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太陽にほえろ! 1974・第86話「勇気ある賭け」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第86話「勇気ある賭け」(1974.3.8 脚本・長野洋 監督・山本迪夫)

西山署長(平田昭彦)
永井久美(青木英美)
「箱根の人」(宇佐美淳)
国立衛生研究所博士(加賀邦男)
警察幹部(鈴木瑞穂)
上田(大木正司)
青木(高森玄)
港署捜査課課長(綾川香)
チンピラ(鈴木和夫)
三上定良
久本昇
家政婦(林靖子)

予告篇の小林恭治さんのナレーション
「天然痘の疑いのある犯人が、大都会の闇に消えた。麻薬捜査以外には許されない囮捜査。藤堂はあえてジーパンを潜入させる。そのジーパンは囚われの身に・・・」
ジーパン「ボスが俺を売った・・・」
ボス「ジーパン、耐えてくれ・・・。俺は賭ける、お前の生命を・・」
ナレーション「部下を死地にやる、藤堂の苦悩。次回「勇気ある賭け」にご期待ください」。

 今回はボス主役によるハードボイルド。頼もしき上司、優しい捜査一係長のイメージでお茶の間に親しまれてきた裕次郎さんが、久々にダーティでタフな面を見せてくれるハードな回。かつてボスが追い詰めながら、市民を射殺し逃亡した凶悪犯が戻ってくるが、天然痘に罹患している恐れがある。ジーパンを囮捜査に使うが、事件の黒幕が政財界を牛耳るフィクサーで。という金曜夜8時には似つかわしくないプロット。フィクサー役に宇佐美淳さん。裕次郎さんとは、石原プロモーション企画による日活『敗れざるもの』(1964年)で共演。二人の丁々発止の腹芸が楽しめる。

 埠頭。チンピラが仲間から「兄貴が帰ってくる」と聞き、大衆食堂で喜んでいる。その向かいのカウンターにいた一人の男が、店の外の電話ボックスへ。「そこに山村って旦那がいるはずなんだがな」と山さんに電話。情報屋である。

 七曲署捜査第一係。山さんが帰ってくる。神妙な面持ちでボスへ報告。「奴が帰ってきます・・・」。今回はのっけからハードボイルド風の演出で、細かいカットを重ねていく。「青木です」「青木トシオか・・・」とボスも、複雑な表情。一体、青木とは? 謎めいた滑り出し。

 ボスの回想シーン。アーケード街。逃げる青木(高森玄)に発砲するボス。黒のコートが決まっている。ボスは通行人を庇ったところで、青木に左腕を撃たれる。次々とう撃たれる市民。ハンドキャメラで「仁義なき戦い」のようなリアルな描写が続く。

 波止場へ向かうボスのクルマ。「考えてみてば、あの時、よくクビが繋がったもんだ」とボス。「お偉方にだって、もののわかった人間はいますからね」と山さん。「あれはボスの責任じゃない」「事情はどうあろうと、市民を巻き添えにした責任は消えんよ。少なくとも俺の胸の中では、永久に消えることはないだろう」。事件の禍根がボスを苛めている。山さん「・・・」

 警視庁港町警察署。ということは都内の波止場。品川埠頭あたりか。港町署捜査課課長(綾川香)も、青木が船で密入国するという情報を掴んでいるとボスに話す。いつ、どの船を使って戻ってくるのかがわからない。それがはっきりしないので港署としても弱っている。青木に気づかれてはいけないので、物々しい警戒体制も取れない。あとは、誰かを港の連中の中に潜入させて、確実は情報をキャッチするしかない。警察手帳をチラつかせての捜査には限界があるからと捜査課長。港署の刑事は顔が知れているので、暗に、七曲署の刑事を潜入させられないかと、促す。

