暴れ犬 森一生

田宮二郎のシリーズ第四作「暴れ犬」(1965年)。ますます快調。藤本義一脚本は、プロットの面白さよりも、鴨井大介(田宮)に絡むドヤのドケチ女将(ミヤコ蝶々)、大介の子分のスリ(芦屋小雁)たちとの会話の妙。関西弁のやり取りのおかしさは、同時代の「てなもんや三度笠」同様、全国の観客に「大阪」を体感させてくれた。

レギュラーで毎回キャラが違う坂本スミ子は、ストリップ劇場のモギリからナイトクラブの歌手を目指している女の子。ドヤ住まいの大介に「保証人」を頼むのがおかしい。結局、歌手では採用されずにホステスへ。高級ナイトクラブだからと上品な言葉で話そうとするのだがコトバを拗らして、大介に突っ込まれるのがおかしい。こうしたやり取りが本作の魅力。

ガンマニアの大介らしいガンプレイも楽しめる。芦屋小雁にコインを持たせての曲撃ち、元刑事の用心棒・高木二朗と、カウンターに並べたビールの早撃ち勝負などなど。今回のヒロインは、まだあどけない金井克子。

西野バレエ団で売り出し中の金井克子のダンスをフィーチャーするために、なんとストリッパーとして登場!その恋人・桂三千秋が、彼女との逃亡資金のため、組織の拳銃PPKを密売しようとして、親分・須賀不二夫の食客・水原浩一たちに殺される。その復讐に大介がひと役買うことに…いつものパターン。

それに乗じて、ナイトクラブの社長・草笛光子が、やはり弟を殺された復讐のために須賀不二男の組織を潰そうと、大介を焚き付けて利用する。人殺しは絶対にしない、が矜持の大介だが、敵の子分・伊達三郎殺しの容疑者として大介は指名手配に。草笛光子はファムファタールとして大介を誘惑して自分の復讐のために彼を殺人犯に仕立てしまうが…

今回、天知茂の木村刑事の代わりに、その同僚、大坂志郎の占い好きの刑事が登場。天知茂のポジションに。田宮二郎のトッポさ、軽さにますます拍車がかかり、眺めているだけでも楽しい。

ナイトクラブのダンサーとなった金井克子と毛利郁子のダンスシーンがなかなかカッコいい。ハリウッド・ミュージカルみたい!

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1965.12.24 鉄砲犬 村野鉄太郎

田宮二郎がトッポいガンマニア、鴨井大介を演じるシリーズ第五作『鉄砲犬』(1965年・村野鉄太郎)。コテコテの大阪コメディと、スタイリッシュなアイビーファッションの同居。軽やかにどこまでもC調だけど、情には厚い鴨井大介は本当に魅力的。タイトルバックは「平凡パンチ」の大橋歩のイラスト。

鴨井大介は、いきなり「シェー!」をかましてくれる。『怪獣大戦争』(1965年12月)のゴジラだけでなく田宮二郎だって『喜劇 駅前弁天』(1966年1月)の森繁だって青大将だって映画の主人公は、みんなイヤミの「シェー!」をしていた時代。九州の賭場で世話になった山下洵一郎から「おふくろに渡して」と三十万の現金を預かって大阪へ戻った大介。

西成の食堂で大切な拳銃を奪われてしまい大弱り。奪ったのは安部徹の一六組のチンピラで、この組は大介がこれまで潰したヤクザの組の縄張りを一手に受け継いで、ギャンブルの八百長で財をなしていた。その秘密を知った山下は九州へ逃亡。命が狙われていた。山下の妹・姿三千子が今回のヒロイン。

坂本スミ子は、九州の旅館の女中から大介を慕って大阪へ。そこで安部徹の情婦・穂高のり子がマダムのトルコ風呂で務めることに。天知茂の木村刑事は、第3作以来の登場。今回もうどん屋ネタで笑わせてくれる。お笑い枠は、食堂の主人・西川ヒノデ。大介の相棒ポジションには小沢昭一。

競輪選手だった小沢は、八百長に手を出して破滅。アル中になっていたが一六組を潰そうと独自に動いていた。敵の凄腕ガンファイターには守田学。今回も大介の曲撃ちパフォーマンスが楽しめる。リンゴの芯ぬき、縦に並べた三個のライターに着火などトリッキーなあの手この手。奪われた大介の拳銃で守田学が次々と、関係者を射殺。警察は大介の仕業ではないかと捜査する。

