『拳銃無頼帖 電光石火の男』(1960年・野口博志)


 赤木圭一郎の「拳銃無頼帖」シリーズは計四本作られている。『抜き射ちの竜』(60年2月)を第一作に、本作『電光石火の男』(60年5月)、『不敵に笑う男』(60年8月)、『明日なき男』(60年12月)とほぼ三ヶ月に一本のペースで作られた、赤木圭一郎が残した唯一のシリーズである。
 監督の野口博志は小林旭の「銀座旋風児」シリーズの演出家でもあるが、やはり代表作は「拳銃無頼帖」シリーズだろう。小林旭の「渡り鳥」「流れ者」シリーズ同様、いわゆる無国籍アクションと呼ばれるジャンルであり、好敵手役に宍戸錠というのも同じである。違いといえば同じ地方都市を舞台にしても、「渡り鳥」「流れ者」は風光明媚な観光名所、「拳銃無頼帖」は本作が四日市を舞台にしているように地方都市の内部に限定されているということ。
 トニーの愛称で呼ばれた赤木圭一郎のスクリーンでのヒーローぶりを定着させたのが第一作『抜き射ちの竜』で、キザな台詞の錠のライバルぶりとその対決のカッコ良さは、こうした娯楽映画、特にシリーズものにはディティールが一番大切ということを証明している。
 シリーズといっても『電光石火の男』の主人公は丈二。前作の抜き射の竜こと剣持竜二とは異なるキャラクターとして登場する。しかし、かつて組織に属していたアウトローであるという部分は継承している。オープニング、用心深く一つ手前の駅で降りる丈二は、ボスの身代わりで刑務所に入っていたハイライト興業の元幹部、いわばやくざである(第3作以降は竜二と統一される)。
 そうした主人公をめぐる暗い過去と設定は、赤木の陰影を湛えたムーディーなマスクのイメージによるところも大だろう。シリーズとしての方向性を模索していたということもあるだろう。とはいってもオープニングの四日市へと向う汽車のシークエンス。チンピラに絡まれているジーナ(白木マリ)をさっそうと助ける姿は、ヒーロー登場にふさわしい場面だ。
 ほどなく、浜辺で杉山俊夫と宍戸錠が対決していると、銃口を錠に向け「ただ通り掛りのもんだ。仲裁しようってだけさ」と割り入る不敵さ。ここで錠と赤木の出会いのシーンとなる。錠も過去を持つ男で、シリーズの中では最も渋いキャラクターとして描かれている。『電光石火の男』はどちらかというとコミックな要素が多い「拳銃無頼帖」の中でも、陰影のある作品となっている。
 三年前に恋人・圭子(ルリ子)に別れを告げ、刑務所に入った丈二が四日市に戻ってきたのは、圭子への未練もあってのこと。忘れた素振りをしても忘れられないヒロインへの慕情。刑務所へ手紙を出し続けた圭子に返事を出さず断ち切ろうとした丈二が、再び圭子の前に姿を現した事から、過去の恋愛と現在の感情が交錯し始める。「渡り鳥」シリーズで純情可憐なヒロインを演じ続けていた浅丘ルリ子が和服姿でマダムを演じているのも異色だろう。
 その二人が再会して言葉を交す橋の袂のシーン。丈二は「君をあきらめた」といい、圭子は「あきらめなかった」うつむく。圭子は歳月によって、あきらめようとしていたが、丈二の刑期が早まったことで心が乱れる。あと三ヶ月もすれば、結婚をしていたのに。すれ違う感情。圭子が婚約した相手は、丈二の組織と敵対する大津組組長・仁作(菅井一郎)の息子で、丈二の旧友である大津昇(二谷英明)という運命の皮肉。
 このヒロインをめぐる過去の物語は、『紅の拳銃』(61年)での吉行和子と赤木の関係や、『赤いハンカチ』(63年)『夜霧よ今夜も有難う』(67年)など後の裕次郎とルリ子のムード・アクションのモチーフへと連なる。二谷英明が現在のルリ子の恋人という設定もまたムード・アクションの定石。そういう意味では『電光石火の男』は、ムード・アクションの萌芽の一つといえるだろう。
 この三角関係のドラマは、二谷が暴力団一掃のためにこの街に赴任してくるところから、より陰影を増してくる。
 そうした人間模様とは別に魅力的なのが、宍戸錠の五郎のキャラクター。丈二の後釜としてハイライト興業の幹部に収まっている。二谷が家宅捜索に訪れたキャバレーのバックヤードで、素っとぼけてホルンを磨きながら吹いていたり、と渋目のキャラながら相変わらずユーモラスに好演。ジーナの気持ちを丈二から聞いた五郎は「俺は女に親切にしたことがない男なんだ。何をどうやっていいか全然見当がつかない」とうろたえる。そのおかしさ。対決シーンでタバコを投げ、ビールの空き缶を打ちあうシーンのバディ=相棒感覚の楽しさ。
 グラモフォンからリリースされた赤木の唄う主題歌は「夕日と拳銃」と「野郎泣くねぇ!!」。「夕日と拳銃」は開巻、夜の浜辺を歩くシーンに流れるウエスタン風の曲。「野郎泣くねぇ!!」は後半、圭子を物陰から見つめる丈二のシーンに流れる。
 そして本作では60年代日活最大のヒロインとなる吉永小百合が抜擢され、日活映画に初出演。杉山俊夫のガールフレンド節子として清純なキャラクターを演じ、なんとキスシーンまである。当時のプレスシートには<小柄で、純情可憐で浅丘ルリ子に似た彼女は・・・>と新人として紹介されている。

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