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娯楽映画研究所ダイアリー2021 5月10日(月)〜5月16日(日)

5月10日(月)『満員電車』(1952年・大映)『お父さんはお人好し 家に五男七女あり』(1958年・東宝)

 今宵の娯楽映画研究所シアターは、市川崑監督「満員電車」(1952年・大映)。東京一の大学を卒業し、難関突破して、ラクダビール尼崎工場に赴任した川口浩さん。非人間的な管理社会のなかで、埋没していく自己と折り合いをつけていく。正確無比の時計職人で代議士の父・笠智衆さんから、発狂した決めつけられる母・杉村春子さん。上昇志向の塊の精神科医の卵・川崎敬三さん…。カリカチュアされた登場人物の血の通わない、しかも歯車が少し狂っているキャラの右往左往。市川崑版「モダンタイムス」であり「自由を我等に」かと思いきや…のブラック・コメディ。

 続いては、深夜の「おちょやん」東宝版、青柳信雄監督「お父さんはお人好し 家に五男七女あり」(1958年)。路線をもとに戻してのラジオドラマの忠実な映画化。アチャコさんと浪花千栄子さんの藤本家は果物屋で、冬場は焼き芋株式会社(笑) 豊子(環三千世)は、同僚のオカチン(石田茂樹)に惚れられているが、東京でお見合いをした富岡(太刀川寛)に夢中。浜三(山田彰)はガールフレンドの手塚眉子(安西郷子)の縁談話にやきもき。斎藤寅次郎監督が極めたナンセンスは影をひそめ、観客が期待する予定調和のペーソスとハートウォーミングな展開。新井一の脚本は、微苦笑の積み重ねで、ラジオドラマの片鱗が体感出来る人情喜劇。逸脱しない面白さ!

5月11日(火)『あなたと私の合言葉 さようなら今日は』(1959年・大映)『お父さんはお人好し 花嫁善哉』(1958年・東宝)

 今宵の娯楽映画研究所シアターは、市川崑監督「あなたと私の合言葉 さようなら今日は」(1959年・大映)。市川崑流小津安二郎映画。構図やセリフの言い回し、婚期を迎えた娘・若尾文子さんと男やもめの父・佐分利信さんの関係などなど、無機質なタッチでドライな小津映画風、微苦笑ホームドラマが展開。佐分利信さんが、職安の帰りに、娘たちへの土産を求める銀座6丁目の不二家! 明治屋の隣にもあったのです! 京マチ子さんは、若尾さんの大学の先輩で大阪の料理屋の女将、野添ひとみさんは若尾さんの妹でスチュワーデス!

小津安二郎デザインの日本映画監督協会のマグカップも特別出演

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 続いては、深夜の「おちょやん」最終回。青柳信雄監督「お父さんはお人好し 花嫁善哉」(1958年・宝塚映画)。東宝系での第二作、映画版としては通算七作目。長沖一の原作を新井一が脚色。夏は果物屋、冬は焼き芋屋を営む、藤本阿茶太郎(花菱アチャコ)とおちえ(浪花千栄子)の三男・浜三(山田彰)が金持ちの令嬢・眉子(安西郷子)と結婚。眉子の母(藤間紫)がなにかと干渉、おちえはお嫁さんに気を使う日々。嫁姑のちょっとした行き違い、おたがいの善意のすれ違いをペーソスのなかに描く。この緩さが昭和30年代の日本人に愛されたホームドラマなのだとしみじみ^_^ 前作と二本撮りによるSP作品。大映版と併せて、是非ソフト化を切望!

5月12日(水)『十代の誘惑』(1953年・大映)『坊ちゃんの逆襲』(1956年・新東宝)

 今宵の娯楽映画研究所シアターは、久松静児監督「十代の誘惑」(1953年・大映)。東宝の「思春期」チームが大映に遠征。江原達怡さん、青山京子さんが、若尾文子さん、山本富士子さんと共演。みんなフレッシュ、みんな可愛らしくてキラキラしている。支那そば屋でバイトしながら貧しくとも健気に生きる若尾さん、小説家志望の青山さん、お金持ちの御曹司・江原さん、療養中の南田洋子さん、さまざな悩みと大人たちの偏見と誤解にめげずに前進していく、彼らの青春がここにある。山本富士子さんの綺麗なこと!

 続きましては、近江俊郎監督研究。高島忠夫さんのシリーズ第1作「坊ちゃんの逆襲」(1956年・新東宝)。北海道から舞い戻った子爵の坊ぼん・高島忠夫さんが、古川ロッパさん経営の富士ウヰスキーに、身分を隠して入社。悪徳部長・藤山竜一さんの策謀で、身売りされた不幸な娘・池内淳子さんを、生き別れの社長令嬢に仕立てる。部長の奸計で倉庫荒らしは出るわ、インチキバイヤー・ジョージ・ルイカーと秘書・藤村有弘さんが現れるわ、の大騒動。坊屋三郎さん、若水ヤエ子さん、柳亭痴楽師匠、コロムビア・トップ・ライト、オブちゃんこと藤島桓夫さんなど、あの顔この顔。川内康範センセ原作・脚本、近江俊郎センセ脚本・監督、ユルユルのサラリーマン・アチャラカ・サスペンス。これが近江クオリティ!

