太陽にほえろ! 1974・第96話「ボスひとり行く」
この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。
第96話「ボスひとり行く」(1974. 5.17 脚本・ 長野洋 監督・斉藤光正)
永井久美(青木英美)
神田公恵・上村琴江(赤座美代子)
大滝(今井健二)
野々浩介
上村(杉山元)
高野(香月淳)
三田村辰雄(下塚一二)
笹尾一行
池田宗博
茂木正
松田剣
竜神会組員(丹古母鬼馬二)
三田村平吉(信欣三)
三田村鉄工の工員(野瀬哲男NC)
三田村鉄工の工員(清水宏NC)
竜神会組員(荻原紀NC)
予告編、久々の小林恭治さんのナレーション「藤堂を消せという不吉なコピーが街に撒かれ、ボスが何度となく狙われた。犯人と思われる男は逮捕されたが、ただ一人の目撃者は記憶喪失、そしてコピー署名の男も、すでに何者かの手によって拉致されていた。もはや捜査に残された手は、ボスが単身囮となって、黒い罠へ飛び込むこと以外にはなかった。次回「ボスひとり行く」にご期待ください」
久しぶりのボス・藤堂俊介捜査第一係長(石原裕次郎)主役回。ボスが何者かに生命を狙われ、最大のピンチに。ビルからボス目掛けて看板が落下するが、その様子を目撃していた女性・赤座美代子さんが、犯人に襲われて記憶喪失になる。長野洋さんの脚本は、推理ものというより、ボスをカッコよく見せるための、少し荒唐無稽な展開。だが、日活育ちに斉藤光正監督がアップを多用し、細かいカットを重ねて映像だけで状況を見せていく映画的な演出を試み、緊迫のドラマとなった。
今回のゲスト・信欣三さんは、戦前から活躍していたベテラン俳優で、裕次郎さんとは日活『あした晴れるか』(1960年・中平康)、『なにか面白いことないか』(1963年・蔵原惟繕)で共演。石原プロモーションの『黒部の太陽』(1968年・熊井啓)、『富士山頂』(1970年・村野鐵太郎)、『ある兵士の賭け』(1970年・キース・エリック・バート)、『甦える大地』(1971年・中村登)にも出演しており、裕次郎さんの絶大な信頼を受けていた名優。
三田村鉄工所。ボス、ジーパン、ゴリさんが覆面パトカーから降りてくる。バーナーを使っていた工員(野瀬哲男、清水宏NC)たちが立ち上がり、ボスの方へと歩く。
「社長の三田村さんに会いたいんだがな」とボス。「社長ならいねえぜ」と一人の工員がバーナーをボスに向ける。「おい、何の真似だ?」とゴリさん。「デカだろ?匂いでわからぁ」「フン、デカなんてのはヘドが出るよ!」「なに?」「おいゴリ。(工員に)通してもらうぞ」ボスがゆっくりと六人の工員をかき分けて奥へ歩いていく。抵抗する工員たち。そこへ二階から顔を出した三田村平吉(信欣三)が「おい、仕事に戻るんだ」。
工場の前で、ボスたちを待つジーパン。向かいには大きな団地。子供達が遊ぶ声がする。
三田村鉄工の事務所。ボスが三田村と話をしている。三田村の頬には傷。「事件は未遂だった。今なら罪も軽くて済む。親父さんならわかるはずだ」とボス。三田村は「だが、いないものはいませんよ、藤堂さん」「なあ、親父さん、あんた昔、一家を張っている頃から、嘘だけはつかなかったのが信条じゃなかったのか?頼む、俺に捜査礼状を使わせないでくれ」。三田村はボスの顔をゆっくりと見て、無言のまま、引き出しから南京錠の鍵を出す。
倉庫の前、南京錠を開ける三田村。ボスが扉を開けようよすると「いや、私が」と三田村が開ける。
「辰雄、俺だ!」中に入り扉を閉める三田村。ボスは外に残される。「チックショー!」叫び声とともに銃声! ゴリさん! ボス中に入り「親父さん、しっかりしろ、親父さん」うめき声をあげる三田村。倉庫の階上には三田村辰雄(下塚一二)がいる。「藤堂さん!やめてくれ!」と三田村が叫ぶ。辰雄は拳銃をボスに向けて「来るな、来るな、来るんじゃない!」と半狂乱。ボスはゆっくりと近づく。その目は辰雄を見据えている。「藤堂さん!藤堂さん!」三田村が声を振り絞っている。発泡!「辰雄!」と三田村の絶叫。ボスは「辰雄、自分の父親を!」「うるせえ!サツに俺を売るような奴は親父じゃねえ!」「拳銃を捨てろ!」ゆっくりと近づくボスの後ろから三田村「藤堂さん、藤堂さん」「やかましぃ!」発砲する辰雄「捕まってたまるかい」拳銃を撃ち続ける。
銃声を聞くジーパン。ボスはゆっくりと辰雄に近づいていく。外で工場のサイレンが聞こえる。恐怖に怯える辰雄、ボスに向かって発砲する。しかし弾は外れ、逆にボスが辰雄の肩を射抜く。辰雄は二階の窓から逃げようと転げ落ち、絶命!
