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『クレージーだよ天下無敵』(1967年1月14日・東宝・坪島孝)

深夜の娯楽映画研究所シアターは、東宝クレージー映画全30作(プラスアルファ)連続視聴。

16 『クレージーだよ天下無敵』(1967年1月14日・東宝・坪島孝)

クレイジーにとっても植木等さんにとってもいろんな意味でエポックとなった昭和42(1967)年1月14日、正月第二弾として封切られた『クレージーだよ天下無敵』(坪島孝)をアマプラの東宝チャンネルでスクリーン投影。


この『天下無敵』は、テレビの地上波(とは当時言わなかったけど)でのリピート回数が結構多く、子供の頃から繰り返し見ていた。「無責任一代男」や『ニッポン無責任時代』(1962年)の青島幸男イズム、古澤憲吾演出による「常軌を逸した無責任男の問答無用のパワー」を期待すると「あれれ?」となってしまうのは、小林信彦センセによる「クレージー史観」によるところが大きい。が、中学生のときにテレビ放映を観て「なんか違う」と訳知り顔でいた。

しかし歳を重ね、娯楽映画研究を続けるうちに「ああ、これは面白さの質が違うんだ」と気付いたのが二十代後半。坪島孝監督と谷啓さんのコンビネーションによる『クレージーだよ奇想天外』(1966年)に魅了されてからのこと。坪島監督のクレージーの活かしかたは、古澤監督の対極にあったのだ(笑)つまり、子供の頃「違うんだよなぁ」と思った部分こそが、坪島作品の魅力でもあった。

この『〜天下無敵』は、古澤監督の『クレージー大作戦』の反省を踏まえて、渡辺晋さんと、田波靖男さん、坪島孝監督が打ち合わせしているときに「エノケン映画って面白かったよね」という話になり、坪島監督が広島での10歳ぐらいの頃に夢中になった『エノケンの頑張り戦術』(1939年・東宝・中川信夫)の話になった。

エノケンこと榎本健一さんと、如月寛多さんのサラリーマンの同僚が、ライバル意識剥き出しで、何かにつけて張り合い、ぶつかり合う。社宅も隣同士で、その争いがどんどんエスカレートしていく。というナンセンス喜劇だった。

そこで同作を、東宝の試写室で参考上映。渡辺晋さんが「これで行こう」と、『頑張り戦術』のプロットをクレージー映画に換骨奪胎。エノケン=植木等、如月寛多=谷啓に置き換えて「神武以来のライバル」で、先祖は宮本武蔵(植木)と佐々木小次郎(谷)、現代は全学連(植木)と機動隊(谷)だったと、先祖伝来のライバル史がアバンタイトルで展開。

これがなかなか面白く。当時のテレビのバラエティのコントのような植木さんと谷さんのノリが楽しい。そう、坪島作品での植木さんは「シャボン玉ホリデー」などのテレビバラエティのコントのノリ。だから本作でもステテコ腹巻、カンカン帽のお馴染みのスタイルで登場したり。

トヨトミ電機の猿飛三郎(植木)と徳川ムセンの犬丸丸夫(谷)は、先祖伝来のライバル。お互い「現代の忍者」として、ライバル会社の新製品の情報を探り合っている。前半は、ほぼ『頑張り戦術」を意識していて、些細なことから喧嘩がエスカレートしていく二人のバトルを積み重ねていく。

ヒロインは、植木さんの相手役に『日本一のゴリガン男』(1966年)から三作品連続出演の野川由美子さん。谷啓さんの相手役に『〜奇想天外』(1966年)でチャーミングな芸者を演じた高橋紀子さん。野川さんは、徳川ムセンの専務(東野英治郎)秘書で、大映の「産業スパイもの」のような設定だけど、坪島演出はさほど「非情のライセンス」感がないのがいい。監督は性善説なので悪役は出しても悪人は出さないので。

そこへ国際的な産業スパイ組織のエージェント、魚住真奈子(北あけみ)が接近してきて、両社で開発している「立体テレビ」の設計図を、色仕掛けで奪おうとするが…

主題歌「みんな世のため」(作詞・阪田寛夫 作曲・萩原哲晶)はタイトルバック。犬塚弘さんのトラック運転手をノセて、ただで引っ越しをしてしまう植木さんが荷台で唄う。谷さんは夜のアパートの前で「プンプン野郎」(作詞・河野洋 作曲・山本直純)を唄うが、このアパートは『〜奇想天外』で谷さんが住んでいたアパートと同じ場所でロケーション。植木さんと谷さんが、産業スパイに追われて、テレビ局のスタジオへ乱入して唄う「それはないでショ」(作詞・塚田茂 作曲・植木等)も楽しい。あと、「シビレ節」(作詞・青島幸男 作曲・宮川泰)を野川由美子さんが口ずさみ、谷さんがレコードをかけるシーンがある。

この年、クレージーはアメリカ縦断ロケへ。坪島監督が「撮っても撮っても終わらない」とヘトヘトになった157分のゴールデンウイーク超大作『クレージー黄金作戦』(1967年4月29日)に取り組むこととなる。


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