大団円には、近江センセ歌唱による「坊ちゃん青空をゆく」が朗々と歌われ、脳ミソがゆるゆると開放されます^_^

5月13日(木)『ノマドランド』(2020年・米)『噂の女』(1954年・大映)『坊ちゃんの主将』(1957年・新東宝)

千葉県まで遠征して、久しぶりにシネコンへ。
オスカー受賞後にどう感じるかと、クロエ・ジャオ「ノマドランド」。
老境に差し掛かっているヒロインの自由と孤独。最愛の夫への想いを抱いての放浪生活は、やはり晩年の寅さんと重なる。
寂しいけど、幸せ。沢山の喜びを知っているけど孤独。
国立公園のトイレで髪を切るフランシス・マクドーマンドの首元に、寅さんをみる。ホームレスではなく、ハウスレスの物語。

今宵の娯楽映画研究所シアターは、溝口健二監督「噂の女」(1954年・大映)。京都は島原で置屋兼お茶屋「井筒屋」を、女手一つで切り盛りしてきた田中絹代さん。家の稼業を憎み、失恋して自殺未遂して東京から戻ってきた娘・久我美子さん。大谷友右衛門さんの若い医者に入れ上げてた母親だが、男の気持ちは娘に移って… 久我美子さんが美しく、田中絹代さんがまた見事! おちょやん時代の経験を生かして、浪花千栄子さんが素晴らしい! しかし大谷友右衛門さんの優男っぷり、いい加減にしろ!と突っ込みたくなる程ヒドい男。ラストの久我さんの若女将っぷりに惚れ惚れ。それにつけても、太夫(こったい)さんは哀しく…

 続きましては、近江俊郎監督のシリーズ第3作「坊ちゃんの主将」(1957年・新東宝)。日本橋の老舗鰹節問屋の息子・高島忠夫さんは、日新大学ボート部のキャプテンで、頼まれたらイヤとは言えない性格。その父・柳家金語楼さんは女房に先立たれ、いまでは浮世風呂通い。坊ちゃんにはチャッカリ屋の妹・川田孝子さんがいる。マドンナ・三ツ矢歌子さんが、発明家の父・古川ロッパさんのためにした借金10万円ために、あの手この手で店の金を持ち出そうとする^_^

あれれ? 若大将シリーズと瓜二つの展開^_^ 脚本は近江センセ。つまり、こちらも松竹の「大学の若旦那」や落語ネタを取り入れた、プレ若大将ということになる。
ダンスパーティーの券を売りつけたり、ダンパで坊ちゃんが得意の歌「結婚しましょう」を歌ったり^_^ どこまでも若大将ライク。
しかも、近江センセ、歌手としてしっかり特別出演。ゆるいけど面白い、アチャラカ青春カレッジ喜劇。
坊屋三郎さんは、年季の入った落第生。柳亭痴楽師匠ももちろん出演!
坊ちゃん勘当のピンチ、誤解からマドンナと行き違いになり、いよいよ大事なボートの大学選手権の当日を迎える。
ほぼ若大将映画。四年前に作られてるけど。クライマックス、妹がマドンナの誤解を解いて、マドンナがボート選手権会場へタクシーを飛ばす。「金太郎(坊ちゃんの名前)さーん!」の声援で勇気100倍。
近江センセの脚本は場当たり的で、気持ちの入ってないセリフばかりだけど、ここまで若大将映画っぽいと、面白いのなんの。

5月14日(金)『坊ちゃん天国』(1958年・新東宝)

 今宵の娯楽映画研究所シアターは、近江俊郎監督のシリーズ第4作「坊ちゃん天国」(1958年・新東宝)。近江監督の別な意味での非凡が炸裂!お話なんているものか!とばかりに、シーンの羅列のゆるゆるアチャラカ喜劇。脚本はもちろん近江センセ。前作の青春映画テイストは何処へ。冒頭の無意味な宮古ロケ。軽音楽部の坊ちゃん(高島忠夫)のガールフレンド(久保菜穂子)の父の湯留川博士(三木のり平)開発の男性ホルモン剤「ミサイルX」をめぐっての大騒動。高島忠夫さんの母は清川虹子さん。妹は大空真弓さん。みんな居るだけの役割。 のり平さん、並木一路さん、古川ロッパさん、それぞれのパーソナリティ頼みの、コントの羅烈で時間が過ぎてゆく。藤村有弘さんの異国語教授のデタラメ外国語のおかしさ! もちろん特別ゲストは近江センセ! ここまで脱映画な映画は珍しい。場当たり的な展開、こころのないセリフ。ラストシーンが待ちどおしい! 世紀の大珍作!