ボス「じゃ、うちから出せをおっしゃるんですか?」
課長「公文書を書いて、正式にお願い、というわけにはいかんでしょうがね」
ボス「・・・(うなづく)」

 港町署の捜査課長を演じている綾川香さんは、俳優座の第3期生で、塚本信夫さん、穂積隆信さんと同期。「事件記者」(NHK・1958〜66年)では東京日報の”浅野のダンナ”こと浅野記者としてお茶の間に親しまれた。「太陽にほえろ!」では第38話「オシンコ刑事登場」(1973年)以来の出演となる。

 ジーパン、港で、5人のチンピラ相手に大暴れ。いつもの空手アクションが炸裂! 本気で相手を次々とノしていく。そこへパトカーのサイレン。警官に取り押さえられるジーパンと、冒頭に出てきた青木の子分のチンピラ(鈴木和夫)。言い合いをしながら、連行されていく。やがて港署から釈放される二人。チンピラはすっかりジーパンと仲良くなっている。見事、潜入に成功である。演ずる鈴木和夫さんは、東宝バイプレイヤーでアクション映画や若大将シリーズでもチンピラ役でお馴染み、『キングコングの逆襲』(1967年・本多猪四郎)では、ドクターフー(天本英世)の配下を演じている。

 七曲署・捜査一係。ゴリさん「ジーパンが?」、殿下「囮捜査ですか?」と驚きの表情。長さん「ボスも思い切ったことをやったもんだな」。山さんも渋い顔で「明らかに越権行為だな」「山さん、そんな言い方ないでしょう?」とゴリさん。「怒ったのか?」と山さん。ゴリさんは続ける「当たり前ですよ。青木は武器の密売人で、奴自身殺人犯です。その青木が戻ったっていうことは、何か大きな暴力事件が起こる前触れですよ。そいつを抑えるためなら、少しの越権行為ぐらいなんですか?とどこまでも熱くヒートアップ。

「しかし、下手すりゃですよ」
「下手すりゃボスのクビが飛ぶ・・・そうさせないのが、俺たちの役目だ」
と山さん。ゴリさんも納得する。「独立愚連隊シリーズ」みたいでいいね。

 赤提灯。ジーパンとチンピラ飲んでいる。ジーパンは「ハジキが一丁欲しいんだ」とチンピラに持ちかける。「俺、青木って野郎の話を聞いたんだけどよ。なんとかなんねぇか」。チンピラの顔色が変わる。「ダメダメ、奴は大物だよ。言ってみれば、卸専門だ。小売はヤンねえよ」。酒を飲み続ける二人。すっかり気を許しているチンピラ。「日南商事っての知ってるか?」とジーパンに話し始める。

 ボートレース場。駐車場に止めたボスの車で、ジーパンが「日南商事」について報告。見かけは小規模だが、裏ではかなり大掛かりな密輸をやっている組織で、港町署でも以前から目をつけている。その日南商事の荷を積んだ船が、明日、入港する。その船に青木が乗っている可能性が高い。船の名は「オリエンタル・パール号」である。

「ようし、わかった。ジーパン、お前、もう消えろ」
「え?」
「そこまでわかれば十分だ。あとは港町署に引き継ぐ」

 ジーパンは、もう少し潜入捜査をさせてほしいと頼む。青木がパール号に乗っていたとしても、いつどこで上陸するか、もう少し突っ込んで調べたい。ボスは心配する。これ以上深入りしてジーパンの身元がバレたら大変だ。「そんときは、ボスが助けに来てくれる」「は?」「でしょ?」。ジーパンは車から降りて消えてゆく。

 夜の埠頭。ボスが張り込んでいる。港町署捜査課課長がやってきて合流する。貨物船からボートが港に向かってくる。船から一人の男が降りてくる。ボスと捜査課長が近づくと、一台のクルマが突進してくる。そのクルマに男が乗る。そこへゴリさんのクルマが駆けつけ、追跡。港町署のパトカーに、課長も乗り込み後を追う。港でのカーチェイス。暗闇に響くパトカーのサイレン。ゴリさんとボス、そして捜査課長が、クルマに駆け寄ると、運転していたのはチンピラで、青木の姿はなかった。

