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太陽にほえろ! 1974・第80話「女として 刑事として」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第80話「女として 刑事として」(1974.1.25 脚本・柏倉敏之 監督・澤田幸弘)

永井久美(青木英美)

中村浩司(小野進也)

町田(木村豊幸)

田宮ゆかり(松崎緑子)

ガソリンスタンドのゆかりの同僚(市村博)

清水幸夫(手塚茂夫)

大川(高橋明)

大衆食堂の客(加藤茂雄)

小澤憲一郎

ベッドハウスのおばさん(本田淳子)

滝(築地博)
柴田たき(菅井きんNC)

予告編の小林恭治さんのナレーション
「女刑事、内田伸子。女であるがために犯人を逮捕できなかったのか? 刑事としての責任の重さに苦しむシンコ。その時知る、純の友情。しかし、追い詰められた犯人の銃口は、非情にも純に向けられ、凶弾に倒れてしまう。女として純の身体を案じ、刑事としてシンコの犯人捜査の的は絞られてゆく。次回「女として 刑事として」にご期待ください。」

 シンコこと内田伸子(関根恵子)主演回。タイトルにあるように「女性だから」のレッテルを剥がそうと孤軍奮闘するシンコの活躍を描く。女性の時代を予見したというか、この時代、これほど職業における女性蔑視があったのか、と改めて実感する。第4話「プールサイドに黒いバラ」(1972年8月11日)以来の澤田幸弘監督の登板。日活ニューアクションの騎手だった澤田監督は、本作でも些細なことで道を踏み外して強盗犯になってしまう若者(小野進也)と恋人の悲劇を描いている。また、ここから松田優作さんと澤田監督の交流が始まり、この年の11月公開の傑作『あばよダチ公』(1974年・日活)に結実する。

 新宿西口の早朝。覆面パトカーが現場に急行。ボス、ジーパン、ゴリさん、山さん、長さん、殿下、シンコ、勢揃い。ビルの中の三光商事のオフィスでは、警備員二人が殺され、二つのジュラルミンケースの現金が奪われていた。ボスは「犯人は逃げたばかりだ。追え」。全員が散って、犯人を追う。ひとり、ビルの外を調べていたシンコは、半開きしたシャッターから覆面をした犯人・中村浩司(小野進也)と鉢合わせ。びっくりしている間に逃げられてしまう。慌てて追うシンコ。しかし犯人グルーうは用意していたバンに乗り込み逃走。

 新聞の輪転機。「三光商事で ガードマン殺さる!」「給料九千万円奪わる!」「三人組か?!」

 捜査第一係に向かうジーパンとシンコを、事件記者たちが取り囲む。犯人の顔を見ながら、取り逃してしまったシンコを責めるような口調。ジーパンがシンコをガードして、やっとの思いで一係に入ってくる。石油ストーブに当たっている長さん、ゴリさん、そしてボス。シンコの証言をもとに犯人(小野進也)のモンタージュを作成、山さんと殿下は写真を持って三光商事へ。「これで犯人逮捕の糸口を掴めますね」と長さん。ゴリさん、朝から何も食べてないのでお腹ぺこぺこ。ボス「よし、今のうちに腹ごしらえしておけ」。ジーパンが久美に出前を頼もうとすると、久美は内緒で焼き芋を食べている。いつもの朝だけど、シンコの心は沈んでいる。ジーパンは「お前、何する?」と優しく声をかけるが、シンコは頭を振る。

「腹が減ってはいくさができないっていうだろ。元気出せよ。あの場合はさ、しゃあないんだよ。シンコは女だしさ、な」
「女だから?」
「・・・」
口籠もるジーパン。

 そこへ山さんから電話。犯人は三光商事の元運転手・中村浩司(小野進也)、24歳だと判明。シンコのモンタージュ写真が役に立ったのだ。ジーパン、シンコのお手柄だと、彼女の気持ちをアップさせようとする。優しいね。少し嬉しそうなシンコ。中村は2年前に、愚連隊と喧嘩したのが原因で退職していた。寮を出た後の行方は不明。長さん、ゴリさんが中村の交友関係を洗うことに。「また飯食い損っちゃったよ」と嘆くゴリさんに、長さんは「じっと我慢の子で行きましょうよ」。ボンカレーCMの笑福亭仁鶴師匠のフレーズ。当時、大流行していた。長さんもテレビ見てるんだね。

