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太陽にほえろ! 1974・第81話「おやじバンザイ!」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第81話「おやじバンザイ!」(1974.2.1 脚本・今村明男、小川英 監督・澤田幸弘)

永井久美(青木英美)
野崎俊一(石垣恵三郎)
野崎良子(井岡文世)
小野夏子(右京千晶)
野崎康江(西朱実)
小野常夫(松平健)
川野耕司
平井刑事(石井宏明)
小川光明
小泉博孝
根本清和
佐山泰三

予告編の小林恭治さんのナレーション。
「犯罪者との闘いの明け暮れ。かつて警官を父に持った純と同じものを、今、俊一は味わっている。野崎の父親としての苦悩。それをかき消すかのように犯人を追う。犯人は人質と小屋に立て篭もった。野崎の身を持っての説得、事件現場を映し出すテレビに見入る俊一。事件を通じて、新たに生まれる父への信頼。次回「おやじバンザイ!」にご期待ください。」

 長さん・野崎太郎(下川辰平)主演回。 長さん・野崎太郎(下川辰平)主演回。長さんの息子・俊一(石垣恵三郎)が中学3年生になり難しい年頃、父親が刑事ということで同級生と大喧嘩。ジーパン曰く「断絶世代ですね」。しかしジーパンは俊一にかつての自分を見て・・・という父と子の物語に、長さんが面倒を見てきた男・小野(松平健)が拳銃殺人を犯して逃走。日活映画『野良猫ロック 暴走集団’71』(1971年・藤田敏八)のロケ地でもある伊豆のテーマパークの廃墟「ゴールドタウン」に人質をとって立て篭もる。若き日の松平健さんのギラギラした魅力が新鮮!「太陽にほえろ!」はこうした刑事の家族のドラマを描き続けていく。

 逃走中の犯人を追う、長さんとジーパン。足を傷つけた犯人は必死に、ビルの建設現場の中へ逃げる。階段を駆け上がる長さん。ジーパンも全速力である。階上から拳銃を発砲する小野常夫(松平健)を説得する長さん。しかし小野は、ガソリンを巻いて火をつけようとする。「いくら逃げても、俺はどこまでも追いかけていくぞ!それはお前が良く知っている筈だ」と長さん。小野は全身にガソリンを巻いて「火をつけるぞ」と拳銃を一斗缶に向ける。「一歩でも動いてみろ。テメエらもろとも焼け死んでやる!」。勝新太郎さんの付き人だった松平健さん、「暴れん坊将軍」よりも相当な暴れっぷりである。しかし、小野にはその勇気がなく、ビルの奥へ走り去る。

 捜査第一係。「足の怪我大丈夫かい?」と長さんを気遣うボス。小野を取り逃したことをボスに詫びる長さん。「俺が悪かったんです」とジーパン。しかし長さん「油断した俺が悪かったんです。相手が小野と分かった途端に、つい気勢をそがしちまって」「最初の時、駆けつけたのも長さんだったよな」とボス。その時は喧嘩の急報だったが傷害で済んだ。そこへ山さん「間の悪いことに、今度の相手は拳銃を持っていた。それで小野はますます逆上し、拳銃を奪って撃ち殺した。そういうことですなぁ」。小野はカッとなると見境がつかなくなる男。せっかく厚生させたのに、同じことを繰り返して、今度は殺人を犯してしまった。長さんはそれが悔しい。その気持ちを誰よりも理解している山さん。

「しかし、小野は今や凶悪犯だ。そういう奴ならなおのこと、次々に犠牲者を出す危険があるぞ」とボス。

 長さん、それは十分わかっている。小野の立ち回りそうなところへ当たることに。同行を申し出る山さん。そこへ電話がかかってきて、ジーパンが出る。緑川署にいる長さんの奥さん・野崎康江(西朱実)からだった。息子の俊一が喧嘩で友達に怪我をさせてしまい、警察沙汰になった。相手の傷は大したことないと聞いてほっとする長さんは、担当の平井刑事(石井宏明)に変わってもらう。「別に大したことではないんですが、頑固なお子さんですね」。こちらも捜査で手が離せないので、なにぶんよろしくお願いしますと電話の向こうの平井刑事に頭を下げる長さん。

