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太陽にほえろ! 1974・第111話「ジーパン・シンコその愛と死」


この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第111話「ジーパン・シンコその愛と死」(1974.8.30 脚本・小川英 監督・山本迪夫)

永井久美(青木英美)
柴田たき(菅井きん)
内田宗吉(ハナ肇)
会田実(手塚しげお)
智子(皆川妙子)
光ストア店長(石井宏明)
鳥井忍
辻義一
鹿島信哉
竜神会組員(苅谷俊介)
浅野謙次郎
森正親
西山健司
ヤクザ(新井一夫NC)
チンピラ(大宮幸悦NC)
竜神会組員(壇喧太NC)

予告篇。
ジーパン「なんじゃこりゃぁ!」
N「次回、『ジーパン・シンコ その愛と死』にご期待ください」

 数ある「太陽にほえろ!」のエピソードの中でも最も知られているのが、このジーパン殉職篇。前回「走れ!猟犬」でお互いの愛情を確認した柴田純(松田優作)とシンコ(関根恵子)が婚約、父親・宗吉(ハナ肇)の反対を受けるも、祝福されることとなる。ハナ肇さんは、マカロニ殉職回、第52話「13日の金曜日マカロニ死す」以来、一年ぶりの出演。裕次郎さんとは親しく、昭和35年12月2日、裕次郎さんと北原三枝さんの結婚式の前夜、裕次郎さんが飲みあかしたのはハナ肇さんたちだった。

 タイトルの「その愛と死」は、武者小路実篤の「愛と死」に因んでいる。この小説の映画化が、裕次郎映画『世界を賭ける恋』(1959年・滝沢英輔)で、ヒロインの浅丘ルリ子さんが、裕次郎さんと婚約して幸せの絶頂で亡くなってしまうという悲恋を描いていた。脚本はシリーズを立ち上げたベテラン・小川英さん。単独での執筆はこれが最後となる。ジーパンが人間的に成長、犯人の心情を理解して、咄嗟の判断ミスをしてしまう。その成長を見守るボス。優しい言葉をかける山さん。シンコとの結婚を機に生まれ変わろうとするジーパン。家庭人として守りに入ってしまうことをおそれ、苦悩する。今はそれでいい、と優しく見守ってくれるシンコ。だからこそ、ラストの「死にたくない」の言葉が胸に迫る。

 ジーパンを殺してしまう男を演じたのは手塚しげおさん。凶悪犯ではなく、失恋したことで自暴自棄になっている若者。ジーパンはその弱さに寄り添おうとする。しかし、その弱さ、おそれが悲劇を巻き起こしてしまう。手塚しげおさんは、少年時代、日活映画『怒りの孤島』(1958年・久松静児)で映画デビュー、テレビ「矢車剣之助」(1959年)の主演で人気者に、そして昭和37年スリーファンキーズの一員となり一世を風靡する。「忍者部隊月光」(1966年)では流月、「ワイルドセブン」(1972年)では八百を演じ、「太陽にほえろ!」では計3話出演している。いずれもジーパン篇だった。

第80話「女として刑事として」(1974年) - 清水幸夫
第100話「燃える男たち」(1974年) - 誘拐犯
第111話「ジーパン・シンコ その愛と死」(1974年) - 会田実

 新宿東口、白昼のスクランブル交差点。「ドラゴン世界を征く」の看板がある地下道から男が逃走してくる。白の上下のジーパンと、ゴリさんが追いかける。富士銀行脇の通りを走るアロハシャツの男。女学生が叫ぶ。「止まれ、止まらんと撃つぞ!」拳銃を構える男は、会田実(手塚しげお)。ゴリさん女学生の身を守る。飛び込むジーパン。

「おい、ジーパン、気をつけろ!」「あのクソガキ!」墓地に逃げ込んだ会田、やがて工事現場へ追い詰める。「来るな!撃つな!撃つぞ!」。会田は恐怖で涙と鼻水でグショグショ。ジーパン、ジャンプして資材の上から、会田を見下ろして「撃てよ、こら、撃ってみろよ!」と叫ぶ。拳銃を持つ手が震える会田に飛びかかり、格闘。ジーパン、ジャンプして会田の拳銃を叩き飛ばす。遠くでパトカーのサイレンが鳴っている。