 シンコ、居ても立っても居られない。しかしボスは「お前、ここへ残れ」。自分も行きたいと懇願するが、ボスは「とにかくここへ残れ」とジーパンを連れて、被害者の解剖結果を聞きに病院へ。シンコ「・・・」。

 大井競馬場。長さんとゴリさん、スタンドを探している。熱狂する観客たち。長さんがようやく「必勝餅」を売っている中村の知人・清水幸夫(手塚茂夫)を見つける。演じるは「矢車剣之助」を演じていた元・スリーファンキーズの手塚茂雄。犯人・中村を演じている小野進也さんとは「ワイルド7」(1972年〜73年)で共演、小野さんが千葉大陸、手塚さんが八百を演じていた。だから、二人が連んでいるのは、当時の小学生にとっては納得のいくキャスティングだった。

 長さんが近づくと、清水幸夫は逃げ出す。長さんとゴリさんが必死に追いかける。競馬中継のアナウンスと、三人の追いかけっこがシンクロしておかしい。澤田幸弘監督の遊び心溢れるシーン。しかし抵抗むなしく、清水は二人に取り押さえられる。ゴリさん「貴様も三光商事を襲ったのか?」「違う」「どうして逃げた?」。ゴリさんの追及に「本当に俺、何にもしてないよ!」。中村とは最近付き合っていない。田宮ゆかり(松崎緑子)と仲がいいことを話す。

 長さんとゴリさんは、ゆかりの勤め先が、新宿三光町裏のガソリンスタンドを聞き出す。殿下と山さん、ガソリンスタンドで働くゆかりを張り込んでいる。殿下「気立の良さそうな娘じゃないですか。とても中村の彼女とは思えませんね」「とにかく当たってみよう」と山さん。中村浩司の居場所を聞かれても「知りません。私、確かに中村さんと付き合っていました。でも一年ほど前に別れたんです」。働かず遊んでばかりの浩司に愛想を尽かしたとゆかり。その時同僚(市村博)が「係長が呼んでるよ」と声をかけて、ゆかり去ってゆく。「本当に知らないみたいですね」。殿下の後ろには「007ダイヤモンドは永遠に」の新宿ミラノ座ポスター。

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 一係。シンコが一人、沈み込んでいる。久美がお茶を淹れて「あんまりクヨクヨしない方がいいわ」「だけど、あの時、私さえ、もっとしっかりしていれば、そう考えると・・・ねえ、久美ちゃんどう思う?やっぱり女に刑事は無理なのかしら?」「そんなことないわ、シンコさんだって負けないで、ちゃんとやってるじゃない?」「だけどボスはそう思っていないわ」「そうかしら?」「女の刑事なんて役に立たないと思っているのね」。だから捜査から外されたに違いない。それが悔しくてたまらないのだ。「だいたい、男って女をバカにしてるわよね。女はお茶汲みぐらいしかできないと思ってるんだから」と久美。

「女には女しかできないことだってあるじゃない。だから女の刑事だって必要なのよ」

 久美ちゃん、いいこと言うね。ボスのデスクに電話。シンコが出る。三光商事事件担当刑事あての電話だった。「あたしがそうですけど」「え?だってあんた女だろ」「女でも本当の刑事です」。テレビで見た中村のモンタージュ写真そっくりの男を目撃したとの通報だった。

 警察病院を出てくるボス、慌てて走り出すジーパン。「ボス、クルマ借ります。シンコが出て行ったんですよ。中村がドヤにいるっていうタレコミだったんですよ」「相手は拳銃を持ってるんだぞ」。ボスの言葉が終わる前に、ジーパン、クルマで走り出す。

