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太陽にほえろ! 1974・第105話「この仕事が好きだから」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第105話「この仕事が好きだから」(1974.7.19 脚本・長野洋 監督・竹林進)

永井久美(青木英美)
森山亜矢子(松木路子)
森山太一(池田秀一)
千秋の母親(槙ひろ子)
加藤千秋(八代るみ子)
関虎実(セキトラ・カーアクションプロ)
石川敏
鳴海吾郎
川原憲(兼松隆)

予告編。小林恭治さんのナレーション。
N「警務に携わるもの全てに課せられた宿命。時として自らを死地に追いやらねばならぬ。その無謀にも思える英雄的行為の裏に、警察官であるがゆえに、世間から孤立してゆく自分があった。一事件の過失が招く悲劇は、私生活をも容赦なく破壊していく。次回「この仕事が好きだから」どうぞご期待ください」

 今回は殿下こと島公之刑事(小野寺昭)主役回。弟のように可愛がっている後輩・池田秀一さんがひょんなことから、丸腰の犯人を射殺して逃亡犯となる。合コンならぬ合同ピクニックで出会ったOLへの一方的な愛を、間違った方向にぶつける後輩。現在の感覚からすると「ストーカー」なのだが、当時は「一途な愛」と捉えられていた。正義感あふれる警察官が、逃亡犯となり次々と犯罪を重ねていく姿は、見ていて痛々しい。

 数々の佳作を執筆してきた長野洋さんのシナリオだが、今回は、犯人の心理描写や、その姉・松木路子さんの行動に違和感を覚える。とはいえ、関虎実さん率いる「セキトラ・カーアクション・プロ」による、深夜のカーチェイスや、都内での迫真のデッドヒートなどヴィジュアル面は楽しめる。なんと言っても松木路子さんの美しさが際立つ一編。

白昼、パトカーがサイレンを鳴らしながら新宿高層ビル街を走る。ビルの上からの俯瞰カット。テレビが臨時ニュースを告げる。

N「繰り返しニュースをお伝えします。今日、午後1時30分頃、新宿区矢追町の田川銃砲店に押し入った若い男は、店員の沢村和男さんを人質にして店内に立て篭もったまま、事件発生後、2時間を経過した今も、警官隊と緊迫した睨み合いが続いています」。

 田川銃砲店を取り囲む機動隊。緊急配備をしているジーパン、殿下、ゴリさん、山さん、長さんたち。

N「なお、事件発生と同時に現場付近の交通は一切遮断されて・・・」

 店内からライフルを構えた男・河原が出てきて、警察へ乱射する。「あの野郎!いい調子でぶっ放しやがって」とジーパン。殿下は「銃砲店だからな、弾は唸るほどある」「人質さえいなきゃいいんですがね」「焦るなよ!いくらお前でも、今突っ込んだら、一発でアウトだ」。装甲車の影から拳銃を構える殿下。

絶叫してライフルの連射を続ける河原。

ゴリさん「(人質は)どっちですか?」「右側の窓だ」と山さん、双眼鏡をゴリさんに渡す。人質は拘束されてるようには見えない。「だが逃げ出すにはかなりの勇気が要りそうだな」と山さん。警察無線が鳴り、長さんが出る。「あ、長さんか、ホシが割れたぞ」

 捜査第一係。ボスが無線機に「ホシの名前は河原健、昨夜神奈川の少年院から脱走した男だ、たった今、少年院からテレビを見て確認したと連絡があった」。

現場の山さん「未成年か・・・」「それで様子はどうだ?」とボス。「実は興奮状態がエスカレートする一方で、このまま放っておけば、何をしでかすかわからん、という感じでして・・・」

再び、店内から出てきて、ライフルを構える河原。

ボス「長さん、人質は無事か?」「ええ、今のところはなんとか」ボスの後ろには心配そうな顔の久美。「ゴリはそこにいるのか?」「はい」「石塚です」「ゴリ、用意しろ!」。

