見出し画像

太陽にほえろ! 1974・第92話「シンデレラ刑事」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第92話「シンデレラ刑事」(1974.4.19 脚本・田波靖男、四十物光男 監督・竹林進)

永井久美(青木英美)
高畠信一(佐々木剛)
野崎康江(西朱実)
野崎良子(井岡文世)
野崎俊一(石垣恵三郎)
若尾義昭
記者(小倉雄三)
山本純一
記者(永谷悟一)
伊藤健
高畠社長(多々良純)

予告編
犯人の声「明日、野崎刑事を殺るからな」
ナレーション「突然、野崎刑事に転がり込んだ巨額の遺産。それと期を一にして、この殺人予告。七曲署署員は、関係する全ての相続人の利害関係を洗うとともに、昼夜、野崎刑事の身辺を護衛した。しかしその間にも、この固い守りを潜って、大きな危険が迫っていた。そして、ついに・・・。次回「シンデレラ刑事」にご期待ください」

 今回は下川辰平さん演じる長さんこと、野崎太郎刑事主役回。23年前、交番の巡査だった頃、長さんが無銭飲食の男を助けたことで、20億円の遺産を受け取ることになる。タイトルの「シンデレラ刑事」は、ジーパンがそんな長さんに命名。ゲストに多々良純さん、「仮面ライダー」一文字隼人こと佐々木剛さん。クライマックス、長さんがダイナマイトを搭載したラジコン飛行機に襲撃される。アルフレッド・ヒッチコック監督『北北西に進路をとれ』(1959年)のケーリー・グラントよろしく、長さんを危機また危機が襲う。東宝娯楽映画を手がけてきた田波靖男さんらしい、メリハリのあるシナリオ。

 小田急線が走る鉄橋。多摩川の河川敷で、張り込みを続ける長さん・野崎太郎。ホームレスの男がクズを拾いながら歩いてくる。長さん、タバコをすいながら、その様子を見ている。そこへ一台のクルマ。ゴリさんの覆面車である。その隙に、ホームレスは長さんが見張っている小屋に、時限爆弾を仕掛ける。

ゴリさん「すいません、目覚ましが鳴ったんですけど、つい寝坊しちゃって」
長さん「目覚ましがわりに女房をもらうんだな」

 麻薬の取引現場を抑えるために、かれこれ一週間、二人は交代で張り込んでいる。そのことを愚痴るゴリさんとバトンタッチして、長さんは覆面車に向かう。ゴリさん、大あくびして、ふと気づく。「あ、クルマのキーだ。長さん!」と追いかけ、小屋から離れ、手渡す。その瞬間、小屋が大爆発! ゴリさん、破片で額から血を流す。

 捜査第一係。山さんが入ってきて「二人とも命拾いしたぞ」。鑑識によれば仕掛けられたのは、タイマー付きダイナマイト3本。相当の破壊力だ。空恐ろしくなる長さんとゴリさん。殿下とジーパンがたくさんの調書を抱えて戻ってくる。長さんとゴリさんが関係した事件の資料である。なぜ二人が狙われたのか?

ボス「二人ともあの中から、自分を恨んでそうな奴を抜きだしてくれ」

 早速取り掛かることにするが、ゴリさんが解決した事件はほんの少し、ほとんどが長さん関連の資料だった。「驚いたことに、長さんの実績たるや、大したもんですよ」とジーパン。ベテランの長さんはそれほど、恨まれている可能性があった。照れる長さん「30年近く勤めていたら、誰だって」と頭をかく。ゴリさんと長さん以外は、現場の聞き込みと、爆発後に見掛けられた浮浪者探しを開始することに。「それに、ダイナマイトの出所をあたる必要があるな」とボス。

丸亀砕石。ダイナマイトを扱っている。そこへ山さんが聞き込みに。
井の頭線の高架下。ジーパン(今回からブルージーンジャケットに)がホームレスに聞き込み。電柱に「下北沢オデオン座前」とある。懐かしいねぇ。