 ジーパンが拳を振り上げると、会田は首を横に振る。「バカか?お前は!」ジーパンが怒っている。そこへゴリさんが到着、会田の手を捻って動きを奪う。パトカーの警官「どうした?拳銃を振り回したってのは、この男か?」。ジーパン、警察手帳を見せて「七曲署の柴田です。ちょうど通りかかったもので」と身柄を受け渡す。

「バカか?あいつは」とジーパン。ゴリさんジーパンの肩をポンと叩く。パトカーに押し込められる直前、目の前を通りかかった黒い高級車に竜神会組員(苅谷俊介)の姿を、会田が見る。

 宝石店。ジーパンがシンコを無理やり連れてくる。「どれがいいよ?」「え?」「指輪だよ、指輪。エンゲージリングだよ」「誰の?」「シンコのだよ、シンコ」「相手は?」「決まってんだろ、僕ですよ」「呆れた人ね、一体、いつ婚約したの?あたしたち」「いいじゃないかよ、そんなことは」「いいもんですか、そんな、いい加減な」むくれるシンコ。

 「ご婚約、おめでとうございます。エンゲージリングは女性の誕生石を贈るのが流行になっております。何月のお生まれでらっしゃいますか?」と店員。「あの、4月ですけど」「4月、それは素晴らしい月ですね」と小ケースから指輪を出し「これが4月の誕生石、ダイヤモンドでございます」。値段は200万円。ジーパン「2万円だってよ、意外とダイヤって安いんだな、これいくか、これ?」とシンコに耳打ち。「行きましょう」「なんで、お前、遠慮することないんだよ、2万ぐらい俺だって持ってるんだからさ」。

 店員、笑を堪えている。ジーパン、改めて値段を見ると¥2,000,000に気付いて「200万!(店員に)意外と安いんですね・・・考え直してきますわ」後退りするジーパン、シンコ、店員に頭を下げて、店を出る。途中でショーケースにぶつかる細かいギャグを入れて。「男はつらいよ」の渥美清さんを意識しての松田優作さんの細かいアドリブ。

 夕暮れ。蝉の声。シンコを追ってジーパン。「逃げることはないだろ」「だって、恥ずかしいじゃない、大きな声出して」「だってよ、顔見りゃわかるだろう?ダイヤモンドって面じゃないだろうが俺は、冗談じゃない、全く、何が4月だ、4月は誕生日・・・何言ってんだ」。シンコ笑って「ほんとね」。このシーンも寅さんとさくらの会話のようでもある。

 ジーパン、サングラスを外して、真顔でシンコに「俺は、本気なんだよ」。シンコ、大きくうなづく。「嬉しかった、本当は、だって私、いつそう言ってくれるかと私、ずっと待ってたんだもん。でもね、一つだけ気になることがあるの、お父さん・・・」

 宗吉(ハナ肇)の顔のアップ。「ダメだ」。ジーパンとシンコ、宗吉のカウンターに。ジーパン「え?」「父さん」「シンコ、おめえもおめえだよ、刑事はダメだって、普段から口酸っぱくしていってるだろ、忘れたのかい?」。ジーパン「ちょっと待ってください、親父さん、なんで刑事はダメなんですか?」「訳なんか言う必要ねえや、ダメなもんはダメなんだよ、そんな話で来るんだったら、二度と来ねえでくれ、さ、けえってくれ」「嫌だね」顔を背けるジーパン。

「何ぃ?」ジーパンカウンターを叩いて「俺は帰んないよ、親父さんがウンと言ってくれるまで、絶対ここを離れないからね」「この野郎、なんだその目つきは?背丈が少しぐらいでかいでけえと思ってバカにしやがって、横幅で勝負してやろうじゃないか」とカウンターの外に出ようとするのをシンコが止めよとする。「お前は黙ってろ!」。一触即発!