 銃声が響く。ゴリさん少し躊躇している。ボスは続ける「ただし相手は未成年でもあるし、できることなら殺したくない、その位置から、急所をはずせる自信はあるか?」。ゴリさん「やってみます」「ようし、頼むぞ」。

 ゴリさん、考えている。「チキショー!来るな!」と河原が叫ぶ。ゴリさんはライフルを構える。「来るな!撃つぞ!」半狂乱の河原。ゴリさんが狙った瞬間、河原を突き飛ばして、店内から人質が逃げてくる。山さん「!」殿下「!」。体勢を直した河原「殺してやる!」。山さんゴリさんに合図を送る。しかし河原が発砲したタイミングで、機動隊、警察隊が発砲をする。その中の一人の警察官が、叫びながら河原に向かってゆく。体当たりする警官。殿下、ジーパン走り出す。ゴリさんちょっと唖然。警察官は河原に馬乗りになって、殴る、殴る、殴る。

 ジーパン、ライフルを奪い、殿下は警察官に「もうよせ!殺す気か!」と羽交い締めにして、河原と引き離す。ジーパンが河原を確保!

 殿下、警察官の顔を見てびっくりする。「森山!」「先輩!」。殿下の後輩の森山太一(池田秀一)だった。「お前・・・」。ニッコリ笑う森山。殿下複雑な表情。

 今回の主役・森山巡査を演じた池田秀一さんは、「機動戦士ガンダム」(1979年)のシャア役で知られる声優だが、俳優としても1960年代から数多くのドラマや映画に出演している。東宝『めぐりあい』(1968年・恩地日出夫)では、酒井和歌子さんの弟役を演じている。「太陽にほえろ!」には2作出演している。

第105話「この仕事が好きだから」(1974年) - 森山太一巡査
第244話「さらば、スコッチ!」(1977年) - 宮下則夫

 捜査第一係。ジーパンへたばっている。そこへ久美が夕刊を持って戻ってくる。「島さん、出てますよ!」。ジーパン、ガバッと飛び起きる。ゴリさん、殿下、ジーパンが新聞をみる。「おう、出てる、出てる」とゴリさん。「白昼の逮捕劇、若い警官、捨て身の突進、と来たよ」「ヨォ、ベイビー、いやあ全く捨て身もいいとこだったね」とジーパン。「見たかったわ、かっこよかったでしょう?」と久美。「かっこいいかどうかは別にして、流石の俺も、こいつにはまいったね」とジーパン。しかし殿下は浮かない顔をしている。「しかし、あいつがスマートを持ってしなる殿下の後輩とはね」とゴリさん。

「バカなやつですよ、あいつは」と殿下。「あんな無茶をしていたら、命がいくつあったって足りやしない」と部屋を出ていく。久美「何、怒ってるのかしら?島さん」。ゴリさんもジーパンも「?」

 夕暮れ時、小田急線新宿行きが走っている。殿下は森山のアパートを訪ねる。ドアをノックすると出てきたのは、姉の森山亜矢子(松木路子)だった。「島さん!」「突然、どうも」「お久しぶりですわ」。松木路子さんは、東宝へ入社後、テレビドラマへ転向した美人女優で、僕は子供のころ大好きな女優さんだった。フジテレビの昼メロ・ライオン奥様劇場「慟哭の花」(1971年)のヒロインで、子供心に美しいなぁと思っていた。「太陽にほえろ!」では第8話「真夜中の刑事たち」(1972年)以来の出演となる。

「今日は弟がご迷惑をおかけしたそうで」「昼間の事件ですか」「ええ、あの子ったら、いつまでも向こうみずで・・・」「今日の場合、なんといっても彼の手柄ですよ」と思いっきりデレデレの殿下。「ところで・・・」。森山は一度帰ってきたけど、すぐに出かけてしまったと亜矢子。「ちょっとお上がりになりません?」。一度は固辞するが、美人の誘いに弱い殿下は、森山家にお邪魔する。