5月15日(土)『東京ド真ン中』(1974年・松竹)『坊ぼん罷り通る』(1958年・新東宝)

 今宵の娯楽映画研究所シアターは、野村芳太郎監督、山田洋次脚本「東京ド真ン中」(1974年・松竹)。「砂の器」撮影の合間に、作られた下町人情喜劇。不器用な高校の美術教師・宍戸錠さんが下宿する四谷の下町の商店街にある骨董屋。おいちゃんは加東大介さん、おばちゃんは杉山とく子さん。錠さんはラーメン屋を切り盛りする倍賞千恵子さんに一目惚れ。近所の風呂屋・太宰久雄さん、床屋の桜井センリさん、従業員の佐藤蛾次郎さん! 川又昂さんのキャメラ、森田郷平さんの美術は、野村組だけど、まるで山田洋次組のよう! 森田健作さんの左官が惚れる渋谷のお嬢さん・榊原るみさんのテーマは「歌子のテーマ」のバリエーション^_^ 音楽はもちろん山本直純さん。ああ、もう一つの寅さんの世界! だけど何か物足りないと思っていたら… 物語もたけなわのクライマックスに、森田健作さんの浅草のおじさんが、滔々と語りだしますよ、アリアを! 登場シーンの音楽は、「柴又の、粋な人」のテーマ! 渥美清さんが満を持しての特別出演!寅さんファン必見! 

この作品、5月末から7月末にかけてのラピュタ阿佐ヶ谷「蔵出し!松竹レアもの祭」で7月28日から31日にかけて上映します!

 続きましては、深夜のゆるゆる映画。近江俊郎監督、高島忠夫主演「坊ぼん罷り通る」(1958年・新東宝)。唯一DVD化されてるだけあって、フツーに楽しめる。つまり、これまでで、一番上出来の作品。今回、坊ぼんは関西から、父が面倒見た化粧品会社の社長・由利徹さんの会社に入社。サラリーマン喜劇となっている。由利徹さんの娘・高倉みゆきさん(監督の兄の愛人にあたる^_^)、次女・大空真弓さんがダブルマドンナ。会社の主力商品化を、天知茂さんの悪徳ブローカーに横流しする課長・並木一路さん。坊屋三郎さんは勤続三十年、万年ヒラの営業課員。脱線トリオの南利明さんは大学の先生、八波むと志さんのアンマのキャラは三年後の東宝「社長道中記」(1961年)と全く同じキャラ! 近江俊郎センセ、すごいじゃん! 八波むと志さんの持ちネタかもしれないけど。  高島忠夫さんのキャラは、調子が良くて無責任男の先取り。さらに天知茂さんの悪役、多羅尾伴内みたいに変装して、クライマックスに正体を明かすシーンがまんま。 近江センセ会心の演出。脈絡はあるし、起承転結もまとも、近江センセ、人間、やればできるじゃん!

5月16日(日)『ザ・テキサス・レンジャーズ』(2019年)『坊ちゃんとワンマン親爺』(1959年・富士映画)

 今宵はNetflix ジョン・リー・ハンコック監督「ザ・テキサス・レンジャーズ」(2019年)。1934年、全米を震撼させ、不景気の庶民のヒーローともなった「俺たちに明日はない」で知られるボニー&クライドを検挙するために、現役復帰した二人のテキサス・レンジャーズの闘いを描くノワール。ケビン・コスナーとウディ・ハレルソンが老体に鞭を打って、ボニー&クライドを探し、待ち伏せして射殺するまでを、腰の据わった演習で見せてくれる。どうしても、ウォレン・ベイティとフェイ・ダナウェイを思い出してしまうが、これは捜査チームの視点で描いているので「俺たちに明日はない」のアナザーサイドとして楽しめ、また観たくなる作り方をしている。マルチストーリーとしても、味わえるし、なかなかの作品でありました。

 今宵の娯楽映画研究所シアターは、近江俊郎監督によるシリーズ第8作にて最終作「坊ちゃんとワンマン親爺」(1959年・富士映画)。脱力度は前作比60%UP。今回は岩手から飛行機の運転手^_^になった息子・高島忠夫さんを訪ねて上京してきたワンマン親爺・由利徹さんがメイン。大学は出たけれど、操縦士ではなく二子遊園地の飛行塔の整理係をしている坊ちゃん、その彼女に久保菜穂子さん。アパートには江木俊夫くんもいて。という設定だが、今回も行き当たりばったり、コントの羅列のようなカックン映画。最高なのは、人見明さんの俳優志望の横柄な男。近江監督ならぬ大宮監督をよく知っているけど、向こうは知らない、というギャグがおかしい。南利明さん、佐山俊二さんが助演。主題歌は高島忠夫さんでなく、由利徹さんの「カックンルンバ」! 基本ストーリーは「大学は出たけれど」なんだけど、脱線した枝葉が本流になり、もはや坊ちゃんシリーズではなくなってしまって、チンチロリンのカックン!

由利徹さんのワンマン親爺は、滝田ゆうさんのカックン親父のモデル? いずれも1959年の作品!


よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。