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太陽にほえろ! 1974・第89話「地獄の再会」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第89話「地獄の再会」(1974.3.29 脚本・市川森一 監督・竹林進)

永井久美(青木英美)
鮫島勘五郎(藤岡琢也)
渋沢の母(塩沢とき)
山中貞則
青木孝文(勝野睦浩・勝野洋)※テスト出演
佐竹一男
鶴間邦彦(関虎実)
鮫島玉枝(北あけみ)

予告篇の小林恭治さんのナレーション。
「真昼の喧騒のなか、鮫島刑事の眼の前で、彼の部下である新任刑事が射殺された。全ては一瞬の出来事だった。放心の鮫島を残し、去っていく犯人のクルマ。彼は込み上げる悲しみを堪え、地獄に燃える執念と化して、追跡を開始した。次回「地獄の再会」にご期待ください」

 藤岡琢也さん扮する名物刑事・鮫島勘五郎、三度目の出演となる。前回の登場作・第67話「オリの中の刑事」(1973年)のラストで、東京近郊の山田署に移動させられた「その後」の物語。別居中の妻・玉枝を演じているのは、東宝で活躍した北あけみさん。「若大将シリーズ」や『海底軍艦』(1963年)、「クレージー映画」などでお馴染みのヴァンプ女優。ボスもタジタジの強烈なキャラを演じている。市川森一さんの脚本は、ユーモアとシリアスの按配が見事で、関虎実さん(犯人役)率いる「セキトラ・カースタント」によるカーアクションともども楽しめる。

 そして鮫島刑事が山田署で可愛がっている若手の青木刑事には、のちにテキサス刑事を演じる勝野洋さん! 全編、赤虎実さん(犯人役)によるカーアクションが楽しめる。

 今回からタイトルバックがプチ・リニューアル。ジーパンが遊園地のコーヒーカップに乗っているショットと、ボスが道を歩いているショットが新しくなった。

 捜査第一係。ボスが応接で、鮫島刑事夫人・玉枝(北あけみ)の話を聞いている。何やら深刻な状況なので、久美も声をかけられない。そこへジーパンと山さん、長さんが昼食から、談笑しながら帰ってくる。ただならぬ様子に一同静かになる。玉枝は山さん、長さん、ジーパンに会釈をする。そこへ大声で「あのチンピラがやっと捕まったぞ!」とゴリさんが入ってくる。慌ててその口を塞ぐジーパン。コントの呼吸である。

「わてはこれからも一人で生きていきます。小さな飲み屋でも息子と二人、食べていくだけやったら、どうにでもなりますさかい、今更刑事の女房に戻って、昼も夜も神経すり減らして、のろまだとか、気がきかんだのと、文句言われながら生きていくよりは、今のままのが、自由で気楽ですねん。そらま、あんさんのお気持ちは、本当に、本当にありがたいと思っています(ハンカチで涙を拭う)
「奥さん」

 ボスの机の電話が鳴る。救いの神とばかりに、ボスが立ち上がり、受話器を持つ。殿下からだった。「で、そっちはどうだ」「ええ、まだこっちは話を切り出していないんです。きっかけが掴めないんですよ。なにしろ、山田署に移って初めて貰った総監賞でしょう。手柄話がなかなかおわんないんですよ」。殿下のいる喫茶店の奥の席には、鮫島勘五郎刑事(藤岡琢也)が部下・青木孝文に何やら自慢げに話している。この青木刑事を演じているのは、なんとのちにテキサス刑事を演じる勝野洋さん! この時は勝野睦浩の本名で、キャメラテスト代わりに出演している。2019年10月、勝野洋さんにインタビューした時に、この時の話を伺った。

「ある日、国際放映に呼ばれて「太陽にほえろ!」にワンシーン出演したんです。藤岡琢也さんの代わりに撃たれて死ぬ役でした。ぼくが倒れている時に、現場に来た裕次郎さんがチラッと見えて。「あ、裕次郎さんだ!」記念になったなぁと。
 今、思えばテストだったんですね。「太陽にほえろ!」の新人刑事役へのオファーが来たんです。その時は、大学戻って卒業しなければならない。親との約束もあったんで、お断りしたんです。「とにかく裕次郎さんに会うだけでいいから」「え?会えるんですか」って国際放映に挨拶に行ったらそのまま「三代目の新人刑事・勝野くんだ」って紹介されて、そこからはもう抜けられなくなりました(笑)」