 そこへ電話。シンコ「はい宗吉ですけど、ボス?はい、います」電話を変わるジーパン、声のトーンを落ち着かせて「はい、柴田です」。これも渥美清さんの演技をかなり意識している。

 ボス「昼前に拳銃不法所持の若者を逮捕したな?」「城西署の警官に引き渡しましたが・・・」「犯人を連行中にパトカーが行方不明になってな、今、そのクルマが大橋のしたで発見された」「わかりました、すぐ現場に急行します」

 夜の多摩川。小田急線の鉄橋下。発見されたパトカーを現場検証をしているゴリさん。そこへジーパンが到着する。「ゴリさん」「あいつの単独犯行のようだ」とゴリさん。長さん「警官の方も手錠を打って安心していたんだろうな、後ろからいきなりハンドルを奪われて、クルマはあの土手から滑り落ちた」。ゴリさんが続ける「そのショックで、身体の自由が効かなくなったところを、拳銃を奪われたってわけだ」。殿下「運転していた警官は頭を、後ろの警官は胸を撃たれた」「二人とも即死だ」と長さん。「そして奴は、自分の拳銃を取り戻して逃げた!」とゴリさん。パトカーの惨状を見て、舌打ちをするジーパン。

 レストラン「BANDRIA」。ジーパンがウエイトレスの話を聞いている。衣装は東宝映画『お嫁においで』(1966年)で沢井圭子さん、『記念樹』(1967年)で内藤陽子さんが着ていたものと同じデザイン。おそらく衣装部のストックだろう。「どうしてやめたのかな?あんたがしゃべったなんて、絶対に言わないからさ」「ほんと?会田さん、智ちゃんと付き合ってたのよ」「智ちゃん?」「あたしたちと一緒に働いていたんだけど、今じゃブルジョワ夫人よ。ここのお得意さんと結婚したの」。

 金持ちの夫人となった、会田のかつての恋人・智子(皆川妙子)宅にジーパンが訪ねる。「生憎ですけど、お役に立つようなことは何にも・・・」「逃亡先の心当たりは?」「さあ」「会田、いつもどんな連中と付き合ってました?」「存じませんの、何にも。実さん、いえ会田さん無口でしたから」「奥さん、もしかしたら会田、奥さんと結婚の約束をしてたんじゃないですか?」。少しためらってから智子「ええ、そうなんです」「会田を捨てて、ご主人と結婚した、そう言うことじゃないですか」「ええ」「なぜですか?」「なぜって別に。誰だってずっと条件のいい人に結婚を申し込まれたら、そうしますでしょ?」。ジーパン、納得できないが、頷く。

 捜査第一係。ジーパンが扉を開けようとして立ち止まる。ボスの声がする「殴った?ジーパンが会田をか?」「目撃者の話から、城西署の方が大分問題にしているんです。つまり、やくざでもなんでもない若者が、警官殺しなんかを普通の状態でやるはずがない。あれは七曲署の柴田があまりにもひどく殴ったせいだと」と山さん。ドアを開けてジーパン「冗談じゃないっすよ!俺は、いや俺はですね、確かに暴力刑事って陰口叩かれているのは知ってます。だけどボス」「命懸けでぶつかっていくのに、いちいち相手の人権を考えているゆとりはない、そう言いたいんだろう?だがな、それにしても限度ってものがあるんだ」とボス。「俺は、あの場合、限度を超したとは思えません」「そうか、それならいい」笑顔のボス。「俺から城西署の方には話しておく」。ジーパンの肩を優しく叩く山さん。

 「大分遅かったな、何か掴めたのか?」「ええ、なんだか会田がかわいそうに見えましたね」「かわいそう?」「奴は女に裏切られてヤケ起こしてんですよ、それであんな拳銃を持ってウロウロしてたのはそのせいじゃないですか?」。ボス「女ってのは?」「これがひどい女でしてね、あんなかわいい顔して、ニコニコ笑いながら裏切られたら、俺だって何するか、わかんないですよ」とジーパン。ボス、山さんの顔を見る。

 柴田家の朝。7時半、目覚ましが鳴っている。ジーパン、頭から被っている布団の中に目覚ましを引き込む。母・たき(菅井きん)「純、起きたのかい?純」部屋に入ってきて「起きなさい、また遅刻しますよ」と布団を剥がす。「なんだよ、もう、うるせえな本当に!もう少し優しくしてくれたっていいだろ?」「なに、そんな甘ったれたことを言ってるんだい?そんなことはね、お嫁さん貰ってから言いなさい」と部屋を出ていく。ジーパン、飛び起きて「ちょっと待ってよ母さん、ちょっと待って。俺さ、結婚するわ」「今なんて言ったんだい?」「そんなびっくりすることないじゃないか、お前。ほら、母さんも知ってるだろう?ほら、内田伸子」とウダウダした表情。「いや、たいして美人じゃないし、色々問題もあるけどね、まあ、なんとかなるんじゃないかと思ってね」と照れ笑い。トランペットのテーマが流れる。