捜査一係。ゴリさん、長さんが、それぞれ過去の調書をあたっている。

多摩川河川敷。ボート小屋の残骸の近くで、子供たちが野球をしている。殿下が子供に聞き込みをする。

 捜査第一係。ボスを囲んでゴリさん、長さん、殿下、山さんが会議。そこへジーパンが「ボス!手がかり、ありです」と入ってくる。本庁の人事課に長さんの前歴を問い合わせてきた男がいた。警官時代のことを詳しく聞き出していった。「こうなると、狙われているのは、やはり、長さんじゃないですかね」とジーパン。「しかし、人に恨まれるような覚えはないが」と長さん。「長さんに心当たりはなくとも、相手によっちゃわからんぞ」と山さん。今日はここで解散。ボスは万一の用心に拳銃携帯の許可をする。しかし長さん「見慣れないものをウチのものが見たら動揺しますから」と遠慮する。

ジーパン「大丈夫ですかね」
ボス「ジーパン、お前心配なら、長さんのボディガードになってやれ」

 夜道を自宅の団地へと歩く長さん。その後を、周囲を見渡しながらついていくボディガード。ジーパンは長さんの団地の下で張り込み。タバコに火をつけようとするがライターがつかない。すると上からマッチが投げ入れられる。「お前、尾行下手だな」と笑う長さん。「すぐわかったぞ、コツを教えてやるから、上がってこい」「ただしな、今朝のことはウチの連中には内緒だぞ」と念を押す長さん。「子供たちが喜ぶぞ」。前にジーパンは第81話「おやじバンザイ」で、長さんの息子・俊一(石垣恵三郎)と心を通わせたことがあったからだ。

 ジーパンを連れて家に帰ってくる長さん。妻・康江(西朱実)も、娘・良子(井岡文世)もジーパンを歓迎する。俊一は4月から高校生、せっかくの相撲部キャプテンも、また褌担ぎに逆戻りとボヤく。あれ? 俊一くんて相撲部だったけ? 「高校入学、おめでとう」とジーパン。

 良子「柴田さん、お燗の方がよかったかしら」「気が利くようになっただろ?」成長した娘を自慢する長さん。和やかなひとときである。「黙ってても酒が、ピッと出てくるなんて、長さんの仕込みがいい」とジーパンも煽てる。冷酒を飲もうとした瞬間。窓の外から「パン!」と破裂音。慌てて外を見るジーパンに、俊一が「クルマのバックファイアだよ」。この団地に、ポンコツを乗りましている「カーキチ」がいて、いつもこの時間に帰ってくるという。

長さん「ジーパン、ま、飲め」
良子「刑事さんも大変ね、いつも、そうやって神経を張り詰めてなきゃいけないの?」
長さん「おいおいおい、他人事みたいにいうなよ、父さんだって刑事だぞ」
良子「お父さんはどう見ても、神経を使っているようには、見えないわ」
俊一「父さんに捕まるような泥棒は、よっぽど間抜けだな」

 嬉しそうな長さん。しかしジーパンは心配で顔が曇る。「ジーパン、おい飲めよ」明るく振る舞う長さん。何か面白い話題はないかと、良子が、遺産相続をめぐって揉めている高畑親子のことをテレビでやっていたと話す。「父親は道楽者の息子に遺産を渡すより、会社を解散して、昔、恩を受けたことのあるお巡りさんに譲りたいって言い出したんですって」と良子。「お父さん、心当たりない? 昔はお巡りさんだったんでしょう?」「ないね、そういう話には縁がないんだよ」と長さん。

捜査第一係。新聞記者たちが大挙して押しかけてくる。
記者「野崎太郎さんですね」
記者「23年前、確か堀川の交番で巡査をしていましたね?」
記者「その時、高畠英明氏を、無銭飲食のカドで逮捕したでしょう?」

いきなり、そんなこと言われても、長さんは戸惑うばかり。

長さん「どういうことなんですか?」
記者「最近、財産の処分をめぐって息子と揉めている、高畠英明氏のことはご存知ですね?」
記者「その高畠氏が探している、恩人の巡査というのが、野崎さん、あんたなんですよ!」
長さん「え? 冗談だろ?」
記者「いや、間違いありません。高畠さんが事業を処分したうち、20億円が野崎さんに贈られるんです。一つご感想を!」