 喫茶店で、鮫島は青木に「あんときな、ワイの拳銃がもう1秒遅れていてみ、お前の脳天を、あいつの振り上げたオノでバツーン、真っ二つや、ホンマに。思い出してもいまだにワイはほんまに、鳥肌が立つぜ」と一方的に喋っている。「はい」と神妙に話を聞いている勝野洋さん、初々しい。「今、こうやって生きていられるのは、鮫島先輩のおかげです」と頭を下げる。少し熊本訛りがある。「そればかりか、自分まで、こんな総監賞まで頂いて、感激に絶えません」「そうか。青木は何かい、この総監賞をもらうのは初めてかい?」「もちろん初めてです」。青木刑事のひたむきさと、勝野洋さんの生真面目さがリンクして、新鮮なシーンである。

「どや、誰ぞに見せたい相手、おらんのか?この賞状」
「故郷の親父に見せてやりたいと思います!」

 その真面目さに感激する鮫島。「な、青木よ、言うてしもうたら、こんなのは紙切れよ、けどやな、こんな紙切れ一枚にしてもやな、わしらお互い命かけて手にした賞状や、誇りや、なあ」と父ひとり子ひとりの青木に「ほんまにええ息子に育ったな。な、ほんまに親孝行なやっちゃ、お前は」としみじみ。喫茶店のBGMはチェリッシュの「ひまわりの小径」。もちろん歌のない歌謡曲。「母親なんて、いらへんな」と涙を流している鮫島。

 遠くからその様子を見ていた殿下。「オーバーだな」と呆れて、席に戻る。「あの、鮫さん」と本題を切り出そうとするが、鮫島はまた青木に話を始める。「今さら、こんな紙切れもらうために、山田の田舎から、本庁までわざわざ出向いてくることあらへんのや。けど、たまにはこの殿下にも会いたいしやな。藤堂の顔も見たいと思うてな、それでまあ、のこのこ出てきた訳やがな」「ええ、それでボスがぜひ、会いたいと言ってるんですがね」。早速、行こうと立ち上がる鮫島を制して、ボスがこっちへくると殿下。「係長が?わざわざ?忙しいのにまぁ」と、都心に出てきたらちょっとした顔だと、青木に自慢する。殿下、罰が悪そうに「ボスが一緒に連れて来る人がいるんですけど・・・」と妻・玉枝がくることを伝える。「なんで藤堂が連れてこな、いかんのや?」。

 捜査第一係。長さん、ゴリさん、ジーパン、山さんたち。鮫島夫人と聞いて愛想良くしている。みんな「あの鮫さんにこんな若くて綺麗た奥さんがいるなんて」と気を回し過ぎていたのだ。「刑事さんのくせにお世辞がお上手なこと。これも藤堂はんの押し込みでっか?」「まんざらお世辞でもなさそうですよ、奥さん」とボス。ほとんど飲み屋の会話。「その奥さんはやめとくなはれ、わては目下、独身だっせ」。

 喫茶店。鮫島は殿下に「あのガキが?何かい?より戻したいと?藤堂に泣きついてきよったんか」。自分に見切りをつけて勝手に出て行った女房が何を今更と、ご立腹の鮫島。

 捜査第一係。玉枝はボスに「え?あの頑固もんが藤堂はんに泣きついて? そんな、信じられまへんがな」。ボスは、鮫島と玉枝を復縁させようとひと芝居を打っているのだが。鮫さんも歳をとった。城北署にいるときは仕事の鬼だったが、山田署に移って、時間に余裕ができたので「色々考え方が変わったんじゃないですか?」「へえ、少しはまともな考えするようになったんでしゃろかね? フン、今更何抜かす」と怒り出す玉枝。ボスの作戦も甘かったようである。

