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太陽にほえろ! 1974・第84話「人質」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。


第84話「人質」(1974.2.22  脚本・永原秀一、峯尾基三  監督・竹林進)

西山署長(平田昭彦)
永井久美(青木英美)
白石登(高峰圭二)
霧島修司(原口剛)
東名信用金庫支店長(森山周一郎)
中野英夫(中山克巳)
長谷川医師(中村雅俊)
東名信用金庫行員(伊藤めぐみ)
刑事(加藤茂雄・NC)
ディスクジョッキー(志賀正浩)
東名信用金庫行員(佐藤耀子)
村山憲三
菊地正孝
松下昌司
中村文孝

予告篇の小林恭治さんのナレーション。
「日常性を瞬間にして破壊する破廉恥な行為、銀行強盗。人質を盾に立て篭った金庫室の分厚い扉。犯人の動揺と焦燥を冷静に見守る捜査陣。内と外の暗く長い1日が始まる。次回「人質」にご期待ください。」

 「太陽にほえろ!」の日本テレビ・岡田晋吉プロデューサーは、昭和40(1965)年から日曜夜8時枠でスタートした「青春とはなんだ」に始まる「青春学園シリーズ」のプロデューサーでもあった。昭和48(1973)年2月に放送が終了した「飛び出せ!青春」は、シリーズ後期の人気作で、脚本の鎌田敏夫さん、高瀬昌弘監督、青木英美さんなど「飛び出せ!青春」から「太陽にほえろ!」にそのまま移動してきたスタッフ、キャストも多い。その「飛び出せ!青春」終了後、再放送での人気再燃もあって、新シリーズが1年ぶりに作られることになった。その主演に抜擢されたのが、文学座の若手・中村雅俊さん。ジーパン刑事役の松田優作さんとは同期で、それがきっかけで「われら青春!」に抜擢されることになった。

 そのキャメラ・テストとして、中村雅俊さんが警察病院の勤務医役で出演しているのがこの第84話「人質」。キャメラの前で芝居をするのは、全くの初めてだったという。2020年初夏、朝日新聞出版「石原裕次郎シアターDVDコレクション」での連載インタビュー「裕次郎とわたし」で、久しぶりに中村雅俊さんにお目にかかった。裕次郎さんをテーマにした取材なので、自ずと話題は「太陽にほえろ!」第84話「人質」の思い出話となった。

「おれ、このインタビューを受けるということで、すぐにイエス、とお返事したんですけど(笑)やっぱり、おれの人生のなかで、この世界で初めて出演したのが「太陽にほえろ!」第84話「人質」というのは大事件でしたね。「われら!青春」の先生役でデビューするんですけど、日本テレビのプロデューサーの岡田晋吉さんは「太陽にほえろ!」のプロデューサーでもあったんです。テレビに一度も出たことがない、ということでキャメラテストとして「太陽にほえろ!」に出るんですよ。」

「このときに、物凄い大きな事件があって、撮影初日、国際放映のスタジオにおれ、2時間半遅刻したんです。9時開始なのに、11時半ぐらいに着いて、入り口でチーフ助監督が待ち構えていて。おれのことなんて知るわけないよね。初めてなんですから。「何やってんだ!」と怒鳴られて「すいません!」「すぐ裕次郎さんのところへ行け!」。もう2時間半も待たせているんで、裕次郎さんのところに謝りに行ったんです。その時の対応が「おっ!」なんですよ。それだけ。」

「もうね、その時は余裕なくて「すいませんでした!」と平謝りでしたが、今思うと裕次郎さんの懐の深さに触れた瞬間なんですよね。怒ってもいなくて、普通は痺れを切らして「なにやってんだよ!」という状況なのに、見たこともない無名の役者が遅刻して、現場の予定をすべてストップさせているのに、「おっ!」とだけ言ってくれた裕次郎さんって、今思い出してもすごいな、と思います。」

「もう、あのときは本当に拍子抜けしたというか。事務所の連絡ミスで、日程を間違えていたんです。で、急遽、乗ったことのないタクシーに乗って国際放映に行って。それが僕のデビューの日のことでした。」

