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Flaming Star『燃える平原児』(1960年・FOX・ドン・シーゲル)

6月30日(木)の娯楽映画研究所シアターは、ドン・シーゲル監督とエルヴィス・プレスリーの異色西部劇『燃える平原児』(1960年・FOX)をスクリーン投影。お仕着せのミュージカル・コメディに食傷したエルヴィスが演技派を目指して出演した本格ウエスタン。

エルヴィスが先住民とのハーフで、自分は一体何者か?と苦悩するアイデンティティ・クライシスに、アメリカに根深い「差別」をテーマにしたヘビーな作品。タイトルバックと、冒頭の誕生日パーティで、エルヴィスは歌うが、楽しいのはそこまで。

ヘイトクライムで家族は白人コミュニティからも分断され、エルヴィスは先住民として生きることを余儀なくされる。しかも、後半の展開が凄まじく、誰もが傷つき、生命を落としていく。

1878年、テキサス西部の牧場主バートン(ジョン・マッキンタイア)と、先住民カイオワ族出身の妻ネディ(ドロレス・デル・リオ)との間に産まれたペイサー(プレスリー)は、カウボーイとして、異母兄・クリント(スティーブ・フォレスト)と楽しく暮らしていた。

しかしカイオワ族の族長が代わり、白人たちを次々と襲撃。クリントの誕生パーティの直後、クリントの恋人・ロズリン(バーバラ・イーデン)の家族がカイオワ族に襲われてしまう。この件で、ロズリンの父・ドレッド(カール・スウェンソン)や使用人たちは極端なヘイト主義となり、バートン一家を疎むようになる。

小さな差別がやがて、大きな対立となり、ペイサーと母は、先住民居住地の帰り、ドレッドの使用人の兇弾で、ネディは瀕死となる。これがきっかけとなり、ペイサーは先住民の側に・・・

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といった「理解し合うことができない」存在としての、先住民と白人の対立が、アクションシーンとなるので、現在の目線ではカタルシスはない。『緯度0大作戦』(1969年)でおなじみのリチャード・ジャッケルが気の良い若者として登場。冒頭のクリントの誕生会では明るい笑顔なのだが、次第に険しい表情となってくる。

この救いのなさ=演技派・問題作、というのが当時の感覚なのだが、エルヴィスのファンは戸惑っただろう。原題のFlaming Starは、先住民が死の間際に「輝く星を見る」という伝説に因んでいる。フレッド・アステア&ジンジャー・ロジャースの第一作『空中レヴュー時代』(1933年)のメキシコの名花(映画ではブラジル娘)だったドロ・レス・デル・リオが、先住民ながら白人の夫を愛した女性の苦悩と悲劇を見事に演じている。その死期を悟った母・ネディが「輝く星が見えたわ」の言葉を残して亡くなる。

エルヴィスが歌う曲は2曲。タイトルバックの”Flaming Star”(作詞・作曲:シャーマン・エドワーズ、シド・ウェン)と、クリントの誕生会で歌う”A Cane And A High Starched Collar”(作詞・作曲:シド・テッパー、ロイ・C・ベネット)

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