 たき、ジーパンのそばに着て座り真顔になる。「いやまあ、そんな真面目な顔して」手持ち無沙汰に目覚まし時計を放り上げたり。「大したことないよ」と時計を見て「は!時間、ははは」と立ち上がる。これも完全に渥美清さんの芝居を意識している(笑)

 仏壇、蝋燭に火をつけて線香を立てる、たき。「お父さん、純がお嫁さんもらうんですって、相手もいい娘さんでね、純もこれでやっと一人前ですよ、あたしも肩の荷が降りそうです」としみじみ亡夫に報告する。

 捜査第一係。シンコが真面目な顔して事務をしている。ゴリさん、殿下、久美がニヤニヤ。「仕事なんかして」「シンコ、シンコ」「ニコニコニコ」と冷やかす殿下とゴリさん。ボスと話している長さんも、遠くで笑っている。そこへ元気よく「おはようございます!」とジーパンが出勤してくる。「おはよう」。みんなニヤニヤしている。「あれ?なんですかみんな、ニヤニヤニヤニヤして」。久美「いやぁね、惚けちゃって」「なんで?俺、惚けてないよ全然」とムキになる。「間違いないでよ、ほら(シンコの方を)お相手が、お相手が」。

 シンコの方を見るジーパン。「バカだな、お前、もうしゃべったのか?」。シンコ、困った顔で「違うのよ、お父さんがボスに電話で」「親父さんが?」。ボス「断りの電話だ、あんな奴に娘はやれんとな」「はあ」。殿下「どうした?そんなことでしょげるような柄か?」。ゴリさん「シンコはな、ジーパン。今朝、辞表を出したんだよ、家出でも駆け落ちでも、お前さんのためなら、って心境らしいぞ」。シンコ、困った顔で「ゴリさん」「いいじゃないか、へへ」。

 ドアが開き、山さんが入ってきて、ジーパンの肩を二度叩いて、ボスのデスクへ。「ボス、これはまだはっきりした証拠はないんですが、どうも今度の事件、裏に竜神会が動いているようなんです」「龍神会?」とボス。「昨夜のジーパンの推理は的を得ていましてね、例の女に捨てられてから会田は急激にグレています」。全員、ボスのデスクを囲む。山さんは続ける。「その頃、会田としょっちゅう付き合っていた男に、前岡というチンピラがいるんですが、こいつ強盗の前科がある上に、竜神会の息がかかっています」「臭うな、よし、その前岡を是が非でも探し出せ」とボス。

 渋谷の中華料理店・麗郷の路地。追跡のテーマが流れる。ジーパンが竜神会のチンピラを殴っている。暴力刑事!腹にパンチを食らわせて、チョップをお見舞いする。「言ってみろ!言ってみろってんだこの野郎!」「知らねえよ、ほんとだよ」。

新宿の裏通り。肩で風切る白いスーツのヤクザを、ゴリさんが路地にいきなり引き摺り込む。「何すんだてめえ!」ゴリさん、その頭を扇子で思い切り叩く。前岡のことを訊くが「知らねえよ、そんなもん」。ゴリさん逆上して引っ張る。これも暴力刑事!

 新宿東口の雑踏。殿下が二人のチンピラの話を訊いている。こちらは紳士的に、ありがとうの挨拶をして去ってゆく。

ゴリさん、覆面車に戻ってきたところでBGMが終わる。ゴリさん助手席に座り、運転席のジーパンに「ダメだ、ほか当たろう」。ジーパン「警官殺しなんすけどね、会田が殺したんじゃないと思います」「じゃ誰だ?前岡か?」「いや、竜神会。いや、会田の警官殺しは、俺が殴ったせいじゃないと思いたいから、こんなこと言ってるんじゃないんすよ、確かに俺は会田を殴った、だけどねゴリさん、あの時会田、震えていたんですよ」。ここからトランペットのテーマが流れる。ジーパン、下を向いて少し笑って「なんかおかしいですね、俺がこんなこと言うなんて」。ゴリさん、しみじみした表情で「いや、おかしいもんか、よし、俺もお前の推理にかけた。さあ、竜神会の縄張りをしらみ潰しだ!」。ジーパン、満足気な笑顔で頷く。音楽、ここで終わる。