 喫茶店。鮫島は「藤堂かてお節介な奴やな。なんでそんなことせなならんねん」とこちらも懐疑的。頭を抱える殿下。BGMは浅丘めぐみさんの「私の彼は左きき」のイントロ。もちろん歌のない歌謡曲。「なんぼ泣きついてきたかてやな、追い返したらえやないか、追い返したら、あんなもん、なあ、青木よ」「自分は夫婦のことはまだよく・・・」。この生真面目さには、そのまま勝野洋さんの人柄が出ている。困った殿下、どうしたらいいかと鮫島の意向を伺う。で「それじゃ、奥さんにはやはり、ここへ来るのは、遠慮してらいましょうか?」「ええまあ、本人が来たいというのやったら、まあ、来させたらええやないか。こっちは藤堂の顔潰すわけにはいかへんし」と満更でもない。殿下、ニヤニヤして「そんなふうに電話してみましょう」と立ち上がる。

 そこに鮫島への電話が入る。でも玉枝だったら困るので「殿下、先に出てくれ」。結局、青木が電話に出ることになる。「もしもし」電話口に立つ青木を、店の外に止めた車から、何者かが拳銃で撃つ。絶叫して倒れる青木。即死である。鮫島の形相が一変、殿下と共に青木が倒れたレジ前へ。殿下、店外に出て、め走り去るクルマに拳銃を向けようとするが、すでにクルマは遠くへ。目の前で可愛い部下を失った鮫島は、悲しみと怒りに打ち震えている。クルマのナンバーは「品川の8375です」と殿下。道路に立ち尽くす鮫島と殿下に、業をにやしたタクシー運転手が「てめえら」と食ってかかるが、鮫島は運転手を突き飛ばして、タクシーの運転席へ。「鮫さん、早まっちゃだめだ!」と殿下は制止するが、結局、タクシーの助手席に飛び乗るって、犯人追跡へ!

 甲州街道を逃走する犯人のクルマ。新宿中央公園前の信号が赤になるも、鮫島タクシーは信号無視。のっけからカーアクション。それもそのはず、犯人・鶴間邦彦を演じているのは関虎実。前回第88話「息子よお前は・・・」のクライマックスのカースタントを仕切ったスタントマンである。ついに鮫島タクシーは犯人車を発見。「ぶち殺したる!」と鮫島はアクセルを踏む。

 犯行現場となった喫茶店。パトカーに続いて、ボスたちのクルマが到着。ボスは店内へ、クルマの中には心配そうな表情の玉枝がいる。青木の遺体を運ぶ捜査員たち。それをチラリと見るボスと山さん。これが勝野洋さんにとって裕次郎さんとの初対面だったという。このときはまさかテキサス刑事になるとは、思いもよらなかったと話してくれた。

「このガラスの割れ方からするとショットガンですか」とゴリさん。ボスは床に落ちていた青木の表彰状を拾って広げる。鮮血で染まっている。「やはり犯人のクルマを追っかけて行ったようですな、鮫さんと殿下」と山さん。ボスが、店の外に目をやると、玉枝が心配そうに立っている。「頼んだよ」と現場を部下に任せてボス、玉枝のそばへ。「やられたのは鮫さんの部下です」「そうでっか。で、あの人は?」「犯人を追っかけてったようです。いずれ連絡があるでしょう」とボス。

 逃走する犯人のクルマ。追う鮫島タクシー。車載カメラで撮影した映像はかなりの迫力。ショットガンをタクシーに向ける犯人。「ここではやめとけ」と運転している主犯の声。鮫島タクシーは時速140キロ。殿下「これ以上、接近しない方がいいですよ。これで一発食らったら終わりだ」。しかし鮫島はそれを聞かずにアクセルを踏み続ける。「目、拭いてくれ、涙で前が見えへん」という鮫島の、涙を拭う殿下。やはり二人は最高のバディ=相棒である。殿下はタクシー無線に呼びかける。「こちら七曲署のものです。今、563号車を借りて犯人を追跡中。現在地を七曲署に連絡してください。現在、東名高速を山田方面に向かって追跡中」と逃走車のナンバーを繰り返し告げる。