 神社の階段を降りてくるシンコ。ドヤ街の簡易ベッドハウスのおばさん(本田淳子)に警察手帳を見せ、中村のモンタージュ写真を差し出すシンコ。ベッドを見て回る。ジーパンも三谷に駆けつけ、シンコを探す。おそらく、初めての大衆食堂に少しおそれを成しているシンコ。キャップの上に鉢巻を巻いて丼を食べている客(加藤茂雄)に、手配写真を見せる。「お前さん誰?」「警察のものです」「デカ?」。その大きな声に店中がシンコに注目する。「女のデカ?」「女にデカなんか務まるわけないよ」。シンコうろたえる。ジーパン、必死にシンコを探している。児童公園で佇んでいるシンコを見つけたジーパン、「中村浩司は見つかったか?」「・・・」「よし、今度は俺が変わるよ」。つとめて明るく振る舞うが、シンコは憮然として「女には無理だと思っているのね」「そういうわけじゃないけど、ボスだって心配しているよ」。しかしシンコは「ボスだって同じよ。私なんて役に立たないと思っているんだわ」「違うんじゃないかな」。

「私ね、どうしても自分の手で犯人を捕まえたいのよ」
「その気持ちはわかるけどさ、女には女にふさわしい捜査の仕方があるんじゃないのか?」

 ジーパンも精一杯、シンコに気を遣っているのだけど、シンコは頑なになってしまう。ジーパン、ふと見やると「焼き芋屋」の屋台がある。先程の久美のことを思い出して、焼き芋を買うジーパン。「シンコ、芋食え、これ食うと、身体あったまるぞ」。その優しさが嬉しいシンコ。それでも「私のことなら心配しないで。ジーパンくん、先に帰ってください」「随分、意地っ張りだなお前も」。

 一人、ドヤ街を歩くシンコ。その後をついていくジーパン。なんと、シンコは中村とすれ違う。ロケーションは新宿南口あたり。シンコは中村を尾行する。中村、シンコに気づく。その後を歩くジーパン。突然走り出す中村。シンコ走る。ジーパンも走る。工事現場の資材置き場に逃げ込む中村、行手には壁。追い詰められた中村、拳銃を構え、シンコに向ける。ジーパン物陰に隠れる。中村「来るな!来ると撃つぞ!」。立ち尽くすシンコ。ジーパンは飛び出して、そこらにある資材を中村に向けて投げる。ジーパンの絶叫! 咄嗟にシンコを庇うジーパンが、中村の凶弾に撃たれてしまう。「俺は大丈夫だ。奴を、奴を・・・」とその場に倒れるジーパン。「しっかりして!」その隙に、工事現場の壁を駆け上り、中村は逃げてしまう。後ろには代々木ゼミナールの看板。やはりロケーションは新宿界隈。

 警察病院。手術中のランプ。ボスがジーパンの母・たき(菅井きん)と一緒に見舞いにやってくる。「私のミスでこんなことに・・・」項垂れるシンコ。「心配しなくていいのよ、シンコさん。純はね、子供の頃から丈夫な子でしたからね」とたき。手術が終わり、ジーパンは病室へ。その結果を主治医から聞くボス。

 夜の一係。一人、物思いにふけるボス。山さんから報告の電話。「そのまま中村の足取りを追ってくれ」。長さんとゴリさん、鑑識から帰ってくる。ジーパンを撃った銃は、ガードマン殺害のものとは別な拳銃と判明。「ということは、犯人は少なくとも二挺以上の拳銃を持っている」とゴリさん。長さんとゴリさんは拳銃のルートを調べることに。ジーパンの様子を聞く長さん。生命には別状はない。こんなことでぶっ壊れるような奴じゃないと笑うが、ボスは何か気がかりなことがあるようだ。

 ジーパンの病室。右腕の自由が効かず、スプーンも握ることができないジーパン。シンコ、その様子を見てショック。「ね、腕どう?」「この前、看護婦に買収して聞いたんだけど、少し治るのに時間がかかりそうだ」「・・・」「心配することないんだよ。元気だから」。どこまでもジーパン、シンコに気遣いをする。そこへたきが入ってくる。「いらっしゃい」「だからさ、シンコもさ、元気出して、しっかりやれよ」。二人はやっぱり愛し合っているね。シンコの嬉しそうな表情。ジーパンに勇気づけれたのだ。