辰雄の亡骸に縋り付く三田村。ボス、ジーパン、ゴリさん。悲しみに打ちひしがれる三田村の腿からは、出血。それを見るジーパン。ゴリさん、ボス、無言のまま。トランペットのテーマが流れる。
キャメラは俯瞰で墓地を捉える。ボスが墓の前に立っている。亡くなった息子に線香を手向ける三田村。「おめえにはお袋がいなかった。俺に愛想が尽きて逃げ出すのはいい、が何も倅まで捨てることはなかったんだ」三田村杖で不自由そうにボスのところへ。「こいつに母親さえついていてくれたら・・・藤堂さん、あんた、なんだっていきなりやってきたんだ?今更言っても愚痴にしかならねえが、俺は、あいつを説き伏せて、自首させるつもりだったんだ。嘘じゃねえ、あんたさえ来なければ、倅は死なずに済んだかもしれない、あんたさえ来なけりゃな!」。ボス、三田村の目をみる。「親父さん、達者でな」と言って立ち去る。「おう、あんたもな」。ボスを恨む目で見ている三田村。
墓地からの帰り、ボスが一人運転していると、横を大型トラックが横切る。ボスは多摩川川の土手の道へ向かうが、真正面から先程のトラックが突如迫ってくる。ハンドルを切るが、ボスのクルマは土手を降って河川敷へ。小田急線鉄橋の下でようやく停止。間一発だった。ボスのクルマのクラクションと、小田急ロマンスカーのチャイム。クルマを降りたボスは、土手を駆け上がるが、すでにトラックは姿を消していた。
捜査第一係。久美が長さんにお茶を入れている。「お帰りなさい」ボスが左手を怪我、三角巾で左手を吊るして帰ってきた。長さん「ボス、それどうしました?」「いや別に」と笑うボス。「何かあったんでしょう?」「ちょっと避け損なってな」。心配かけまいといつものように振る舞うボス。
「クルマねぇ・・・」「おう、長さん、何ジロジロ見てんだ?」。長さんは、三田村鉄工の若い連中が、どうもボスを狙っているらしいと話す。三田村の息子が死んだのは、ボスのせいだと思っているんだと、久美に説明する。「あいつら、みんな、三田村の親父に拾われて、義理感じているんだ。頭に血が昇っても無理はねえだろう」とボス。「その頭に血の昇っている連中の一人が、今朝から行方不明なんですよ」と長さん。ボスは土手で襲ってきた暴走トラックを思い出す。
都会の雑踏。横断歩道を渡り、街中を歩くボス。脳裏によぎる辰雄の死。「こいつに母親さえついていてくれたら」と三田村の言葉。二階の窓を突き破って落下する辰雄。我にかえるボス。工事のユンボの騒音。工事現場の前を歩くボス。突然、足元の鉄板が崩れて、転落しそうになるが、不自由な片手でしがみついて急死に一生を得る。鳴り響く非常ベル。作業員たちがボスを見つめているが、誰も助けようとはしない。
自宅マンションに帰ってくるボス。エレベーターで5階の自室へ。新聞受けに入っていた郵便物を確認する。昔の団地やマンションは、建物によっては、郵便受けが一階になく、各部屋まで郵便配達されていた。一枚の葉書を見て、笑うボス。女の人からか? 冷蔵庫から缶ビール(サッポロ)とレモンを取り出し、その場でレモンを皮ごとかじり「んー」と味わい、また冷蔵庫へ。衛生的に問題あるぞ、ボス! ビールのリングプル(この頃はセパレート式)を開けてゴクゴク。まだ「プシュ、ハー、うまい」の時代ではない。
ふと壁の版画の額を見るボス。視聴者はすでに気付いているが、額が不自然に曲がっている。部屋を見渡し、卓上ライターの火を付けるボス。やがて、ソファーのクッションがずれていることに気づく。おかしい。ソファーを捲ると、時限爆弾がセットされていた!