 喫茶店、背広姿の森山が、誰かを待っている。デートのようだ。しかし待ち人来らず。時計をみて、人待ち顔をしている。

 森山のアパート。「デート? 彼、恋人ができたんですか?」嬉しそうな殿下。保険会社のOLと、合同ピクニックで出会ったと、亜矢子。「やるなぁ、あいつも」笑顔の殿下。「ほんと」「ははは」顔を見合わす亜矢子と殿下。気まずい沈黙。殿下、新聞を広げる。その時、亜矢子「あのう、弟は本当に刑事になれるんでしょうか?」「はあ」「あの子は島さんに憧れて、1日も早く刑事になりたいって、そればかり言ってるんです」「亜矢子さんは反対ですか?」「それがあの子の希望ですから、叶えてやりたいと思いますけど、でも、今日みたいな事件がありますと・・・(微笑んで)女ってダメですわね、いつも安全な道を選びたがるんですわ」。亜矢子を見つめる殿下。

 喫茶店。森山が電話をしている。「加藤さんのお宅ですか?千秋さんから何か言伝が・・・いるんですか?千秋さん」

 千秋の母(槙ひろ子)「千秋は具合が悪くて伏せっておりますけど、大したことはないんですけど、頭が痛いとか申しまして」。千秋(八代るみ子)は横に座っている。今夜会う約束があったので、電話に出てほしいと森山が頼む。ところが「聞いてない?ちょっとだけでいいんです、ちょっとだけ、変わってもらえませんか?」「でも、もう休んでおりますし」と母は電話を切る。

 母は千秋に「いいわね、お巡りさんなんて危ない仕事をする人は、母さん絶対に反対ですからね、まして、あんな危ないことをする人なんて」と厳しく言う。母親が交際を反対していたんだ。

 喫茶店、森山の心の声「チキショウ、なぜだ、なぜなんだろう?親が反対しているんだきっと、だから千秋さん、電話にも出られないんだ、きっとそうだ」。千秋、自宅で雑誌をめくっている。あまり森山には木がないらしい。

 七曲警察署管内・矢追町巡査派出所。森山、考え込んでいる。「ちょっとパトロールに行ってきます」「ああ、ご苦労さん」。制帽を目深に被って、森山巡査、自転車に乗ってパトロールへ。

 殿下が派出所へやってくる。ちょうど行き違いになってしまう。

 森山、パトロールをしている。目の前の銀行で「強盗だ!」「キャー!」非常ベルが鳴る。男がビルから飛び出てきて、追ってきた男を殴って逃走。手には拳銃を持っている。森山、走って男をパーキングまで追いかける。

 派出所。森山の上司「至急参ります」と電話を切る。「銀行強盗です!」「どこの銀行だ!」と殿下。

 建設現場に逃げ込む男。森山は拳銃を構え「止まれ!止まらんと撃つぞ!」と叫ぶ。左手に現金、右手に拳銃を握っている男。「撃たないでくれ!これは・・・」。次の瞬間、森山が発砲。男は倒れる。「これは・・・」何か言おうとするが、森山さらに発砲して男は絶命。

 そこへ殿下と巡査の上司が駆けつける。「森山!」。拳銃を持ったまま立ち尽くしている森山巡査。殿下は、男に近づいて遺体を確認する。「おい、大丈夫か?」と上司。「こ、殺した!」と蒼白の森山。しかし男が持っていたのは玩具のピストルだった。殿下「森山!」。玩具と知って愕然とする森山。

 捜査第一係。「なに?玩具?ホシが持っていた拳銃は玩具だったのか!」とボス。

 現場近くの赤電話。殿下「ええ、そうなんですよ」。銀行員が「一眼で玩具とわかったんですよ、思い切って飛びかかったんですよ、それがまさか撃ち殺すとはね」。森山蒼白のまま。