姿三千子は、兄を殺した男として大介を恨むなどなどあってのクライマックス。プロットはいつも通りだが、田宮二郎が二枚目半からどんどん三枚目にシフトしているのがおかしい。

姿三千子が務めているのはレーシング喫茶。「セガRRR」とサーキットにあるので、あのSEGAがこの時代、こうしたビジネスをしていたことがわかる。展開やヴィジュアルも含めて日活アクション的で、クライマックス、大介のガンプレイで見事に事件は解決。天知茂はとぼけて拳銃不法所持に目を瞑るのがいい。

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1966.04.09 続・鉄砲犬 村山三男

田宮二郎=鴨井大介の快調「犬」シリーズ第6作『続・鉄砲犬』(1966年)。今回は村山三男監督の以降か、プロデューサー辻久一の意向なのか、コメディとしてエスカレートしてきたシリーズを(ほんの少しだけ)軌道修正。全体的にはハードな展開で、鴨井大介のC調さよりも人情に弱いウエットさを強調。

しかも大阪喜劇のフォーマットから逸脱して、東京が舞台のハードアクションにシフト。嬉しいのは第一作からレギュラー出演の坂本スミ子がヒロイン(ポジションはいつもとおなじコメディ・リリーフ)で、彼女の「母親孝行」のために大介が人肌もふた肌も脱ぐ。

無一文の大介が坂本スミ子にバーで酒を奢ってもらっていると「イイ女」久保菜穂子が現れてメロメロに。彼女の誘いに乗って大阪から東京への美術品輸送を請け負うが、実は河津一味の盗品輸送に一役買っていることに気づいた大介。「降りる」と啖呵を切る。

しかしホテルの部屋で河津の秘書・渚まゆみが、そのサイドストーリーが、親分・河津清三郎と、彼を裏切って組を起こした杉田康たちの闘いのメインストーリーに絡んでくる構成がいい。杉田康の腹心で、ガンプレイでは大介には負けない凄腕に千波丈太郎。河津清三郎の配下の組の親分・見明凡太朗の雇っている針金使いの殺し屋・守田学が不気味でいい。

無一文の大介が坂本スミ子にバーで酒を奢ってもらっていると「イイ女」久保菜穂子が現れてメロメロに。彼女の誘いに乗って大阪から東京への美術品輸送を請け負うが、実は河津一味の盗品輸送に一役買っていることに気づいた大介。「降りる」と啖呵を切る。

しかしホテルの部屋で河津の秘書・渚まゆみが殺されて大介に嫌疑がかかる。大阪から出張してきた天知茂の木村刑事が捜査を始めて… いつものように、大介は敵からも刑事からも追われる身となる。お笑い枠は、大阪のスリ役で立原博、東京の拝み屋の婆さん・若水ヤエ子。ガンプレイの見せ場、坂本スミ子との頓珍漢なやりとりなどなど、安定の面白さ。

東京でもうどん屋台で、大介と木村刑事のやりとりがあるのがおかしい。天知茂はあくまでも「うどん」なのである。組織の秘密を知るチンピラ・高見国一(川島雄三『女は二度生まれる』の映画館の男の子!)が、渚まゆみの恋人で、鴨井大介を恋人殺しの犯人と誤解して…

しかも高見は、なんと坂本スミ子の弟で、と人情ドラマに深く関わり、それが後半の組織一網打尽の戦いを面白くしてくれる。大介に色仕掛けで接近してきた久保菜穂子も、単なるファムファタールではなく、これまた大介が「なんとかせにゃ」となる悲しい物語を秘めている。

日活アクションとの大きな違いは、田宮二郎のかっこよさと軽さだけでなく、藤本義一がこだわった「ウエットな人情劇」がドラマに深みを持たせていること。これが大映「犬シリーズ」の魅力でもある。

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1966.11.26 野良犬 井上芳夫

空前のガン・ブームにスタートした田宮二郎as鴨井大介の「犬」シリーズ第7作『野良犬』(1966年・井上芳夫)。今回も前作に続いて東京が舞台。ハードボイルド+コミカルな味わいは健在で、坂本スミ子の玉村玉子(彼女だけ毎回違う設定)がセカンド・ヒロインとして笑わせてくれる。天知茂の木村刑事は、今回はお休み(警視庁の捜査四課に転任のセリフあり)で、相棒の笹井刑警部役にはベテラン・河野秋武。

おそらくシナリオ段階では木村刑事だったのだろう、言わずもがなの相棒的なキャラはそのまま。タイトルバック明けから、組織を裏った女(笠原玲子)が拷問され冷凍車へ。ボスは垂水吾郎その腹心が杉田康。悪い連中だなぁ。