「芸術工房Q」。デザイナー・神田公恵(赤座美代子)が息抜きに窓を開け、街の雑踏を眺める。看板がクレーンでビルの会場に吊り上げられている。「ふれる心・・・こわれた夢が宙を舞う 人が人を愛する時」。おそらく公恵がデザインしたものだろう、満足げに見つめている。その看板を吊るしていたロープが一本切れる。驚く公恵。さらにもう一本のロープを何者かが切っているのを目撃してしまう。
ビルの屋上、額に汗を流し、マスクにヘルメットの作業員の男がナイフでロープを切る。落下する看板。公恵、声にならない声をあげる。「!」。その下をボスが歩いていた!「キャー!」公恵の絶叫!ボスは、そっさに避けて難を逃れる。その瞬間、ボスが空を見上げると「芸術工房Q」の窓から顔を出している公恵を見つける。ビルの屋上の男は、公恵をじっと見つめている。恐怖に慄く公恵。
看板が落下してきたビルの屋上に、ボスが上がってくる。切れたロープを見つけ、開いた窓から。先程の目撃者は「芸術工房Q」の女性だと確認する。
恐ろしくなった公恵は、そのままバッグを持って会社から出て新宿の雑踏へ。横断歩道で、スリーピースにサングラスの男。彼女から見たらボスそっくり。に肩を叩かれる。なんのことはないナンパだった。その場を走り去る公恵。
夜道、家路に急ぐ公恵。高架下のトンネルを歩いていると前方から、車が急発進してきて、公恵を襲う。何度もバックをして襲ってくるクルマ。避けようとした公恵は道路に飛び出し転倒。頭を強く打って意識不明となる。クルマから出てきたのは先程の屋上の男。公恵の首を絞めて殺そうとするが、走行中のクルマのパッシングを受けて断念。
赤座美代子さんは、昭和38(1963年)、俳優座養成所15期生として入所。同期には前田ぎん、高橋長英、地井武男、栗原小巻いる。その後文学座の研究生となり、山本薩夫監督『牡丹灯籠』(1968年)の主演に抜擢され、テレビ映画で活躍。「太陽にほえろ!」では、青木英美さんがテスト出演した第31話「お母さんと呼んで」(1973年)から、第594話「十年目の誘拐」(1984年)まで4作品に出演している。
第31話「お母さんと呼んで」(1973年) - 秋津夏江
第96話「ボスひとり行く」(1974年) - 神田公恵(上村琴江)
第134話「正義」(1975年) - 山下律子
第594話「十年目の誘拐」(1984年) - 稲村敏子
病院のベッド。公恵が目覚める。頭には包帯。廊下では医師が深刻な表情。「それじゃ後遺症が?」と殿下。「残らないといいんですが、頭部をかなり強く打っているんでね」と医師。このシーンが、捜査一係の長さんとボス、久美の会話以来、ひさしぶりのセリフ芝居となる。
「後遺症というと?」と殿下。「そうですね。最悪の場合は・・・」と医師。殿下「最悪の場合は?」と繰り返す。
公恵が襲われた現場。ボスが検証している。三角巾が痛々しい。日活ムードアクションの頃の裕次郎さんを思い出させてくれるような孤高の表情。久しぶりに「石原裕次郎を観ている」という気分になる。
「ボス!ここにも急ブレーキをかけた跡が残っていますね」とゴリさん。「この柱にもボディを擦った跡があります」と長さん。「ジーパン!」とボス。規制ロープを軽やかに飛び越えてジーパンが駆けつける。「やっぱり、狙ってやったらしいですね。何度もエンジンを蒸したり、急ブレーキをかけた音が聞こえたらしいです」「そうか、こいつはどうやら、計画的な犯罪のようだな」。
病院、目を閉じていた殿下、振り向く。山さんが来たのだ。「どうだ?」「まだです」「所持品は調べたか?」「はい、定期入れがありました」「神田公恵、28歳か」。病室のドアが空いて、医師が「刑事さん」と殿下を呼ぶ。
