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フランキー堺とシティスリッカーズをみつけた! 『陽気な探偵』(1954年・吉本=東宝・西村元男)

 娯楽映画研究所では連日連夜、プログラムピクチャーを観てはいろいろと大発見がある。念願の『チエミ・エンタツ・アチャコのお嬢さんと探偵』(1954年・東宝・西村元男)を観せて頂いた。この映画が作られたのは昭和29年、エンタツ・アチャコの結成からちょうど24年後となる。製作は吉本興業と東京映画。沖縄出身の天才少女歌手・沢村みつ子東京映画入社第一回作品とある。

 沢村は沖縄出身の少女ジャズ歌手で、昭和20年代末に日劇のステージやジャズコンサートで活躍。マーロン・ブランド主演のMGM映画『八月十五日の茶屋』(1956年)への出演がきっかけで、MGMと契約、渡米。テレビ「フォード・スター・ジュビリー ジュディ・ガーランド・スペシャル」で美空ひばりの「リンゴ追分」を歌って、全米の視聴者を驚かせた。ダン・デイリーとシド・チャリース主演のミュージカル『ラスベガスで逢いましょう』(1956年)に着物姿でゲスト出演、「マイ・ラッキー・チャーム」をダン・デイリーとデュエットした。

 昭和29(1954)年1月21日公開、『ジャズ・スタア誕生』(井上プロ・西村元男)で華々しく紹介された。ステージの場面構成は日劇の演出家・山本紫朗。日劇ダンシングチームの谷さゆりと、コロムビアの沢村みつ子のダブル主演のバック・ステージもの。南里文雄とホットペッパーズ、多忠修とビクター・オールスターズ、ジョージ川口とビッグフォア、東京キューバンボーイズ、日劇のトップシンガー・柳澤真一、そしてフランキー堺・・・。ジャズ・ブームを支えた錚々たるジャズマンをバックに、沢村が堂々と主題歌「星空を仰いで」(作詞・石本美由起 作曲・池護)を歌うクライマックスを観ていると、彼女に寄せる期待を感じさせてくれる。

 さて『チエミ・エンタツ・アチャコのお嬢さんと探偵』は、エンタツ・アチャコのコメディ『陽気な探偵』の改題版。監督は『ジャズ・スタア誕生』の西村元男。オリジナルは89分だが、現存する短縮版は52分。なので映画としては、他の喜劇の短縮版同様、かろうじて筋がわかる程度。タイトルバック、探偵学校の門から出てきた、エンタツ・アチャコ、沢村みつ子の三人が主題歌「陽気な探偵さん」(作詞・若尾徳平 作曲・池護)を歌いながら歩く。この躍動感が楽しい。ちなみに挿入歌は『ジャズ・スタア誕生』でも歌った「星空を仰いで」。

 探偵学の権威・三木富五郎(三木のり平)主宰の「三木探偵学校」を卒業した花井阿茶夫(花菱アチャコ)と横田円太郎(横山エンタツ)が、それぞれ探偵事務所を開設。劇場の地下室でのモデル殺人事件の捜査をしながら、麻薬密売組織の陰謀を暴く、というもの。江利チエミは、のり平の娘で人気歌手・チエミ。沢村みつ子は、そばやの主人・多良三平(中村是好)の娘・みつ子の役。二人とも、歌を披露するために出演している。

 中盤、チエミが日本橋の老舗百貨店「白木屋」店内での「シロキサンマーショー」に出演して「君慕うワルツ」を歌う。「サンマー」とは「サマー」のこと。敗戦後、GHQの意向で「サマータイム」が導入され。そのときSUMMERを「サンマー」と読んだので、戦後しばらくは「サンマー」と表記していた。チエミの「君慕うワルツ(チェンジング・パートナー)」は、18枚目のレコードで、昭和29年1月リリース。セットではなく、日本橋白木屋でロケーション。