宗吉が手配写真を見ている。「前岡、見たことがある顔だな」。カウンターには長さん。昼飯を食べている。久しぶりの「宗吉」の絵柄。「来ないかね?この頃は」「残念ながらね。(長さんに)それで、他に用は?」「いや、用ってそのう」と誤魔化す長さん。そこへ殿下が入ってきて「あれ?長さんも来てたんですか?」「おう殿下、なんか用かい?」と宗吉。「いや、俺飯食いに来たんですよ、ああ腹へった。俺も丼もらおうかな?」。宗吉「大事件の聞き込みで忙しいってのに、ジーパン刑事のために、ご苦労さん」と笑顔で「友情ってのはいいねぇ、いやあ、持つべきものは友だね、いやあ麗しいもんだね」。殿下と長さん、許しが出たのかと嬉しい顔。「見上げたよ、立派だな、でもダメ!」。「え?」「親父さん、そりゃないよ」と長さん。殿下「そんなこと言わないでさぁ。(長さんに)ちょっと強情だけど、あんないい奴いないですよね」「そう」。

 そこへ電話が鳴る。ボスからだった。「俊さんか? 長さんいるよ、殿下も一緒だ」と長さんが代わる。ボス「光ストアが、会田と前岡らしい拳銃強盗に襲われている、だが奴らは通報されているのをまだ知らない。ジーパンたちはすでに向かっている」「わかりました。直行します。殿下」「じゃ親父さん」。宗吉「おいおい、飯ぐらいちゃんと食ってったらどうなんだい?」。

 光ストア事務所。店長(石井宏明)が拳銃で脅されて金庫を開けている。拳銃を持つ会田の手が震えている。前岡は女子店員に拳銃を向け「何してんだ!」と怒鳴る。会田、店長の頭に拳銃を突きつける。金庫が開き、現金をバッグに詰める会田。

覆面車が急行している。

前岡、店長を殴り、現金のバッグを背負い、会田を引き連れて事務所から逃走する。

ジーパンとゴリさん、光ストアに到着。光ストアは、毎回、強盗シーンでお馴染みの「東光ストア」でロケーション。店舗は何事もなかったのように普通に営業している。ゴリさん、ジーパンに「裏へ回れ、俺は店から行く」と指示、二手に別れる。ジーパンが裏手に回ると、バックヤードから逃走する前岡と会田の後ろ姿。ジーパン、拳銃を手に追いかける。前岡、逃走車にバッグを入れ乗り込む。会田、助手席のドアを開けて乗り込もうとすると。ジーパンが叫ぶ「会田!銃を捨てろ、会田!ばかな真似はやめるんだ!」。会田、凍りついて身動きができない。そこで容赦なく発砲する前岡。ジーパンが、咄嗟に避けたその隙に、二人のクルマが発進、逃走してしまう。

「会田!」拳銃を構えて立ち尽くすジーパン。ゴリさんが駆けつける。「何してんだ?ジーパン!」と怒鳴るゴリさん、覆面車の方へ走る。呆然と立ち尽くすジーパン。トランペットのテーマが流れる。そこへ山さん「どうしたジーパン?」。長さん、殿下も駆けつける。ジーパン無言のまま。「ジーパン、どうした犯人は?」と長さん。「逃げられたのか?」と殿下。「俺は、撃てなかったんですよ、何もできなかったんです。山さん、犯人を人間として見るってことは、臆病になるってことですか?」。山さん一歩前に出て、長さんに目配せ(サングラスだけど)、長さんは山さんに任せたという態度で、殿下とともに、追跡へ。

 山さん、サングラスを外して「ジーパン、お前は間違っちゃいない、決して間違っちゃいない、だが、今は、犯人を追うんだ!」と肩を叩く。頷くジーパン。トランペットのテーマ、ここで終わる。