 七曲署・署長室。西山署長「一体、なんていうことをしてくれたんだ!」とボスを叱っている。「管轄外の地域に許可もなく乗り込み、しかも、しかもだ、麻薬捜査以外には禁止されている囮捜査に、うちの柴田を使うとは、一体どういうわけだ!」。机を叩いてオカンムリの署長。

「すぐに柴田を引き上げろ!」
「できません!」

 今、ジーパンを引き上げたら、青木を追う手がかりが全くなくなる。国際的密輸組織の鍵を握る青木を、みすみす逃すわけにはいかない。確かに一理あるので、署長は口籠る。「しかしだな、私は知らん、いいな」。ジーパンを囮捜査に使ったことを承知していないと署長。ジーパンの身に何かが起きたとしても、その責任は自分一人のものだと言ってボス、立ち去る。捜査一係へボスが戻る。久美がボスに、港町署の捜査課から連絡があり、大至急「国立衛生試験所」へ来てほしいと伝言を伝える。

 国立衛生試験所。オリエンタル・パール号、乗組員が天然痘に罹患していることが判明。国立衛生研究所博士(加賀邦男)から説明を受けるボスと港署捜査課長。青木も感染している恐れがある。天然痘は種痘の普及により、文明国ではほとんど消滅した病気だが未開発の国ではまだ根強く残っていると博士が(かなり乱暴だが)説明。オンエアで見ていた小学4年生としては、本当に怖かった。種痘の効力はせいぜい2年、今、天然痘患者が市中を歩き回ると感染が拡大して大変なことになる。一旦発病すれば特効薬はないと博士。

 国立衛生研究所の博士を演じている加賀邦男さんは、戦前、昭和の初めには帝国キネマ、新興キネマから戦時中は大映で活躍。戦後は東映時代劇の悪役として数々の映画に出演したベテラン。三男は東映ピラニア軍団で活躍する志賀勝さん。

 本庁の捜査会議。警察幹部(鈴木瑞穂)がボスに、囮捜査に関する責任を云々している暇はない。これまでの情報を総合すると「青木トシオが罹病しているとして、発病するまでに三日間、つまり72時間の猶予がある。不幸中の幸というか、青木はおそらく一箇所に潜伏しているはずだから、一般の人間に害を及ぼす可能性は少ない。が、しかし、この72時間をフルに極秘捜査に使うのは、あまりにも危険が大きすぎる。従って君に与えられた時間は24時間だ。」24時間を経過したら本庁としては公開捜査に踏み切らざるおえない。しかし一般市民のパニックを考えると、24時間以内に青木を発見したい。そのためにはあらゆる手段を取って欲しい。「場合によっては・・・いいな。全て君の責任において事にあたる」。ここでも上層部の事なかれ主義である。しかしボスは「わかりました」と引き受ける。

 タイムリミットは24時間。果たして青木を捕まえることができるのか? 七曲署屋上で、ボスと山さん。ジーパンにも青木の行方は掴めていない。日南商事につながる線は、これまでも核心に迫ると、圧力がかかって捜査が有耶無耶になっている。必ず、裏に有力な黒幕がいるに違いない。「それでしたら調べはついています」と山さん。さすが、頼もしいね。

「箱根の人・・・です」。政財界を牛耳る黒幕の名前に驚くボス。

 「箱根の人」の邸宅。ボスは「どうしても会わせていただけませんか」と玄関で粘っている。お手伝いさん(林靖子)に「どうぞお引き取りください」と断られる。しかしボス、力づくでも通していただくと、強引に邸内に入る。そこへ「構わんからお通ししなさい」との声。「箱根の人」(宇佐美淳)である。「ミラーマン」の御手洗博士! 老人はこれから昼寝の時間だが、待ってもらえるなら「お話を伺おう」とボスに告げる。座敷に通され、待たされるボス。すでに心理戦が始まっている。