「長さん、息子さん、幾つになった?」とボス
「中三です」
「早いもんだなぁ、もう中三か」と山さん
「断絶の世代ですね」とジーパン
「断絶なんてのはね、子供を変に甘やかすから起こすんだ。俺んとこそうじゃないよ。なんせデカなんだから」
と笑う長さん。

 長さん、山さん、ジーパン、捜査に出かける。ボスは「中学三年か・・・」としみじみ呟く。

 小野の足取りを追う、長さん、殿下、山さん、ジーパン。トルコ風呂、連れ込み宿、工事現場、レストラン、あらゆる場所で聞き込み。殿下が小野のアパートの駐車場に向かうが、すでにクルマはなく、部屋に帰ってきている痕跡もなく、小野の妻も不在のままだった。小野の妻・夏子(右京千晶)の実家は、下田の先の小さな漁師町にある。ボスは、長さんとジーパンを下田へ送ることにした。

 現場にいる長さんに、今夜は「いいから家に帰るんだ」とボス。野崎家のことが心配なのである。「徹夜明けの出張じゃ仕事にならんぞ。いいな、これは命令だ」。

 長さんの住む団地。重い足取りで帰ってくる長さん。テレビから流れる、チェリッシュの「てんとうむしのサンバ」。台所では妻・康江が洗い物、ダイニングでは娘・良子(井岡文世)が夕食後のミカンを食べながらテレビを見ている。俊一は高校受験の勉強中。「うるさいぞテレビ!」。どこにでもある家族の光景である。疲れ果てて帰宅する長さん。「あなた、今日は大変だったんですよ。怪我をした子のお宅が、訴える気はないと言ったんで、早く返してもらえたんです」「ちょっとゴタゴタしてたもんだから」「少しは子供のことを考えてください」。長さんコートを脱ぎ「明日の朝5時半、下田へ出張だ」。

 息子・俊一に「ちょっとこっちへ来なさい」「話なら後にしてくれよ」。怒る長さん、妻・康江は「反抗期なんだから」と止めようとするが「バカ、そんなこと言うからつけあがるんだ」と俊一の部屋へ。喧嘩の理由を俊一に聞くが「言いたかないよ」「お父さんにも言えないほど、やましいことなのか?」。声を荒げる長さん。「なんだよ、喧嘩したぐらいで。お父さんいつも言ってたじゃないか。男なら喧嘩ぐらいしろ。やる以上負けるなって。だからやったんだよ!やって勝ったんだよ。褒めてくれよ!」「うん、それは正当な理由があった時の話だ」「要するにお父さんが一番怒っているのは、刑事の息子の俺が、警察の世話になったってことだろ。下手すりゃ辞職もので、恩給がぶっ飛んじまうからだろ!」。長さん、すごい形相で、俊一を殴り飛ばす。さらに反抗する俊一、長さんの怒りのボルテージが上がり、壮絶な親子喧嘩となる。妻・康江が「あなた」と仲裁に入る。「俊一、なんてこというの!お父さんに謝りなさい」。俊一、そのまま家を出ていく。

 冷静になり、まずことになったと反省する長さん。俊一の部屋の壁には日本中の城の写真が貼ってある。俊一の趣味なのだろう。リビングに戻ると、娘・良子は黙って部屋に入る。孤立する長さん。おやじはつらいね。コタツに入ってタバコを吸おうとするが、一本もない。

 翌朝、伊豆急で下田に向かう長さんとジーパン。長さん車窓の風景を眺めながら、俊一が幼かった頃の家族との時間をしみじみ思い出す。BGMは「赤とんぼ」のインストゥルメンタル。夕日のイメージに、昨夜の「要するにお父さんが一番怒っているのは、刑事の息子の俺が、警察の世話になったってことだろ。」の言葉がリフレイン。なぜかフト笑う長さん。駅弁を買ってきたジーパン。「何かいいことでもあったんですか?」「いいことどころか、昨夜倅を殴っちまったんだ。落ち着いて考えてみると倅の言うことにも一理ある。あいついつの間にか大人になりやがったと思ったら、なんだかおかしくってな」。ジーパンが昨日行った通り、やはり断絶かな?と長さん。長年の刑事生活で、自分の頭が硬くなりすぎたのかな?と笑う。