 雑踏のなか、中村の手がかり探して歩くシンコ。旅行代理店を中心に聞き込みを続けている。中村が高跳びする恐れがあるからだ。旅行代理店の線から田宮ゆかりのアパート「みどり荘」を訪ねるシンコ。ノックしても返事がない。鍵がかかっていないので、そのまま部屋に入る。ゆかりがアイロンをかけている。その手には大粒の涙が・・・。「ゆかりさん」と声をかけても返事がない。呆然としているゆかり。何度かでようやく、シンコに気づく。

 一係。シンコが帰ってくる。「ボス、中村浩司には恋人がいます」とシンコ。「田宮ゆかりだろ?俺たちも調べた」と殿下。中村と別れているのは本当だろう。しばらく張り込んだが、連絡を取る気配がないと殿下は続ける。「でも・・・あの人、今でも好きな人がいるような気がするんです」。殿下は「ガソリンスタンドの男だろ」。しかしシンコは「そうかしら・・・」。女の勘である。なぜあの時、ゆかりは呆然として涙を流していたのか?

「ボス、もう少し、田宮ゆかりを調べさせてもらえないでしょうか? まだ自信はないんですけど、やって見たいんです」
「いいだろう。やってみろ」
「ボス」
「その代わり、連絡はちゃんと取るんだぞ」

 嬉しそうにうなづくシンコ。それを嬉しそうに見ている久美。殿下「無駄だと思うけどな」。山さん「無駄でもいいじゃないか、これでシンコが立ち直ればな」。山さんも優しいね。「わからんぞ殿下、女の勘っていうのはバカにならんからな」とボス。

 三光町のガソリンスタンド。通りの向こうからシンコ、ゆかりを張り込んでいる。同僚(市村博)がゆかりに、何かプレゼントのようなものを渡している。殿下の言う通り、新しい恋人なのか? シンコの後ろを歩く恋人たち。

 夜、ゆかりのアパート。路地で張り込んでいるシンコ。寒空が身に沁みる。

公園。犬と戯れるゆかり。木陰からじっと見ているシンコ。公園のすぐそばの道で、幼児の自転車が転倒、泣く男の子に駆け寄るシンコ。「ボク、大丈夫?」振り向くと、ゆかりの姿はない。

ゆ かりを見失ったシンコ。街中へ、ようやく、ゆかりを発見するが、新宿京王プラザホテルの前で、ゆかりは誰かを待っている。到着したタクシーには怪我をした浩司が乗っている。シンコに気づいたゆかり。「警察よ、早く行って」。タクシーは発車する。シンコ、次のタクシーを拾って「あのクルマを追って」。しかしゆかりが立ちはだかり、シンコのタクシーは急停車。まんまとゆかりにしてやられたのだ。

 何事もなかったのかのように歩き出すゆかり。追いかけるシンコ。「あの人中村ね、そうでしょ?」「誰のこと言ってるの?」。シンコはゆかりに「あなた私が追おうとしたら、自分の身体を投げ出してまで、助けようとしたんじゃない。ゆかりさん、人の生命ほど大事なものはないのよ」。ゆかり無言であるが、何かを考えている。左の膝から血が滲んでいる。先程転んだ時の傷だ。シンコ、黙ってゆかりの膝にカットバンを貼る。やがて、新宿大ガードをのぞむ歩道橋で、シンコはゆかりに話しかける。

「2年前、あなた、夜道で愚連隊に乱暴されそうになったわね。その時、通りかかった中村に助けてもらったんでしょう? それからね、あなたがあの人と親しくなったのは」。その時、中村は愚連隊に手を刺されて、クルマの運転もできなくなり、会社を辞めてから相当な苦労をしていた。「あなたのためなのよ。そんな人と簡単に別れられる? できるはずない。だから、あなたは自分を犠牲にしてまで、中村を助けようとしたんだわ」。シンコは男性を愛する女の気持ちが痛いほどわかっている。うなづく、ゆかり。シンコは続ける。「だけどね、中村は犯人よ。その上、刑事まで撃ったのよ。その刑事、もしかしたら、腕が不自由になるかもしれないのよ」。その言葉に振り向くゆかり。「その人も、あなたを庇おうとして撃たれたの?」。ゆかりを見つめる無言のシンコ。