 ボスの覆面パトカー。助手席には玉枝が乗車。一係で待機しているゴリさんが無線で、逃走車が山田方面に向かっていることを告げる。「それから、犯人が所持している銃器ですが、ウインチェスター1400、連続発射のできる狩猟用のショットガンです」。登録ナンバーを調べて所有者の身元を照会中であるとゴリさん。「了解」とボス。玉枝は、夫たちが普段、どれだけ危険な仕事をしているのかを身を以て感じているようだ。ボス車、首都高から東名へ。

 犯人のクルマにピッタリと張り付いて東名を走る鮫島タクシー。殿下が鮫島に「奴らが何者か、見当がつきますか?」「わからん、とにかく奴らはワイを狙うたんや、青木はワイの身代わりで殺されよったんや」。鮫島の頭の中で、青木刑事が凶弾に倒れる瞬間がリフレインされる。総監賞を手に「故郷の親父に見せてやりたいと思います」と晴れがましい表情の青木のイメージ。「青木、青木。地獄まで追いかけても仇はとったる!」と涙でクシャクシャの鮫島。アクセルを踏む。

 犯人のクルマ。後ろのタクシーの様子を伺っている。鮫島、タクシーを犯人車に横付けにして「殿下、捕まってろよ、ぶつけるぞ」「鮫さん!」。猛スピードで走りながらタクシーを寄せる鮫島。犯人は速度を落として後ろの方へ。「あ、しもうた」「Uターンはできませんからね」「わかっとるがな」「あ、奴ら高速降りますよ」。犯人のクルマ、東名高速の出口へ。鮫島、路肩でタクシーをとめ、殿下と共に車から降りて、ガードレールを飛び越えて下へ。山道を降りて、先回りしようとするが、まんまと逃げらそうになる。しかし鮫島、拳銃をクルマに向かって発砲。パンクした車は止まり、犯人はショットガンを持って逃げ出す。走る鮫島、走る殿下。

 東名を疾走するボス車。長さんから無線が入る。「先ほど、高速道路交通警察隊のパトロール車より、山田のインターチェンジ付近で、乗り捨てのタクシーと犯人のものと思われるクルマが発見されました」「すると奴らは山田のインターチェンジで降りたってわけだな」とボス。目撃者の証言ではホシは2名。それ以上のことは未だわからない。山田署との合同捜査になるので、ゴリさん、山さん、ジーパンが電車で山田署に向かっていると長さんが報告。各方面で緊急配備が既に始まっているとも。ボスは玉枝に「お聞きの通りです。犯人はすぐに捕まりますよ。鮫さんだって、ケロッとして戻ってきますよ」「これやから、もう刑事の女房に戻りたないって言ってますのや。お店開ける時間までに帰れますやろか?」「は?」。ボスもビックリ!

 ガソリンスタンド(神奈川県秦野市)。鮫島がトラックの影から様子を窺っている。殿下はスタンド事務所へ。犯人を待ち伏せしているのだ。拳銃の弾を確認する鮫島。そこへ犯人二人組が現れる。コートの下にはショットガンを隠している。鮫島の心の声「狙い通りや、クルマ盗みに来よったな、しかし事務所へ入られたら面倒やな・・・」。殿下、事務所から二人組の様子をみている。拳銃を出そうとするが、スタンドの職員にバレたら困るので、構えることができない。

 その瞬間「そのまま動くな」と鮫島が、犯人の前に飛び出る。殿下も事務所から飛び出てきて「銃を捨てろ」。一応手を挙げる素振りをする犯人たち。そこへ一台のクルマが入ってくる。運転手が出てきたところで、殿下が「伏せろ!」と叫ぶ。犯人はショットガンを構え、運転手を撃つ。鮫島、一発でショットガンの男を仕留める。ゆっくりと主犯の男に近づく鮫島。「俺は何にも持っちゃいねえよ」と男。「手ぇあげとれ」と鮫島が言った瞬間、男はガソリンのポンプにライターの火を近づけ「ハジキを捨ててもらおうか、スタンドごと吹き飛ばすぞ! 早くしろ!」。仕方なく拳銃を放り投げる鮫島、殿下もそれに従う。その隙に、犯人は、先ほどのクルマに飛び乗り発進! 鮫島、拳銃を拾って発砲するも間に合わない。鮫島、スタンドに止めてあったガソリンのドラム缶を積んだ軽トラに乗る。殿下「鮫さん、いくらなんでもこんなので追いかけちゃ」「ゴチャゴチャ抜かすんなら、ワイ一人で行くぞ」とトラックを発進させる。殿下はドアにしがみついたまま、窓から助手席に飛び込む。