さて大介は、自分のスキルを活かして警視庁記者クラブへ、河野秋武に「警察につとめさせてくれ」と無茶ぶり。「前科者は警官になれない」と言われて大いにクサる。で、そうとは知らずに垂水吾郎の店でポーカー勝負で大負けして「用心棒にならないか」とスカウトされる。

もちろん断るが、その場にいた凄腕のガンファイター、成田三樹夫と、ダイスカップで立てたダイスの曲撃ち勝負。不敵な成田と軽い大介。好敵手誕生にふさわしい名場面。成田は親分の代わりに務め出所してきたばかりで、引退を希望するも垂水の逆鱗に触れて監禁されてしまう。一方、大介は交通事故でケガした少女・田村寿子を助けて病院へ。

お人好しの大介、その病院の看護師・高毬子に一目惚れして、少女の見舞いに日参する。なんと少女は成田三樹夫の妹で、鴨井大介は二人のために人肌脱ごうと奮闘努力。今回もお人好しのキャラ全開で、それに振り回されるのが、坂本スミ子とその元亭主・藤岡琢也。

プログラムピクチャーとしては安定の面白さ。そこに事件記者・早川保がスクープ狙いで加わり、

大介に張り付いて…という展開。クライマックスの成田三樹夫&田宮二郎の戦いと友情、銃撃戦のあの手この手のヴィジュアルが楽しい。マスコミの横暴に、大介は「お前らはマスゴミじゃ!」と言い放つ。

僕の知る限りでは、1960年代の映画で「マスゴミ」を使ったのは田宮二郎が最初ではないか?(藤本義一脚本)。前年の秋に流行した植木等の「誠に遺憾に存じます」を田宮二郎が言い、坂本スミ子が渥美清の「丈夫で長持ち」のフレーズを言う。流行語は時代を映す鏡でもありますなぁ。

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1967.05.27 早射ち犬 村野鉄太郎

田宮二郎as鴨井大介「犬」シリーズ第8作は村野鉄太郎監督三度目の登板となる『早射ち犬』(1967年)。舞台は今回も東京、五反田新開地あたり。なんと鴨井大介は、マイトガイの「渡り鳥」いや「あいつ」シリーズに倣ってか、ギター抱えた流しとなっている。これがサマになっていてなかなかカッコいい。

相棒の常さん・藤岡琢也と二人「ラバウル小唄」などを歌って流しているけど、空前のビートルズ・ブームからGSブームの時代。若者たちのビートに合わせてエレキギターを演奏するシーンも。シリーズが始まって三年、若者風俗のダイナミックな変化が味わえる。大介の東京住まいもかなり経っているようで。

アパートの隣室には白タク・小沢昭一と女房・坂本スミ子(今回も玉子!)、そして「ヒジョーにサビシィ〜」の財津一郎。演歌歌手みたいなキンキキラの着物のオカマちゃんのようなキャラで登場するも、その正体は意外や意外のオチも楽しい。悪のボスには、なんと我らが伊達三郎!その腹心に成田三樹夫。

伊達三郎は北村寿太郎に怪しげな新興宗教をやらせていて、信者に「天心水」と称してヘロイン入りの水を売って悪どい商売。グランドサロン(どんな規模?でも五反田にありそう)のホステス、江波杏子も薬漬け。大介の流し仲間の女の子・嘉手納清美が、失踪した姉・江波を探していて。

またまた大介は、ひと肌脱ぐも組織に目をつけられる。お馴染みの曲射ちは、伊達三郎の事務所でスカウトを受けてのパフォーマンス。何よりタイトルバックが、大介のガンプレイのモンタージュで、これがカッコいい。凄腕だけど、決して人は殺さない。このポリシーが鴨井大介を映画のヒーローとして魅力的にしている。

成田三樹夫は前作の善良な悪役(笑)から一転、シリーズ屈指のワルで江波杏子をクスリ漬けにして、欲望の恣にしている。伊達三郎は、自分が逮捕間近なので、教祖・北村寿太郎を自分の替え玉にして、クルマを爆破させて殺害。そのクルマの持ち主・小沢昭一が指名手配。

というわけで、天知茂の木村刑事が、大阪から出張、大介に捜査協力を依頼して、アパートに張り込み、二人の奇妙な共同生活(というほどでもないけど)が始まる。田宮二郎と天知茂のバディ感覚、「なかよく喧嘩しな」は本作でさらにヒートアップ。藤本義一脚本は、地口オチ、ダジャレが次々と飛び出して、鴨井大介のトッポくもお人好しのキャラに、ますます拍車がかかっていて小気味いい。