 ジーパンの病室。必死にハンドグリップで右手を鍛えている。そこへボスが見舞いにやってくる。「もうすっかり大丈夫です」。しかし右腕は本調子じゃない。「ほら、無理するなよ」とボス。恐縮するジーパン。「気にするな、お前の分までシンコが頑張っているよ」。シンコが田宮ゆかりを追っていること、シンコの見込みが正いかわからないが、これで立ち直れれば「シンコは一人前だ」とボス。シンコからジーパンへのボトル・フラワーを手にするボス。

 デパートの屋上。誰かと待ち合わせをしているゆかりを、遠くから見つめるシンコ。そこへ現れたのは浩司ではなく、ガソリンスタンドの同僚。どうやらデートらしい。店内を恋人のように歩く二人を、シンコはそっと尾行する。電気売り場、ウエディングドレスを睦まじく見て回る二人。エスカレーターでレストラン街へ。

 一係。「こんちわ〜」とジーパンが出勤してくる。殿下「なんだジーパン、お前、もう退院の許可、出たのか?」。山さん「勝手に抜け出してきたな」。居ても立ってもいられないジーパン。「シンコのことが心配で」「それはもう手を打っている。心配しなくていい」とボス。そこへ長さんが、拳銃ブローカーの大川(高橋明)を連行してくる。

 取調室。ゴリさん「ネタは上がってんだよ。早く吐いちまったらどうだ」と大川のサングラスを外して威嚇する。「・・・」。そこへ”落としの山さん”が入ってくる。「さあ、よおく見ろ。ガードマンの心臓から取り出した弾だ」「俺がやったんじゃねえ」「だが、拳銃を売ったのはお前だな」。中村浩司ではないと大川。では一体誰に売ったのか?

 デパート。男性化粧品売り場で歯磨きなどの生活用品を購入している、ゆかりと同僚。シンコ、二人を追うが、階段で二人は別れて、ゆかりだけが降りてゆく。シンコ、サングラスをかけ、髪をおろしてイメージを変えて、同僚の脇を何食わぬ顔で通り、ゆかりを追う。このデパートは「新宿丸井」でロケーション。

 一係。山さんが戻ってくる。大川が拳銃を売ったのは、町田と滝、二人とも三光商事の元ボイラーマンだった。町田は失業して困っている中村に目をつけて、仲間に引き込んだのだ。これで主犯は町田と確定。そこへシンコから報告の電話。「なに?ゆかりが?」。

 横浜駅。ゆかりが降り立つ。駅前の電話ボックスからシンコ。「どうも様子がおかしいんです。中村に会いに行くんじゃないでしょうか?」。ボスは相手は拳銃を持っているから気をつけろと念を押す。すぐに出動する一係の面々。

 横浜港の近く。かつての引き込み線の鉄橋を歩くシンコ。その前をゆかりが歩いていく。ここは石原裕次郎さんの『俺は待ってるぜ』(1957年)の舞台となった場所。やがてゆかりは、赤レンガ倉庫へ向かう。ここも裕次郎さんの日活アクションの舞台となった聖地でもある。次のカットでゆかりは横浜第三埠頭へ。一係に連絡をして、ゆかりの後をつけるシンコ。埠頭に止まっている一台のクルマには、浩司、町田(木村豊幸)、滝(築地博)たちが乗っている。バナナやハム、フランスパンなど食料を貪る町田と滝。ショッピングバッグを手に、引き込み線を歩くゆかり。貨物車に隠れながらシンコは尾行を続ける。拳銃を手にした主犯の町田がゆかりに気付き、「誰かつけてるかもしれないが注意しろ」と浩司を促す。

 「青春シリーズ」でお馴染みの木村豊幸さん、どう見てもワルに見えない。強盗殺人犯の極悪というより、クラスの不良といった貫禄である。「ウルトラマンタロウ」のZAT・南原隊員だから、気の良い若者のイメージが強い。町田は「浩司、ゆかり連れてこい。大丈夫だったら合図する」と指示を出す。

