見出し画像

太陽にほえろ! 1974・第88話「息子よ、お前は……」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第88話「息子よ、お前は……」(1974.3.22 脚本・小川英、田波靖男、四十物光男 監督・竹林進)

永井久美(青木英美)
西山署長(平田昭彦)
宮崎和命
セキトラ・カーアクション
池谷(矢野間啓二)
西山幸男(福沢良・のちの福沢良一)
佐々木睦雄
大和田由紀
林寛一
金子富士雄
記者(鹿島信哉)
石川隆昭
西山夫人(南風洋子)
本庁人事部長(幸田宗丸・NC)

予告篇の小林恭治さんのナレーション
「ある夜、ひき逃げ事件が発生した。被害者は黙秘。単なる事故か、それとも? 捜査の過程に意外にも西山署長の息子が浮かんだ。必死に真相究明にあたる七曲署・署員。しかしマスコミ世論の罵倒は激しく、警察当局の失態を追求してきた。次回「息子よ、お前は……」どうぞ、ご期待ください」

 これまでボス・藤堂俊介(石原裕次郎)と対立していた、官僚の塊のような「事なかれ主義」の西山署長(平田昭彦)がメインの佳作。息子を演じているのは「ウルトラマンタロウ」の主題歌を歌っていた武村太郎こと福沢良(のちに良一)さん! 久しぶりに平田昭彦さんの芝居がタップリと楽しめるし、クライマックスは関虎実さん率いる「セキトラ・カーアクション」による壮絶なカーアクションが楽しめる。裕次郎さんVS平田昭彦さん。二人の映画俳優の丁々発止は見もの!

 午後9時、堀川町2丁目の要通り。男が自動車にひき逃げされる。現場で発見された被害者の腕時計は9時10分で止まっていた。身分証明書はなく、氏名住所、年齢、いずれも不明。推定年齢は30歳。現場は、前後150メートルに及ぶ直線道路で、見通しが良いため、運転者が歩行者に気づかない訳はない。現場には急ブレーキの跡はなく、歩行者の飛び出し、運転者の脇見、もしくは飲酒運転の可能性が考えられた。

 捜査第一係。ジーパンは「よっぽど腕に自信があって避け切れると思ったのでは?」。跳ねた後にもブレーキを踏んだ形跡がない。飲酒運転なら朝になって車を見ればわかるはずだと殿下。避け切れると過信していたとしても、跳ねたあと、急ブレーキを踏むはず。山さん「非常に悪質なケースだね」と呆れている。腕時計から検出されたクルマの塗料は、梅田ペイント社製のWタイプ、色はアイボリーホワイトと、長さんが報告する。ボスは塗料の割り出しにかかるようにと指示を出す。

 そこへ西山署長(平田昭彦)が入ってきて、一方的に「生ぬるいよ。そんなやり方は、藤堂くん。ひき逃げは凶悪犯罪だ。人殺しも同じだ。車の割り出しももちろん必要だが、即刻検挙の気構えでビシビシやらないと効果は上がらんよ」「怪しい奴がいたら、別件でもいいから、即刻逮捕するように。捜査は理屈じゃないんだ。いいな」と刑事たちに檄を飛ばす。そんなこと言ってて大丈夫なのか? 

 ボスは、意に介さず、被害者を跳ねたクルマは位置関係から、ボンネットか左のフェンダーに傷があるはずだ。「そのクルマが修理に出される前に、急いでくれ」と的確な指示を出す。田波靖男さんの脚本らしい、西山署長とボスのわかりやすい対比。

 修理工場の事務所、殿下が聞き込みをしている。別な工場ではゴリさんが作業員に話を聞いている。中古車ディーラーのオーナーに、購入者について聞き込みをする長さん。小さな町の自動車修理工場で、修理中のクルマを覗き込むジーパン。「何してんだよ!」と作業員・池谷(矢野間啓二)がジーパンに声をかける。演じている矢野間啓二さんは、「青春とはなんだ」(1965年)に始まる日本テレビ「青春学園シリーズ」では、長期に渡って生徒役で出演してきたお馴染みの顔。竜雷太さんの「これが青春だ」「でっかい青春」にも出演。以前、犯人役で出演していた木村豊幸さんと凸凹コンビを組んでいた。また子役時代には、裕次郎さんと日活映画『白銀城の対決』(1960年)でも共演している。かくいう筆者も昔からお世話になっている名バイプレイヤーである。