 ボス「殿下、森山の拳銃を取り上げろ、いいから取り上げるんだ!」と厳しく命じる。「ボス、それじゃまるで森山を犯人扱いに・・・はい、わかりました」と殿下、電話を切る。

 殿下、ゆっくりと森山に近づき「お前の身柄を拘束する」「・・・」「拳銃を渡すんだ、さあ」。項垂れている森山、拳銃を殿下に差し出そうとした瞬間、パトカーのサイレンの音がする。怖くなった森山、形相を変えて、拳銃で殿下の肩を殴って逃げ出す。

 工事現場の階段を降りて森山、逃走する。殿下、打撲のダメージで動けない。「追え!追うんだ!」「島さん!」。

 昼休みの公園。同僚たちとベンチに座って談笑している加藤千秋。逃走してきた森山、千秋を探しているようだ。千秋の顔を見て、何か言いたげな森山。パトカーのサイレンが鳴る。踵を返す森山。

 捜査第一係。「ええ、おそらく気が動転して、闇雲に逃げ出したんだと思います。もちろんすぐ手は打ちました。拳銃ですか?持ってます。一番気がかりなのは自殺なんですがね」とボスが電話で話している。「自殺」と言う言葉を聞いて殿下が立ち上がる。「どこへ行く?どこへ行く気だ?」「森山を追います」「だからどこを追う?」「真っ先に考えられるのは、彼の姉が勤めている・・・」「ゴリが今、向かっているよ」。アパートには山さんとジーパンが張り込み中。加藤千秋のところには長さんが行ってる。「それじゃ・・・」「殿下、お前はこの事件から外す」「ボス!」「いいか殿下、俺が森山の身柄を拘束しろと言ったのは、こうなる事態を恐れたからだ」謝る殿下に「お前は今、頭に血が昇っている、しかも相手は、つい今し方まで弟のように思っていた男だ。そんな状態で、刑事としての冷静な判断がつくと思うのか?」とボス。

「しかし・・・」「いいから、今日は帰って休め」「休めません。ボス、確かに僕は、森山を弟のように思っていました、今でもそう思っています、だから尚更、血が昇っているのも事実です。しかし、しかしボス、僕は刑事です、いえ、刑事として失格かどうかは、この事件が終わってから、判断してください」。出ていく殿下。かすかにうなづくボス。

 久美が心配そうに「島さん、大丈夫でしょうか?」「あいつはデカだ」とボス。

殿下、街を歩く。森山を探して歩く。

ゴリさん、森山の姉・亜矢子に話をしている。「弟が!」「ええ」と沈痛な表情のゴリさん。

 森山のアパート。合同ピクニックで千秋と出会った時の写真。ジーパンと山さんが家宅捜索をしている。ジーパン「合同レクリエーションか?」「お前も行ったことあるのか?」「ええ、ありますよ」「で、どうだった?」「俺なんかダメですね」「しかしそれが縁で、ということもあるんだろ?」「それがきっかけで、個人的に付き合うようになったってのを何人か知ってますがね。結局、結婚したっていう話は聞かないですね」とジーパン。「どうしてだ?」「なぜかダメなんですね、特にああいう大会社に勤めている子なんてのは、結局最後には、警察官なんかよりも、率のいい相手を選びますからね」。うなづく山さん。

 殿下、千秋の会社を訪ねている。「結婚?森山はあなたに結婚を申し込んでいたんですか?」「ええ」「で、なんて返事を?」「まだなんとも、でも・・・」「断る気だった」。無言のまま顔をそらす千秋に殿下「そうですね、なぜです?どうして?」と詰め寄る。「そんなことまでお話くちゃいけないんですか!」「森山が嫌いだったんですか?」「いいえ、森山さんはいい人ですわ、男らしくて、さっぱりしていて、でも、でも、私・・・」。殿下、真剣な表情で「森山が警官だから・・・そうなんですね?」「私、自分の夫がいつ殺されるかわからないような、そんな生活に耐える自信はありません」。