 そこへボスが山さんと一緒に戻ってくる。「よし、インタビューはそれまでだ。部外者は出ていってくれ!」とボス。記者を追い出す殿下とゴリさん。呆然と立ち尽くす長さん。久美は「すごいじゃない、長さん!」「シンデレラ刑事さん」とジーパン。「一夜明ければ億万長者だ。なんか夢のような話ですね」「よせよ、これは悪質ないたずらだ。みんなして人をからかおうっていうのか?」と長さん。「20億円っていうと一万円札で何枚だろうな?」とゴリさん。このあたり、田波靖男さんの脚本らしい展開。殿下は「バカらしくって、刑事なんかやってられませんね」と微笑む。しかし、当の長さんは戸惑うばかり。その長さんはボスに、高畠がどういうつもりなのか、聞いて来たいと許可をもらう。それでもゴリさん「でっかい土産お願いしますよ」ともう、長さんが億万長者になったかのように、気持ちが大きくなっている。「ゴリ。護衛兼ねて一緒に行ってやれ」とボス。

ボス「何か匂わないか?山さん」
山さん「ええ、長さんを狙う動機には、この遺産問題が絡んでいるとみていいでしょうな」
ジーパン「ってことは、長さんに財産が行くことで、誰か割りを食うやつがいるってことですね」
殿下「まず、一番に考えられるのは、父親とそのことで仲違いをしている、息子ですね?」

そう決め込むのは早いと山さん。ボスは他に相続人の資格を持つものがいるかもしれない。殿下が相続人について調べることに。

長さんとゴリさんの覆面パトカー。後ろから黒いジャンプスーツを着た男がバイクで尾行している。

高畠産業株式会社のビル。4階には事務所。5階には高畠商会。場所は入船橋のたもと新富町界隈、長さんと山さんがビルに入る。

「そうそう、確かに君だ。あん時のお巡りさんだ」と高畠社長(多々良純)が感激している。「早速ですが、なぜ私なんかに20億なんて途方もない金をくれる気になったんですか?」「見当がつかんだろうなぁ、無理もない」。裸一貫から今日の財を築いた高畠社長。人を信用しなかったから成功した。人は裏切るが金は裏切らない。金を頼りに生きてきた。人を信用しないという自分の信念は間違っているとは思わない。一度だけ、その信念がぐらついたことがある。23年前、無銭飲食で捕まった自分のために「あんたが金を払い、腹一杯飯を食わせてくれた時だ」と高畠社長。そこでやっと、その時のことを長さんが思い出した。「それで恩返しに、長さん、いや野崎さんに遺産を譲ることにしたんですか?」とゴリさん。息子の信一がどうにもならないぐうたらな奴なので「そんな息子に譲るくらいなら、ワシの築いた会社です。解散して、金に換え、老後の費用を差し引いた残りは、恩を受けた野崎さんに、と思いまして」「はあ」と困惑気味の長さん。

高畠社長を演じた多々良純さんは、戦前、新築地劇団に参加、同期に殿山泰司さん、千秋実さんがいる。その後、苦楽座に入るも再度応召され、苦楽座は「桜隊」と改称され1945(昭和20)年8月6日広島原爆投下に遭い、丸山貞夫、園井恵子らが亡くなった。戦後は、劇団民藝に参加し、舞台、映画のバイプレイヤーとして活躍。「太陽にほえろ!」では、第15話「拳銃とトランペット」(1972年)の情報屋、本作、第562話「ブルース刑事登場!」(1983年)のホームレス役で三度出演している。

そこへ「そんな勝手は許されませんよ」と高畠信一(佐々木剛)が入ってくる。「仮面ライダー」2号、一文字隼人だ!「法律上、私は、立派にあなたの息子ですからね。財産の半分は、黙ってても私のものです。勝手に処分することはできませんよ」「ワシの会社だ。何をしようと勝手じゃないか!」「そうはいきませんよ。第一、大勢の社員の生活はどうなるんですか?」あくまでもバカなことをするなら父を禁治産者にする訴えを起こすと信一はキッパリいう。こうして親子喧嘩が続く。

 何者かが、長さんとゴリさんの覆面車のボンネットを開けて時限爆弾を仕掛ける。バイクの男である。何も知らない、長さんとゴリさんがクルマに乗り込み、ゴリさんエンジンをかけて発進する。渋滞のなか、ゴリさん「ちょっとスタンド寄ってきます」と都心のスタンドへ。「いらっしゃいませ、満タンですか?」。

ゴリさん「20億か?ヒャー、人間良いことはしておくもんだな。ね、長さん」
長さん「(笑って)どうもまだよくわからんよ。どうなるか」

 カメラがボンネットにパンする。「わからんよ、どうなるか」のセリフとリンクしてドキドキする場面。スタンドの青年「オイル見ておきましょう」とボンネットを開ける。「なんですか?これ?変なものくっついていますよ」と不審物を発見。ゴリさんと長さん、時限爆弾に驚く。「長さん!」「とにかく人のいないところへ運ぶんだ」。クルマを発進させ、走る、走る、走る!