「七曲署のもんだが」と警察手帳を見せるジーパン。修理中のクルマがいつからここにあるのかを、池谷に訊ねる。昨日の夜10時ごろに運び込まれたと池谷。「何かあったんですか?」「ということは、ここは夜も開いているのか?」。馴染みの客に修理を頼まれたという。客の名前は西山幸男。ジーパンは池谷に連れられ、幸男の行きつけのジャズ喫茶へと案内される。そこへ「やあ!」と入ってきたのが西山幸男(福沢良)。「クルマ修理できたんですか?」と池谷に訊ねる。そこでジーパン「西山幸男だね」「あなたは?」。その時、池谷は「仕事があるから」と出ていく。ジーパン、警察手帳を見せて「ひき逃げの容疑だ」。

 西山幸男を演じている福沢良さん(のちに福沢良一)は、いずみたくさんに師事したミュージカル俳優。僕らの世代ではTBSの公開番組「ぎんざNOW」の司会や、武村太郎名義で歌った「ウルトラマンタロウ」主題歌でお馴染み。もちろんカップリングの「ウルトラ6兄弟」も歌っている。TBS「刑事コジャック」主題歌「都会の片隅で」は福沢良名義で歌っている。



 捜査第一係。山さんが無線に出ている。「証拠のクルマもこっちへ着くころだ、ご苦労さん」とジーパンの労を労う。そこへボスが戻ってくる。ジーパンが容疑者を見つけたこと、状況証拠が揃っていることを報告。「へえ、署長のハッパが聞いたかな。で、容疑者は?」「東南大学の学生で、西山幸男19歳。未成年者ですね」。それを聞いたボス「なんだと?もう一度、今の名前言ってくれ」。若大将映画の呼吸というか、田波さんのホンは娯楽映画のツボを抑えている。まさか署長の息子?という顔をする山さん。慌てて署長室に向かうボス。

 署長室。「倅のクルマ? うん、確か白っぽかったな。それがどうしたんだね?」「昨夜、お宅にクルマありましたか?修理に出していたんじゃありませんか?」とボス。「藤堂くん!」「西山幸男という19歳の東南大学の学生が、昨夜のひき逃げ事件の容疑者として、もうじきこちらへ連行されてきます」「なんだと!バカな!連行だと!」憤慨する西山署長。ひき逃げだから「太陽にほえろ!」だが、西山署長のポジションは青大将のパパであり、息子の狼藉にビックリする若大将の父・有島一郎さんと同じ!「私の息子を犯人に仕立てる気か?」

 七曲署。ジーパンが西山幸男を連行してくる。「グズグズすんなよ! 俺はな、グズと署長の小言は大嫌いなんだよ!」。ここ笑うところ。玄関へ久美がやってきて「柴田さん」と言いながら幸男に微笑んで挨拶する。「あんたたちお知り合い?」「ばかね、署長さんの息子さんよ」「署長?これが?冗談、また(笑)」とジーパン。ここも笑うところ。「嘘だと思うんなら、本人に聞いてみなさいよ」「本当ですよ」と微笑む幸男。

 署長室。西山署長、イライラしている。あんなことを言った手前、しめしがつかないのだ。そこへジーパンが幸男を連れてくる。

「幸男、災難だったな。どうしてこんなことになったのか、わからんがね。多分、お前のクルマと同じ車種のクルマが同じ晩に事故を起こしたんで、間違われたんだろうな。な、幸男、お前が事故を起こしたのは、どこだ?」
「・・・」
「幸男、どうしたんだ?なぜ黙っている?」
「・・・」
「幸男、これは何かの間違いだ。そうだろ?」
「間違いじゃないよ。そうだよ、僕が、僕がやったんだよ。人を轢いて逃げたんだ」

 西山署長、大ショック! 幸男は父親を睨むように見つめ、しばらく無言の署長。その二人をじっと観ているボス。「なんてことを・・・」。ボス立ち上がり「署長、弁護士をお呼びになりますか?息子さんだからといって、特別扱いには出来ません」。取調室に連行するようにジーパンに指示を出す。部屋を出て行こうとするボスに「藤堂くん。人を轢いて逃げるなんて、そんなバカなことをする子じゃないんだ。魔がさしたというか、おそらくやってしまったことに逆上して・・・」。息子の弁護を懸命にする署長。