ジーパン、竜神会事務所の向かいの路地で張り込んでいる。シンコも一緒である。ジーパン「これでいいのかも知れないな」「え?何が?」「俺さ、会田のことが気になったり、いざという時撃てなかったりしたのは、多分、シンコと結婚する気になったせいかも知れないな」「純・・・」トランペットのテーマ。ジーパン、シンコの顔を見て「結婚してさ、子供ができて、ホシの気持ちばっかし考えてさ、だんだんだんだん臆病になってよ、そんで歳とって、年金もらって満足してよ、俺もそういう風になっていくんだろうな、それでも、それでいいのかも知れないな、シンコ?」。シンコ、少し考えて「そうよ、って言えばいいの?ただ安全で、家庭のことさえ考えてくれれば、私は幸せよ、って、そう言えばいいの?奥さんになって、子供もできれば、私もそう思うかも知れない。そうならないっていう自信はないわ。でもね、今は違う。口では拗ねたこと言ったって、ただ年金のためだけに働くなんてこと、あなたにできっこないわ。あたしが保証する。それに」。ジーパン、シンコの顔をみる。「山さんの言った通りよ、あなた間違ってなんかいないわ」。シンコ、ジーパンことを一番よく理解している。

 深夜、宗吉。カウンターでボスと宗吉が酒を飲んでいる。宗吉「そうかい、あの男がそんなミスをねぇ」。ボス「あいつにとっては、初めてのことだ。ジーパンは生まれ変わろうとしてるんだよ、宗さん」「生まれ変わるって、あいつが?」「デカにとって一番難しいことは、本当にホシの気持ちになって考え、しかもそれに溺れないことだ。あいつは今、その難しいことをしようとしている。なあ、宗さん、そういうジーパンを見守ってやってくれないか?親父として」。宗吉、しみじみと「そうか、あの男がな、昔の俺にできなかったことを」。ボス、宗吉に酒を注ぐ。

 そこへ電話。公衆電話の山さんからだった。「前岡が殺されました」「何?凶器は?」。前岡の遺体のショットがインサートされる。「拳銃です。38口径、会田の拳銃と同じ型のものです」「金は?」「持っていません」。現場検証の長さん、殿下、山さんのショット。ジーパン、現場に立ち尽くしている。

 朝、七曲署屋上。ジーパンがひとり佇んでいる。ゴリさんが駆けてくる「ジーパン、会田から電話だ。お前とだけ、話したいと言っている」。ジーパン走り出す。捜査第一係、ジーパン電話に出る。逆探知開始。「もしもし、俺だ、柴田だ」「あんたか!」会田の顔が輝く。「俺よ、殺されるんだよ」「殺される?誰にだ?」ボスもレシーバーで聞いている。「どうしたんだ?会田!相手は誰だ?竜神会か?」「どうしてそれを?あいつら汚ねえんだよ、前岡と連行とさせてよ、最初から俺たちを消すつもりでいたんだよ。警官二人を殺したのもあいつらなんだぜ!な、俺、あんたが一人で来てくれたらよ、自首するよ。な、だから助けてくれよ。俺、他に頼る人誰もいないんだよ、誰もいないんだよ」。会田、泣いている。ジーパン「わかった、必ず助けてやる。今、どこだ。どこにいるんだ?」。電話をかけている会田を見つけた、竜神会の組員、二人が電話ボックスに走ってくる。

「会田、もしもし、会田!」殿下が走ってくる。「ジーパン、逆探でわかったぞ!矢追町の公衆電話だ!」「ボス」とジーパン。「急げ!」「はい!」。ジーパン、横で見つめてくれる山さんに「山さん、俺は・・・」「うまくやれよ」「行ってきます」の言葉を残して出かける。ゴリさん、たまらずに「ボス、俺も」「慎重にな、奴が信じているのはジーパンだけだ。山さんと殿下は、駅付近に待機だ」。

ボスのモノローグ。「よかったな、ジーパン」。

白昼、矢追町の飲み屋街。竜神会組員二人が、会田を追っている。路地に隠れている会田。走って逃げるがバケツにぶつかり音を立ててしまう。気づいた組員、音のした方向へ。

ジーパンの覆面車が走る、走る、走る!