「あと2分です。晴海の埋立地に向けて急行します」と長さん。「よしわかった。全責任は俺がとる。急げ!」とボス。しかし渋滞で遅々として進まない。「長さん、あと何分?」「あと1分ちょっとだ」。ゴリさん必死に走って、晴海埠頭へ向かう。時計の音が響く。ようやく埋立地へ。長さんが時間を告げてからオンタイムで展開、ギリギリのところで二人、クルマから飛び降りる。大爆発! 「太陽にほえろ!」では珍しいクルマの爆破シーン。当時、小学5年生になったばかりの僕は大興奮した。間一髪、なんとか助かった二人。安堵するが・・・

 捜査第一係。ボス「当然ダイナマイトを使った手口からして、ボート小屋の時と、犯人は同じだろうな」爆弾装置も手慣れた感じだから、ずぶの素人の犯行ではないと山さん。プロの殺し屋が誰かは分からないが、雇った奴の見当はつく、とゴリさん。「高畠信一だと言いたいのかい?」と長さん。ゴリさんは「他に考えようがないじゃないですか」というが、山さんは「信一には殺し屋を雇う動機は十分にありますが、それがかえってどうも・・・いくら道楽息子とはいえ、そんなことをすれば、自分が一番疑われることは知っているだろう。父親に対して禁治産の訴えを起こすような男が、そんなバカなことをするでしょうかね?」と疑問を抱いている。ボスも「確かにそうだ。それに放っといたって、法律上、財産の半分は自分のものになる。殿下、他に相続人はいないのか?」。

 殿下がの調べによると、23年前、ある女が、産まれた子を高畠の子と主張して、認知を迫ったことがある。高畠商会で事務員をしていた山崎美代という女だった。しかし高畠は「自分の子供ではない」と拒否。なので母子ともに相続人の資格はない。殿下は念の為、その女に会いにくことに。山さんは、ダイナマイトの線から実行犯を洗い出すことに。ゴリさんは高畠信一をマーク、ジーパンは長さんの護衛をすることに。

 高畠信一が恋人とクルマで楽しく談笑している。尾行するゴリさんの覆面車。「道楽息子め」とゴリさん。

 町工場。殿下「あなたが山崎美代さんの息子さんですか?」と工員に話を聞いている。「母なら四年前に亡くなりました」「そうですか」「母のことで何か?」「美代さんは以前、高畠商会って会社にお勤めだったんですよね」「さあ、知りません。僕の生まれる前のことなので。それじゃお父さんのことについて」「母は今でいう未婚の母だったんです。父については、何も話てくれなかったなぁ」。

 山の飯場。山さんが現場監督らしき人に「先日、ダイナマイトを盗まれたと届を出したそうですね。誰が盗んだか、分かりませんか?」「さあ、こんな飯場、作業中に空になることがありますから、誰が入ったかは、ちょっと・・・」。

 井の頭線下北沢駅のホーム。長さんが電車を待っている。ジーパンが遠くで張り込んでいる。サングラスの男が長さんに近づく。男、胸に手を入れる。ジーパン、駆け寄るが、男「火を貸してください」とタバコを取り出しただけ。

 代沢の路地裏を歩く長さん。後ろからゆっくりとジーパンがついていく。横から女性が現れて、長さんの後をつけるように歩く。警戒するジーパン。女性、ショルダーバッグから何かを取り出す。慌ててジーパン、駆け寄る。女性キーを取り出し、駐車してあるクルマへ。

 夕方、帰宅する長さん、ジーパンに「上がっていくか?」「いえ、護衛ですからね、表で見張ってます」。長さん振り向いて、マッチをジーパンに手渡す。玄関で、良子と俊一が出迎える。「父さん、やったね!」「今、週刊誌の記者さんたちが帰ったばっかりなの」と妻・康江。電話はなりっぱなしで、親類の連中が駆けつけるは、見ず知らずの人から借金の申込みまであったという。テーブルの上にはご馳走が並んでいる。

 良子は「もうこれからケチケチしたって仕方ないじゃないの!」と嬉しそうな顔。みんなでお祝いしようと7千円のシャンパンまで用意してある。長さんは冷酒で満足なのだ。「そんなものは返してきなさい!」と長さん。俊一は「良いじゃないか、もう貧乏人根性は捨てなよ。ウチは億万長者になったんだぜ」と浮かれている。