 伊豆急下田駅。ジーパンと長さんが降り立つ。タクシーを捕まえるが、駅舎をバックに撮りたいので、なぜかロータリーの真ん中で乗車する。伊豆急とのタイアップで、駅舎のカットがマストだったのかも? タクシーは下田の柿崎港あたりで停車。「釣り船・平助屋」の看板。長さんは小さなボストンバッグを持っているが、ジーパンは着のみ着のまま。前回から、茶色の革ジャンではなくグリーンのミリタリー風のパーカージャケット着ている。防波堤で釣りをしている老人たち。一人、フードを被った壮年の男性。「南伊豆署の田中さんですね?」「そうです」「東京から来た野崎です」「柴田です」。周囲に気づかれないように、よそ見をしながら挨拶をする三人。スパイ映画みたい。「あの民宿が、小野のカミさんの実家ですよ」。「民宿・宮川屋」の駐車場に、赤い品川ナンバーのクルマが駐車してある。このあたりは民宿が多く、人の出入りが多いので、身を隠すには絶好の場所だと田中刑事。

 長さん、ジーパン。釣り人のスタイルで、防波堤から釣り糸を垂れて、張り込み。時間経過のモンタージュ。西日が差してきた頃、白いパンタロンの上下のモダンな女性が民宿から出てくる。小野の妻・夏子(右京千晶)である。小野の赤いクルマでどこかへ出かける。ジーパンと長さんも用意してあったクルマで追跡開始。やがて夏子は、東海汽船の船着場へ到着。小さい子供を連れた老婦人を出迎える。

 一係。ボスが長さんからの報告の電話を受けている。小野はまだ現れていない。「どうやら長期戦だな」とボス。長さんとジーパンは伊豆南署にいる。警官たちは夕食を食べている。ジーパン、お腹が空いているのか、警官たちのおかずに興味津々。こういう松田優作さんのアドリブがおかしい。長さんは小野は必ず現れると確信がある。ジーパン、おかずをもらって食べている。手にはしっかり箸を握っている。ボスは23日したら交代要員を出すと告げる。「あたしなら大丈夫です。ボス、最後までやらせてください」「そう俺を困らせるな」と長さんの身体を心配するボス。「とにかく様子を見よう。小野のハジキにはくれぐれも気をつけてくれよ」。

 長さんの頑固さについて、一係で和やかに噂話。緊張のドラマのほっとするひととき。

 防波堤での昼夜の張り込みは続く。しかし赤いクルマは民宿の駐車場で、動く気配はない。時間経過のモンタージュ。「あれから3日も経っていると言うのに、小野の奴、どこをうろついているんですかね?」バケツには本日の釣果、三匹も釣り上げている。「ジーパン、ゴリさんが来たら、お前は帰れ。汽車の時間に間に合うぞ」。長さんは断固として残る気でいる。ボスは長さんに帰ってこい、と言っているのに。「小野の気性をよく知っているのはこの俺だけだ」。俊一とのことを心配するジーパン。長さんは続ける。2年前、小野が夏子と結婚するときには、わざわざ自分のところに挨拶に来た。その時の嬉しそうな顔が忘れられない。長さんは小野は「根はいい奴なんだ。甘えん坊で、寂しがり屋でな、ただ、やたらと意気がるくせに、本当はひどく臆病なんだ」。小野が今回の事件こしたのも結局はそのため。「そのあいつが、見知らぬ刑事や、武装警官に取り囲まれて、無闇を拳銃を振り回したらどうなる?俺は、ここにいなきゃならんのだ。どうしてもな」。

 一係。ジーパンが帰ってくる。「ただいま!」「なんだお前が帰ってきたのか?」とボス。今日は家に帰ってゆっくり休めとボス。ジーパン、珍しく下田のお土産をボスに。

 不良グループが、俊一の友人をボコボコにしている。どうやら、俊一が怪我させ生徒の兄、つまり高校生たちである。そこら中傷だらけの友人が帰ってくる。部屋では俊一が待っていた。「どうしたんだ」「トオルたちに仕返しされたんだ。今度は高校3年の兄貴が一緒だ」「汚いよ。なんであいつらそんなに俺を目の敵にするんだ」と怒りに震える俊一。