 やがて「お待たせしたな」と老人が現れる。「私に話とは?」「青木トシオをお引き渡しください」。「何者かな?」と、惚ける老人。「武器の密売人で、しかも殺人犯です」とキッパリ。「その人殺しが、私に関りがるという証拠でも持っているのか?」「日南商事があなたと関わり合いがあるという証拠では不足ですか?」とボス。「確かに日南の上田は、昔は私のところに出入りしていた男だが」。最近はつまらないことに手を出しすぎるので寄せ付けていない。「私はそういう生臭い話は嫌いだ。お引き取り願おうか?」しかしボスは微動だにしない。「私が帰れと言えば、どんな人間でも帰るもんだよ」。ボスは黙って老人を見つめる。「天然痘という病気をご存知ですか?」ボスは続ける。青木を放っておけば、東京はおろか、日本中に感染が広がるかも知れない。老人が真顔になる。「それでも私を追い返す気ですか?」。しばらくして老人は「話を聞こう」。

 ボス、ベッドに横たわっている。深夜2時45分。電話のベルが鳴る。箱根の老人である。「青木とかいう男は君に渡す」「間違いないな」「私は嘘は嫌いだ。正し上田の方にも条件があるそうだ」「ああ、わかっている日南商事には手をつけさせない」「それは当然のことだ。条件というのは別なことだ。最近、上田のところに犬が一匹紛れ込んだらしい。そのことを上田がひどく気にしてな、青木と引き換えにその犬を教えて欲しいということだ」。ジーパンのことである。「そんなものは知らん」「藤堂くん。私は嘘が嫌いだ、と言ったはずだ」。上田の条件はこうだ、青木が天然痘にかかっていない、もしくはかかっていたとしても軽症の場合は、その時点で、「犬」と交換する。殺人犯を釈放できるわけないとボス。では、この話はご破算だと御隠居。ボスは「待て、もし青木が発病して死んでしまったら、その犬はどうなる?」「そのときはそのときだ。問題は、君に賭けてみる度胸が歩かないかだ」「・・・」「藤堂くん、警察官の仕事とはなんだね? 一般市民の生命財産を守るのが義務じゃないのか?」「・・・」「それに放っておけば、一般市民に大きな犠牲が出ると言ったのは君じゃないのか?」「・・・」。

 青木の潜伏先。防護服を着た国立衛生試験所の職員とともに、移送車に載る青木。上田(大木正司)がジーパンの写真を手にしている。

 ドヤのベッドで寝ているジーパンを叩き起こす上田たち。「なんだよ、てめえら!」。地下室に連れてこられたジーパンが激しく抵抗する。「ガタガタ騒ぐんじゃないよ、七曲署のデカさん」。しらばっくれるジーパン。しかし上田は「お前は七曲署じゃ、ジーパンで通っているデカさ」「ふざけんじゃねえよ」と抵抗するジーパン。「教えてやろうか?お前を指したのは、藤堂っていう係長よ」。ショックで蒼ざめるジーパン。

 捜査第一係。ゴリさん、長さんが店屋物で昼ごはんを食べている。山さんが帰ってくる。久美はボスじゃないからがっかり。ボス宛に港町署の課長からまた電話があったと久美。用件は言わなかったという。そこへ殿下「ボス!」と入ってくるが、ボスはいない。殿下「どうもジーパンが誘拐されたらしいんです」。殿下、鼻声、風邪気味なのか?「つまり、拉致されたんですよ。身元がバレたんじゃ?」。山さんの顔色が変わる。

上 田のアジト。ボコボコにされるジーパン。子分たちにいいように殴られる。ハンドキャメラで迫力満点。よくゴールデンにこんな暴力シーンを流していたと思ってしまうほど。上田「それぐらいにしておけ、せっかくの人質を殺したら、元も子もなくなる」とやめさせる。監禁されるジーパン。身体の痛みより、心の痛みを感じている。ボスに裏切られたことが悔しい。情けない。なぜだ?「ボスが、ボスが俺を売った・・・」。