 殿下、少しショック。当然のことなんだけど、寂しい。千秋の勤め先から出てくる。「私、自分の夫がいつ殺されるかわからないような、そんな生活に耐える自信はありません」。千秋の言葉がリフレインされる。そこへ長さんが現れる。「どうだった?」「ええ」「ここに来ると思うかい?」「奴はあの娘に会いたい一心で逃げたんです」「しかし、制服のままじゃ、身動きも取れんだろうに」

 公衆便所に、サラリーマンを連れ込む森山。「何すんですかお巡りさん!僕は何も!」森山が拳銃を突きつける。

 走る救急車の中、山さんが乗っている。先ほどのサラリーマン「警官なのによう、俺をいきなり殴りやがって、俺の洋服を、痛てて」と怪我をしている。山さんの顔のアップ。

 捜査第一係。警官が「面会ですが」「面会?こんな時間にか?」とゴリさん、殿下も立ち上がる。入ってきたのは森山の姉・彩子だった。ゴリさん気を聞かして廊下へ。あまりの美人に、満更でもない顔。

亜矢子「私、なんと言ってお詫びをしていいか・・・」「いえ、お詫びをするのは僕の方です。玩具の拳銃を持った犯人を殺したのは、確かに大きなミスです。しかしその後、僕が油断しなければ、彼をここまで追い込むことはなかったんです」「でも、それは・・・」「それだけじゃありません。彼が警官になりたいって言ってきた時、僕が止めていたら・・・」「そんなにご自分を責めるのをおやめになってください」「しかし」「島さん、弟があなたに憧れていたのは事実ですわ、でもあの子はあの子なりに、このお仕事が好きだからこそ、選んだ道なんです、そうでしょ?」。

「そうですね、僕だってこの仕事が好きだからこそ、人に敬遠され、わけもなく嫌われながらも、今日まで続けて来たんです。でもね、あやこさん、森山は、あいつは警官にならなかったら、拳銃も持たなかったし、人を殺さずにも済んだんです」。

 加藤千秋の家の前。茂みに隠れて凝視している森山。完全にストーカーじゃないか! 家の中で母親とお茶を飲み談笑している千秋。思い詰めた表情の森山。別なところの茂みにはジーパンが張り込んでいる。

 真夜中、七曲署の門。亜矢子を送ってくる殿下。「どうも」「お気をつけて」。亜矢子を長さんが尾行する。殿下、捜査第一係に戻ってくると、ドアを開けてゴリさん「おう、殿下!タクシーがやられたぞ、拳銃強盗だ!」

 ゴリさんと殿下、覆面車で現場に急行する。「品川55あの5470。犯人が強奪して逃走中のタクシーは個人タクシー」と警察無線。「手配中のタクシーを発見、現在地・・・」。情報を聞いて、Uターンする覆面車。

 タクシー、猛スピードで走行。パトカーがサイレンを鳴らして追跡する。セキトラ・カーアクションプロによる緊迫のカーアクションが展開される。パトカーに続いて、ゴリさんと殿下のクルマもタクシーを追う。ゴリさんのクルマ、タクシーに追いつく。並走する二台のクルマ。デッドヒートが繰り広げられる。

 幅寄せをしてタクシーを停車させ、クルマから出てきたゴリさんと殿下、拳銃を構える。「拳銃を捨てろ!」ゴリさんの声が夜の闇にこだまする。タクシーから発砲!ゴリさん、相手の拳銃を持つ手を狙う。命中!「殿下!」タクシーに駆け寄る。「違う!」確保した男は森山ではなかった。

