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黒い水の喜悦と呪い 「東方剛欲異聞」レビュー

2021年ゲームレビュー 16 
10.7時間。ノーマルで全キャラクリアするまで。
鬼形獣の続編のような東方小数点作品。待望の饕餮登場には喜んだが、ゲームとしてはピントがずれているような印象も受ける。
以下ネタバレ。

ストーリー

ある日地下から黒い水が湧き出してきたので、その源を調査しに行く物語。

黒い水は大方の予想通り石油だった。それを地上に湧き出させたのは幻想郷の賢者の一人である隠岐奈。その動機は、地獄で見つかった石油を管理する大義名分を得ることだった。

しかし現在石油を独占しているのは剛欲同盟の同盟長である「饕餮 尤魔」。

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饕餮は石油を摂取するほど強力になり、実質無敵なので倒せない。

そこで饕餮を倒し切れる者としてフランドールに白羽の矢が立ち、修業によって流水を克服したフランが、石油の海の真の姿である血の池地獄で饕餮を撃破する、というのが大筋のストーリーだ。

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隠岐奈は石油の危険性を幻想郷にアピールし、饕餮(話のわかる姿)と共同で石油を管理することになった。

つまり霊夢や魔理沙は異変の解決にあまり貢献しておらず、いつもどおり隠岐奈の掌で踊っている。

ゲーム

本作はゲームとして何が売りなのか、どうもピンとこない。

アクションゲームとしてはグレイズとコンボに注目が向けられる。

しかし本作は、グレイズで敵の弾幕を華麗に避けて水を集めてスペルカードで攻撃、というようなデザインをしている訳ではない。なぜならグレイズは隙がけっこう大きく、グレイズで弾幕に突っ込むと高確率で被弾するからだ。本作はアクションゲームなので近接攻撃が多く、被弾したくないからと言ってボスから離れるような行動を取ると敵にダメージが入らない。このタイミングを初見で見切るのは難しいところがある。

またグレイズのキャンセルが基本できないのがきつい。グレイズすると必ず一定の距離をすいーっと移動してしまうので、逆に隙をさらしてしまう。特に最初に選ぶ人が多いであろう霊夢で顕著。

さいわい攻撃にもグレイズが付随するので、それをたのみに積極的に仕掛けるプレイスタイルの方が安定する。1周目はこれに気づいていなかったため、敵の体力が残りわずかにもかかわらず、敵が弾幕を放ってくるまで何もせず立っているような場面が多かった。

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それではコンボをつなげていくのがゲームの主なのかと言うと、これも何だか違うような気がする。

敵の攻撃にはグレイズで避けられない物理攻撃も案外多く、敵に張り付いているとすぐに被弾してしまう。ならダウンした敵は攻撃し放題なのかと言うと、これも攻撃していると自キャラの位置がどんどんズレていくので難しい。勢い、コンボなどは考えず強い攻撃をひたすら繰り返すのが通常プレイでは一番効率が良いということになる。神奈子なんて↓Bだけでクリア可能。

グレイズ・コンボともに、そういうゲームなのだと割り切れば良いのだが、スピードの速いアクションゲームで思ったように動かせないというのは致命的ではないだろうか。初期キャラの霊夢より、あとで開放される依神姉妹やフランの方が素直に操作できるというのも、何だかなあという気がする。

水を集めてスペルカードを撃つシステムも、そんなことが出来るようになったストーリー上の説明が無いので、必然性がよくわからない。最後にフランが血の池地獄で血を吸い上げて必殺技を放つ、という流れには説得力があるけど……。

ビジュアル

一枚絵、ゲーム画面ともにビジュアルのレベルが高い。

特に饕餮のビジュアルが良い。ギザ歯に羊角にエルフ耳、饕餮紋の衣装に長物スプーンという、かわいいと大物感とちんまりと尊大さが同居しているデザインだけでなく、ドット絵もいろいろな動きと表情があって魅力的。

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<同盟長のびっくりした顔かわいい>

そのほか久侘歌がホイッスルを持って再登場したのも嬉しかった。

依神姉妹が白い服を着てあからさまに石油王のコスプレをしているのも良き。

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<お姉ちゃんのボディラインがたまらん!>

絵が墨絵っぽく描かれているのは、墨もまた「黒い水」だからだろう。

石油の一滴は血の一滴

石油が呪われた液体だという主張には一面において説得力がある。

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20世紀以降、人類は石油を巡って大小の争いを重ねてきた。

2021年11月現在においても、世界中が石油の逼迫に悩まされている。

まさに「石油の一滴は血の一滴」であり、石油の海の正体が血の池地獄だと明かされる展開には膝を打った。

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