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太陽にほえろ! 1973・第49話「そのとき、時計は止まった」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第49話「そのとき、時計は止まった」(1973.6.22 脚本・長野洋、小川英 監督・山本迪夫)

中島友子(川口晶)
会社重役(野口元夫)
クリーニング屋店主(里木佐甫良)
鑑識課員(田中力)
米田正男(剛達人<現・剛たつひと>)
橋爪功一(宇南山宏)
雨宮和美
毛利幸子
榛名潤一
芦沢孝子

 山さんこと山村精一刑事の主演エピソード。今回のゲストは川口晶さん。川口松太郎さんと三益愛子さんのお嬢さん。久世光彦さんの「水曜劇場・時間ですよ」(1970年)の初代「トリオ・ザ・銭湯」の市子ちゃん! 前回の村野武憲さんに続いて「飛び出せ!青春」の片桐くんこと、剛たつひとさんも出演。村野さんと剛さんは、日活最後の一般映画『八月の濡れた砂』(1971年・藤田敏八)でも共演。当時、剛さんは中沢治夫という芸名だった。

 さて今回は、幸せとは無縁の女の子と、彼女を愛した若者の恋。そして被害者の知られざる素顔が浮き彫りにされていく展開は、人間ドラマとしてのその後の「太陽にほえろ!」の王道となっていく。

 高級マンションですでに引退した女優の川田美雪が殺される。ボス、山さん、マカロニ、七曲署一係が急行する。鑑識課員(田中力)によれば、凶器は置き時計。死後約1時間経過している。時計は午後3時を指している。「多少のズレはありますが四時前後」だと鑑識課員。ボスは「先生を疑っているわけではありませんが、殴られた1時間後に死んだのかもしれない」。

 発見したのは、この家のお手伝いの中島友子(川口晶)。山さんが優しく事情聴取をするが、どこかぶっきらぼうで。知っていることは最初に駆けつけた警官に話したから、言うことはないと態度を硬化させる。「繰り返し話してくれ」と山さん。ゴリさんが近所の聞き込みをするも、近隣は非協力的。

 友子は休みだったので、デパートに買い物へ。帰ってきたのは5時ちょっと前。山さんは「彼氏がいるの?」「そんなこと捜査と関係ないでしょ」と突っかかる友子。置き時計は遅れることなく、正確に動いていたと証言する友子。

 被害者・美雪は連日、政財界の大物と会食やゴルフをしていた。パトロンはいないようだ。しかし殿下は「女優をやめてぶらぶらしている女が、パトロンがいなくて、あれだけ豪華な暮らしはできない」と疑問を持つ。美雪の金の流れが問題だとボス。早速、交友関係を当たることに。置き時計に残された指紋の一つ一つを検証することで、何か浮かび上がってくるかもしれない。

 早速、美雪と関係のある大物たちにあたる刑事たち。ボスに、男の声でタレコミの電話がある。「丸波工業グループの橋爪功一(宇南山宏)を調べろ」。そこで山さんが、丸波工業の社長秘書・橋爪の「6月16日の午後」のアリバイを確かめる。橋爪は、休暇を取って伊豆にドライブに行っていた。天城の展望台で橋爪と会ったホステスの証言者があり、裏が取れてしまう。そこで、捜査はどん詰まり。

 山さんは、再び友子にあたることに。マカロニは、友子は山さんのことを嫌ってるから「自分も行く」というが、山さんは「虫の好かない相手というのは、どこか自分に似ているところがあるから」もしも友子が隠し事をしているなら、それを打ち明けるの相手は「自分しかいないと確信している」と。

 「もう何にもお話することはありません」けんもほろろの友子。山さんは粘る、粘る、粘る。雨の日、ずぶ濡れになった山さんを迎え入れる友子。「上着脱いでください」。アイロンをかける友子。やがて、心を開き始める。「死んだ奥さんどんな人だった」「いい人でした」。孤児で親戚の厄介者だった友子を雇ってくれたから、「いい人」だという。なぜ友子は人が死んだマンションに住み続けているのか? 美雪の親戚から、マンションの売り先が決まるまで住んでいて欲しいと頼まれていた。「しかし、処分が決まった後、君はどうするつもりなんだ?」「なんとかします」。

 そこへ殿下がやってくる。近所の主婦から、事件当日、「美雪の部屋から若い男が出て行った」との証言を得たのだ。その若い男はクリーニング屋の店員。早速、山さんがクリーニング屋店主(里木佐甫良)を尋ねると、その若い男・米田正男(剛達人<現・剛たつひと>)は三日前から休んでいるという。「旦那、まさか正男が奥さんを?」。そんなことは出来ない男だと言いながら、以前、正男は友子に「付け文」をしたことを、美雪にこっぴどく責められたという。

 犯行に使われた置き時計から米田正男の指紋が発見される。捜査第一係は正男を本星と決めて指名手配する。そのことで、友子は美雪の親戚たちから「人殺しの女は置いておけない」とマンションを追い出されてしまう。