 朝、小田急線が高架を走っている。加藤家から出てくる千秋。ジージャンにジーンズのパンタロン姿。ジーパンが千秋を尾行する。

 森山のアパート。亜矢子が出勤の支度をして、出ようとする。電話が鳴る。「もしもし、ターちゃん!」。森山からだった。「どこにいるの?」。

 アパートの外では長さんが張り込んでいる。

「無茶よそんなの、お願いだから、やめて自首して頂戴!ターちゃん、千秋さんはね、初めっからあなたと結婚する気はなかったのよ」と亜矢子。電話ボックスの森山「うそだ、彼女は両親に反対されていただけだ!」「嘘じゃないのよ、千秋さんはね、初めっから、あなたをボーイフレンドの一人として」「違う、絶対に違う」「ターちゃん」「頼むよ姉さん、こうなった以上、今更、彼女と結婚できるとは思っていないさ、だけどその前に、彼女の口から、はっきりと聞きたいんだ。本当の気持ちを確かめたいんだ。でないと俺、死んでも死にきれん」「ターちゃん、あなたまさか?」「お願いだ姉さん、もう一度だけ、彼女と会えたら、必ず自首する、約束するよ、馬鹿な真似は絶対にしないって」。

 亜矢子は弟の一途な思いに、なんとかしてやりたい、という気持ちに・・・。長さん、アパートを見上げている。そこへ殿下の覆面車がやってくる。

 しかし、今回のシナリオ、かなり無理がある。動機が、千秋への愛、それも一方的な、というのも、現在の目で見たら、単なるストーカーだし。会話も説明台詞が多いし。カーアクションと冒頭の立てこもりのヴィジュアル、そして亜矢子さんの美しさだけで成立している会でもあり(笑)

 殿下「どうですか?」「どうやら今日、会社、休むらしいな、最も弟があんなことをしでかしたら、会社にも出ずらいだろうしね」。殿下、少し考えて「長さん、まさか?」「・・・自殺?」。顔を見合わし、アパートに駆け出す殿下と長さん。結構場当たりな展開だなぁ。

「亜矢子さん、亜矢子さん」とノックする殿下。しばらくするとドアが開いて亜矢子が出てくる。ほっとする二人。長さんは安心して階段を降りて、覆面車の中でタバコに火を付ける。

 殿下「会社辞めるんですか?」「いいえ、まだはっきり決めたわけじゃ」「やっぱり居づらいんでしょうね」と殿下。「弟は弟、私は私ですわ。(笑って)いちいち気にしたら、それこそ自殺でもしなければ」殿下は、亜矢子が何かを隠していることを察する。電話が鳴る。緊張する亜矢子。殿下に促されて受話器を上げる。

「ああ、恵子さん?その書類でしたら、私の机の2番目の引き出しに、ええ、じゃあよろしくお願いします」。ほっとする殿下。

 殿下、覆面車に戻る。「電話があったようだが」「聞こえたんですか?」「ああ、窓が開いてるとね、話し声はわからんが、ベルだけは聞こえるんだよ」。さっきの電話は会社からだったと殿下が説明する。

 亜矢子、アパートの窓から、覆面車の様子を伺っている。殿下が部屋を見上げると中から、中条きよしの「うそ」が流れてくる。長さん「歌謡曲だなぁ、ラジオか?」「ええ」そこへ電話のベルがなる。「また電話ですね」。しかしベルが鳴り続ける。

 部屋の中でラジオがつけたまま。亜矢子はいない、電話のベルがなり続けている。

 気づいた殿下と長さん。「表通りを探せ!俺は裏道を」と長さん。殿下、表通りまでクルマでいくと、亜矢子がタクシーに乗る瞬間だった。殿下、そのままタクシーを尾行する。タクシーは日比谷公園で亜矢子を下ろす。殿下も公園の中へ。誰かを探している亜矢子。殿下が見張っていると、そこへジーパンが現れる。やがて千秋が亜矢子の元へ。「ごめんなさいね、わざわざ呼び出したりして」と亜矢子。「お話ってなんでしょうか?」「実は・・・」。

 殿下とジーパン。池の反対側からその様子を見ている。千秋は憮然として踵を返してしまう。その様子を近くのベンチから新聞越しに見ていた森山。千秋の前に立ちはだかる。「森山さん!」。千秋の腕を強引にとって逃げ出す森山。「ジーパン!」殿下とジーパンが駆けつける。