「いいかね、藤堂くん。私はこの事故は、被害者との話し合いで示談にしたいと思っている。異論はあるかね?」
「私は、事実だけを尊重するつもりです。署長の名誉と御子息の将来のために、それが一番、大切なことじゃないでしょうか?」

 取調室。山さんとジーパンが、幸男を取調べ。「渋谷区本町1−15ー4 西山幸男19歳」それ以上は話さない。幸男は黙秘権を行使する。「ちゃんと話せ!」言葉を荒げるジーパン。「新聞に出てたでしょう? あの通りですよ」「法学部だったな君は? ならわかるだろう? そういう態度を取っても、君に一つも有利にはならないのだよ」と山さん。「でも、特に不利にもならないはずです。それに、僕は未成年です。僕をどうするか決めるのは、警察ではなく、家庭裁判所でしょう? よほどのことがない限り、未成年者を罪人にすることはできないんでしょう」。かなり狡猾な男である。少年法の壁である。「恥ずかしくないのか、お前は!署長の息子のお前が、人をひき逃げするなんて」とジーパンは苛立っている。「するとお前、お前が逃げたのは、お前の親父が署長だったからか?」。ニヤニヤする幸男。ジーパンの怒りのボルテージがどんどん上がってくる。

 捜査第一係。山さんがボスに、完全な黙秘をされていることを報告する。「法学部だけあって、なかなかしぶといですな。それより、どうもちょっと気になることがあるんですが」。山さんの観たところ幸男はかなり神経質で頭脳明晰、しかし重症の被害者の容態について、まるで気にも留めていない。傷害と殺人では、罪状に大きな違いがあることを知らないはずはないのに。「なるほど、そいつはちょっとばかり妙だな」とボス。

 救急病院。西山署長が被害者の元へ。面会謝絶で危険な状態が続いていると看護婦に言われても「患者の容体を確認するだけだから」と西山署長。意識不明の被害者、西山署長の頭の中で事故の瞬間のイメージ。「そうだよ、僕が、僕がやったんだよ」と幸男の言葉がリフレインされる。「人を轢いて逃げたんだ!」。署長の心の声「幸男が人身事故、しかも轢いた後に逃げた。署長の息子が・・・」

 西山邸。殿下が来ている。電話が鳴り、西山夫人(南風洋子)が出る。署長からだった。「驚くなと言っても無理だろうが、実は大変なことが起きてな」「知ってます。今、あの、一係の方が見えて、幸男のこと、いろいろ」「そうか、うちにも来たのか。いや、心配いらん、私がなんとかするからな」って、それはダメだろう。職権濫用になるよ。

 西山夫人を演じている南風洋子さんは、宝塚歌劇団36期生で、退団後は新東宝映画に出演後、昭和34(1959)年劇団民藝に入る。裕次郎さんとは日活映画『銀座の恋の物語』(1962年・蔵原惟繕)で、浅丘ルリ子さんが勤める洋裁店・銀座屋のマダムとして共演している。

 殿下は西山夫人に、幸男の前日の行動について訊ねる。大学の講義が休講になって、一日中、家でブラブラしていて、夕食を済ませてから出かけた。夜の7時過ぎだったと思う。殿下が「車で出かけたんですね」と訊くと涙ぐむ西山夫人。

 池谷の自動車修理工場。ジーパンとゴリさんが来ている。しかし池谷は不在。ジーパンは「彼の証言をもう一度確認したいだけ」と同僚に告げる。「でもね、あいつ帰ってくるかな?」。昼頃ジーパンと一緒に出て行ったきり戻っていないのだ。

一係。ボスが電話でジーパンの報告を受けている。
「なに?消えた? おいジーパン、それは何かあるぞ」
「なにかって? やつも共犯ってわけですか?」
「いいからすぐ、池谷の足を追え」

ジーパンはゴリさんと共に、工場の近くの池谷のアパートへ向かう。

 池谷の部屋。レースで優勝した時の写真がパネルとして飾られている。「あの男、元はオートバイのレーサーだったらしいっすね」とジーパン。「元レーサーか。じゃ、結構モテただろうな」とゴリさん。「あの顔で」ジーパンの一言がおかしい。ゴミ箱から、バー「桂」のマッチがいくつか出てくる。「ゴリさん、ひょっとすると馴染みの女がいるかもしれないっすよ」