「そのとき文学座の研究生だったんですけど、おれを「われら!青春」の主役に選んだというのもバクチですけど。「テレビ出たことがない? じゃあ『太陽にほえろ!』でテストしよう」ですから。それも結構、大事な役ですから。しかも竜雷太さんは、「これが青春だ!」「でっかい青春!」で、二度、青春学園シリーズの先生役をやっていますから、大先輩です。この先生役に関しては、竜さんは2年もやっている先輩ですから。」

 とある一室。糸鋸でライフルの銃身を切断している若者・白石登(高峰圭二)。真冬なのに額には大粒の汗が噴きこぼれている。思い通りに改造ができて、満足げな白石。ライフルを構える。その目つきは鋭い。さすが「ウルトラマンA」の北斗隊員! ライフルを構えるポーズもサマになっている。
銃身を短くすることで殺傷能力が高まることを、小学4年の時、このエピソードで知った。

 東名信用金庫。電光時計(当時はまだデジタルという概念はなかった)が8:59を指す。行内では職員たちが、開店の準備をしている。若い女子行員(伊藤めぐみ)が同僚に「あーあ、今日もおんなじことの繰り返しか・・・考えちゃうな」とぼやく。「お互いに早くダンナさまを見つけないとね」。この時代、働く女性も結婚までの「腰掛け」という感覚だった。ガードマンがシャッターのスイッチを入れる。シャッターが開くと、三人のマスクをした男が立っている。

 先程の白石がライフルをガードマンに突きつける。もう一人の男がカウンターに飛び乗り「動くな、騒ぐんじゃねえ」と銃を行員たちに向ける。「シャッター下ろせ」と白石。シャッターが閉まると白石たちは行員を窓側に集めて、両手を挙げさせる。そこに主犯・霧島修司(原口剛)がゆっくりと現れ、支店長(森山周一郎)に「金庫を開けてもらおうか? 支店長。嫌ならお前を撃つ」と脅かす。

「私を撃てば、金庫は開かない」
「そんなことは分かっているよ。コイツが何かわかるか?」

 霧島はアタッシュケースを見せる。「爆弾だ。いざとなりゃ、この爆弾で金庫を吹き飛ばすだけだ」。仕方なく支店長は金庫室へ。厳重な金庫の扉を開く。細かいカット割で、犯人たちの表情がインサートされる。金庫の中には、外部との連絡用の電話がある。支店長は、さらに現金の入った金庫の扉を開く。霧島はミリタリー用の大きなズタ袋を支店長に渡して「これに詰めろ」。

 犯人・霧島を演じた原口剛さんは、「水戸黄門」「大江戸捜査網」「必殺」シリーズなどの時代劇の悪役でもお馴染み。特撮では「大鉄人17」(1977年)のレッドマフラー隊・隊長の剣持保を演じた。「太陽にほえろ!」でも本作を皮切りに、第414話「島刑事よ、永遠に」や第671話「野獣」(1985年)まで、9本ゲスト出演している。

 人質に銃を突きつけている中野英夫(中山克巳)は、白石に金庫の様子を見てこいと指示。白石が歩き出したスキに、男性行員が非常ベルのボタンを押そうとした瞬間、中野のライフルが火を吹く。女子行員の絶叫、けたましく鳴る非常ベル。金庫から霧島、白石、支店長が出てくる。霧島は「バッキャロー、早くずらかるんだ!」と白石と中野を促す。二、三発、天井に向けて威嚇発砲して、逃げ出そうとする三人組。裏口に出て、新宿駅方向に向かおうとするが、通報を受けた警察官たちが目の前に立ちはだかる。

 「チキショウ!」中野と白石がライフルを発砲。一人の警察官は凶弾に倒れてしまう。パトカーのサイレン。路上で挟み撃ちに逢い、その場で銃撃戦となる。ハリウッドのポリスアクションのようなヴィジュアル。「太陽にほえろ!」では久しぶりのハードな展開。警察隊の応戦に、中野が被弾、倒れてしまう。霧島「登、撃つのはやめて、中野を担いで後戻りしろ」。その時の高峰圭二さんの芝居がいい。「後戻り?」不満たっぷりの表情である。結局、逃げ場を失った三人組は、再び信用金庫の中へ。負傷した中野は「クサイ飯はもう懲り懲りだぜ」。前科者であることがここで明らかになる。