覆面パトカーの無線。ボスに殿下から、被害者の意識が回復したと報告。「ようし、わかった。すぐ行く、殿下は彼女の身辺を徹底的に洗ってくれ。いいな」「了解」。
公恵の病室。「違う?あなたは神田公恵さんじゃないんですか」と山さんが公恵に訊く。「あたし、神田公恵さんなんて女の人知りません」。記憶喪失のようである。定期を見せる山さん。しかし公恵は「私、上村琴江です。住所は熊本県玉名郡豊島町・・・夫と五歳になる子供がいます。教えてください。あたし、どうしてこんなところにいるんですか?」。山さんの顔をじっと見つめる公恵。
ドアが開いて、ボスが入ってくる。ボスの顔を見て、ハッとなる公恵。しかしすぐに目を逸らして病室の天井を見つめる」。山さん、ボスに状況を耳打ちする。
医師は、ボードに白いチョークで図を書いて説明。「患者はこの時点まで、上村琴江として、九州の片田舎で、夫も子供もいる平凡な主婦として暮らしをしていたわけなんです。ところがこの赤線のところから、何らかの理由で記憶を失い、どういう経路をたどったか、不明ですが、東京に出てきて、神田公恵として暮らしていたわけです。それが今夜受けたショックで、以前の記憶を取り戻した、というわけです。ただ厄介なことは、この以前の記憶を取り戻した瞬間に、この神田公恵として暮らしていたこの部分の記憶を、逆に失ってしまったんですなぁ」。一種の二重記憶喪失である。轢き逃げされそうになったことも全く覚えていないだろうと医師は説明する。
殿下が入ってくる。公恵の住所も勤め先も近所で聞き込みをしてきた。矢追町第三ビルにある「芸術工房Q」であることを聞いたボス。あの看板落下の瞬間に叫び声を上げた目撃者が公恵だったことを思い出す。
捜査第一係。ボス「昨夜、緊急連絡をとって紹介した結果、女は本人の申し立て通り、半年前に失踪した、上村琴江であることが確認された。ところが問題はその上村琴江が、なぜ襲われたか? 前後の事象から見て、こいつは明らかに俺に関係がある」。ボスは歩き回りながら話す。山さん、長さん、ゴリさん、殿下、ジーパンは座っている。
「実はな、俺、昨日の昼、でっかい看板の下敷きになりそうになったんだ」。驚く刑事たち。「その時、女は犯人の顔を見た。犯人もそのことに気がついて、おそらく女の口を塞ぐべく、襲ったに違いない。ところがだ、肝心の目撃者である彼女が、昔の記憶が戻ったのと引き換えに、現在の神田公恵との記憶を全く失ってしまった。つまりだ。彼女は盲目の目撃者と同じことだ。だがな、ここまで来れば・・・」とボス。
殿下「この事件はボスひとりだけのものではない」。ゴリさん「そうだ、我々の手で徹底的にホシを追うんだ。ジーパン!」。ボス「よし、追ってくれ!」「了解!」。
メインテーマが流れるなか、捜査が始まる。ゴリさん覆面車から降りる。三田村鉄工所で、工員たちの冷たい視線を浴びるボス。ジーパンは矢追第3ビルへ。「芸術工房Q」で聞き込みをするジーパン。デザイナーがみんなヒッピー風なのが時代を感じさせる。しかもカップヌードルを食べているし(笑)。首を横に振る公恵、必死に質問をする殿下を制止する看護婦。長さんは襲撃現場に残されたクルマが擦った後を鑑識と共に調べている。
捜査第一係。ボスが電話に出る。「あ、長さんか? わかった? で、クルマの種類は?」。
中古車カーディーラー。長さんとジーパンが該当車を調べている。世田谷の安藤自動車修理工場、ゴリさんと殿下が聞き込み。しかし収穫はない。とある公園、山さんが情報屋とコンタクト。レンタカー整備工場、ジーパンと長さんが、問題のクルマを探し当てた!