 取調室。山さんは「普通の人間が人をはねたら、はねた男がどうなったか、いてもたってもいられないほど気になるはずだ。ところが君は、はねた時もブレーキ一つふまず、つまり、相手の生死も確かめなかった上に、今もなお、気にしていない。これはどういうことかね」と幸男に訊ねる。人間一人の一生が終わるかどうかの瀬戸際にいるんだよと山さん。「しかし、そう聞かされても、君は少しも動じない。つまり君は人の心を持たない化け物なのか、それとも本当は人などはねていないのか、そのどちらかだ」「・・・」「法律を勉強しても、法に背いた人間の気持ちはわからないようだな、幸男くん。君はさっきから、必死になって平気な顔をし続けているがね、罪を犯した人間てのは、そんな顔をしていないんだよ。泣くやつもいる、喚くやつもいる、笑うやつもいる。腹を決めた人間、開き直った人間てのはそういうもんだ。平然としている奴は、まだどこかに嘘を持っている。これは理屈じゃない。長年の私の勘でね」。幸男の額に汗が流れている。ハンカチを差し出す山さん。「汗を拭きなさい」。

 ハンカチで額の汗を拭う時に、何かチケットの半券のようなものが落ちる。咄嗟に足でそれを隠す幸男。「そう、それでいい。いい若いもんが、暑くもないのに脂汗を浮かべてるなんてのは、観てるこっちだって楽しくないからね」。山さん立ち上がって「ところで、靴の下に隠したものを見せてもらおうかな」と幸男の足元からチケットの半券を拾う。800円。映画の半券である。日付は昨日のもの。

 池谷の女のアパート。ジーパンとゴリさんが訪ねる。「誰?」「速達個包ですが」とジーパン。部屋の中に池谷がいた。「池谷、話がある」とジーパン。しかし池谷は窓から逃げ出し、下に止めてあったバイクで逃走。ジーパン、二階からジャンプ! そのまま走ってバイクを追いかける。「ジーパン、乗れ!」ゴリさんが覆面車にジーパンを乗せ、発進! 新宿十二社あたり。甲州街道をバイクで進む池谷を追跡する覆面パトカー。やがて池谷のバイクは歩道に乗り上げ、階段を登って新宿西口ビル街の方へ。

 捜査第一係。ゴリさんとジーパンがボスに報告。「申し訳ありません。せっかく追い詰めながら・・・」「まあ仕方ないさ、相手は元レーサーだ。本庁にも緊急司令を頼んだ」。ジーパン「ボス、こうなると犯人はどっちなんですかね?」。ボスは幸男の映画の半券を見せる。「幸男くんが昨日、クルマで家を出たのが夜の7時だ。そして11時近くに、クルマなしで帰宅した。この映画の最終回は、夜の7時半から10時10分までだ」「それじゃ、彼は犯行の時間には映画を?」「証拠はない、だが、その半券を、彼は隠そうとした」。ジーパンは「じゃ、彼は、池谷を庇おうとしたんですか?」「おそらくな」とボス。そこへ久美が「大変よ!」と慌てて入ってくる。「ブンやさんたちが署長を吊し上げて」。立ち上がり、署長室に向かうボス。

 署長室。「容疑者は息子さんなんでしょ?」「なんとか言ったらどうなんですか?」怒号が飛び交い、顔面蒼白の西山署長。そこへボスが入ってくる。「さあ出て」と制止するボスに記者がたたみかける。「あんたもそうなのかい。署長の息子は特別扱いなのか?」黙っていた西山署長、立ち上がり、「よろしい、私から話そう」。

「諸君の言う通りだ。ひき逃げ事件の容疑者として、今、取調べを受けているのは、私の息子の幸男だ」。ボスは署長の顔を見る。「自分の息子だからといって、特別に扱うようなことは、絶対にいたしません。とかく遠慮がちになる部下の諸君を叱咤して、厳しく取調べを行い、捜査を全うさせるとのが、私の責任ある態度だと、かように判断いたしまして・・・」。署長、ボスの顔をみる。「ここにいる藤堂くんにも、厳重に申し渡している次第です」。さらに詰め寄る記者たち。ボスが口を開く。「署長の今の話は事実です。確かに我々は、息子さんを取調べている。しかし、このことは新聞に書かないでもらいたい」。記者たちは「汚いよ藤堂さん」「報道の自由はどうなるんだ?」とさらにヒートアップ。