 ジーパン、長さんの団地を訪ねる。俊一のことが気になるのだ。長さんの家には、たくさんの表彰状が飾ってある。妻・康江に「実は、俊一くんに会いたくてきたんですよ」。康江と良子によれば、あの日以来、俊一はずっと友達のところに行ったまま、家には帰ってないという。ジーパンは良子に頼んで俊一のところに連れて行ってもらうことに。訝る康江に、長さんからの伝言を伝えに、と誤魔化すようにいうジーパン。

 ゴリさん、ジーパンの代わりに長さんの隣で釣り糸を垂れている。昼食のうなぎ弁当を買ってきたゴリさん。さすが食いしん坊。

 良子に、俊一の友人宅を案内してらうジーパン。豪邸の離れの勉強部屋に感心するジーパン。「だからここが気楽なのよ」と良子、俊一を連れ出してくる。ジーパン、俊一に「ちょっとその辺まで」と声をかけて歩きだす。商店街、アメリカンドッグを食べるジーパンと俊一。この頃、まだコンビニはなく、アメリカンドッグは、スーパーの前の屋台などで売っていた。「親父の言付けってなんですか?」「ああ、別にないんだよ」。ジーパンが俊一を呼び出す口実だったのだ。「嘘ついたんですか!」と怒って、帰ってしまう俊一。「年代の相違だな、これは」とジーパン。松田優作さん、かなり寅さんを意識しているね。

 下田。ゴリさんと長さん、クルマに飛び乗る。夏子が赤いクルマでどこかに向かっている。下田のメインストリートへ。やがて夏子のクルマはガソリンスタンドで給油。「遠出するつもりですかね」「小野がきてるんじゃないか?」。Uターンする夏子のクルマをゴリさん、長さんの覆面車が追う。長さん、先程の夏子の動きを思い出す。給油中にスタンドの事務所に入っていった。「止まれ!ゴリさん」「ガソリンスタンドへ引き返すんだ」「入った時は買い物袋を下げていた。小野はスタンドにいるんだ」。ゴリさん、クルマでスタンドに引き返す。

 ガソリンスタンドの事務所。小野が夏子からの荷物を広げている。長髪の松平健さんが、初々しい。ゴリさんと長さん、スタンドに到着。長さんに気づいた小野、窓から逃げ出す。長さんとゴリさんが必死で追う。小野は足を負傷しているので早くは走れない。小野は、母親と買い物姿の小さな女の子を、すれ違いざまに抱き抱えて人質に。路上に散乱するみかん。女の子の叫び声。非情にも小野は拳銃を女の子に向けている。手が出せない長さんとゴリさん。「来るな!この子を殺すぞ」。小野は山の中に入っていく。「ゴリさん、後を頼むよ」。長さんは小野を追う。ゴリさんは母親へ駆け寄る。

 ジーパンが仕方なく歩いていると、胸ポケットのペイジャー(ポケベル)が鳴り、近くの公衆電話へ。小野が女の子を人質にして、ゴールドタウンに立て篭もった、情勢いかんにかかわらず、全員がすぐ現地に飛ぶことに。「すぐ出発してくれ!」とボス。

 ジーパンが駅の改札口に入ろうとしているところへ、「柴田さん!」と良子が自転車で追ってくる。「俊一が大変なんです。決闘するって、河原へ」「え!」「河原どっち? ボスへ電話しといて来んないか」。ジーパン、捜査は二の次で熱血教師のごとく、俊一の元へ走る。

 河原。俊一が「本当に一対一だな」と不良グループに念を押す。「俺たちは警察みたいに汚ねえ真似しねえよ」って、高校三年生が中学三年生とタイマン勝負する時点で、十分「汚ねえ真似」なんだけどね。ジーパン、小田急線の線路脇を走る。あれ、長さんの家、前は新宿の戸山アパートだったような。引っ越したのかな? 