 「助けて!」叫ぶ千秋。森山は強引に千秋を引っ張りながら走る。追いかけてきたジーパンを拳銃で撃つ森山。おいおい、めちゃくちゃな展開じゃないか!足を撃たれて、倒れるジーパン。森山は千秋の手を取り逃走。殿下「大丈夫か?ジーパン」「それより、早く森山を!」。殿下、ハンカチをジーパンに渡して「ほら」「早く、早く」。

 森山は千秋を無理矢理クルマに乗せて発進。なんと亜矢子が殿下のクルマのキーを抜いて、追いかけられないようにする。「何をする?」「お願いです。あの子を行かせてください」「ばかな」「お願いです」「何行ってるんだ」と亜矢子をクルマに乗せて、殿下も発進する。

 えー、なんだ?この展開。ご都合主義じゃないか。改めて見て、あまりの杜撰な構成にびっくり仰天。

 置いてけぼりのジーパンは、負傷した足を引きずって、公園事務所の赤電話からボスへ報告。ボス「あ、ジーパンか?なに?」

 逃走する森山のクルマ。千秋「お願い、降ろして!」「千秋さん、俺と一緒に来てくれ!」。バックミラーには殿下の覆面車!殿下がボスに報告する「虎ノ門を霞ヶ関方面に向かってます」「ようし」ボスがゴリさんと山さんに指示。「殿下、ジーパンの怪我は大したことないぞ!」「了解!」。ゴリさんと山さんも出動する。

 霞ヶ関を走る森山のクルマ。それを追う殿下の覆面車。「霞ヶ関交差点を左折します」と殿下。「なぜです?弟さんを庇いたい気持ちはわかります。しかし庇えば庇うほど彼の罪は重くなるんです」「わかってます」と亜矢子。「だったらなぜ?」「私たち二人っきりの姉弟なんです」。ってそれだけの理由なのか?

 森山首都高に入る。それを追う殿下。亜矢子は続ける「私がどんなバカなことをしたか、よくわかってます。でも、もう一度だけ、あの人にあわせてやりたかったんです」「会わせて何になるんです?彼女の心はとっくに森山を離れているんですよ、会えばなおさら惨めになるだけです」「ええ、でも太一の行き着く先は、もう決まっているんです、どうしてもあの子の希望を叶えてやりたかったんです」。

 松木路子さんが美しいから、アップの連続は嬉しいけど。今回はお話そのものが破綻しているので、緊張感も、哀れみも、人間ドラマも感じられない。「太陽にほえろ!」では珍しいこと。

 森山は千秋に「頼む、教えてくれ、俺がこんなことにならなかったら、俺と結婚してくれたのか?」。森山の顔を見る千秋。「結婚してくれたんだろ?な、両親さえ反対しなければ、OKしてくれたんだろ?」半べその森山。もうこれは典型的なストーカーの心理。純愛なんかではなく、思い込みを他者に押し付ける、最悪の心理じゃないか。

 千秋、無言のまま、空な表情。「頼む、返事してくれ!そうなんだろ?なぜ黙ってるんだ?言ってくれよ」。顔を逸らす千秋。「ちっきしょう!」車のアクセルを全開にする森山。

 永福町で降りると、検問のパトカーが立ち塞がる。森山「くそ!」検問を突破!殿下の覆面車が追いかけてゆく。

 廃工場。森山のクルマが入ってくる。クルマを降りた森山、千秋に「来るんだ!」と建物の中へ。殿下と亜矢子もやってくる。クルマを停めた殿下、亜矢子に「ここを動かないでください」「待ってください、私が自首するように勧めます」「あなたを危険な目に遭わせるわけには行かない」「危険?」「彼はたった今、現職の刑事を撃った男です」「だからって、姉の私を・・・」。殿下、拳銃の弾を確認する。亜矢子「弟を撃つ気ですか?」「抵抗すれば撃ちます」。