 山道を逃走する犯人のクルマ。鮫島の軽トラックが追いかける。ボス車はインターを降りて山田へ。山道ではチェイスが続いている。前回にも増して、カーアクション中心の展開となる。しかも『ダーティハリー』や『ブリット』のようなハリウッドのポリスアクションのようなハードな展開に、子供の頃、手に汗を握った。多分、それまでのテレビドラマではみたことがないヴィジュアルだった。トラックの車内では、殿下がこの車じゃムリでしたね。拳銃を返してください。非常線の網にかかるといいですね。と一方的に喋っているが、山道なので車内でジャンプをしている。鮫島は終始無言で、執念の炎を燃やしてハンドルを握っている。「アホぬかせ。あのガキはわいが始末つけたる!」「相手は凶器を持ってないんですよ。あいつまで撃ったら、鮫さんの方が、どうなるかわかりませんよ」「やかましいわい!刑事クビになってもな、青木の仇はとったるんじゃ!」。しかし、犯人車はどんどん山道を登っていく。

ドライブイン。鮫島はトラックを乗り捨て、デート中のカップルの車を奪って走り出す。「鮫さん、ちょっと待って」殿下も置いてけぼりである。車を取られた若者は怒り出す。警察手帳を見せて説明する殿下。鮫島のクルマ、悪路をひた走る。

ドライブイン。赤電話で殿下が報告。

執念でハンドルを握る鮫島。

 ガソリンスタンド。現場検証が行われている。射殺された運転手の遺体。そこへボス車が到着。ボスが状況確認。犯人の遺体を見たボス。「こいつは・・・」「ご存知ですか」「鶴間邦彦。神戸を根城にしているプロの殺し屋ですよ」。ボス、玉枝のそばへ歩いて近づき「鮫さんも、うちの島も無事のようです」。うなづき、ほっとした表情の玉枝。

 山道の悪路を、鮫島車が走る、走る、走る。警察が検問を張っている。クルマを止めて鮫島が降りると「いつもお忙しい時に、お会いしますな」と山さん、「島さんどうしたんですか?」とジーパン。「殿下かい?殿下は、頂上のドライブインに置いてきた。それよりお前ら、こんなとこで何しとんのや!」と怒鳴る鮫島。「何してる?はないでしょう。これが山梨県に抜ける唯一の国道ですからね。検問敷くのは当たり前でしょう」とゴリさん。山さんは鮫島に「犯人のクルマは鬼姫山方面に入ったと通報がありまして、この山里一帯、道という道には非常線を張っています」と説明する。「なんぼ非常線張ったからって、逃したら、何にもならないやないけ!」「まだ逃しちゃいませんよ」とジーパン。鮫島は、ずっとホシの車を追ってきた。お前ら逃したなと激しく怒る。ゴリさんは「ホシのクルマ、まだ逃しちゃいませんよ」。

 「お前らな、ホシがクルマ乗り換えたのを、まだ知らんやろ!それに今、ホシは二人組とちゃうんやで、一人で逃げよるんやで」「それも連絡は受けてます。ガソリンスタンドで犯人の一人は鮫さんが射止めたそうですな」と山さん。「乗り換えたクルマは黄色のセリカ、ナンバーは1701」とゴリさん。「そのクルマはまだここを通ってきません」と山さん。「鮫さん、山ん中で巻かれたんですよ」とジーパン。「まだ通ってへん? ほんならあのガキ、まだ山ん中か!」。どの道から逃げても同じこと。北は八王子警察、南は神奈川県警、東と西は第八方面警ら隊が張っているとゴリさん。鬼姫山をぐるっと包囲した格好になると山さん。「敵は文字通り、袋のネズミですよ」。それでもいてもたってもいられない鮫島は、クルマに飛び乗り、発進させる。

「どうしても自分で挙げるつもりか」と山さん。
「どうします。腕づくでも連れ戻しますか?」とゴリさん。
「猪の尻尾を掴むようなもんだ。自分でぶつかるまでは止まらんよ」と山さん。