 埠頭、ボスがひとり歩いている。ジーパンの監禁場所の手がかりを聞き込んでいるのだ。

 日南商事。上田の手下たちがトラックに乗り込む。ボスの覆面パトカーが、そっと尾行する。

 土砂降りの倉庫。ボスが一人じっと佇んでいる。

 雨上がりのドヤ街。ボスが聞き込みをしたベッドハウスから出てくる。

 警察幹部(鈴木瑞穂)の声。「青木トシオが罹病しているとして、発病するまでに三日間、つまり72時間の猶予がある。」が、ボスの頭の中でリフレインされる。「あと1日か」。青木が発病していなければ、ジーパンを取り戻すことができる。祈るような思いのボス。

 警察幹部を演じた鈴木瑞穂さんは、劇団民藝設立メンバーとして新劇の巨人として活躍。裕次郎さんとは、石原プロモーション企画の日活『栄光への挑戦』(1966年)や『夜霧よ今夜も有難う』(1967年)、『黒部の太陽』(1968年)、『富士山頂』(1970年)などで共演。ここでもベテランの貫禄を見せてくれる。

 捜査一係。西山署長に詰め寄る殿下、ゴリさん、長さん。山さんは一人デスクに座っている。「ダメと言ったらダメだ」と西山署長。「だから、どうしてだめなんですか?」と食い下がる殿下。所轄を離れて捜査をすることはできないと署長。ゴリさんの怒りが爆発する。「所轄がなんですか! ジーパンは行方不明なんですよ」「柴田をそうさせたのは、藤堂の責任だよ」「それは青木トシオを逮捕するために・・・」と長さん。「青木はすでに逮捕した。事情があって今はマスコミにも伏せてあるが、青木は昨夜、逮捕した」。ボスがジーパンの身柄と引き換えに、相手に売ったと署長。そんなバカな!とゴリさんたち。署長はあくまでも「文句があるなら藤堂に言え!」と吐き捨てるように言う。

 ボスがジーパンを売ったのは「おそらく事実だろう」と山さん。「もし、ボスがジーパンを売ったとしたら、何かもっと深い訳が」と長さん。ゴリさんヒートアップして「たとえどんな訳があったとしても、それじゃジーパンが可哀想じゃないですか! あいつはボスを信じたからこそ、危険な罠に飛び込んだんですよ」。山さんも「確かに、その通りだ。だがな、ゴリさん。俺たちとボスの違うところはそこなんだ。この際、はっきり言おう。俺は、捜査や尋問に関してはボスに負けない自信がある。だが、たった一つだけ、どうしてもあの人に勝てないことがある。非情になる、と言うことだ。人の上に立つものは、時には冷酷、非情に、死地に追いやることがある。それが出来なければ、こんな危険な商売で、冷酷非情に人を使いこなすことはできん。ボスにはそれができる。自分の心をボロボロに傷つけながらも、あえてそれをやってのける強さを、あの人は持っているんだ」。

 ボス、一人でジーパンを探し歩いている。哀愁を帯びたトランペットが高鳴る。工場街、今は廃線となった引き込み線を歩く。ボスの孤独。チンピラがぶつかり、ボスに絡む。「なんとか挨拶したらどうなんだよ!」ボスのやるせない怒り。チンピラを殴るが、札を掴ませて「すまなかったな」と去っていく。日活アクションのアウトローのようだ。埠頭を歩くボス。もうタバコもない。

 捜査第一係。西山署長が入ってくる。「藤堂くんはまだか?」「はい」と久美。「みんなはどうした?」「休暇です。みなさん休暇をお取りになってドライブにお出かけになりました」と休暇届を署長に渡す久美。怒り心頭の西山署長。「あのバカたれどもが!」と出ていく。