 白木屋は、現在のCOREDO日本橋の場所にあった老舗百貨店。寅さんの啖呵売で「赤木屋・白木屋・黒木屋さんで、紅白粉つけたお姉ちゃんに〜」というフレーズでもおなじみ。江戸三大呉服店から百貨店へと転身したのが明治11(1878)年。関東大震災の復興後、昭和7(1932)年12月に火災に見舞われ、多数の死傷者を出した「白木屋火災」で知られている。戦後は他の百貨店同様、進駐軍のPXとして接収され、返還、営業再開を果たしたのが占領が終わった昭和27(1952)年5月だから、この映画はそれからちょうど2年後ということになる。その後、経営不振で東急傘下となり、長らく東急百貨店・日本橋店として営業を続けるが、寅さんの口上で知られる「白木屋」の賑わいを楽しめるのも、映画ならではの楽しさである。

 さて、チエミは、殺人事件が起きた「大東劇場」内のキャバレー「シンクレア」のステージでも歌う。看板に「麗人募集」とあるのが時代を感じさせる。

 腹話術師・頓田一(有木三太)登場。「こんどはすごいんだ。水爆的な歌なんだ!(おいおどかすなよ)」おどかさない相手なんだ。今度は三木チエミちゃんの歌う『ヴァイヤ・・コン・ディオス!(すげーな)』と、チエミを紹介。

「それではバンドを紹介します。フランキー堺さんどうぞ!(頼むよ)」

 そこでバンマスのフランキー堺が会釈。バンドの演奏が始まる。半年前の『ジャズ・スター誕生』では、与田輝雄とシックスレモンズから独立したばかりのドラマーとして、ビッグ・フォアのジョージ川口とドラム合戦を繰り広げたフランキーが、ビッグバンドを指揮している。そう、昭和29年にフランキー堺が結成した「フランキー堺とシティ・スリッカーズ」である。

「ヴァイヤ・コン・ディオス」は、ラリー・ラッセル、イネス・ハメス、バディ・ペパーが1952年に発表したラテンナンバー。レス・ポールのギターとメアリー・フォードの歌で日本でも大ヒット。昭和28(1953)年11月、江利チエミ17枚目のレコードとしてリリースされた。

 チエミの歌もさることながら、驚いたのは、結成ほどない「フランキー堺とシティスリッカーズ」の演奏が映画に記録されていること。このグループには、ピアノ・桜井センリ、トロンボーン・谷啓、そしてギター・植木等が参加している。のちの「ハナ肇とクレイジーキャッツ」の三人が在籍しているビッグバンドで、アメリカの「冗談音楽」バンド「スパイク・ジョーンズとシティ・スリッカーズ」を意識してフランキーが結成したグループ。

 これまで映画出演は、昭和30(1955)年1月8日公開、フランキー主演の日活映画『初恋カナリヤ娘』(吉村廉)が最初と思っていたので、これには驚いた! タイトルバックにちゃんと「フランキー堺とシティスリッカーズ」とクレジットされているが、データベースには上がっていないので「百聞は一見にしかず」。作品にあたってみるまではわからなかったのである。

 一列目には、テナーサックスの稲垣次郎の姿もある。その後ろで恥ずかしそうにトロンボーンを吹いているリーゼント姿の若者が谷啓。江利チエミの歌唱シーンなので、ピントは歌姫にあたっているので、かろうじて、稲垣次郎、谷啓と確認できる。

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 そしてチエミが歌い終わって、コロムビア専属のハワイアン歌手・グラデス尾本のアトラクション「夢のハワイ」となる。ハワイアンなのでギターがフィーチャーされている。そこで尾本のすぐ後ろに、真面目な表情でギターを弾く植木等の姿を確認することができる!

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 フランキー堺とシティスリッカーズは昭和29年2月に結成された。総勢17名のフルバンドで、しかも演奏の合間に、様々な擬音が入る。ピストル、タップシューズ、人間の悲鳴、トンカチ、ウガイの音などなど。すべて本家「スパイク・ジョーンズとシティスリッカーズ」を意識してのこと。

 当初、ギターは鈴木のポンちゃんこと鈴木康則(康充)だったが、自分の意向と合わずに辞めたいと申し出た。そこでフランキーと旧知で、この頃は浜口庫之助とアフロクバーノのジュニア・バンドでドラムを叩いていたハナ肇が、植木等を紹介。昭和29年6月20日の日比谷公会堂でのジャズコンサートのパンフには、ギター・鈴木康則の名前があるが、同日、共立講堂で開催された「BIG BAND JAZZ」コンサートのプログラムには、ギター・植木正とある。植木正とは、フランキー堺とシティスリッカーズに参加した頃の植木等のクレジットである。