逃げる会田。追う組員たち。この路地は前回「走れ!猟犬」で、ジーパンが覆面の銀行強盗犯(今井健二)を追った場所でもある。迷路のような路地を逃げる会田。追う組員。走るジーパンの覆面車。路地で挟み撃ちになる会田。恐怖の表情! そこへ竜神会の黒塗り車が横付け。「この野郎!」と組員たち数名に、車に押し込められそうになる会田。

急ブレーキの音!ジーパンの覆面車である。「会田!」。竜神会のクルマ(2台)が発進する。追跡しながら報告するジーパン。「会田が、会田が捕まりました。奴らは2台です。このまま追跡します」「気づかれるな」とボス。「約1キロ後ろにゴリがいる。バトンタッチで尾行しろ」「了解!」。追跡のテーマ、ブリッジで流れる。ゴリさん「ようしジーパン、交代だ!」。

朝、宗吉。誰かが訪ねてくる。「はい、ただいま」とシンコが出る。めかし込んだたきが挨拶に来たのである。「ごめんなさいね、朝っぱらから。でもね、こういうことはやっぱり、きちんとしなくっちゃ」「どうもわざわざすいません」。案内するシンコも嬉しそう。「お父さん、柴田さんのお母さんよ!」。たきも嬉しそう。

ジーパンの覆面車。「ゴリさん、もうだいぶ走ってるし、そろそろチェンジした方がいいんじゃないですか?」。車窓は郊外の風景。

ゴリさんの覆面車。「いや、どうやら気づいたらしいからな、こうなったら、俺がこのままぴったり食い下がる、振り切られた時の切り札がお前だ、いいな?」

追跡のテーマ。竜神会のクルマを追跡するゴリさんの覆面車。ところが2台は二手に分かれる。ゴリさんは一台を追い詰めカーチェイス。しかし振り切られて高架下の柱に激突、クルマは大破、ゴリさんは負傷してしまう。

「ゴリさん!」「大丈夫だジーパン、大した傷じゃない、俺に構わず追え!いいか、ジーパン、会田を助けたかったらな、絶対に奴らを見失うな!」。ジーパンの覆面車、ゴリさんのクルマのそばへ。ところがゴリさん「行け!」のサインを送る。「ジーパン行け!」。頷いてジーパン、発進! ゴリさん、苦しそう。足から大量の出血をしている。「ジーパン、しっかりやれよ」ゴリさんがつぶやく。

竹芝の廃工場。ジーパンの覆面車が停車。「ゴリさん、竹芝の廃工場です。こっから歩いていきます」。

ゴリさんの覆面車。救急隊員が駆けつけている。救急隊員に話しかけるなとのジェスチャー。ジーパンに心配かけまいとゴリさん「焦るなよジーパン、山さんたちがすぐにこっちに来るからな、無理をするんじゃないぞ、絶対に無理をするな!」。ゴリさん、額から血を流している。

「了解」。ジーパン、拳銃の弾をポケットに入れ、拳銃を確認、クルマを降りて歩き出す。

宗吉。たき、宗吉の話に大笑い。「それは知らなかった、それじゃこれが昨日だったら大喧嘩になってたんですか?」「いや、それは言いっこなし、ということで」と宗吉。シンコ「でも、その大喧嘩、ちょっと見たかったな」「こら!このタコ」と宗吉、シンコの頬をつねる。「痛い!お父さん」。一同大笑い。新しい家族の誕生である。シンコ、本当に幸福な笑顔。

廃工場。ジーパン、慎重に建物の中へ。会田を探している。白の上下が夏の日差しを受けて眩しい。クルマから降ろされ、五人の竜神会組員に囲まれている会田を発見する。会田、たまらずに逃げ出す。そのタイミングでジーパンが、組員たちに威嚇射撃。「会田、こっちだ!」物陰からジーパンが声をかける。「刑事さん!」半べその会田が走ろうとする。後ろから竜神会。ジーパン続いて発砲!一人倒す。悲鳴をあげる会田。ドラム缶から水が出る。ジーパン、走りながら銃撃を続ける。竜神会、その間に工場の二階に上がり、一列になってジーパンに向けて、発砲を続ける。また一人、ジーパンの拳銃が組員を倒した。ドラム缶置き場で会田「刑事さん、早く、早く助けてくれよ!」「そこにいろ会田!動くな!」とジーパン。竜神会の発砲は続く。二つの建物を挟んで、中庭のドラム缶置き場に、会田。竜神会とジーパンの睨み合いが続く。マカロニウエスタンのような構図。