 ひとり街をさまよう友子。そっと山さんが後をつける。なかなか住み込みの仕事は見つからない。かわいそうだね。ようやく目黒の蕎麦屋「砂場」に務めることになった。そこで山さん、正男に、友子の勤め先を知らせるように手を打つ。正男から美雪の家に友子宛ての電話がかかってきた。管理人が段取り通り「砂場」の連絡先を教える。「砂場」の前の喫茶店で張り込む山さんと殿下。BGMは天地真理さんの「若葉のささやき」。もちろん歌のない歌謡曲。

 張り込みを続ける山さん。友子はすっかり蕎麦屋の店員が板についてきたが、結局は「人殺しに関わりのあるような女は置いておけない」とクビに。「だんだんかわいそうになってきたな」とマカロニ。原宿の跨線橋にたたずむ友子を、自殺しまいかと心配そうに見つめる山さん。寂しそうな、辛そうな友子。

「まさか飛び込もうと思ったんじゃないだろうな」「私、自殺なんかしません」。どこでもすぐクビにはなるが、「私、あきらめているんです」。小さい頃からあきらめることに慣れていると友子。「人形を買ってもらうのを諦め、修学旅行を諦め、高校進学さえも諦め」「だがな、あの男さえ、あんたに近づかなければな」「刑事さん。男の人から手紙を貰った女の気持ちがわかりますか?別になんとも思っていなかった人からでも、嬉しいもんなんです」「あんな手紙をとっておかなければ、奥さんに見つかることも」なかった。「手紙一本で、私は人殺しの恋人」とレッテルを貼られてしまったと友子。それでも「なんとか生きていきます。私、なんとかすることにも慣れているのです」。

 友子は結局、バーに勤めることに。そこに正男が現れる。山さん、ゴリさんが正男を捕まえる。「俺じゃない!俺じゃないよ!」と叫ぶ正男。正男によれば、店を出たのは2時半だが、公園で美雪に言うことを考えていた。ようやく4時近くにマンションに行ったら、すでに美雪は死んでいたという。部屋に落ちていた置き時計を触ったところで死体を発見した。しかしゴリさんは信じない。「だったらどうしてもっと早く名乗り出なかったのか?」「あんたたちが信じるわけないだろ?」。置き時計を触ってしまったこと。動機があること。自分にとって不利な条件が重なっているので、真犯人が捕まるまで逃亡しようと思っていたと、主張する正男。

 旭町の児童公園。正男のアパート。聞き込みを続ける山さん。「あの日、米田が4時近くまでベンチに座っていた」との証言が得られたが、まだ謎が残る。置き時計は3時で止まっているが、死亡推定時刻と正男がマンションに行った時間が一致する。山さんの推理では、美雪は第三者に3時に殴られ、意識不明のまま4時に亡くなった。そのタイミングで正男が現れたと。ボスはその線で調べるように指示。

 そこでマカロニが前日に「丸波工業グループの橋爪を調べるように」と再度電話があったことを思い出す。ちゃんと報告しなきゃだめだよ。今度は女の声だったという。

 不審を抱いた山さんは、天城の展望台で橋爪に会ったホステスに再び事情を聞く。「伊豆の天気はどうだった?」「あの日?いいお天気だったわよ」気象記録によれば、あの日、午後から雨が降っていた。証言は偽証だったのだ。「いい指輪だな、どこで買った?」。

 取調室。橋爪が事情聴取を受けている。ホステスは指輪を買って貰った代わりにアリバイ工作を引き受けたと証言していることを告げる山さん。うなだれる橋爪は、犯行を自供する。美雪は、会社の汚職をゆすりのタネに大金を要求。橋爪は手をついて頼んだが、美雪に鼻先で笑われた。気がついたら女が倒れていて、自分は置き時計を握っていた。

「その後で、気を取り直して、指紋を吹き消し、馴染みのバーの女を使ってアリバイ工作をした。そうだな」と山さん。「はい」と認める橋爪。

 七曲署の前で正男を待つ友子。釈放された正男と一緒に出てくる山さん。「良かったな」。友子はうなずき、正男の手を取って去っていく。

 一件落着したとはいえ、まだ謎が残る。誰がタレコミ電話をしたのか? 山さんは「時間のことです。3時に殴られて4時に死んだ。これは絶対にないとはいえませんが、どうも引っかかるんです」とボスに疑問を告げる。「それにもう一つ。あの娘です。あの娘はまだ本心を打ち明けていない。まだ何かを隠している」と山さん。その時、マカロニが一係の時計を見て「あれ、また遅れているよ」。何かに気づいた山さん。もう一度、橋爪の事情聴取を始める。

「お前は女を置き時計で殴りつけた。それからどうした?」なぜ引き返してきたのか?指紋に気付いたからか?「ええ、でもあの時、鐘が鳴らなかったら?」「鐘?」。置き時計が3時を示した。その時、時計は動いていた! 

