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現実とリンクしたローグライト弾幕シューティング! 「東方虹龍洞」レビュー

2021年ゲームレビュー 7 

24.6時間。実績コンプまで。

2021年5月に頒布された東方Projectの整数作品。ランダムに出現するアビリティを選択して自機を強化していくローグライト要素を備えながら、やっぱりいつもの東方を遊ぶことができる。東方を継続して遊べるのは本当に嬉しい。

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1. ストーリー

(1) 本編の内容
「アビリティカード」という、持っていると幻想郷の人間や妖怪たちの能力を使えるようになるアイテムが出回り始めたので、その調査に向かう物語。アビリティカードは暴力での受け渡しはできず、欲しければ金銭による取引をしなければならない、またアビリティカードは一度に一枚しか受け渡すことができないというような制限があり、霊夢たち主人公は妖怪の山でカードの売人を1人ずつ探し(倒し)ながら黒幕へと近づいていく。

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3面ボスの「駒草山女」が守っていた「虹龍洞」に入ると、そこは無酸素エリアだった。アビリティカードの秘密を知っていそうな陰陽玉職人「玉造魅須丸」を倒したものの、人の身では酸素のない世界に耐えきれず、魅須丸から妖怪の山の頂に向かうよう指示される。

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山頂で待っていたのは、アビリティカードの製作者である大天狗の「飯綱丸 龍(めぐむ)」と従者の管狐「菅牧典」。龍は儲けるため、虹龍洞から掘り出した「龍珠」を使ってアビリティカードを作り、金銭を介して流通させることにしたのだと言う。アビリティカードの流通を止めたい霊夢たちは流れで龍を倒すが、アビリティカードの売買は個々人が勝手にやっていることなので龍がコントロールできるものではない。止めたいのなら、さらに上空の黒幕に会うようにと言われる。

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月虹の下には市場の神である「天弓千亦」がいた。もともと消えかけていた弱い神だったが、龍によるアビリティカード流通計画に参加したことで復活。虹がかかるなど特別な時に市を立てることができる神である千亦は、主人公もアビリティカードを売りに来たのだと考え取引を持ちかける。しかし主人公たちの目的は千亦に取引を止めさせることなので、千亦からは「市場破壊の賊」とみなされ、最後の戦闘が始まるのだった。

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……紺珠伝からこっち、4面から話が60度別の方向に行く話が多かったが、今回はついに4面から引き返すという180度ターンを達成した。タイトルは虹龍洞なのに、虹龍洞の先に進むわけじゃないんだ……。虹龍洞にはアイテム(EX用のアビリティカード)を手に入れてから来てね、というのはRPG的にも思える。

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(2) 暗示するもの
本作は作品やストーリーだけを見て作者が伝えたいことを読み取るのは非常に難しい。だが2020年2月から続くコロナ禍と、それに伴う「コミックマーケット」をはじめとした同人イベントの中止・延期を考慮すれば理解は可能だ。

「市場の神が力を失っている」のは(むしろ力を失っているからこそ)特別な時に開かれる市が消えてしまっている現状を表し、千亦の復活は同人イベントが元通り開催されるようになることを祈念している。

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時勢を強烈かつハイコンテクストに反映したストーリーは実に東方らしい。永夜抄ではシューティングの終焉と戦っていたが、今や同人イベントそのものの開催を神頼みする事態となった。

本作は 5/4 の「COMIC1 BS祭 スペシャル」で頒布予定だったが、残念ながらイベントは延期となってしまった。それでも今回Steamで 5/4 に配信されたのは、仮に中止してしまえばメッセージが台無しになってしまうからだろう。またスタッフロールに列整理や売り子が含まれているのはイベントでの手売りを前提にしていてエモい。5/4 の何時に出るのか予想するの楽しかったなあ。

同時に、予定通りの配信に対して筆者個人としては「頒布の期待を裏切らないでくれてありがとう」という感謝の気持が強い。

2. アビリティカード

本作のシステムはアビリティカード。初期装備は最大3枚で、ステージクリアごとにボスから1枚ずつ購入できる。単体で強いものもあるし、組み合わせて有効になるものも多い。

カード購入にかかるランダム要素はローグライトの文脈に近く、ゲームの難易度は強い装備が手に入るかどうかで変わる。アビリティカードにより投入した労力や自分のスキル以上の結果を得ることができ、鬼形獣で70時間以上かかった実績コンプが今回24時間でできたのもアビリティカードのおかげ。無論、お金を確保しつつ適切なカードを選ぶのもプレイヤーの実力だろう。

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ゲームをクリアすると道中で得たアビリティカードもリセットされるが、一度手に入れたカードは初期装備として選べるようになる。その初期装備枠も最初の1枠から、通常クリア・アナザークリアを経て3枠まで増加する。完全なランダム&リセットだけではなく能力の底上げ的な要素があるのもローグライトの雰囲気だ。ローグライトも弾幕シューティングも、最終的にはキャラのレベルやステータスではなくプレイヤーの力量を上げていくゲームとなるので、案外相性は良いのかもしれない。

鬼形獣では暴走ロアリングを前提にして敵が硬いということはなかったが、本作は若干敵が硬く、適切なアビリティカードを持っていなければかなりきつい。体験版でミケがやたら硬くて驚いた。弾幕も特に道中で厚く、インフレ気味の課題をインフレ気味の自機で解決するような感覚がある。それでもLunaticでノーミス・ノーボム・ノーカードの達成者がいるのだから世の中は恐ろしい。

