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石塚晴子の引退が教えてくれたこと。

先日のMDC兵庫でTWOLAPSから1人のアスリートが競技に終止符を打ちました。コーチングを始めてからまだそうは長くないのですが、TWOLAPS TC の選手が一つのピリオドをうつという決断をして、まだこの先も続く新しい人生を歩もうとしている姿をみていて考えさせられることあったので文章で残そうと思いました。

石塚晴子の凄さ。

僕が、TWOLAPSに携わるようになって晴子ちゃん(石塚選手)のトレーニングの指導をするようになり1年も経っていませんでしたが、とても濃密な時間を与えてくれました。僕が今まで出会ってきたアスリートの中でも、晴子ちゃんは自分の感覚を言葉にする能力が長けています。陸上(トラック)選手は道具を使わずに身一つでする競技ということもあり自分の身体との対話をより色濃く強いられる競技です。晴子ちゃんは自分の体調や身体のコンディションの良し悪しを察知する能力が異様に高く、それを文字に起こして言葉で伝えられる。これは、ただ漠然と陸上の練習をしているだけは習得できるスキルではありません。日々、自分の身体を自分の尺度でモニターしておき、主観的に自分を俯瞰しているからこそできているのです。

📷: 岩國さん

晴子ちゃんはTWOLAPSでの唯一のスプリンターということもあり、基本的に練習は1人で行っておりました。優れた言語化能力と繊細な感覚を持っているので、自分で自分をコーチングすることを可能にし、2022年に入ってからは自分で考えて練習を計画していました。僕は、主にフィジカルの部分や中・長期的な計画(ピリオダイゼーション)を一緒に模索して計画するサポートを担ってました。晴子ちゃんとのウエイトの時間は、まるでベテランのコーチと話しているのかなと錯覚するくらい高度な会話(トレーニングについて)を交えながらの時間でした。その中でも僕が驚いたのは、トレーニングを考える上で力ー速度関係という、パワー発揮を向上させる上で大切なコンセプトがあるのですが、その概念を知らない晴子ちゃんが、普段の練習の坂道で高くスキップをするような練習をしているときに突然、今、強さが高さに変換せれたんです!と言いだしたのです。要は、トレーニングで鍛えてきた自分の筋力的な強さ速さに変わりそれにより跳躍高が高くなった出来事を、身体で体現して、言葉に置き換えたのです。トレーニングの一つの概念を教えずとも自分のものにしてしまう。このとき僕は、昔、晴子ちゃんのような選手がいて、それをちゃんと言葉にして、形式的に概念として定着させたことで、力ー速度関係という概念も生まれたのかなと想像させられたものでした。出来事としてはこれだけではないですが、晴子ちゃんのちゃんと言葉にできるアスリートとしての資質は貴重だと思います。

晴子ちゃんのセカンドキャリア

そんな晴子ちゃんとレストランでランチをしていると、晴子ちゃんから競技に区切りをつけると伝えられました。引退する理由の一つとして、陸上以外のやりたいことがいくつかあってそれを頑張っていきたい。というのですが、そのやりたいことを笑顔を挟みながら嬉しそうに語っている晴子ちゃんの表情はキラキラしていました。聞いていて、目の前にいるのは競技を生活の中心として長い期間続けてきたにもかかわらず、引退を間近にしているアスリートに見えなかったのです。時を同じくして、この時期にちょうどスポーツ界に多大に影響を与えたテニスのセレーナ・ウィリアムスも引退を発表し、その会見で、Retirement is Evolution (引退は進化である)と言っていたことを思いだしました。続けて、セレーナもテニス以外にやりたいことがみつかったと残していました。時期的にも同じくらいだったので、そんなセレーナともどこか重なり、晴子ちゃんは違う手段で自分の成長や進化を追求していくだなと確信しました。

引退は進化。

MDC兵庫400m。 📷:ちさこ

少し話はずれますが、僕は引退が少しネガティブなことに捉えられることの原因として、日本語の引退という漢字にあると思います。【引退 】ー 競技から一線を いて退競技をやめたらあたかも後退するかのような響きです。ですが、晴子ちゃんは、陸上を選手として最前線から一線を引くかもしれませんが、この先陸上という競技において一線を引いて退くどころか、むしろ貢献できるエンパワーメントがあり、アスリートとしてではなく、違う形で陸上競技の価値を生みだしてくれるでしょう。

📷:ちさこ

アスリートのセカンドキャリアが時折問題視されていますが、競技すること以外にも競技に貢献できる選択肢を晴子ちゃんは示してくれたように思います。きっと、この先も陸上を通さずとも活躍するんだろうなと。ただ、それは競技中に晴子ちゃんが単身でドイツやアメリカに武者修行をしに行ったり、他にもさまざまな苦しい経験や辛い思いをすることを経ても、1人で行動を起こし続け、陸上を通して成長をすることから逃げなかった晴子ちゃんだからこそだと思っています。真剣に競技に向き合い、どうしたら速くなれるかを試行錯誤し、自分なりに思考し、さらには競技を通して何を成し遂げたいかがはっきりしてたからこそ、引退するということを、これから歩んでいく人生に向かって前進する糧にでき進化していくのだなと学びました。 

石塚選手と横田コーチ。 📷:ちさこ

そして、晴子ちゃんが歩んできた道がいばらでありながらもトラックから目を背けずに貪欲に足を速くするという至極シンプルでかつ難しいことを追求し続け、最後にMDC兵庫の引退セレモニーでいった【誰にも真似できない13年間だった】という言葉に重みが増すのだなと。

📷: EKIDEN NEWSさん

晴子ちゃんは、これまでも、そしてこれからも Game Changer 代表です。

📷:新田さん

僕も、晴子ちゃんに教えていたようで、教えられていた 1人です。

和田俊明
TWOLAPS TC


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