渋谷のドヤ街。逃走する高野(香月淳)。追うジーパンと長さん。かなり躍動感のある追跡シーン。ハンドカメラ、工事現場の据え置いたカメラからのローアングル。全速力の高野、負けじと猛ダッシュのジーパン。中年ながら健脚の長さん。大野克夫さんの音楽が、視聴者のテンションを高める。タークシーレーンに駐車してあるタクシーの間を縫うように逃走する高野。ビルからの俯瞰ショットで、街中の追跡劇を「鬼ごっこ」のように客観的に捉える。横断歩道で、高野をジーパンと長さんが確保。その瞬間も俯瞰で撮影。
七曲署・取調室。長さん「どうなんだよ?え?」「おい、お前が殺そうとしたんじゃないのか?」とジーパン。高野は「殺す?冗談じゃねえや、ちょいとからかっただけだよ」と嘯く。厳しく責め立てるジーパン、それを制止する長さん。取調べの役割分担だね。長さん「女を襲ったということは認めるんだな?」「どうなんだよ!」「認めるよ」と高野。「けど轢き殺すなんてとんでもない。ちょっとからかっただけだ」と繰り返すばかり。「それとも何か?女の奴が俺に轢き殺されそうになったでも言ってるのかな?」「この野郎!」ジーパン、高野の胸ぐらを掴む。長さんが止めて「おい?」と高野の頭を小突くが「嘘じゃないですよ」。
高野を演じた香月淳さんは、「白い牙」(1974年)や「特別機動捜査隊」(1974年)、「傷だらけの天使」(1974年)、「俺たちの勲章」(1975年)などの刑事ドラマでよく見た2枚目の悪役。その後、磯村健治と改名して映像制作会社を設立。俳優は引退している。「太陽にほえろ!」では、第50話「俺の故郷は東京だ!」(1973年)から第469話「東京・鹿児島・大捜査線」(1981年)まで、計7話出演している。
第50話「俺の故郷は東京だ!」(1973年) - “エル”の客
第96話「ボスひとり行く」(1974年) - 高野
第133話「沈黙」(1975年) - 川本功
第254話「子連れブルース」(1977年) - 井原卓也
第328話「待ち合わせ」(1978年) - 山形京三
第376話「右往左往」(1979年) - 永田
第469話「東京・鹿児島・大捜査線」(1981年) - 三島勇
捜査第一係。高野の調書と写真を手に話をしているボスとゴリさん。そこへ「馬鹿野郎」とつぶいやいて、憮然と入ってくるジーパン。「ダメですね。からかった、なんて言いやがって」「記憶まで失わせてか?」とゴリさん。「そうなんですよ。あの野郎、新聞かテレビで、彼女が記憶喪失なのを知って、それでそっちのホシが絶対に割れないって自信を持ったんじゃないんすか?」。ボスは黙って、ひとり何かを考えている。「ボスの顔を見て、ハッとなる公恵」を思い出すボス。
「高野は確か、梶田組だったよな?」「ええ、今では竜神会の下部組織です。実は・・・」とゴリさん。高野が昔愚連隊だった頃の仲間の一人が、三田村鉄工の工員になっている。行方不明になったのは、どうもそいつらしい。うなづくボス。そこへ山さん「ボス、ちょっと」と声をかける。
廊下で、山さんはボスに三田村からの指示書を見せる。「七曲署の藤堂を消せ 工場の権利をやる 三田村平吉」と拇印が押してある。筆跡は三田村のものに間違いないとボス。「毎年、年賀状をもらうんで覚えている。しかし・・・」「わかってます。三田村の親父さんがこんなことをする男とは思えませんが、しかし、親子の情だけは別もんでしょうね。同じ様にコピーした紙が方々にばら撒かれています」。歩き出すボスに、山さん「ボス、(三田村鉄工に)行くんですか?一緒に私が行きましょうか?」「山さん、デカにボディガードはいらんよ」。やくざ映画の殴り込みのシーンみたい。