1954. 6.20(日)日比谷公会堂 JAZZ
サックス 稲垣次郎
トロンボーン 谷敬
ギター 鈴木康則
ピアノ 櫻井千里

1954. 6.20(日)共立講堂 BIG BAND JAZZ
サックス 稲垣次郎
トロンボーン 谷敬
ギター 植木正
ピアノ 櫻井千里

 この資料を古くからの友人である青木利浩さんからご提供頂いて、植木等の加入時期が6月と特定できた。青木さん、ありがとうございます!

 ちなみに同年7月25日(日)鎌倉公民館での「JAZZ CONCERT」(早稲田OB・鎌倉会)でのシティスリッカーズのメンバー紹介でも、ギター・植木正とある。映画『陽気な探偵』が東宝系で公開されたのは、この三日後、7月28日だから、グラデス尾木のバックでギターを弾いているのは、まだ「植木正」時代かもしれない。

 映画は、みつ子が劇場の掃除婦をしている母・おとよ(丘みどり)から貰ったイヤリングの中に、麻薬が入っていたことで、密売団の陰謀が明らかになる。その首領が岩村(トニー谷)。言葉が喋れない設定で、例のトニイングリッシュは封印されたまま。観客の期待をはぐらかす演出で、最後の最後に「オシの役なんて、辛いざんす。ヘッ、馬ッ鹿じゃなかろか」と観客に向かってぼやく。ここで劇場は(おそらく大爆笑)。そして、エンタツ・アチャコ、沢村みつ子、江利チエミたちキャストが主題歌「陽気な探偵さん」を歌ってエンドマークと相成る。

 ともあれ、フランキー堺とシティスリッカーズが、歌の伴奏シーンとはいえ、映像に記録されたことが判明しただけでも、大発見である。この映画から半年後、日本映画初の女性プロデューサー・水の江滝子企画『初恋カナリヤ娘』で、植木等がいよいよマラカス片手に踊るシーンを観ることができる。

チエミ エンタツ アチャコのお嬢さんと探偵(陽気な探偵より)

東京映画株式会社作品

脚本 若尾徳平
撮影 糸田頼一
美術 狩野健
録音 矢野口文雄
照明 島百味

音楽 池譲
主題歌 コロムビアレコード
陽気な探偵さん 作詞・若尾徳平 作曲・池譲 作曲・松尾健司 唄・沢村みつ子
星空を仰いで 作詞・石本美由起 作曲・池譲 唄・沢村みつ子

監督助手 石橋克巳
編集 坂東良治
装置・衣裳・結技髪 東宝舞台株式会社
製作主任 石橋嘉博

モデル衣裳
東邦レーヨン株式会社
帝国製麻株式会社
東洋レーヨン株式会社
婦人雑誌プリント

モデル衣裳デザイン(白木屋専属デザイナー)
國方澄子
金子光子

東通工 テープレコーダー使用

出演者
アチャコ(吉本)
エンタツ(吉本)
江利チエミ(吉本)
トニー・谷

相馬千恵子(新東宝)
恵ミチ子
有田稔
三木のり平
沢村みつ子(東京映画専属第一回)

中村是好(綜芸)
有木三太(日芸)
村上冬樹
植村謙二郎(第一協団)
フランキー堺とシティ・スリッカーズ
グラディス・尾本(コロムビア)

坂内英二郎
手塚勝巳
塩沢登代路
津山路子
花房一美
丘みどり(吉本)
天津敏

大友伸
吉田新
横田正臣
加藤壽八
須永康夫
環ゆたか
(特別出演)能登山

加賀麟太郎
小谷良夫
赤尾関三蔵
鈴木修一
荒木世詩夫
磐木吉二郎
大西康雄

阿部博

F.M.G
森貝光子
すぎた真佐子
大重浩子
中山千代子
葉山ミチ
小原雅子
市川トミ子
河野葉子
長島万里子

監督 西村元男(大映)





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