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『クレージーメキシコ大作戦』(1968年4月27日・東宝・坪島孝)

 上映時間二時間四十二分。アメリカのサンフランシスコから、メキシコのメキシコシティ、アカプルコへとロケーションを敢行した『クレージーメキシコ大作戦』は、1962(昭和37)年から1971(昭和46)年にかけての九年間に三十本もの作品を産み出した東宝クレージー映画のなかでも、最もゴージャスな超大作。公開された1968(昭和43)年はメキシコオリンピックが開催され、ニッポン中をメキシコブームが席巻していた。

 前年の1967(昭和42)年のゴールデンウィークに公開され大ヒットした『クレージー黄金作戦』(坪島孝監督)のハワイ〜ロサンゼルス〜ラスベガスのアメリカ縦断ロケを超えるものとなり、製作中から大きな話題となっていた。脚本は、『ニッポン無責任時代』(62年古澤憲吾監督)“無責任男”という概念を産み出した田波靖男。監督は『クレージー作戦 くたばれ!無責任』(63年)からクレージー映画に参加した坪島孝。前作同様、植木等、谷啓、ハナ肇の三人を均等に配分し、それぞれのキャラクターをうまく活かした物語展開は、長丁場を飽きさせない。ゲストも多彩で、ザ・ピーナッツ、中尾ミエ、沢田研二、ザ・ドリフターズと渡辺プロのスターが顔を揃えている。

 “メキシコ秘宝展”の会場から、メキシコの某所に隠されているオルメカの秘宝のありかを知る手がかりとなる石像が盗まれる。盗んだのは刑務所帰りの清水忠治(ハナ肇)だったが、石像は大酒飲みの酒森進(植木等)の手に渡ってしまう。抜け目のない酒森は、美大生・村山絵美(浜美枝)に偽造させ、花岡組に大金で売りつける。ある日、忠治はバーのマダム由加利(春川ますみ)殺しの濡れ衣を着せられてしまう。

銀行員の鈴木三郎は恋人・相川雪子(園まり)の思慕を断ち切り、頭取令嬢・大林令子(浦山珠美)と婚約、デート帰りになぜか由香利の死体を車に乗せる羽目に・・・ 一方、石像をアメリカのギャングに届けるため花岡平造(田武謙三)が秘書の秋本光子(大空真弓)と共に渡米することを知った、忠治もアメリカへ密航。

殺人の嫌疑をかけられた三郎は新婚旅行先のサンフランシスコへ逃亡。結局、由香利の死体は酒森の手に渡り、始末しにやってきた病院で、酒森はガンの名医・中村馬之助博士(藤田まこと)と間違えられて、アルカトラズ刑務所へ拉致されてしまう。

 植木、ハナ、谷の三人それぞれ渡米することになるきっかけとなるのが、春川ますみ扮するマダム殺人事件というアイデアの妙。落語の「らくだ」よろしく死体をネタにしたブラックな展開は、これまでのクレージー映画にないもの。三人が抱えているトラブルと、渡米までの国内シーンの展開は実に鮮やか。三人はサンフランシスコで合流し、ギャングに追われてメキシコへとさらに逃亡。ついにオルメカの秘宝を手にするが・・・

 主題歌、挿入歌もふんだん。植木等の「人生たかが二万五千日」(作詞:田波靖男/作曲:萩原哲晶)。園まりの「あなたのとりこ」(作詞:なかにし礼/作曲:宮川泰)。そしてクレージー、ザ・ピーナッツ、中尾ミエらがメキシコ民謡「Cielito Lindo」をアレンジした「VIVA! CRAZY」(作詞:河野洋)ショウを展開する。そして植木、ハナ、谷による「ハイウェイギンギラマーチ」(作詞:田波靖男/作曲:宮川泰)の爽快感! 音楽は宮川泰と萩原哲晶が担当。クレージーサウンドを手がけた二人による音楽も、また楽しい。


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