殿下は拳銃を手に、建物の中へ。

「来るな!近づくと撃つぞ!」
「森山!おとなしく人質を離せ!」
「先輩!」
「森山!離すんだ!」

 千秋「助けて!」と叫ぶ。「黙れ!」「そっちへ行くぞ」「来るな!」発砲する森山。殿下は怯まず階段を上がっていく。銃声を聞いた亜矢子はクルマから降りる。そこへゴリさんと山さんの覆面車が到着。ゴリさん「ここへ居てください」と言い残して工場の中へ。

 ゴリさんたちの足音にハッとなる森山。「これ以上てこずらせるのはやめろ!」と殿下。そのタイミングで、千秋が森山を階段から突き落とす。逃げる千秋に、「貴様!」と拳銃を向ける森山。純愛もどこへやらの最悪の男! 屋上に駆け上がる千秋、追いかける森山「止まれ!とまらんと撃つぞ!」と銃口を向ける。その時。殿下が屋上へ到着。

「森山!」殿下は容赦無く森山に銃を向ける。「撃ってください。でもその前に、この女を殺しますよ」もはやメチャクチャな森山。緊張の時を迎える。ゴリさん、山さんも屋上へ。ゆっくりと歩いてくる殿下に「止まるんだ!先輩、それ以上近づくと、本当に女を殺す」

「殺す? お前はそんな言葉を簡単に言うようになったのか?だから俺を殴り、刑事を撃った」「先輩、違うんだ、俺はこの女に・・・」「余ったれるんじゃない!貴様それでも警官か、人の命を何よりも守る警官なのか?」「うるさい、やめてくれ!」

 山さん、サングラスを外す。ゴリさんの顔。千秋の顔。「もうどうなってもいいんだ、殺してやる!」森山は千秋に近づく。殿下「森山!お前にその人が撃てるか?お前にその人が殺せるか?一度はお前が愛し、お前を愛してくれた人だぞ!」「撃てるさ!」「森山!」。スローモーションになる。

千秋に向かって銃口を向ける森山。
千秋の顔。
殿下の声「お前にその人が殺せるか?一度はお前が愛し、お前を愛してくれた人だぞ!」
千秋の顔。
銃鉄に指をかける殿下。
泣きそうな森山。
そこに亜矢子が上がってくる。
殿下、拳銃を下ろす。
慟哭する森山。ゆっくりと銃を下ろす。

「先輩、僕を撃ってください、お願いです。僕を殺してください」。ゆっくりと殿下、森山に近づく。両手を差し出す森山。「先輩・・・」。泣き出す千秋。うなづく山さん。ゴリさんの顔。嗚咽する亜矢子。殿下、悲しそうな顔で手錠をかける。安堵する亜矢子。

 七曲署。亜矢子を見送る殿下。「田舎へ?」「ええ、叔父が仙台の近くに住んでいますので、弟の刑期も決まりましたし、面会にいくのにもあちらの方が近いので」「じゃ、もう東京へは?」「ええ多分(空を見上げて)向こうはまだ空が青いんですって、私きっと太るんじゃないかと思いますわ」「亜矢子さん、僕は・・・」「色々、お世話になりました」頭を下げて歩き出す。「亜矢子さん」「島さん、あの日はあなた見事な刑事さんでしたわ、でも、あの時あなたが撃とうとなさったのは、私のたったひとりの弟だったんです。もし、もしも、あなたも弟も警官でなかったのなら・・・」「僕は・・・」「失礼します」去ってゆく亜矢子。

しかし、身勝手な姉妹だな!

 捜査第一係。ボスが窓の外を見つめている。殿下が戻ってくる。「デカやめたくなったか?」「いいえ」。満足そうにうなづくボス。笑顔の殿下。「さて、お茶でも飲みますか? あれ、みんなどこへ行ったんですか?」「なにモタモタしてんだ!質屋の強盗事件でみんなてんてこまいしてんだぞ!」「はい、行ってきます」。


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