 三人組が再び行内に戻ったことで、行員たちはパニック状態。ライフルを威嚇乱射する白石。高峰圭二さん、狂気の若者を楽しそうに演じている。警察隊も信用金庫の裏口から突入。霧島は、二人の女子行員を人質にして、金庫室に立て篭もる。頑丈な鉄の扉を閉める霧島。

 七曲署・捜査第一係。ボスが電話を受けている。「拳銃を持った三人組。事務員がひとりと警官一人が重傷を負ったんだな。ようし分かった。すぐそっちへ行く」。ジーパン、ゴリさん、山さん、長さん、殿下、そしてボスが現場へ急行。

 金庫室の中を改める白石。怯える女子行員たち。傷が重く辛そうな中野。霧島「この扉は閉めると自動的に鍵がかかってしまう」。中からは出られないのだ。自分たちが人質を盾にしている限り、外からは手出しが出来ない。五分と五分というわけである。

 金庫室の外。ボスと山さんが到着。「人質二人に拳銃二挺、それに爆弾か」とボス。壁は厚さ三、四十センチある。高感度のワイヤレスマイクをつけても中の声を拾えないだろうと山さん。ゴリさんがやってきて、電話に盗聴器をつけることに成功したと報告。ボスはまず犯人の身元を割り出すことで、こっちの打つ手も決まってくると、山さんに指示を出す。

 金庫室。せっかく現金を手にしても、逃げることも出来ずに、白石の焦燥は高まるばかり。冷静な霧島は「心配するなって、こっちにはかわいいお嬢さんが二人もついててくれるんだから」と余裕たっぷり。金庫内の連絡用電話が鳴る。

 信用金庫に対策本部を設置。ボスがデスクから電話をしているのだ。

「うるせえな。用があるときはこっちからかけるよ」
「私は七曲署の藤堂だ。君たちの話を聞こうじゃないか」
「下手な手出しをしたら、人質の生命はないと思えよ」

 ボスは冷静に、自分が交渉人となる。何かあれば内線50をかけるようにと伝える。イヤホンで犯人の声を聞いていたゴリさん。「どっかで聞いたことのある声なんですがね」と心当たりがあるようだ。ジーパンが報告する。「犯人の凶器は二挺。両方とも拳銃ではなくライフルです」。鑑識によれば被害者の体内から取り出された弾は、22口径のライフル用だった。「つまり、ライフルの銃身と銃床をぶった切ったわけです」。銃身が短ければ命中率は落ちるが、殺傷能力は変わらないので、携帯には便利だとゴリさん。

 「あとどれくらい持つかな?」とボス。金庫室は完全な密閉空間、換気扇も通気口もない。そこに五人が閉じこもっていれば、酸素がなくなるのは時間の問題である。その上、犯人の一人は足を負傷している。そういつまでも頑張れないだろう。「必ず向こうから何か連絡をしてくる」。

 金庫室。中野の出血がひどく、苦しそうな声をあげている。沈黙を破ったのは女子行員「こんなこと馬鹿げてるわ。自首すべきだと思います」「うるせえ」と霧島。「どう足掻いても仕方がないってことは、あなた方が一番よく分かっているんじゃないかしら」と自首して欲しいと懇願。それが耳障りな霧島は白石に「コイツら黙らせろ!」。狂気の表情の白石、ライフルを突きつけて「しゃべってみろよ」と女子行員を脅す。それを眺めている霧島のタバコから紫煙が上っていく。

 対策本部。ジーパンがタバコに火をつける。ボスはコートを着たまま沈黙。二月だから無人のオフィスは寒いんだろうね。

 金庫室。酸欠が始まり、息苦しそうな白石。「妙に息苦しくなっちまったぜ」と中野。「俺もそう思ってたところだ」と霧島。「酸素がなくなってきたの」の女子行員の言葉に、ギョッとなる三人組。読みが甘いね。まんまとボスの目論み通り、霧島はホットラインに電話。