康江「ところで、ねえあなた。20億円の話って、本当でしょうか?」
長さん「うん、それは俺にもまだよく分からんのだよ」

 捜査一係。山さんがボスに報告。長さんを狙ったダイナマイトは飯場から盗み出されたものだが、犯人は分からない。盗まれたダイナマイトは約10本。なので犯人はまだ残りのダイナマイトを持っている可能性がある。「やっかいなことになってきたな」とボス。そこへ殿下が戻ってきて、山崎美代の息子に会ったことを報告。息子は父親のことを知らなかったこと。近所の評判もよく、模型飛行機が趣味のおとなしい青年であると。それを聞いたゴリさん「やっぱり本命は息子の信一ですよ」と確信する。だけど、視聴者は予告編とオープニングを見ているから、模型飛行機が長さんを襲撃するのを知っているので「ゴリさん、それ違う!」とツッコミを入れたくなる。「きっと彼(信一)が殺し屋を雇って、やらせているんです」。

「しかし、そう断定するにはやっぱり、証拠がいるな」とあくまでも慎重な山さん。ゴリさんのミスリードと山さんの慎重さ。このわかりやすい構図が、東宝娯楽映画を手がけてきた田波靖男さんらしさでもある。ボスは、殺し屋を雇っているなら、いつかは連絡を取るだろう。信一のマークを徹底することに。

 高畠邸の前で、覆面車で張り込むゴリさん。セレブ風の彼女をエスコートしてクルマに乗り込むオシャレな信一。ゴリさんの尾行が始まる。しかし、後ろから例のバイクの男もつけてくる。

 高級レストランで、彼女と談笑をする信一。ドラ息子だが、人が良さそうな感じ。店内BGMは「愛のスカイライン」のインスト版。店に高畠信一あての電話がかかってくるが、高畠はすでに店を出ていた。ゴリさんが高畠を名乗って電話に出る。

「あ、高畠さんかい? 俺、あんたに雇われた殺し屋だよ。明日こそ、野崎刑事を殺すからな。約束の金は用意しておけよ」。実はレストランの店内、物陰から男が電話をしていた。そうとは知らずにゴリさん(心の声で)「くそ、やっぱりそうだったのか!」

捜査第一係、ゴリさんが報告している。

ボス「なに? 明日長さんをやるって?」
ゴリさん「信一が殺し屋を雇っていることは確かです」
ボス「長さん、明日は一歩も外に出るんじゃないぞ」
長さん「しかし・・・」
ボス「命令だ。明日、長さんを全員で護衛して、相手が仕掛けてくるのを待つんだ」

 野崎宅。良子と俊一が、別荘地のパンフレットを見ている。すっかり遺産を当て込んでいる。そこへ「帰ったぞ」と長さんが帰宅。良子、別荘地は、軽井沢、伊豆、どっちがいい?と無邪気に父に訊く。「いっそ両方買ったら?」と俊一。「飯は?腹へった」「それが・・・」と妻・康江。良子は「お父さん、億万長者よ。お母さんに楽させなくっちゃ、今夜は店屋物にしたの、何がいい?」。長さんの怒りが爆発する「いい加減にしないか!」。

長さんの心の声「俺は明日殺されるかもしれないのに、一体お前たちは・・・」

 翌朝、長さん宅にボスから電話。「犯人はどんな手で来るか分からんぞ、しかし、万全の手を打ってある。機動隊も団地の近くで待機しているから、山さんから連絡があれば、すぐ出動できる。いいか長さん、落ち着くんだ。山さん達を信じるんだ」「はい、わかりました。大丈夫です」電話を切る長さんの心は重い。

 苦悩する夫に、妻・康江が心配するが、長さん、すぐに明るい顔をして「なんでもない」と笑う。かなりムリしているね。「(心の声)ボスの気持ちに応えるためにも、まず・・・」。

団地の外。山さんが覆面車の中から長さんの部屋を見守っている。別な方向から、ゴリさん、殿下、ジーパンが覆面車から様子を見ている。

長さん宅、再び電話。
「家族のものを巻き添いにしたくなかったら、外に出てくるんだな」
近くの公衆電話から、黒いジャンプスーツの男、山崎美代の息子である。
「君は何者だ? (小声で)仕事の話なら署の方で聞こう」と長さん。
「出てこなければ、お宅の中でダイナマイトが爆発することになりますよ。嘘だと思ったら、ベランダから外を観ててごらん」