三田村鉄工所。ボス、工員たちに取り囲まれている。高いところから俯瞰で撮影している。「待て、親父さんに逮捕状が出たなんて話、聞いてないぞ」「野郎、参考人って手があるじゃねえかよ、一体、親父が何をしたっていうんだよ」ハンマーを振り上げる工員。「まあ、落ち着け!逮捕状もなくて、夜中にしょっぴけると思うのか?」。口ごもる工員たち。「で、親父さん、いつ頃からいなくなった?」「一昨日の朝から姿を見せないんだ!」「夜にはいたんだよ!みんなで酒飲んだんだからな」「そうだよ!」「ほう、じゃお前ら、警察がしょっぴいたって、どうしてわかったんだ?」「昨日、電話があったんだよ、今ちょっと警察の厄介になっているけど、心配するな」ってな。
「馬鹿者!警察が取調べ中の人間に、電話をかけさせるとでも思っているのか?ん?」。ボスのアップ。ハッとなる工員たち。
捜査第一係。電話が鳴る。山さんが出る。「なんですって?誘拐?」「そうだ、親父さんはおそらく誘拐された。俺を消したがっている誰かにな。親父さんは誘拐され、無理矢理、あの文章を書かされたんだ」「ボス、そうなると、親父さんの命が・・・」「ああ、確かに危ない。俺はこれからすぐ、病院へ行ってくる。上村琴江が記憶を取り戻してくれたら、高野の白黒もはっきりする。そういうわけだ。ああ、ま、やってみるさ」電話を切るボス。
「刑事さん、俺たちにも手伝わせてくれよ!」と工員たち。ボスは「断る、これは俺の仕事だ。俺の仕事だと言ってるんだ!」。工員たちを振り切るボス。おお、今回はヤクザ映画、孤高のアウトロー映画の作り方でボスを描いている。
ボス、公恵の病室へ。殿下に耳打ちして、殿下、部屋を出ていく。「奥さん、ちょっとお話があるんですがね」笑顔で優しく話しかける。こういう時の裕次郎さんは石坂洋次郎映画に出ていた頃の表情。八重歯が見えそうな感じ。「なんでしょうか?」「九州にご一緒に帰られるんでしょう?」「え?」「ご主人、まもなく、見えますよ」「主人が?」公恵の顔が曇る。「でも・・・」「いや、ご主人は許してくれますよ、あなたはただ、記憶喪失という病気にかかっていただけなんですからね」「・・・」「ところで、こっちのアパートの方ですけどね、管理人に頼んでそのままにしてありますから、ご心配なく」「すいません」「隣の奥さんも心配してましたよ。なんて言ったかな、あの太った奥さん」「戸田さん・・・」。公恵がつい漏らしてしまった。記憶はあるのだ。
「奥さん、芝居はもうよしましょう」「・・・」。赤座美代子さんのアップで微妙な表情の変化が公恵の心理を視聴者に伝えてくれる。ボスのアップ。先程の笑顔から真剣な眼差しへ。全て見抜かれてしまった・・・と公恵の表情。さすが赤座美代子さん、うまいね。
ボスは高野の写真を目の前に差し出す。「奥さん、あなたはこの男を知ってる。見覚えがあるはずだ。あの時、あなたは私を殺そうとした犯人の顔を見た。それをきっかけに、記憶喪失を装おうと決心したんでしょう?」「知りません、何も」「都会の生活に疲れて、夫や子供に逢いたくてしようがなかった。だが、なかなかそのきっかけが掴めなかったんでしょう?」。本当に何も覚えていないと公恵。