恐怖の表情の会田。

ジーパン、拳銃に弾をこめて、体勢を立て直す。

工場の二階では、竜神会の強面組員(苅谷俊介)がジーパンを狙っている。もう一人のダボシャツの組員も狙っている。さらにショットガンを構えた組員がジーパンにロックオン。左肩を射抜かれてしまう。真っ白なジャケットが赤く染まる。その場に崩れるジーパン。それを確認したライフルの男、トドメを誘うとした瞬間、ジーパンが狙いを定めて発砲!見事に仕留める。それをきっかけに、竜神会が発砲を再開。建物から会田の方に走り出した組員を、ジーパンが仕留める。撃たれた組員、拳銃を手にしたまま会田の前で倒れる。会田、組員の指を剥がして拳銃を奪う。恐怖がピークに達している。

ジーパン、二階の組員の死角になるように、工場の中を動き回っている。西部劇のガンファイターのようである。窓をぶち破り、当たりを伺い、また隣の建物へ。野獣のような目つきだが、敵がいつ撃って来るかわからない緊張と恐怖の中にいる。竜神会のいる建物にようやく辿り着き、二階へ。相手に不意打ちを喰らわし、残る2名を一度に仕留めることに成功した。

安堵の瞬間、フルートのテーマが流れる。左手の負傷でジャケットの袖が真っ赤に染まり、皮膚が剥き出しになっている。ジーパンはゆっくりと、階段を降りて、会田の隠れている場所へ近づく。しかし、もう一人、組員が残っていた。上から薬莢が落ちてきて、背後、二階から狙われていることに気づいたジーパン。振り向いて一発で組員を仕留める。絶叫とともに、二階から落ちる組員。これも西部劇の常套手段である。

ドサッ!敵が落ちた音でその死を確認したジーパン。会田の方を見て歩き出す。恐怖がマックスに達した会田、息が荒い。状況が飲み込めていない。手には組員から奪った拳銃。

ジーパン「会田、助かったぞ。もう大丈夫だ」。左手に銃を持ち替えて、右手を差し出し「拳銃を渡せ」。しかし、恐怖の表情の会田、ジーパンの腹に向かって発砲してしまう。その場に崩れるジーパン。一瞬、どういう状況か飲み込めない。ジーパン、立ち上がり。「どうしたんだい?会田、どうしたんだよ?」。会田、恐怖のあまり絶叫、拳銃を捨てて、走り去ってしまう。

「会田・・・ちょっと待ってくれよ、会田、どうしたんだよ?」ジーパンの目線が会田の去った方から、腹を抑えた自分の手へ。手についた鮮血をじっと見て「なんじゃ、こりゃぁ!」と叫ぶ。改めてお腹を確認するジーパン。「俺は死にたくないよ!待ってくれよ、俺は死にたくないよ、会田、ちょっと待ってくれよ、な、どうして逃げちゃうんだよ、待ってくれよ」。ジーパン、立膝でしゃがみ込み「会田・・・」両手の鮮血を顔になすりつけ「俺は死にたくないよ」遠い目で「死にたくない」両手で腹を押さえて、涙を流し、そのまま仰向けに倒れる。

ジーパンの顔のアップ。咳き込んで「なんで死ぬんだよ、俺は」遠くに電車の通過音。涙が出てくる。咳き込み、ポケットからタバコを取り出し、咥えるが、しばらくして力尽きる。キャメラはゆっくりと引いてゆく。あたりはすっかり暗くなり、白い服のジーパンだけが際立っている。

朝、宗吉。電話が鳴る。シンコ、明るく「はい、宗吉でございます」

捜査一係。ボス「シンコ」

「あ、ボス!おはようございます」横で宗吉が仕込みをしている。父の顔を見て微笑むシンコ、笑顔の宗吉。「・・・」シンコの表情が変わる。「なにか・・・?」

捜査一係。ボス、何も言えない。

宗吉。シンコ、何かを察している。宗吉、心配そうに娘に近づく。「・・・・ボス」。

ボス、受話器を持ったまま無言。キャメラは、山さん、長さん、負傷したゴリさん、殿下、久美をゆっくり捉える。

シンコ、受話器を持ったまま、目には涙。一雫の涙が頬を伝う。トランペットの葬送曲が流れている。

受話器を持つボスに、ありし日のジーパンの姿が走馬灯のように浮かぶ。トランペットが高鳴る。必死に走るジーパン。キャメラはどんどん引いていく。


よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。