 長さん、ベランダに出て、周囲を見渡す。この頃の団地のテレビアンテは各家で建てていたので、屋上に無造作に乱立している。
「ボス、長さんがベランダに出て、下の方を気にしています」と山さんが無線で報告。
「多分犯人から指示があったんだ。長さんから目を離すんじゃないぞ」とボス。
ゴリさんに連絡する山さん。「こっちは異常なしです」とゴリさん。

長さん、空を見上げるとラジコン機が飛んでくる。
「模型飛行機・・・ダイナマイト・・・」と長さんの心の声。
「家族のものを巻き添いにしたくなければ、外に出てくるんだな」と犯人の声がリフレイン。「出てこなければ、お宅の中でダイナマイトが爆発することになりますよ」。

「ダイナマイト!」。長さん、上着を手に慌てて外に出ていく。

山さん「長さんが外へ出ました」とボスに報告。ゆっくりと尾行する山さん。ゴリさんたちも尾行開始する。長さん、葉桜の並木を歩く。その上空をラジコン機が飛んでいる。ラジコン機が長さんに近づく。河川敷の土手にやってくる長さん。空を見上げる。上空を不気味に旋回し続けるラジコン機。

山さんラジコン機に気づく。「ボス、模型飛行機がさっきから長さんの上を旋回しているんですが、もしかしたら・・・」「そいつだ!おそらくそいつにダイナマイトが仕掛けられている。それに必ずラジコン操作をしている奴がいるはずだ。そいつを探すんだ。急いでくれ」とボス。山さんはゴリさんたちに連絡。ジーパン、殿下、とともに操縦者=犯人を探す。「よし、屋上だ」ゴリさん、殿下、ジーパン、団地の各棟の屋上を探しながら走る。

 河川敷を走る長さん。追うラジコン機。カット割も含めてアルフレッド・ヒッチコック監督『北北西に進路をとれ』(1959年)のケーリー・グラントを襲うセスナ機のシークエンスを意識している。昔、脚本の田波靖男さんに「長さんをケイリー・グラントにしたらどうだろうと思って、書いた」と伺ったことがある。竹林進監督の演出もかなりヒッチコックに寄せている。それまで勤勉実直、あまりアクションとは無縁のイメージのある下川辰平さんが、走る、転ぶ、よろける、逃げるの芝居を続ける。この『北北西に進路をとれ』の飛行機サスペンスは、中平康監督『アラブの嵐』(1961年)でも、裕次郎さんが飛行機に狙われるシークエンスで再現されている。

長さん

また、河川敷でダイナマイトを仕掛けたラジコン機が襲ってくる、というシチュエーションは、劇場版『名探偵コナン 時計じかけの摩天楼』(1997年・こだま兼嗣)でも使われている。大野克夫さんの音楽だけに、この「シンデレラ刑事」を連想した。しかし、このシーンの下川辰平さん、文字通りの体当たり演技。ロングショットをズームしているだけに、相当頑張っているのがよくわかる。逃げている途中で転倒、スローモーションとなり、音楽がストップ。ラジコン機のエンジンの音だけが聞こえる演出もいい。足を挫いて立ち上がれない長さん。絶体絶命。

次のカットでボスの心配そうな顔。ここで音楽「追跡のテーマ」が鳴る。団地の中、走る山さん! 走るゴリさん! 走るジーパン! 走る殿下!

ラジコン機から必死に逃げる長さん。このカットはかなりヒッチコック!

挫いた足を引きずりながら、追い詰められる長さん。そこへ山さん! 物陰に隠れてラジコン機から身をかわす長さん。

ジーパン、団地の屋上に昇り、周囲を見渡すが手がかりはない。
ゴリさん、団地の屋上に昇る。

山さんは拳銃でラジコン機を撃墜しようと狙うが失敗。長さん、必死に逃げまどう。ボスの心配そうな顔。団地のなか走るジーパン、走るゴリさん、走る殿下。

逃げる長さん。執拗に迫るラジコン機。拳銃を構える山さん。

ジーパン、再び別な棟の屋上へ。そこで向かいの棟の屋上でリモコンを操縦している犯人を発見! 急いで下に降りるジーパン。ゴリさん、殿下も合流して向かいの棟の屋上へ駆け上がる。

河川敷では、山さんが数発撃つが命中せず、苦戦していたが、最後の一発で見事にラジコン機に命中。ダイナマイトは空中で大爆破!
空を見上げて、安堵する長さん。その場にしゃがみ込む。息も荒く、相当疲弊している。頑張ったね!