 対策本部。しかしボスは、相手を焦らす作戦で、なかなか受話器をあげようとしない。心理戦である。一回目は、ボスが出ないことで相手を追い込んだ。

 金庫室。しばらくして電話が鳴る。「どうした?何か用があるのか?」「用があるからかけたんだ。なんですぐ出ねえんだ」「ようし聞こうじゃないか」「風通しの穴を開けろ、すぐにだ!」。自分たちの要求を呑まなければ、人質の行員は一人ずつ殺すと霧島。

「それからもう一つ、医者を呼べ」
「医者? 傷の具合が悪いのか?」

 「壁に穴を開けろとか、医者を呼べとか、少し虫が良すぎないか」とボスが追い討ちをかける。もし、壁に穴を開けないならどうする?「こっちには人質がいるんだ」と霧島の脅しに屈しず、ボスは「いようといまいと、こっちには関係ないんだ」とクール。「窒息しても構わないのか?」「その時はお前たちも死ぬんだ」と追い詰める。結局、ボスは壁に穴を開け、医者も送ることにするが、条件を出す。二人の女子行員を釈放するように。「それじゃ数が合わねえ」。そこでボス「医者と一緒に俺が行く」。かっこいいね!

「医者と刑事が人質になるんだ。それじゃ文句があるまい」

 人質の交換が終わったら、壁に穴を開けることとなった。イヤホンでやりとりを聞いていたゴリさんが思い出す。「あの声は、霧島だ!」。ジーパンは外で待機している警察病院の医師を連れてくることに。ゴリさんはボスに・・・

「ボス、俺にやらしてください」
「責任上、それはダメだ。とにかくダメだ」
「俺はチョンガーですし、少しくらい痛めつけられても、持ち堪える体力があります」
「心配するな、俺だってチョンガーだ。どうにかなるさ」
「どうにもならんと思います」

「ボスが中に入ってしまったら、誰が指揮をとるんですか? ボスはここにいて指揮をとってください」。ボスはゆっくり考えて、ゴリさんに任せることにする。なかなか良いシーン。ゴリさんは犯人を逮捕して、無事出てきたら「ビフテキ奢ってください」と明るい表情で頼む。ボスも笑顔で「いいだろう」。

金庫室。五人は酸欠でそろそろ限界のようである。

 ボスは、電話で山さんに、コンクリート片に見せかけて、ワイヤレスマイクを石膏で包んでカモフラージュして、金庫内に設置するための指示を出す。電話を切ったボス、ゴリさんに「時計を合わせておこう」と腕時計を出す。「1時間後の3時に決行だ。壁の中から催涙ガスを投げ込み、灯りを消して飛び込む。穴を開けるときにワイヤレスマイクを放り込むから、中の状況を見て、OKだったら連絡してくれ。言葉でもなんでもいい、歌でもいい」。

 ジーパンが、長谷川医師(中村雅俊)を伴って、ボスのデスクまでやってくる。このシーンについて中村雅俊さんに伺った。

「『太陽にほえろ!』では、松田優作さんとも一緒で、二人で部屋の入り口から、裕次郎さんが座っているデスクまで歩いていく芝居からなんですけど、ジーパン刑事が「ボス、この人が、人質になってくれるそうです」と、おれを紹介するシーンで、二人でNG大会でした(笑)遅刻してきたこともあって、大緊張しちゃっていて、松田さんは松田さんで、文学座で一年下の後輩だから、おれに気を遣って、松田さんもNGを出すわ。次、おれもNGを出すわで、すごい大変だったんです。ワンカットで撮るから、ずっと裕次郎さんが待ってくれて。放映が1974年2月22日ですから、撮影は1973年にしているんです。監督は竹林進さん。しかも、おれは初めてなのに、重要な役です。銀行ギャングが金庫に立てこもって、人質の変わりに警察の医者のおれと、ゴリさん(竜雷太)が、人質になるという展開です。」

「ボス、この人が中に入るのを決意してくれた、長谷川さんです」とジーパン
「お願いできますか、先生」立ち上がって挨拶をするボス
「ええ、ただ一つだけお願いがあります」と長谷川医師
「なんでしょう?」
「私が行くことをマスコミには発表しないでください。母さんに余計な心配をさせたくないんです」
「わかりました」