ボスは立ち上がり「今、一人の老人が殺されようとしています。狙われているのは私だけじゃない。一人息子を死なした老人が、本当に殺されようとしているんです」。涙を流す公恵。廊下から「たかし、こっちだ、こっちだよ」と男の声。殿下が制止するが、夫・上村(杉山元)が子供を連れて上京してきたのだ。「琴江!」。子供の顔を見て笑顔になる琴江「たかし・・・」幼な子は父親に影に隠れてしまう。「たかしくん、たかし、たかし君もきてくれたの?」「たかし、どげんしたとか、母ちゃんの顔ば見忘れたとか?」と夫。しかし、たかしは無言で病室から逃げ出す。行方不明になっていた時間の大きさを知る琴江。たかしを連れてくる夫は「琴江、お前がおらんようになってからは、たかしの奴、えらい暗い子供になってしもうてな、幼稚園にもよう、いかんようになったんだぞ」「ごめんなさい」「一体、どげんしたことか? 田舎の暮らしが、そげん、不満だったのか?」「すいません、あたし、あたし・・・」。泣き崩れる琴江。
「あたし、あたし本当は・・・」
「上村さん、私、七曲警察の藤堂です。もうすでにご存知かと思いますが、奥さんは記憶喪失でした。我々も事件の関係上、色々調べさせてもらいましたが、奥さん、別に、恥ずかしいようなことはしてません」。ボス、笑顔でたかしの頭を撫でる。ボス、殿下と一緒に病室を出ていく。
琴江の夫を演じた杉山元さんは、日活バイプレイヤーで、兄・杉山俊夫の後を追って昭和35(1960)年に日活へ入社。『金門島にかける橋』(1962年・松尾昭典)、『花と竜』(同・舛田利雄)などの裕次郎映画にも出演。裕次郎さんとは昔馴染みの俳優。「太陽にほえろ!」には本作と、第180話「決別」(1975年)の2本に出演している。
病院の外階段。ボスと殿下が立っている。「ボス、しかし三田村鉄工の方は?」と殿下。「まだ一つだけ手が残っている」とボス。今回はとにかくアップが多い。カット割も細かい。自分の拳銃を殿下に渡して、丸腰となったボス。ひとり、最後の賭けに出る。トランペットが高鳴る。ボスは京王プラザホテルの前を歩く。まるで西部劇の保安官が最後の決闘に赴くような、そんな演出。
ボスが歩いていると、アパートの外階段から竜神会組員(丹古母鬼馬二)たちが見ている。ボスは上着を脱いで、そのまま歩き続ける。丸腰であることをアピールしている。その後をつける竜神会組員たち。一人、また一人増えて、その数は十人以上! その様子を覆面パトカーから、ゴリさんと見ているジーパン「山さん、いよいよ戦闘開始です」と無線連絡。山さん「絶対にボスから目を離すんじゃないぞ」。同乗しているのは、殿下と長さん。「了解!」ゆっくりと車が動き出す。
ボスは東横線の高架下あたりで、竜神会に拳銃を突きつけられ、廃工場へ連れて来られる。とある建物の階上までやってくると「藤堂さん!」と三田村の声がする。足を引きずりながらボスのところへ駆け寄る三田村。その後ろから現れたのは、竜神会の大滝(今井健二)。「無事だったか、親父さん」「久しぶりだな、ははは、無事なのもあと何分かな」と大滝。こうした悪役をやらせたら無双の今井健二さん。「大滝、やっぱりお前か!」「そうだ、あんたみたいなしつこいデカがいたんじゃ、さすがの竜神会もやりづらくなったんでな、このジジイの倅が死んだのを利用して、あんたに消えてもらおうと、一芝居、打ったってわけさ」と大滝。
「馬鹿野郎」と叫ぶ三田村。「俺があの手紙を書いたのはな、いずれは、いずれは・・・」「わかってる親父さん、いずれ俺の手に渡ることを計算していたんだろ、手紙のルートを逆に辿っていけば、ここに来ることができる」「おう、わかってくれたかい」とボスに抱きつく三田村。「わかってたよ親父さん」。