3. 演出

本作は虹龍洞というタイトルのとおり虹を想起させる要素が多い。咲夜さんのスカートのレースが虹色だし、ミケの「弾幕万来」は空に虹をかけるような弾幕だし、虹龍洞の中は虹の7色に光っている。「弾幕のアジール」で月暈が再現されているのとか正直めっちゃ好き。

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虹をかけるミケ

また東方を追いかけている者にとって5面で日没が表現されていたのは感慨深い。10年以上前のインタビューだが、ZUNさんはシューティングは縦スクロールか横スクロールかという話の中で「縦だと太陽などは出しにくい」という趣旨の話をしていた。

ZUN:
 うーん,違いというか,それぞれ利点はありますよね。例えば,僕が横スクロールで作るとしたら,「空」を大切にすると作りやすいだろうなと思うんです。横から見ると,すごくいい空気感があるというか,地面と空が見えて気持ちがいいじゃないですか。上空に上がっていくと夕陽が見えるとか。あくまでたとえ話ですけど,そういうことを大切にすると思うんです。縦じゃ絶対にできませんしね。縦だと太陽出そうにもちょっと……ってのがありますし。
 そういうところ,あんまり考える人っていないのかもしれないけど,結構重要かなと。ゲームを作品として見たとき,そこを生かさないと,横にする意味はないと思います。

筆者はこの話をずっと覚えていたので、本作の5面で太陽が出てきた時あっと息を呑んだ。しかもそれが山の裏に沈んでいって空が暗くなり、急峻に龍珠が輝き始める。

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リプレイを早送りすると分かりやすい。

上記のインタビューを踏まえて、虹龍洞5面の演出を東方の文脈で言うなら縦シューと横シューの境界を破っている。1ステージの中で時刻の移り変わりが明確に示されたのは風神録6面以来だろうか。なるほど妖怪の山というのは、そのような意味でも特別なのだろう。

本作は雨・虹・太陽・星・月と、空に浮かぶ物の表現が印象的だ。事程左様に、ゲームの味わいはプレイの外にも隠れている。

4. 音楽

どれも良いと思うけど、好きなのは「大吉キトゥン」、「駒草咲くパーペチュアルスノー」、「待ちわびた逢魔が時」、「星降る天魔の山」、「龍王殺しのプリンセス」。

実は鬼形獣のとき、音楽を全然覚えられなくてショックを受けていたんだけど、本作は音楽も覚えられる気がして嬉しい。いやほんとに。

5. 攻略

強いカードの組み合わせは色々なところで紹介されている。でも筆者だって語りたい。自分の最強デッキを知ってほしいのは誰だって一緒だよね。

(1) 法力経典+かぐや姫の隠し箱+頼りになる弟子狸
ボムゲーに徹するという意思が全面に出た構成。カードの購入は全て「命のカード」または「不死鳥の尾」にする。残機を確保するということは被弾が多いということでもあるので、弟子狸との相性は抜群。さらに初期Pが高いので1面も楽になるという、まさにクリア向け装備。

(2) ヴァンパイアファング+地獄の沙汰も金次第+重低音バスドラム
EXノーミス用の装備。もちろん機体は最強の早苗で挑む。「蠱毒のグルメ」がバスドラムのおかげで確実に取れるのが嬉しい。ヴァンパイアファングはフレームごとにダメージ判定があるので当て続けるとダメージが伸びるが、あまり欲張らないように。

(3) ヴァンパイアファング+地獄の沙汰も金次第+暴食のムカデ
Lunaticノーミス用の装備。自機は早苗。攻略wikiではヴァンパイアファングではなく「鬼傑組長の脅嚇」が推奨されているが、虹龍洞のLunaticはミケが異様に強く、1面ループが終わらないのでヴァンパイアファングを採用して強引に突破することにした。たかね通常への回答もヴァンパイアファング。3ボス通常など、弾源が一点の弾幕はヴァンパイアファングで一波目を完封できるのも強い。

3面までたどり着けば、雑魚・ボスともにムカデがなんとかしてくれる。5面道中はもはや別ゲー。最後はムカデにこだわらずボムを撃ちまくっても良い。最終的に300ほど資金を余らせてノーミスクリアできた。脅嚇は引けなかったが、代わりに「神山への供物」を引けたのもラッキー。

Lノーミス狙いの場合、1面は「商売上手な招き猫」と「鈴瑚印の団子」のどちらを選ぶべきか悩ましい。運任せだが、招き猫でバスドラムを引くことができれば更に楽ができるだろう。このような確定アイテムの取捨選択にもローグライトっぽさを感じる。

6. 何か他に言うことはないの?

基本的に本作はめっちゃ楽しい。やりたいゲームをやって楽しい、というのは幸せなことである。カード構成など始める前に考えることがあるのも面白い。

クリア自体は腰を据えて頑張れば苦労せずにできるけど、適当にやるとすぐゲームオーバーになるバランスなので、プレイに要求されるカロリー自体は高いかなって印象。EXTRAぜんぜん慣れない。

プラクティスも、本番でどんなカードを持ってるか分からないから、あんまり練習にならない。まあノーカードで進める実力が付けば問題はないんだけど。

キャラ方面で言うと、典の危険人物っぽさは緊張感が出る。紫はずいぶん丸くなっちゃったし、青娥はこっちから手を出さない限り大丈夫っぽいんだけど、典はあっちから来て常に二枚舌で要らんことを言ってそう。プレイヤーから見ると信用できないのに龍や百々世からは信頼されているのがまた怖い。匿ってくれネムノさん。そういや聖域を作れるってことはネムノさんも弾幕のアジール的なことできるんかな。

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