金庫室。酸欠状態のなかで人質交換の準備をしている霧島たち。

 金庫室に向かう、長谷川、ジーパン。ゴリさんはボスに「約束忘れないでください」「ビフテキだろ?」「こんな分厚いやつで皿からはみ出そうなやつ。ニンニクのたっぷり効いたやつね」。ボスの笑顔には、最愛の部下を信じている信頼感があふれている。

 ボスが金庫の扉を開ける。「そこで止めろ」と霧島。半開きなので中の様子がよく見えない。人質は白石に銃を突きつけられ、霧島はボスに銃口を向けている。ゆっくりと人質交換。ゴリさんと長谷川医師が金庫に入る。ゴリさんの顔を見た霧島の表情が一瞬変わる。「やっぱり霧島だ」。白石は女子行員をそのまま人質にしようと卑怯な行動に出るが、霧島は「その二人をはなせ」と解放する。ボスはできる限り中の様子を見た後、ゆっくりと金庫室のドアを閉める。

 金庫室。まじまじとゴリさんの顔を見た霧島。「久しぶりだな、石塚!」と恨みを込めた表情で叫ぶ。「俺もこんな風にお前に会えるとは思わなかったよ。また根比べが始まるな」。霧島に促されて、長谷川医師は中野の脚の治療へ。ゴリさん、長谷川に「先生、これから何が起ころうと、私のことは心配しないでください」と告げる。

「良い覚悟だ、たっぷり楽しませてもらうぜ」

 霧島は、積年の恨みをこめて、ゴリさんに殴りかかる。全身ボコボコにされ、血だらけになっても耐えるゴリさん。「俺は忘れないぜ、死んだって忘れるもんか!」と霧島。

 回想シーン。取調室で、霧島を徹底的に調べ上げるゴリさん。「霧島、お前が吐くまで俺はここを動かんぞ、さっさと吐け!」。たまりかねて自白をする霧島。その屈辱が忘れられないのだ。

「お前のおかげで、たっぷりクサイ飯を食わされたんだ!」。ゴリさんへの執拗なリンチが続けられ、ついには意識不明となってしまう。

金庫の外では、作業員たちがドリルで空気穴を開けている。山さんは、人質となった女子行員の証言でモンタージュを作成。ジーパンは石膏にしくんだワイヤレスマイクを持ってきて、壁に穴が開いたタイミングで、金庫に投げ入れる。穴が空いたところで、霧島は「やめろ!」と命ずるがそのままドリルを回していた作業員が、穴越しにライフルで撃たれてしまう。至近距離だったので防弾チョッキを突き抜けていた。「誰がこんなでっかい穴を開けろと言ったんだ!」と霧島。「やめろと言ったのにやめなかったそっちが悪いんだ」。

「これからどうするつもりなんだ」と白石
「時間は掃いて捨てるほどあるんだ、じっくり考えるさ」と霧島

 その会話を盗聴しているボス、山さん、長さん、殿下、ジーパン。「ゴリさんの声らしきものは、全く聞こえませんね。何かあったんでしょうか?」と山さん。「かもしれん」とボス。「もうじき3時です。どうしますか?」と山さん。

「計画は延期しよう。とにかく、なんとしてもゴリの様子を探るんだ」とボス。

金庫室。意識不明のゴリさん。

電光時計は6:30を示している。

空気穴から食事を差し入れる山さん。ゴリさんの様子はわからない。

金庫室。貪るようにりんごやみかんを食べる犯人たち。長谷川医師の隣で意識不明のゴリさん、二人とも両手を拘束されている。

 やがてワイヤレスマイクから「このデカぶっ倒れたきりだが、まさかくたばっちまったんじゃないだろうな」と白石、「コイツはそんなタマじゃねえ」と霧島の会話が聞こえてくる。「気を失っているだけさ」「先生、本当にそうなのかい?」「そうです」。人質をとっているんだから自分たちが殺されるはずがない「なにしろ登の親父様は、国会議員なんだからな。サツなんて所詮は役人よ、議員様には頭が上がらねえ。いざとなれば、そのことをデカたちに話してやれば、下手な手出しはできなくなる」と霧島。重要な手がかりを得た捜査チーム。山さんは早速、白石の父親を調べることに。