「藤堂くん。私を庇ってくれる気持ちはありがたいんだが、それでは却って私が困る。ここは全てを包み隠さず・・・」
「署長は黙っていてください。
(記者たちに)幸男くんの罪は確定したわけじゃない。しかも未成年だ。たまたま父親が警察署長だからと言って、興味本位に書くのはそっちが汚いんじゃないのか?」詰め寄る記者たち。「しかし、私は断言する。この私の要請を無視して記事にした新聞には、私は今後一切協力はしない。」

「署長、幸男くんは逃走の恐れもないんで、刑事と一緒に、一応、身柄は署長にお預けします。取調べは明朝9時から再開しますので、よろしく」。ボスは記者をかき分けて署長室を出ていく。

 ボスが捜査第一係に戻ってくる。しかし誰もいない。久美によれば、みんな池谷の行方を探しに行き、山さんは被害者が意識を取り戻したので病院へ。しかし被害者の様子がおかしい。意識が戻って、記憶喪失でもないのに、どうしても自分の名前を言わないという。「どういうことだ、それは」とボス。

 病室。山さんが座っている。「刑事さん、そうやっていくら粘っても無駄ですよ。俺は何も話したくないんだ。俺のことも事故のこともね」「その事故で無実の若者が罪を問われていても?かね」「無実?そんなことぁ知らねえな。俺はあん時、相手の顔なんかみなかった・・・」帰ってくれ、無駄だからと被害者。しかし山さんは「気にするなよ、俺はこうしていたいから、こうしているんだ」。

 西山邸。署長夫妻と幸男。リビングでダンマリ。沈黙を破って署長「幸男、一体どうしたと言うんだ」ときつい父親。「私はお前を責めやしないわ。お前のしたことは私たち、みんなの責任ですものね。だから正直に何もかも話して頂戴。どうしてその時、すぐに話してくれなかったの?」泣き崩れる母親。新聞は藤堂くんが抑えてくれたし、被害者も命を取り留めたし「うまくいけば、内々で話が着くかもしれんぞ」と署長。幸男の形相が変わり「父さん、結局、父さんの言いたいのはそれだけなんだね!どうすればうまく誤魔化せるか、うまく父さんが傷付かずに済むか、それだけなんだね!」と言い放ち、部屋を出ていく。

「なんてやつだ全く。こんなことを起こしながら、親を批判する気か! 私が、私が署長でいるために、どれほど苦労してるか、何一つわかりもせんくせに」と茶碗を床に叩きつける。やれやれ、何にもわかっちゃいないね署長は。しかし、これほど激しい芝居をする平田昭彦さん、これまで映画でもドラマでもそうそうなかった。

深夜1時過ぎ。まだ一係のデスクに座っているボス。

リビングで無言の西山夫妻。署長の心の声「辞職、辞職するしかない・・・」

被害者の病室で粘る山さん。被害者、ふと目をさます。「刑事さん、まだいたんですか?」「気にするな、と言ったろ? あんたは病人だ、寝た方がいい。ただな、胸ん中の病気も早く直した方がいいぞ。あんたの年なら、まだまだ人生は長いんだからな」

ゴリさんは深夜たまっているレーサー族に聞き込み。
長さんは深夜喫茶で張り込み。

 やがて朝がくる。被害者の病室。「負けたよ、刑事さん」「聞こうか」。「あれは事故ではない、俺を殺そうとしたんだ。俺は覚醒剤の売人だ。最近、取引相手を変えた。儲けの多い方に乗り換えたんだ。多分、そのためだろう」「元レーサーの池谷って男を知らないか?あんたを殺そうとしたのは、多分、そいつだ」「知らないな。しかし薬を渡さんと言えば、殺しぐらい引き受ける若い奴はいくらでもいるよ」。

 捜査第一係。全員が揃ってボスと捜査会議。池谷の女も、彼が覚醒剤の常用者であることを認めたとゴリさん。密売ルートを徹底的に洗えば池谷の名前が出てくるだろうと殿下。「ああ、そう言うことだろう。今の所部外秘だが、狙いは池谷に切り替える、すぐにかかってくれ」とボス。そこへ久美が慌てて入ってくる。手にした新聞をボスのデスクに広げる。