 正男と友子の新しい勤め先、五反田のラーメン屋から正男が出てくる。そこへ山さん、殿下、ゴリさんが現れる。「ちょっと話があるんだ」。「時計は動いていたか?川田美雪の部屋から出てきた時、時計は動いていたか?」「動いていたはずだ。そうだろ?」「刑事さん、まだ俺を疑っているんですか?」「確かに橋爪功一は置き時計で川田美雪を殴り倒した。だが、女は死んでいなかった」。

 山さんが正男と話すのは、五反田・新開地の飲み屋街。西五反田1丁目9番あたり。この年の夏、8月4日に封切られる『男はつらいよ 寅次郎忘れな草』で、リリー(浅丘ルリ子)と母親(利根はる恵)が会話をする場所でもある。同じアングルで、山さん、ゴリさん、正男が立っている。東急池上線・五反田駅と国鉄山手線の線路、目黒川に挟まれた三角地帯である。ここは、日活映画『さようならの季節』(1962年・滝沢英輔)で、吉永小百合さんの姉・楠侑子さんの飲み屋がある場所として撮影され、剛たつひとさんの立っているあたりで、浜田光夫さんが芝居をした。

 この「そのとき、時計は止まった」が放映されて、約ひと月後、同じ場所で『男はつらいよ 寅次郎忘れな草』が撮影されている。

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『寅次郎忘れな草』での同じ場所。山さんの後ろの飲み屋は、利根はる恵さんの後ろの飲み屋でもある。ゴリさんの上の新開地のアーチと同じものが写っている。

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切り返しの剛たつひとさんと山さんのショットのアングルは、当然ながら同じ場所。

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 山さんが去っていく方向と同じ方向にリリーも去っていく(笑)

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同じ場所を歩く浜田光夫さん。日活映画『さようならの季節』(1962年・滝沢英輔)より。

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ゴリさんの後ろにあるアーチ。『さようならの季節』より。

 「女は気を失っただけだ。そして時計も止まらなかった」「一体、なんの話ですか?」「時計が止まったのは、その後に入ってきた誰かが、もう一度女を殴りつけ、本当に息の根を止めた時だ。橋爪が逃げたあと、死体が発見されるまでの間、あの部屋に入ったのは、お前しかいない。他の者だったら、すぐに警察を呼んだろうからな」「刑事さん」「殺したのは米田、お前だ!」「違う、俺じゃないよ、俺は嘘なんか・・・」「確かにお前の自供の半分は本当だろう。お前は4時にマンションに行き、不用意に置き時計を手にして、血まみれの女を発見した」。その後で正男は意識を取り戻した美雪を撲殺した。時計が止まったのはその時だと、山さん。「それまで時計は動いていたんだ」。

「時計を3時に戻したのは、お前か? それとも?」
「私です!」と友子の声。ラーメン屋から出てきた友子は、橋爪が3時に来ることを知っていたという。
「奥さんから聞いていました。正男さんに密告の電話をするように言ったのも私です」

 その場で泣き崩れる正男。「殺す気なんてなかったんだよ」美雪が急に起き上がってきて「人殺し」と叫んだので、夢中になって殺してしまったと告白する正男。

 山さん、友子に「なぜだ? やっぱり惚れていたのか?」「買い物の帰りに、正男さんから話を聞いた時に、私思ったんです。今、この人を助けてあげられるのは私しかいないって。小さい頃から、みんなから邪魔者扱いされてきた私が、何かしてあげられる初めての人だったんです」。

 山さんは何も言えない。涙が込み上げてくる。ガード下をくぐって歩き出す山さん。

 その夜、おでん屋台で、うなだれる山さん。苦い酒だね。そこへ、殿下、ゴリさん、マカロニがやってくる。

 殿下が報告する。「あの娘、害者が死んだと知ったとき、これで自分の人生が変わるかもしれないと思ったんだそうです。よっぽど、いじめられていたんでしょうね」。ゴリさん「それにしても、時計の件といい、密告の件といい、相当にその・・・」。

 そこで山さん「したたかな女と言いたいんだろう?」「ええ、あんなにおとなしい顔して、あれだけの芝居を打つんですからね」とゴリさん。「芝居じゃないよ。殺す気で殴ったのは橋爪功一だ。犯人はひとりいればいい。そう言ってなかったか?」と山さん。

 殿下と顔を見合わすゴリさん。「ええ、そっくり同じことを」「死んだものより、生きている人間の方が大事だ。そうは言ってなかったか?」。マカロニ「山さん」。「したたかなんじゃない。あの娘はあの娘なりに必死だったんだ。自分を頼った男を助けるために、生きるためにな。俺にはわかる。俺も随分長い間、人に邪魔にされながら生きてきたからな」。

 そこへボス「おう、俺も入れてくれ」。美雪殺しのきっかけとなった汚職のネタを特捜部に話したら喜ばれて、近く摘発されることになったと。山さん「そうすか。そいつは良かった」。

 幸せの反対側で生きてきた友子と、彼女を真剣に愛した正男。恐喝をしながら贅沢な生活をしていた被害者と、社長の命令との板挟みで殺意を抱いたサラリーマンの悲哀。人生と運命の皮肉。その痛みを知る刑事もまた市井の人間。「太陽にほえろ!」が、繰り返し描き続けていくテーマでもある。


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