 七曲署。殿下、山さん、ボス、覆面パトカーに乗る。下田まではかなり遠いですよ。

 河原。俊一が高三相手に孤軍奮闘。鉄パイプ持った連中にボコボコにされる。汚ねえ連中だな。それでも闘志を燃やして、立ち向かっていく俊一。ジーパン、喧嘩の現場に到着。「お前ら、これが決闘か?」「なんだよ、てめえは」「喧嘩の理由を言え」「弟がやられた仕返しを、そいつは生意気なんだよ。親父がデカだと思って、いい気になりやがって」「デカなんて、権力をカサにきて、威張っているだけじゃねえかよ」。ジーパン、リーダー格を跳ね飛ばす。「俺もデカだ」。俊一はあくまでも一対一の決闘を望む。ジーパン「よし、気の済むまでやれ!」。これぞ、青春学園シリーズのセオリー!
 屈強な高三に挑んでいく、小柄の俊一のファイト! 投げ飛ばされても立ち上がる。長さん譲りの根性である。

 下田。覆面パトカーが走る。ラジオからは臨時ニュース。「全国指名手配中の小野ツネオ、21歳は、静岡県南伊豆郊外で張り込み中の担当刑事の追跡を逃れ・・・」

河原。戦い続ける俊一。その様子をじっと見守るジーパン。

下田。ラジオは続ける。「南伊豆ゴールドタウンに立て篭もった小野ツネオは、警察側の説得にも関わらず、拳銃を時折発砲し・・・」

 河原。形勢逆転、俊一は高三に馬乗りして、相手を殴り続ける。ジーパンが近寄る。後ろから良子が自転車で駆けつける。ジーパン「もういいだろ」と割って入る。俊一は納得した様子。「親父が刑事なのがそんなに嫌なのか?」「だってそうじゃないか。あいつらだけじゃない、みんなが色眼鏡で見るんだよ。デカの息子だから大きな顔をしている。親父をカサにきている。何をしても、そんな目で見るんだよ!」。そこへ姉・良子「そんなことないわよ。それはあんたのひがみよ」「だってそうじゃないか!」と姉に食ってかかる。

しかし、ジーパン。「君の言う通りだ。ひがみだけじゃない。世間の人はね、なんとなく警察官を嫌うんだよ。なんとなくだよ」と良子の顔を見る。「俺の親父も刑事だったから、よくわかるんだよ」。ジーパンは俊一に、かつての自分を見ているのだ。そこへ、母・康江が走ってくる。「お父さんの行ってる事件がテレビに出ているのよ」。急いで家に帰る、俊一、良子、ジーパン(捜査はいいのか?)。

 南伊豆ゴールドタウン。静岡県伊豆市瓜生野の「大仁金山」跡地に作られたテーマパーク。この時点ですでに閉園していた。西部劇やゴールドラッシュ時代のアメリカをイメージした「ウエスタン村」で、日活映画『野良猫ロック 暴走集団'71』(1971年・藤田敏八)にも登場する。日活出身の澤田幸弘監督は、そのロケ場所を覚えていて「西部劇的なアクション」ができると、クライマックスに登場させたのだろう。

 さて、西部の街に救急車や機動隊が配備され、WARE WOUSE と書かれた小屋に小野が立てこもっている。暴れん坊将軍、西部の街を往く、である(笑)。小野は女の子を抱き抱え、拳銃を握り、憔悴しきっている。「西部警察」だったら大門軍団に射殺されても仕方ない状況。

日本テレビのアナウンサー。後ろに中継車。「殺人犯の小野はもう、すでに5時間以上も、この南伊豆の金山の廃坑、ゴールドタウン跡に立てこもっています。担当刑事の説得や、それから奥さんの再三の呼びかけにも関わらず、依然として抵抗を続けておりまして、すでに警察側の方には二人の怪我人が出ております。」

野崎家の茶の間、テレビ中継を真剣に見ている、康江、良子、ジーパン。俊一は、少し離れた自分の部屋から、茶の間のテレビを見ている。

「小屋の中のみどりちゃんが一体どうなっているのか? 心配です。とにかく人質が子供であること。それから、この子供に万一のことがあってはという危惧から警察側の方も、放水あるいは催涙弾の使用に踏み切れないのが現状のようであります」。

テレビ中継からも現場の緊迫感が伝わってくる。日本テレビのアナウンサーを起用して、リアルな場面となっている。

 南伊豆ゴールドタウン。ボスが陣頭指揮をとっている。長さんが小野妻・夏子を伴い、ハンドスピーカーで説得に向かう。機動隊のジュラルミンの盾に守られながら小屋のそばに近づく。夏子「あなたお願い。拳銃を捨てて出てきて。子供をお母さんに返してあげて。あなた!お願い!」。長さんもハンドスピーカーで「小野、これが最後だ!銃を捨てて出てきなさい。俺が約束する。君の生命は保証する。銃を捨てて出てきなさい」。しかし、返ってそれが刺激となり小野は発砲する。退く機動隊員。警察はいよいよ、最後の非常手段に出ることに。4歳のみどりちゃんが泣きつかれたのか、とうとう声も聞こえなくなった。これ以上の長時間の監禁には耐えられないと判断したのだ。