「警察署長の息子がひき逃げ しかも幹部が秘密工作 お粗末警察に怒りの声」と見出しが踊っている。憤りを感じる山さん、ジーパン、殿下、長さん、そしてボス。「まあ待て、俺は約束を守る。この新聞には今後一切、協力はせん。だがな、その前にここを見てみろ」と新聞を指さす。

「一命をとりとめた被害者 犯人の顔は見ていないと語る」。山さん「さすがだね、俺が駆けつけるよりも、これだけ取材したと見える」「ますます悪いですね。この新聞を読んだ限りでは、犯人は幸男くんに決まったとみえる」とゴリさん。しかしボスは「同じことを池谷も思うだろうな」「ここで幸男くんの口を塞いでしまえば、おそらく犯人は池谷だという証拠がなくなる、奴ならやるでしょうな」と山さん。

「方針を切り替える。全員、西山家を張るんだ」

 西山邸。電話が鳴り、幸男が出る。池谷からである。「新聞読んだよ。あんたなんで俺にクルマを貸したことをしゃべらなかったんだい?」「ただ親父の警察なんかに売りたくなかったからさ」池谷は言葉巧みに「オールズ・モービルのすごいのがあるんだ。出てこいよ」と幸男を誘い出す。支度をして出かける幸男に「どこへ行く?」と署長。「9時から取調べ再開だからね。父さんも容疑者と一緒にご出勤じゃ恥ずかしいだろう?」「今の電話、誰からだ?」「仲間さ、じゃ」と出ていく幸男。

 幸男を尾行する西山署長。ゴリさんとジーパンの覆面車が発進。それに続いて、山さんとボスの覆面車が動き出す。瀟洒な住宅街を抜けて、たばこ屋に立ち寄る幸男。署長の姿をそこで見つけてニヤリと笑う幸男。署長、慌てて隠れるがもう遅い。幸男は全速力で走り路地に隠れる。息子を追う署長は、そのま真っ直ぐ住宅街へ。「幸男・・・(署長の心の声)」そこにゴリさんとジーパンの覆面車がやってきて、署長を乗せる。「息子さんは無実です」とゴリさん。

 新宿駅西口。幸男が立っている。そこへ池谷のクルマがやってきて、幸男はそれに乗る。微笑みを交わす二人は相当親密な関係のようだ。山さんのクルマに乗ったボス、無線で「長さん、スタートだ」「了解」。長さんの覆面車が発進する。

 池谷のクルマ。「どこへ行くんだ?」と幸男。「心配するな、あんたは命の恩人だからな。お礼がしたいんだ」「俺だって、いつまで嘘がつけるか、わかんないし・・・」「ま、いいさ、とにかく受けてくれよ、俺の感謝を」。池谷のクルマは郊外に向かって走る。多摩川の河川敷で、池谷のクルマを追い詰める七曲署の面々。三方向にクルマを寄せられ、身動きが取れない。しかしドライブテクには自信のある池谷、なんとか抜け出して逃走。「太陽にほえろ!」では久々のカーアクションが展開される。河川敷での壮絶なカーアクション。クルマ同士がぶつかり、デッドヒートを繰り広げる。関虎実さん率いる「セキトラ・カーアクション」スタントチームによるクライマックス、小学生の頃、大興奮だったことを覚えている。ハリウッドには遠く及ばないけど、ボス、ゴリさん、山さん、ジーパンたちがこのクルマに乗っているかと思うと、見ていて、相当に力が入った。のちの「西部警察」ではよく観る光景となるが、この時は本当に驚いた。ちなみにセキトラ・カークションは、「太陽にほえろ!」のほか、杉良太郎主演「大捜査線」(1980年・CX)などのカースタントも手がけている。

 「橋桁に追い込む。両サイドから詰めてくれ」とボスの指示も的確だ。ゴリさんとジーパン車、長さん車が池谷のクルマを追い込む。クライマックスではゴリさん車がジャンプ!派手なコーナリングで回り込み、池谷のクルマを両サイドからガッチリと挟む。「このクルマで正面を押さえる。両サイドを開けるなよ」とボス。カッコいいね。「奴は突っ込むつもりですよ」ハンドルを握る山さん。「まだだ、思いっきり引き寄せてくれ」とボス。逃げ場を封じ込み、池谷は追い詰められる。池谷は幸男を人質にしてクルマから出る。ボス、山さんが追いかける。「署長、ここにいてください」とゴリさん。ジーパン、長さんも池谷を追う。もちろん西山署長もいても立ってもいられないので走り出す。