 埠頭に向けてクルマを飛ばす殿下。チンピラを殴り飛ばすゴリさん。港湾労働者に聞き込みをする長さん。中央病院の隔離病棟にいる青木のところへ無理やり押しかけ、警護の警官に「責任は俺が持つ」と病棟に入る山さん。「しばらくだな、青木。お前は忘れても、俺は忘れてはおらんぞ」「下手に近づくと、お前さんも医者の厄介、ってことになるぜ」「そいつはご親切に、と言いたいところだが、お前と心中する覚悟はできているんだよ」。日南商事の隠し倉庫を教えろと山さん。

 日南商事の隠し倉庫。上田がジーパンの様子を見にくる。放心状態のジーパン。ボスに裏切られたことが悲しくて、やりきれない。上田が声をかけると狂犬のように「うるせえ!」とジーパン。なぜひと想いにやらないのか?部下に問われて、上田は「奴は保険さ」と答える。

 隔離病棟。青木は「知らんもんは知らん!」とシラを切っている。「そのデカは俺の大事な身代わりだからな」「何も知らんようだな」と山さん。「貴様が天然痘にかかってようと、いまいと、釈放されることなんてあり得ないんだ」「てめえ、仲間のデカを見殺しにするつもりかい?」「見殺しにしたくないからこそ、こうして来ているんだ」と激昂する山さん。「貴様の助かる道はただ一つ、人質になっているデカの居場所を教えて、情状酌量を願うことだけだ!」。

 ボス、自販機の酒をあおる。もういっぱい、と言う時に長さんがその手を止める。「長さん」。埠頭に佇むボスと長さん。「俺のやり方は間違ってたんだろうか? 市民の安全を守るために、ジーパンを売ったのは間違いだったのか?」「いえ、間違ってはいませんよ。山さんから天然痘の話を聞いた時、あたしらも納得がいったんです。それしか道がなかったんだとね」「青木が天然痘にかかっているかどうか、明日の朝にはわかる。それまでジーパンを探し出さないと、奴の生命が危ないんだ」「・・・」「奴は俺を信頼して囮になった。俺はそいつを裏切ったんだ。あいつにもし何かがおこったら・・・」「ボス!」「長さん、俺、本当のことを言うと、身も知らない何百何千の生命よりも、たった一つの、ジーパンの生命の方が大事なんだよ!」「それを言ってはいけませんよ」「しかしな・・・」。

「ボス! 私はご覧の通り、グズで薄鈍な男ですが、あなたよりも警官のキャリアは長い、その長さに免じて言わせて貰えば、捜査は諦めた時が負けですよ。諦めるのはまだ早い。明日の朝までは、まだタップリ時間があるじゃないですか。第一、ジーパンみたいな奴がそう簡単に殺されてたまりますか!」。長さん、素晴らしい!

 箱根の老人、電話で「そうだ、警察には青木を釈放する意思はない」。上田が何かを言っているが「それはお前たちが考えることだ。私は知っていることを伝えただけだ」。

 中央病院。山さんと青木の根比べは続いている。「俺は本当に知らんのだ」「じゃ、箱根の人は知ってると思うか?」うなづく青木。「多分な・・・」。看護婦入ってきて「お薬の時間です」。不審に思った山さん。なんと彼女は拳銃で青木を射殺しようとしていた! 山さん飛びかかるが、撃たれてしまう。続いて青木も撃たれて即死。負傷しながらも、看護婦に飛びかかる山さん。警護の警官に取り押さえられる看護婦。瀕死の山さん、絶叫する。「ボス、ボスに伝えてくれ!」。

 箱根の老人の邸宅。ガードしているヤクザ風体の男を殴り飛ばすボス。その気迫と貫禄に気圧されて、道を開ける男たち。「どけ!」ダーティな裕次郎さん、かっこいいね! ズボンのポケットに手を入れたまま、階段を上がる。やさぐれた感じがたまらない。後に続く男たちを、振り返って人睨みするだけで立ち止まらせる。ボスは、御隠居の部屋へ。