山さん、ホッとしたのも束の間、さらに別な飛行機が飛んでくる。必死に逃げる長さん。拳銃を撃つ山さん。ピンチ!

団地の屋上。ゴリさん、ジーパン、殿下が操縦機を握る犯人と乱闘。
ラジコン機は迷走、地上に激突して大爆発!

河川敷にうずくまる長さん。
拳銃をしまい、サングラスを外す山さん。
「長さん、大丈夫か?」
「大丈夫、いやぁ、参った参った」

そこへ妻・康江、娘・良子、息子・俊一が駆けつける。
康江「先ほど藤堂さんからお電話があって、あなた、あたし達何も知らなかったものですから」
山さん「あなた方家族と、団地の方々の危険を避けて、お父さんは一人で・・・」

良子、俊一「お父さん」と長さんに抱きつく。「お父さん、よかったわ。本当によかったわね」「なんだ、二人とも泣きべそかいたりして」「お父さん、ごめんなさい」「お金のために、こんな風になるより、貧乏でも無事な方がいいわ」。笑顔で頷く長さん。無言で頷く山さん。

捜査第一係。取調べを終えた山さんがボスに報告。「いやあ、スラスラとはきましてね。高畠さんに認知を拒否された山崎美代の息子が、財産の横取りを企んだというわけです」。

殿下「長さんを殺して、その罪を信一に被せれば、財産を継ぐ人間は誰もいなくなる」
ボス「なるほどね、そこで認知の訴えを起こして、独り占めをしようと考えた」
ゴリさん「それじゃ、あの、昨日信一にかかってきた電話は?」
山さん「信一に疑いをかけさせるための罠だ。わざとゴリさんが電話に出るようなタイミングを図ってかけたんだ」
ジーパン「しかし、こうなると問題の20億円は・・・どうなるんすかね?」
ボス「あ?」

高畑商会社長室。高畠社長、信一、長さんが話をしている。
高畠「今度のことでは、ワシも物事を自分本位に考えすぎたようだ。ま、こいつもぐうたらのようですが、あれだけ私に楯突く根性があったと、見直したわけで」
信一「父がお約束した20億円は、現金ではなく、会社の株で受け取ってはいただけないでしょうか?」
長さん「いえいえ、とんでもない。私は、金も株も要りません。持ち慣れない大金が入ったりすると、どうも、具合が悪いんですよ」
高畠「金があると、具合が悪いんですか?」
長さん「ええ、ですからそのことは、もうなかったことに・・・」
高畠「ありがとう野崎さん」。親子で深々と頭を下げる。
長さん「その代わり、私からもお願いしたいことがあります。生意気なことを言うようですが、これからは親子仲良くやってください。できれば、間違いを犯した弟さんともね」

 捜査第一係。長さんが帰ってくる。上機嫌で水前寺清子さんの「いっぽんどっこの歌」を歌っている。ジーパン、ゴリさん、擦り手で「お帰りなさい!」。殿下「長さん、20億円いつ入るんですか?」。ジーパン「お祝いなんかしなくっちゃいけないですね」。ゴリさん「みんなで長さん助けたってこと、忘れないでくださいね」。久美「やっぱり刑事やめるんですか?」。

長さん「とんでもない。何もかも今まで通りですよ」
ゴリさん「すると?」
長さん「刑事やめたら食えなくなるだろ? 20億円は断ってきました」
一同「え!」
ジーパン「かっこいいなぁ」
長さん「あんなものはない方がいいよ」
殿下「長さん、そんなことして惜しくないですか?」
長さん「実を言うとな、そりゃ惜しいさ。20億円あってみろよ、ボスに怒鳴られながら、勤めなくて済むからな(ボスの顔を見て)やっぱり、残念だったかな?」
ボス「お!だいぶ話が違うじゃないか?」

ゴリさんの発案で、事件解決記念と長さんの残念会で飲みに行くことに。長さんの提案で、ひとり千円予算で、ゴリさんが幹事に指名される。ゴリさん「20億が千円ですよ!」。一同大笑い。


よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。