今回の悪役・今井健二さんは、昭和30(1955)年の東映第2期ニューフェイスとして入社。高倉健さん、丘さとみさんは同期。2枚目役が多い中「警視庁物語」では刑事役だけでなく、憎々しげな悪役を好演。日活には昭和45(1970)年から。渡哲也さんの『大幹部 ケリをつけろ』(小澤啓一)や『新宿アウトローぶっ飛ばせ』(藤田敏八)などに出演。石原プロモーションの「大都会」三部作や「西部警察」シリーズにも折々に出演することになる。「太陽にほえろ!」には計5話出演している。
第37話「男のつぐない」(1973年)
第96話「ボスひとり行く」(1974年) - 大滝(竜神会組長)
第110話「走れ! 猟犬」(1974年) - 加治田登
第529話「山さんの危険な賭け」(1982年) - 響(響組組長)
第599話「殺人犯ラガー」(1984年) - 銀竜会組長
今回、結構脚本に無理があるが、石原裕次郎さんを孤高のヒーローとして、心理描写も含めて、映像で見せる斉藤光正監督の演出で、かつての日活映画の裕次郎さんのようなかっこいいボスが堪能できる。
廃ビルの窓から、当たりを見張る丹古母鬼馬二さん。若い時から、いかついイメージは変わらない。丹古母鬼馬二さんと舞台の仕事でご一緒したことがあるが、ご本人は極めて優しく、繊細な方だった。「見た目をは全然違うでしょう?」と笑っておられた。
それを下から見ているジーパン。物陰にいるゴリさん。丹古母さんが見ていると、なぜか古タイヤが自走している。「???」首を傾げる組員。その隙にジーパンは、廃ビルに外からよじ登る。
「藤堂さんよ」と大滝。「あんたとも長い付き合いだったが、どうやら俺の勝ちらしいな」「どうかな?」。
工場の屋上、ジーパンが見張りの組員・丹古母さんの背後から、指を鳴らしながら近づく、気合い一発!殴って、ハンカチを丸めて組員の口に押し込む。それを見てニヤリとするゴリさん、殿下、長さん、山さん。ブルース・リーチョップ、一撃で相手を伸すジーパン。
大滝「さあ、いよいよ二人とも消えてもらうかな?藤堂さんよ、あんた本当は華々しく部下を引き連れて乗り込んで来たかったんだろうが、だが、一人とはな、気の毒なもんだな」。ボスの顔を見る三田村、ボスは何かを待っている表情。
廃工場の中に入った山さんと長さん、音を立てないように注意しながらボスの元へ。
大滝は拳銃を出して「フン」と笑う。「一発で楽にしてやるからな」。そこへ山さん、見張りの組員を倒して入ってくる。その隙にボス、大滝の銃を床に叩きつける!暴発する拳銃。ボス、それを足で蹴って山さんにパス! 山さん拳銃を拾い上げる。「ゴリさん!」上からジーパンが飛び降りてくる。乱闘!乱闘!乱闘! 殿下も組員にパンチ、パンチ、パンチ!長さんも大活躍! ボスに殴りかかる組員を、片手で強烈なパンチを喰らわす。
逃げる大滝を追う山さん。大滝の目の前にジーパン。左方向からは殿下。右方向からはゴリさん、長さんが近づく。追い詰められる大滝。「大滝、これまでだな」とボス。「ゲームは終わった」。殿下に取りさえられ連行される大滝。「や、ご苦労さん」部下を労うボス。
「親父さん」
「いやぁ、藤堂さん」笑顔の三田村。
新幹線のホーム。ボスが、琴江一家を、そっと見送りに来ている。新幹線は発車。ボスはサングラスをかけてゆっくりと歩き出す。どこまでも裕次郎さんのカッコ良さで押した一本となっている。