10:00。西山署長(平田昭彦)が銀行の捜査本部へと苛立った表情で入ってくる。傍には刑事(加藤茂雄ノンクレジット)もいる。「なんとかならんのかねぇ、君、ホシは目の前にいるんだよ」「早くなんとかしないと、我々は無能の烙印を押されてしまう。強硬手段は考えられんのかね?」

「中に入った石塚が、気を失って動けません。迂闊なことをして万一のことがあったら・・・」
「少しぐらいの危険は仕方ないだろう? 問題は警察のメンツだよ」

 そこへ山さん。登の身元が判明したと報告。「白石登、21歳。父親は白石幸二郎、国会議員です」。その言葉に反応する西山署長。ガンマニアで、最初は鳥や獣を撃っていたが、それには飽き足らず、ついに銃口を人間に向けたくなった。「かなり偏執狂的な男です」。西山署長、白石の父が国会議員と知るや態度を翻し「まずいなぁ、うっかり強硬手段など取れないぞ。もしものことがあったら、エライことになる。藤堂くん、慎重にな、慎重に」。これから本庁で報告してくるが、もし強硬手段をとるなら、自分に連絡しろと言って、去ってゆく。

 入れ違いに長さんと殿下が戻ってくる。モンタージュ写真から、犯人二人の身元が判明。うち一人は、城南署にいたころ、ゴリさんが逮捕した霧島であることを、この時、ボスは初めて知る。霧島修司、昭和15年2月24日生まれ、34歳。窃盗により9ヶ月の実刑を受け、7ヶ月にて仮釈放となるも、暴行傷害によりゴリさんに再逮捕され、7年5ヶ月の実刑を受けて、城南刑務所に服役。中野英夫、昭和17年8月14日生まれ、31歳。強盗傷害により5年6ヶ月の判決を受け、城南刑務所に服役。

「バカな奴だ。ゴリの奴、初めから霧島と知って中に入っていったんだ」とボス。無言の刑事たち。

 ワイヤレスマイクから白石の声が聞こえてくる。「サツに飛行機を用意させるんだ」。すでに手配されているのだから逃げられるわけないと中野。白石は続ける「逃げようってわけじゃねぇよ、どうせ捕まるんなら、捕まるまでをスカッと楽しみたいだけさ」。「楽しむ?」霧島は呆れている。差し入れのラジオのスイッチを入れる白石。ジャズが流れる。「どうしようってんだ? 何かいい考えでもあるのか?」と霧島。

 その時、ゴリさんがようやく気づく。長谷川医師ほっとする。ゴリさん、目でマイクを探して、ようやく見つける。ボスへ合図を送らねば。必死に腕の拘束を解こうとする。

 白石は考えを霧島に話す。「セスナを羽田に用意させるんだ」「セスナ?誰が操縦するんだ?」「俺さ。ライセンスは取り損なったが、飛ばすぐらいはできる」「飛び上がったらこっちのもんさ。新宿か銀座の上空から、この万札をばら撒くんだ。さぞかしスカッとするだろうな」。あなたウルトラマンエースだったんだよ、そんな悪くなってどうする?「サツは俺たちのこと懸命に探そうとするが、手が出せない。こっちは空の上にいるんだ」「行けそうだな、一つ、サツの鼻を明かしてやろうじゃないか」と霧島も中野も、その話に乗る。「そうと決まったら、早速サツに連絡してくれ。俺は爆弾をセットする」と白石は、アタッシェケースの時限爆弾をセット。

ゴリさん、起き上がる。

捜査本部、ボスが電話を受ける。

「羽田にセスナ機を用意しろ。用意ができたら、俺たちを羽田まで案内してくれ。いいか、こっちには人質も爆弾もあるんだ。」
「よし分かった。用意でき次第、連絡しよう」

 その時、ゴリさんダミ声で歌い出す。「♪カラスなぜなくの〜」ゴリさんからの合図である。半狂乱の霧島にボコボコにされながら歌い続けるゴリさん。

「強硬手段をとる。セスナには四人しか乗れん。つまり人質は一人だけだ」とボス
「となるとゴリさんの生命が危ないな」と山さん
「長さん」
「いつでも金庫室の電気は消せます」
「殿下、催涙ガスの準備だ」
「ジーパン、防弾チョッキを用意しろ」
「問題は、ゴリと先生に、どうやってこのことを連絡するか、だ」