大介が小沢昭一の白タクの洗車を手伝うシーン。五反田の新開地のアーチの下、同じアングルで1973年、山田洋次監督は『 寅次郎忘れな草』でリリーと母(利根はる恵)の芝居場を撮影。このロケ地についてはこちらに詳しく書いてます。

鴨井大介のガンマニアぶり。ベッドの下に隠してあるアタッシェケースにはジェームズ・ボンドのように拳銃をパーツにして収めている。靴底には予備の弾丸が入っているし、ハンチング帽につけたミニチュアの拳銃型バッジから実弾が発射される仕掛け、カッコいいなぁ。

ラストの新興宗教一網打尽のシーンの禍々しさもいい。そこで財津一郎のオネエキャラが、実は颯爽と!というオチが全てをさらっていって、この頃の「財津一郎旋風」の凄さが実感できる。

クライマックスの銃撃戦はお台場なのだけど、その風景の様変わりも映画時層探検的には楽しめる。品海砲台(品川台場)にすっくと立ち尽くす鴨井大介!ああカッコいい!

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1967.10.14 勝負犬 井上芳夫

田宮二郎as鴨井大介「犬」シリーズ最終第9作『勝負犬』(1967年・井上芳夫)には、なんとサンダーバード1号と3号が登場!貿易会社社長・永田靖を訪ねた木村刑事・天知茂が、応接室で1号の玩具を手にする。

「サンダーバード」が日本で初放映されたのが、1966年4月〜1967年4月。この『勝負犬』が1967年10月公開だから、TBSでの放映(67年7月15日〜10月5日)直後ということになる。永田靖の会社は、このブームで一儲けしていたことになる。

今回も舞台は東京。渋谷区桜ヶ丘の高級アパート(笑)幸福荘で、大介は相棒の常さん・藤岡琢也と競艇の予想屋兼、芸能社(実はギターの流し)をやっている。大阪から歌手志願の玉子・坂本スミ子がやってきて仲間に。大介は彼女をナイトクラブに売り込むが、その店も永田靖の経営だった。

天知茂が追っているのは「無音・無光・無煙」の密造拳銃。ナチスドイツ時代、ヒトラーが密かに造らせたモルトゲゼールである。この音なき拳銃で、関係者が次々と殺され、永田靖と娘・姿三千子も狙われ、大介がボディガードを買って出る。組織の幹部は杉田康、殺し屋は藤山浩二だから頼りない^_^ 大介の命を何度も狙うも失敗ばかり。そりゃ、藤山浩二だからねぇ。

ミステリーとしては、なかなか凝っていて、永田靖の愛人・浜田ゆう子がクールビューティーでなかなかイイ。大映レコードが設立したこともあり、田宮二郎が初の主題歌「青い犬のブルース」(作詞・藤本義一 作編曲・大塚善章)を劇中歌い、エンディングにも流れる。また、坂本スミ子は挿入歌「それもそうだわね」(作詞・古川益雄 作曲・加藤ヒロシ)をナイトクラブで歌っている。

鴨井大介が拳銃の名手であることは、純情なヒロインにも織り込み済みで「いつか、鴨井さんの腕前を拝見したいわ」なんて。不法所持とかイリーガルとか問題ではないのがいい。で曲射ち披露は、大介の話の中のイメージカットだけなのだけど、原宿のオリンピックスタジアム近くの喫茶ルームで、イチャイチャしているカップルを、マッチ棒を指先で飛ばして驚かせたりのデモンストレーションはある。

後半、天知茂が藤山浩二の凶弾に倒れて瀕死となる。「ショボくれ」刑事の大事に、取り乱す大介。救急車の中で、救急隊員に無理難題言ったり、盟友のピンチに狼狽える。これまでで培ってきた二人の友情と絆。このあたりのウエットさこそ、このシリーズの魅力でもある。

クライマックスは、本性を剥き出しにした永田靖の無茶苦茶に、子分たちも、姿三千子も巻き添いをくらって、大変な展開に。倉庫での銃撃戦もあの手この手で、大介がターザンのようにロープで弾丸の嵐のなか、ジャンプするなどアクションもいい。

これがシリーズ最終作となってしまったのは本当に残念。1967年がもっともっと続いていて、田宮二郎がずうっと大映のスターでいればよかったのにと、翌年の出来事を考えると、ああ、もったいないなぁとつくづく思う。

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