「ボス、あと1時間で日が暮れます。今のうちになんとかしないと」
「わかってる。とにかく人質は子供だ。夜になるまで待とう」
「しかし、この状態がいつまでも続けば、奴はきっと耐えきれなくなって、狂ったように、何をするかわかりません。ボス、私一人で行けば・・・」
「長さん、ダメだ。奴にはまだ弾が残っている」

 待機を命ぜられた長さん、悔しそう。思い余った長さん、拳銃を起き、丸腰で小屋に向かう。ボス「長さん、戻れ!」。しかし長さんはゆっくりと小屋に向かって歩く。

 両手をあげ、丸腰であることを身体で伝える長さん。その姿は野崎家のテレビにも映っている。「小野、俺が人質になるから、子供を返してくれ。聞こえるか?小野。そのままでは子供が参ってしまう。頼むよ」。ビジュアル的にはほとんど西部劇。緊張の時は続く。ボス、山さん、ゴリさん、殿下、なんとか長さんを援護したい。その一念で少しずつ近づいていく。

「今入った情報によりますと、あの人は担当刑事の一人だそうです。あるいはこれが警察側の作戦なのかもしれません。しかし危険です」。テレビに食い入る、ジーパン、良子、康江、俊一。小野、近づく長さんに発砲、右腕に弾が当たる。血まみれになる長さんがブラウン管に大写しとなる。それでも立ち上がり、小屋に一歩ずつ近づく長さん。思わず顔を背ける康江。俊一、唾を飲み込む。

「小野、俺を忘れたのか? 俺が殺せるか?お前に、小野!」長さん、涙を流している。

 ボス、山さん、少しずつ前進。ゴリさん、小屋の脇に。「ちくしょう!」拳銃を構える殿下。

「来るな! それ以上来るな!」
「小野、俺は何もしやせんよ。それはお前が一番よく知っているだろ、さ、戸を開けて子供をわたしなさい」

 長さんの気魄に気圧されて、拳銃を持つ手が震える小野。長さん、扉を開ける。ゆっくりと拳銃を下ろす小野。みどりをそっと抱き抱える長さんの小野を見つめる眼は、涙で溢れている。その瞬間、長さんは思い切り小野を殴る。倒れる小野をゴリさんが確保する。

 全てが終わり、ボスが黙って長さんの傷の手当てをする。その姿はテレビに映っている。

 野崎家。良子「お母さん、お父さんが子供を助けたのよ」。うなづく康江。俊一はいつの間にか部屋から出てきて、テレビに釘付け。テレビ画面では、みどりを抱き抱えて泣きじゃくる母親が映されているが、その向こうに小さく、ボスが長さんの腕にハンカチを巻いている姿が見える。黙って部屋を出ていく俊一。屋上、夕日で真っ赤に染まっている。そこに立っている俊一に近づくジーパン。「俊一くん、どうした?」「親父って、そうなんだよな。泥だらけで、生命がけで、人のために働いて、終わってしまえば、誰も見向きもしない。テレビの画面にも出ない。それでも必死に、むきになって犯人を追っかける。俺、そういう親父が好きだ、大好きだよ!」「わかってるよ」俊一の肩を叩くジーパン。

 河原。俊一がジーパン相手に喧嘩の特訓。「ジーパン!」。土手にはボス、長さん、康江、良子が立っている。「ボス!」その隙に俊一に倒されるジーパン。「ほらジーパン、お前、中学生に叶わんのか!七曲署の沽券に関わるぞ!」とボス。再び俊一と取っ組み合いするジーパン。

「なんとか断絶の方も解消しそうだな」
「ええ、まあ、先のことはわかりませんがね。しかし、それよりも目下の心配は、あいつも刑事になる、なんて言い出すんじゃないかと思って」
「ほう、長さん、息子、刑事にしたくないのか?」
「ええ、いや・・・ただボスのような上司がいてくれないと、あいつも私と同じような性格なもんですから、そのう」
「うまく逃げたな」。


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