 ドライブインにボス車が到着。殿下が「ボス!」と嬉しそうに近づく。「殿下、とうとう放り出されたか?」「ええ、まいりましたよ。(車内を見て)あ、奥さんも」と殿下。「奥さん疲れたでしょう。お茶でも飲んで行きますか?」とボス。「ええ、もうショックで喉がカラカラですわ」。殿下、優しく助手席のドアを開けて「どうぞ」とエスコート。玉枝はいそいそとドライブインへ。殿下「亭主が生きるか死ぬかって捕物をやっているのに、大した度胸ですね」「破れ鍋に綴じ蓋・・・あ、山さんたちが山の麓に来ているはずだ、すぐ連絡してくれ」とボス。

狂ったように山道を走る鮫島車。

 ドライブイン。殿下は地図でルートを確認。ボスは玉枝とお茶を飲んでいる。「で、坊ちゃん、奥さんの方に?」「へえ、もう中学ですがな」「じゃ、反抗期大変でしょう?」「ううん、それが全然、大人しくてええ子ですねん。ほんまに、これがあの人の息子やろか、思います」「父親がいないと、寂しがったりしませんか?」「いいえ、母一人、子ひとり、仲良うやってます。今は、あの子だけがわての生きがいですねん」「ねえ、奥さん、鮫さんだって、内心では息子さんと一緒に暮らしたいと思ってるんじゃないんですか?鮫さんが戻ってきたら、何も言わずにヨリを戻してもらえませんか?」「(少し考えて)藤堂はん、ホンマはあの人、何も言うて来なかったのとちゃいますか?あんさんが、両方にうまいこと言うて、ヨリ戻させようというのと違いますか?」「いやあ、それ違いますよ。私はそんな、器用な真似できませんからね」「ま、どっちにしても一緒に暮らす気はおまへん。会うたら本人にズバリ、そのことを言うつもりですけど」。ボスもかたなしである。

 そこへ山さん、ジーパン、ゴリさんが入ってくる。「なんだ殿下、生きてたのか!」とゴリさん。ボス、山さんに「神戸の鶴間が絡んでいる事案だ」「今、逃走中のホシの面も割れました。鶴間の相棒で、前科7犯のしたたかものです」と山さん。「殺し屋の相棒か?とすると、雇い主がいるな」。本当は鮫島が狙われていたと殿下。犯人が行き当たりばったりに山田に逃げ込んだとは思えない。おそらく雇い主は山田にいる。鮫島が山田に来てから間もないが、その間に、恨みを抱くものは? ボスは気づく「鮫さんが総監賞をもらった事件だな」「女子高生連続殺人事件、ホシの渋沢ツトムは鮫さんに射殺されています」と山さん。その復讐に違いない。山さんは渋沢のバックを洗うことに・・・。鬼姫山中で、犯人が隠れそうな場所は、30軒あるモーテルではないかと殿下。他にはドライブイン、ゴルフ場、石切場の小屋、農家も少しある。地図を見ながら殿下が説明する。

「山中のモーテルとか小屋の尋問には機動捜査隊。それから山を抜ける車には自動車警ら隊が当たっています。それと、そのう鮫さんが・・・」とゴリさん。
「鮫はまだうろついているのか?」
「ええ、一度は麓で捕まえたんですが、また・・・」
「殿下、奴は拳銃を?」
「ええ、言いにくいんですが、僕の拳銃を・・・申し訳ありません」
「ああ、いいんだよ。丸腰で彷徨かれるよりそのほうが気が楽だ」
とボス。

 ゴルフ場。グリーンに近づく鮫島。山間のコースなので上からボールが落ちてくる。ボールを拾って投げ返そうとするが、ポケットに入れて歩き出す。寅さんか(笑)
モテル「峠」。鮫島が調べている。犯人はいない。車を発進させる。

 ドライブイン。ボスに山さんから連絡が入ったと殿下。「渋沢ツトムには、これといった組織のバックはありませんな。身内ですか?母親が一人、街で雑貨屋をやっているようです。殺し屋を雇えるような力はないでしょう」それでも山さんは聞き込みへ。