「青木は天然痘にはかかっていなかった。だが奴は死んだ」
「ほう」
「その顔はとっくに知っている、と言う顔だな」
「人間、歳をとると、人の生き死ににも、大して驚かなくなるんでな」

ボス、拳銃を向けて
「自分自身の生き死にはどうだ?」
「気でも狂ったのか?」
「或いはな。俺の部下はどうした? 生きているのか? もう殺したのか? どっちなんだ?」

 拳銃を御隠居の頭に向けるボス。
「10秒だけ待つ・・・5秒、4秒、3秒、2秒」
「もういい、もういい! 無茶な男だ」

御隠居は受話器をあげる。

 墓地。黒塗りのクルマが走る。後部座席には、箱根の老人とボス。クルマが止まり、運転手、ボス、老人が降りる。ボスは老人に拳銃を向けている。
「藤堂!デカを返してやる」と向こうから、上田がジーパンに拳銃を向けながら現れる。

「そっちも先生の手を離せ」
「いいだろう」

 ジーパンと老人がゆっくり歩き出す。すれ違ったタイミングで、陰から男が老人を助け出す。「ジーパンふせろ!」ボスが上田を撃つ!その手下を撃つ! ボスの背後から運転手が撃つ。「ボス!」ジーパンが反撃する。銃撃戦! そこへ殿下、ゴリさん、長さんが覆面パトカーで到着。ボスの鮮やかな身のこなし、コートの裏地の赤がイカす! スキンヘッドの男を殴り飛ばすボス!「ジーパン、あとは頼んだぞ!」ボスが駆け出す。しかし、老人の姿は見えない。ゴリさん、殿下が、ジーパンの元へ走る。

 七曲署・署長室。ボス「アリバイ?」。うなづく西山署長。「老人は昨日、都内のホテルで開かれたアジア倶楽部の朝食会に出席している」「そんなバカな・・・」。西山署長は胸ポケットから書類を取り出し「これを見たまえ」。朝食会の出席メンバーのリストである。お歴々が老人のアリバイを証明していると言うのだ。「いいな、藤堂くん。箱根の老人は、昨日はもちろん、今まで一度も君に会ったことはない。一度もだ」。ボスは胸ポケットから辞表を取り出し、テーブルの上に置く。「それは受け取れんよ」「しかし今度の事件の責任は、全て私がかぶるという約束です」。署長は受け取らずに、ある辞令をボスに渡す。

 山さんの病室。その辞令を見て、山さん大笑い。「いやしかし、辞令は受け取れんが、その代わり減俸だとは、あの署長らしいやり方ですな」「まあ、署長は署長なりに一生懸命、庇ってくれたんだろう」「しかし、箱根の人としては、見事なアリバイ工作ですな」「ああ、完璧だ。でも俺は諦めんぞ・・・いや、長さんがいいこと言ってくれたぞ、捜査は諦めたら負けだってな。ごく当たり前のことだが、うっかり忘れかけてたよ」。

 新宿の高層ビル街。ボスが歩いている。箱根の老人のくるまが止まる。「君、いいところで会った。一言だけ言っておこう。君が私に対して取った数々の無礼な行動は、一切忘れることにしよう。ただし、警察の中で出世しようという望みは、もはや持たない方がいい」「老人、せいぜい長生きしてくださいよ」手錠を取り出し「こいつをあんたの汚い手にぶち込むまではね」。老人のクルマが発進する。タバコを吐き出すボス。そこへジーパンが駆けてくる。「ボス!」「どうした?何か言いたいんじゃないのか?」「ボス、今夜一杯、やりませんか?」「酒か?悪くないな」「俺、奢りますよ」「お前が?」「だってボス、これ(減俸)でしょ?署内じゃもう評判ですよ。だから、俺、奢りますよ。安月給の人に払わせたら気の毒ですからね」「そいつはすまねえな」。二人歩いていく。

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