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ゲームが課す制限。それを乗り越えるということ。「OneShot」レビュー

2021年ゲームレビュー 18 
5.2時間。真エンドを見るまで。そう、このゲームには真エンドがある。
以下ネタバレ。

ストーリー

猫のような目と耳を持つ子供「ニコ」を導いて世界に太陽を取り戻す物語。

本作でまず驚くのは、ゲームがプレイヤーに語りかけてくるところ。それも本名を使って。

ゲームはプレイヤーの存在を認識しており、ニコの冒険が詰まるごとにヒントや鍵を差し出してくれる。またニコもプレイヤーを神だと思っていて、さらにプレイヤーは選択肢を通してニコと会話をすることができる。旅を続けるにつれてニコから全幅の信頼を寄せられるようになるのは、若干の危うさも感じるほど。

ニコに「神様はどこにいるの?」と聞かれて

ニコは太陽が消えてしまった世界に召喚され、それを元に戻す「救世主」と呼ばれる。具体的にはニコの抱える電球を「塔」の最上部に設置すればいい。しかし物語をすすめるうち、太陽を元に戻せばニコが元の世界に戻れなくなってしまうことが判明する。ニコは「自分がどうするべきかは神様が決めてほしい」と言って、その選択はプレイヤーの手に委ねられる。

ニコは家に帰りたいと思っているが、同時に電球が壊れる夢を「悪夢」だと捉えている

本作のメタ的な要素はクリア後にも及び、クリア後はゲームを起動できなくなってしまう。選択は一度きり(OneShot)ということだ。しかしクリア後に、とあるフォルダを見ると「作者」からの新しい手紙が入っていて、それに従うと2周目を始めることができる。2周目は、なぜか最初から持っている「作者」の本を駆使しながら世界の真実を知り、ニコは仲間と共に本物の救世主になって、自分の世界に帰ってゆく。

……筆者は真エンドは決して蛇足ではないと思っている。確かに本作は最後の選択を「一度きり」だと約束し、それを自分で反故にしている。それではあの塔の上での葛藤が台無しではないか、と怒る向きもあるだろう。実際、筆者も最初はそう考えていた。

しかし本作の実質は「OneShot」ではない。それは、世界が課す制限を仲間や「作者」と共に乗り越え、知ったことかと二の矢を放つことにある。

このストーリーをさらに上位から眺めれば、ループもののバリエーションであることに気づく。使い古されたギミックではあるものの、それを具体的なシミュレーション世界にまとめ上げ、説得力を持たせたのが本作の素晴らしさだろう。

ゲーム

基本的には、必要なものを必要な場所に届けるお使いゲーム。アイテムを組み合わせて使うという要素もあるが難易度は高くなく、パソコンの機能を使った謎解きにも具体的なヒントをもらえるので、マップを丁寧に探索すればクリアできるだろう。なお戦闘は無い。

ゲームの外を扱うときは必ずヒントがある

本作はゲームから提示される課題を解くよりも、終末世界の雰囲気を楽しむ方がメインだ。その終末感は見事で、人工的な灯りで何とか凌いでいる人類の「後のなさ」に心臓がキュッとする。画面は終始薄暗く、その分ニコの持つ太陽の灯りが際立っている。

灯りの色はエリアごとに異なり、最初の「不毛の地」は青色、次の「峡谷」は緑色、人々の集まる「避難所」は赤色と、エリアごとに雰囲気が統一されているのは好ましい工夫だと思う。

そして「世界を救う光」は黄色または金色で表される。寒々とした蛍光色の中、この黄色い光が本当に暖かい。

本作では豊富なスチルも魅力。ゲームとしてのレベルは高い。



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