 モーテル「龍泉荘」。鮫島が経営者のおばさん(塩沢とき)に聞き込み。「あの、今はどの部屋も空いておりますが」「念の為に、改めさしてもらいまひょうか?」。従業員は鍵を持ってくるからと事務所へ。愛想のいいおばさんだが、事務所の前で振り向き、じっと鮫島を見つめている。モーテルの部屋、ここは一戸建ての住宅のような部屋が並んでいる。昔はこうしたモーテルが山中に結構あった。「アルプス」と書いてある部屋のドアを改め、次の部屋へと忙しそうに駆け回る鮫島。次の部屋は鍵が空いていた。おかしい。鮫島は、殿下の拳銃を構えて、部屋の中へ入る。すると、何かが飛んでくる。毒蛇である。蛇を拳銃で撃つ鮫島。ここで弾が切れてしまう。錯乱気味の鮫島、気がつくと後ろから銃を突きつけられている。犯人である。

「銃を捨てろ!」
「おんどりゃあ、味な真似しくさって、誰に頼まれた?」

そこへおばさんが入ってくる。「あんたが鮫島さん?」「オバはん、何もんじゃい?」。おばさんゆっくりと落ちている殿下の拳銃を拾い上げて、銃身で鮫島を殴って気絶させる。

 山さんがボスに連絡。「雑貨屋の女は、渋沢の本当の母親ではありませんでした。戸籍上は親子なんですが、実は姉さんの子供なんです」「貰いっ子か?じゃ、渋沢の本当の母親ってのはどこだ?」「鬼姫山の南で龍泉荘というモーテルをやっているそうです」。ボス、ゴリさん、ジーパン、殿下は、モーテル「龍泉荘」へ。もちろん玉枝も一緒に。

 モーテル「龍泉荘」。愛想良く警察に挨拶をして見送る渋沢の母。ホラー映画みたいな展開。モーテルの部屋に監禁された鮫島は、手錠をかけられ、血だらけの形相。犯人「早えとこバラして山、降りた方がいいんじゃねえんですかい?」。犯人から拳銃を奪った母親「あんた、渋沢ツトムのどこを撃って殺したんだい? 心臓かい? 頭かい? ツトムが撃たれたのと同じところを撃って息の根を止めてやるからね」。瀕死の鮫島「母親の愛情っつうのは、ものすごいもんやな。なるほどな、おまはんみたいな親から生まれた子やったら、そら人の4〜5人殺したかて、なんとも思わんやろな」「世間でどう思われようと、私にとっちゃ、たった一人の息子さ!」と鮫島を殴り飛ばす。「その息子をあんたはたった一発の拳銃で、この世から消してくれたんだからね!その上、賞状まで貰ったとありゃ、母親なら黙っちゃいないよ!」。もう無茶苦茶な論理である。「レインボーマン」の魔女イグアナを思い出させてくれる。さすが塩沢ときさん!

「親父はどないしたんじゃ?」
「親父がいたら、誰が妹夫婦の籍を借りたりするもんか!片親じゃ肩身の狭い思いをするから、いい学校に入れて、いい就職をさせたいと思うから、断腸の思いで、向こうに籍を預けたンアないか! あの子を育ててくるのに、陰でどんな苦労をしてきたか、男のお前にゃ、わかりゃしないよ!」。
鬼気迫る演技とはこのこと。市川森一さんの書いた台詞もすごい。でも、ここで玉枝と息子の話と重なるような作劇になっている。さらに、殉職した青木と父の関係も重なる。「この鬼!人でなし」と鮫島を叩き続ける母親。しかし鮫島立ち上がり。

「じゃかあしゃい!おのればかりが親とちゃうわ、おんどりゃ!」
「殺してやる」
「ああ、殺せ。その代わりな、その前によう聞けよ。世の中にはな、母親なんかの手ぇ借りんでも、男手一つで立派な警察官に育つ子もいるんじゃ。おのれが過保護で育てた子と比べてみい、月とスッポンやないけ! その立派な子をおんどれゃ、おのれはようも、ワイの身代わりに殺しやがったな!外道!」