「父さん!」幸男が叫ぶ。池谷、拳銃を幸男に突きつけ「来るな!こいつを殺すぞ!」
「池谷、拳銃を捨てろ!」と銃を構えるボス。
「来るな!」ボスたちに向け、銃を乱射する池谷。
「何もかもわかっているんだぞ、池谷。あのひき逃げが、お前のやった殺人未遂だってこともな」とボス。

 それを聞いてハッとなる幸男。しかし池谷には、開き直って幸男を人質に徹底抗戦。西山署長、ボス、ジーパン、ゴリさん、長さんたちがゆっくりと池谷に近づこうとする。幸男の頭に拳銃を突きつけて砂利の山を上がる池谷。背後から西山署長が飛びかかる!さすが父親!「署長!」ボスが叫ぶ。池谷と揉み合う署長。拳銃を持つ手を押さえ込もうと必死だ。その姿をじっと見ている幸男。そこへジーパンが飛びかかり、池谷の右腕を蹴り拳銃を手放させる。ジーパンが池谷を起こしてパンチ。山さんが池谷を取り押さえて逮捕。ゴリさんが署長を助ける。

「署長、大丈夫ですか?」とボス。
「ああ、どうやらな」と署長。

 署長、ゆっくりと幸男に近づく。「父さん。どうしてだい?どうしてそんなに危ないことを?」「・・・」「俺のため?俺のために?」「幸男、お前、この私をどんな怪物だと思ってたんだ?」「そうじゃない。俺、俺はただ知りたかったんだ。俺がひき逃げの犯人だと知ったら、親父がどうするか?親父がどんな人なのか?本当のことが知りたかったんだ!」「幸男、確かに私は完全な人間じゃない。嘘もつく、虚勢も張る、お前に対しても多分、そうだったろう。私に言いたいことがあったら、なんとでも言え、なんとでも罵れ、それが本当のことなら、私も耐えよう。だがな幸男、それはお前と私の間のことだ。私はお前の父親であると同時に、警察署長だ。お前が今度したこと、黙って許すわけにはいかんのだ」

 父親を見上げる幸男。「立ちなさい」。ゆっくりと立ち上がる幸男。二人を見つめるボス。署長、渾身の力をこめて息子を殴り飛ばす。目に涙を浮かべながら嬉しそうな幸男。署長の顔もほころぶ。ボス、山さん、ジーパン、長さん、ゴリさんの優しい顔。「お父さん」。笑ってうなづき、息子を抱き寄せる西山署長。父子の確執が融和した瞬間。

本庁人事部。「それで、西山くん」と本庁の人事部長(幸田宗丸・NC)。
「は、父親として、署長として、誠に不徳の致すところで、弁解の余地もありません。これ以上、署長の椅子を汚してるのは、七曲署の名誉にも関わると思いますので」と辞表を出す。
「辞表か、西山くん、今朝の毎朝新聞読んだかね?」
「いえ」
「これだけ書かれれば、不名誉どころか、却って七曲署の名が上がる。逆に君を表彰したいくらいのもんだよ
」と新聞を差し出す。

「ひき逃げ事件、署長の活躍で解決 息子さんの無実を証明」ジーパンもニヤニヤしながら読んでいる。「今日の記事は好意的だな」「本当、新聞の名前、何度も読んじゃったわ」と久美。「しかし妙だな、この間、あんなに叩いたんだろ?」とゴリさん。「あのな、大黒星のブンやさんに救いの手を差し伸べた人がいるんだよ」と長さん。「いや、救おうとしたのか、脅そうとしたのか、そこらへんのところはわからんがね」と山さん。「そういうことですね」と殿下。長さん、ボスを指さす。お茶を啜っているボス。「なんだ?」

 そこへ西山署長が入ってくる。「なんだ!こんな新聞を読んで、鼻の下を伸ばしていたんじゃ困るよ。いいかね、今月こそは、検挙件数で他署に抜かれることのないように、わかったな、以上だ」いうだけ言って出ていく。ボス、とぼけた顔でお茶を飲む。


よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。