 町田は「まだわからないのか、刑事に目をつけられているのはゆかりと浩司だけだからな。あの二人さえうまく消せばもう安心よ」と滝に話す。なんて短絡的なんだ! 雷太先生に怒られるぞ! 二人を心中に見せかけようというのだ。

 浩司はゆかりを迎えに行く。「浩司さん・・・会いたかった」と駆け寄るゆかり。「ゆかり、逃げるんだ!」「逃げる?」うなづいた浩司、ゆかりを抱き寄せて歩き出す。それを遠くから見た町田「浩司のやつ、逃げる気だな!」とクルマを急突進。二人を轢き殺そうとするが失敗。クルマを降りた町田と滝、二人を追い詰めてゆく。拳銃を突きつけて町田「てめえ、俺たちを裏切ろうとしたな」「違う」「俺たち裏切らねえって約束じゃないか」。裏切るつもりの町田がどの口でいう?「これでお前の外国行きはパーだ。二人とも海の中で死んでもらうぜ!」。

 その隙にシンコ、町田たちのクルマを奪って、町田たちに突進! クルマを降りて、威嚇射撃をする。チキンの町田は腰を抜かして倒れてしまう。やっぱり木村豊幸さんだ(笑)シンコ、ゆかりと浩司を逃がして、町田と滝と対峙する。シンコが刑事だとわかってビビる町田と滝だが、「構わねえから、奴らぶっ殺して、銭だけ奪って逃げるんだ!」と無軌道ぶりを発揮。さすが日活ニューアクションの騎手・澤田幸弘監督! シンコはクルマのキーを抜いてポケットに。浩司はゆかりに「逃げよう。船の手配は済んでるんだ。外国へ行けばなんとかなる」「だめ、浩司さん、あの刑事さんが助けてくれたのよ。そんなことできないわ」と自首を促す。一方、拳銃を発砲しながらクルマに乗り込んだ町田と滝。しかし「兄貴、キーがない、キーが!」「馬鹿野郎!」ヤケクソになった町田は銃を乱射する。「兄貴、どうすんだよ」「馬鹿野郎、メソメソすんな」。

 そこへボスたちのクルマが到着。ボス「町田、拳銃を捨てて出てこい!」。発砲を続ける町田たち、しかし「兄貴、弾がない!」。現金を持ってクルマから逃げ出す二人を、ゴリさん、山さん、長さん、殿下が追う! 激しいアクションの末、ボスに殴られて倒れる町田。それでも往生際が悪く、ゴリさんと殿下、長さんが苦戦しながらも逮捕。

 ジーパン、物陰で座り込んでいるシンコを見つける。「シンコ、大丈夫か?」。シンコ、ゆっくりと浩司とゆかりに近づく。両手を差し出す浩司。バッグから手錠を取り出し、浩司の腕にかける。その時、浩司の左手の傷が一瞬画面に写る。ゆかりを愚連隊から助けた時の傷だ。これが全ての始まりだった。山さんがやってきて「さ、来てもらおうか。君もだ」とゆかりを促す。

「シンコ、良かった」
「腕?」
「治っちゃったよ、俺」
「良かったじゃない!(ジーパンの腕を叩く)」
「まだ、痛いんだよ、少し」

シンコ、心から嬉しそう。

一係。長さん「今度の事件は、シンコひとりにすっかりやられましたね」。殿下「だけど、ゆかりが中村と別れてないこと、どうしてわかったんだ?」。久美「女の気持ちは、女にしかわからないの」。和やかなひととき、シンコ、ジーパンを連れてパトロールに。先輩ぶっているシンコに「初めのうちは泣きべそかいていたクセに」とジーパン。二人、仲良く出ていく。ゴリさん「あの二人は、どうしてああ仲が悪いんでしょうね?」。山さん「いや、ひょっとすると・・・ひょっとするかもしれんぞ」「なんすか?ひょっとするとって」「チョンガーはゴリさん一人になるかもしれないってことだ」。そこでゴリさん「もう一人いますよ。独身会会長が」。みんなでボスを取り囲む。

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