 犯人から拳銃を奪った母親「黙らせてやる!」と鮫島に銃口を向け、発砲する。凶弾に倒れる鮫島、意識を失う。そこへボス、ジーパン、ゴリさん、殿下が到着。玉枝を残してモーテルへ。しかし玉枝はクルマから降りて、現場へ向かう。ジーパン、ゴリさん、走る走る走る。倒れた鮫島のショット。殿下も走る。鮫島のショット。ボスも走る。「サツだ!」犯人が母親から拳銃を受け取り構える。その隙に、眠っていたふりをしていた鮫島が起き上がり体当たり。手錠をしたまま取っ組み合いとなる。犯人は落ちた拳銃に手を伸ばすが、鮫島に抑えられて身動きが取れない。

 ゴリさん、ジーパン、モーテルの部屋へ。大乱闘!ジーパンの怒りのパンチ、キック、鉄拳が飛ぶ。犯人に手錠をかけるジーパン。「鮫さん、大丈夫ですか!」と殿下が駆け寄り、手錠を外す。ボスが入ってくる。そして玉枝も「あんた!」「何しに来たんじゃお前!」「あんた、生きてたんやね」と玉枝、嬉しそう。「あほか、死んだりするか、わしが」。殿下ニヤニヤする。我にかえった鮫島、コートのポケットから銃弾の刺さったゴルフボールを取り出し「うわぁ。えらいことやなぁ」。それを見て玉枝、立ち上がり部屋を出ていく。ボスしみじみ「運の強い男だよあんたは」「無茶苦茶やな。また、あんたらに助けられてしもうたな・・・」。

 殿下、鮫島を抱き抱えてクルマまで連れて行こうとする。「あんな殿下、クルマをな、何台もかっぱろうてしまったやさかい」「いや、大丈夫ですよ。ボスがなんとかしてくれます。それより、奥さんのことなんですけど」「ああ怖い、いや、蛇がな、蛇がわーっときてな、わし蛇が一番怖い・・・」と誤魔化す鮫島。蛇の話をしながらパトカーまでやってくる。乗ろうとした鮫島、一瞬怯んで外に出ようとするが、殿下に押し込められてしまう。なんと後部座席には玉枝が!「どないしたのその顔?うわ、汚な」「お前こそ何ウロウロしてんねん。こんなとこまで押しかけてきやがって」と夫婦喧嘩が始まる。

「人がせっかく心配してきてやってんのに、なんやの、その言い草!」
「それで人の顔見るなり、うわぁ汚な、いう挨拶があるのんかお前、それが3年ぶりに会うた亭主にする挨拶かい!え?」
「みんなに散々、迷惑かけ散らして、でかい顔すんな!」

 と鮫島に豪快に肘鉄を食らわす。言い合いは収まらない。殿下、運転席の警官に「麓の病院までお願いします」とドアを閉める。ボス、ジーパン、ゴリさんが降りてきて。

「どうだ?あの二人は」とボス。
かぶりを振る殿下。
「ダメか?」
「とてもとても、全然ダメですね。見込みなしですよ。賭けましょうか? あれでヨリが戻ったら一万円出しますよ」と殿下。
「俺も一万円」とゴリさん。
「じゃあ、俺も賭けますよ。金ないから1000円」とジーパン。
「一万円、一万円に千円か、頂きだなこりゃ」と歩き出すボス。

 パトカーの中、涼しい顔の玉枝。キョロキョロして鮫島「ちょっと止めて、降りる」。仕方なく玉枝も降りて、二人で寄り添いながら歩き始める。「坊主、どないしている?」「坊主って誰のことです?」「ワイの息子!」「ええ子に育ってます」「坊主のためじゃ、しゃあない、もう、我慢しよか」「なに、我慢しはりますの?」「坊主のために我慢して、また一緒に暮らそうかって、言ってるんやないか」。泣き出す玉枝。「なんじゃ、お前、嬉し涙流してんのか?」「誰が嬉し涙なんか、目に、目にゴミが入った」と号泣しながら鮫島に抱きつく。そこへボスの車がクラクションを鳴らして走ってくる。運転席の殿下に、(賭け金よこせと)手を差し出すボス。知らないふりをする殿下。


よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。