そこにラジオのリクエスト番組が聞こえてくる。「よっぽどラジオが好きらしいな」とボス。山さん「ラジオを利用する」。ボスうなづく。

 ラジオ局のスタジオ。山さんがディレクターにメッセージをお願いする。ディスクジョッキー(志賀正浩)がスタジオに入る。お、志賀ちゃん! 志賀正浩さんは、1960年代カレッジフォーク「フォー・セインツ」のメンバーで、1970年代「ザ・パンチ・パンチ・パンチ」(ニッポン放送)などのラジオのパーソナリティとして活躍。テレビ東京「おはようスタジオ」の司会で子供たちの人気者となる。

「通称ボスより、親友のゴリラくんへ。いくらニックネームとはいえ、ボスだのゴリラ、ゴリラねえ、ずいぶん思い切った名前しているけど、顔も思い切ってるのかなぁ。まあいいや、とにかく葉書を読みましょう。その後も変わりなく元気でやってるかい? ところが小生の方はあまり元気じゃない。なんだか武士みたいだなぁ小生なんて。と言うのはお袋にラジオ取り上げられちゃったんだ。勉強もせずに深夜放送を聞いているなら、早く寝ろ、と言うんだなぁ、12時ジャストになると部屋の電気を消されちゃうんだ。部屋は真っ暗、小生は眠れない。悔し涙があふれてくる。分かってくれるかい?午前0時と小生の涙。まいったよ」ボスからのメッセージはゴリさんに届く。ちなみにボスがリクエストしたのはバッハ名曲集。

「12時になると真っ暗、涙が出る・・・そうか12時に決行か!」ゴリさんの心の声。

「今何時だ?」霧島に聞くゴリさん。「なんで知りたいんだ?」「腹が減ってきた。そろそろ夜食の時間じゃないかと思ってね。」霧島は「12時20分前だ」と告げる。「どうりで腹が減ってるはずだ」

 ボスにもゴリさんがメッセージを理解したことが伝わった。全員スタンバイして、強行突入の準備に入る。そこへ西山署長、慌てて入ってくる。「君たち、無茶しちゃいかん!」。ボス、それを無視して行動開始!

 金庫室。ゴリさん、西山にタバコを吸わせてくれと頼むが、西山に弄ばれる。目の前のラジオにすいさしのタバコを置かれたゴリさん。這いつくばって咥える。実はそれで自分のたちを縛っている紐を切ろうとしているのだ。見事に焼き切り、長谷川に渡す。

 金庫室の外では、ボスたちが突入の準備。まもなく午前0時の時報です。そのタイミングで、空気穴から山さんが催涙弾を投げ入れ、長さんが電気を切る。捜査一係の見事なチームワークで、久しぶりのジーパンの空手アクション、犯人たちを逮捕する。

 ボス、長谷川医師に「辛い思いをさせてしまいました。申し訳ありません」「いいえ。これが役目ですから」。中村雅俊さん、初めての出演で、裕次郎さんとの芝居場。子供の頃、宮城県女川町で日活アクションに憧れた少年時代を思い、感無量だったという。この2年後、中村雅俊さんは裕次郎さんのデビュー時のスチルを撮った齋藤耕一監督『凍河』(1976年)に主演。その兄役で裕次郎さんが特別出演を果たし、それが映画俳優・石原裕次郎の最後の出演作となった。

 長さんがゴリさんを抱えるように出てくる。「大丈夫か? 全くゴリさんじゃなきゃ、こんなことはできないよ」と長さん。顔面が腫れ上がり血だらけのゴリさん、「ご苦労さん」と声をかける、ボスの顔を見て、ニッコリ笑って「ボス、約束のビーフステーキ・・・」「ゴリ、日本で一番うまいビフテキ食わしてやるからな」。うなづくゴリさん、うなづくボス。


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