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鈍重JTCにも必要な「アジャイル経営」

JTCとはJapan Traditional Companyの略語であり、伝統的な重厚長大の日本企業を指す。

JTCは、動きが遅くITC時代には遅れ気味で最近はさえないが、かつてはモノづくりで世界を席巻した。

アジャイル(agile)とは、「敏捷」「素早い」という意味であり、「アジャイル経営」とは、変化に迅速かつ柔軟に対応できる経営スタイルのことである。

ITC時代には変化のスピードが速く、また、将来の予測が難しい。

このような時代は、、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)のVUCAと表現され、戦略的不確実性の高い時代である。

VUCA時代には、市場環境や顧客ニーズが急速に変化し、従来の計画主導型の経営では対応が難しくなるため、アジャイル経営が重要になる。

アジャイルという管理手法は、元来ITのシステム開発やソフトウエア開発の分野で使われた、新しいプロジェクト管理の手法である。

アジャイルは、最終的な成果物があいまいであるような情報系システムやWeb系のシステム開発、また、走りながら(つくりながら)考えるような新たなソフトウエアの開発プロジェクトにおいて、開発プロセスが柔軟で迅速な変更に対応できるような、新しいプロジェクト開発の管理手法や考え方である。

これに対して、システムやソフトウエア開発における従来の伝統的なプロジェクト管理手法を、ウォーターフォール(Waterfall)モデルと呼ぶ。

ウォーターフォール・モデルでは、大規模な業務系システムなどの開発において、最初にプロジェクトの成果物を明確に定義し、開発プロセスを一連の段階的で直線的なフェーズに分けて、各フェーズが完了するまで次のフェーズに進まないという、ステップ・バイ・ステップの進め方をする。

最近、組織経営においてもアジャイル手法を取り入れた、アジャイル経営が注目を集めている。

組織編制や組織運営の在り方は、仕事の特性に応じて決定されれる。

ひとつには、定型的な製品やサービスを提供するような、大規模組織が得意とする「ルーチン業務」がある

ルーチン業務では、仕事に期待される最終的な成果が明確であれば、なすべき仕事の内容がはっきりしている。

その結果、仕事の役割分担や仕事の進め方の手順が明確な組織が構築され、また、「いつものように、いつもの時間に、いつものことが行われる」ような、常軌(ルーチン)的な組織運営が行われることになる。

ルーチン業務主体の組織では、現場が自律的に仕事を行い、例外事項が発生すると上級者である管理職がそれに対応する。

ルーチン業務は、定型的な手順を踏んで成果を出すという「アルゴリズム・アプローチ」によるものであり、管理では決められたことを定められた手順で行っているかどうかをチェックすることになる。

これに対して、例えば、小規模な組織で行われる研究開発や製品企画開発のように、成果を求めて試行錯誤しながら進めるような非定型的な仕事がある。

非定型的業務では、目的を達成するために「こうすればうまく行くだろう」という大体の目安を決めて、とりあえずやってみることになる。

このような仕事の進め方が、「ヒューリスティック・アプローチ」である。

ヒューリスティック・アプローチでは、うまくいかないことが当たり前なので、常に仕事の変更や修正が頻繁に行われる。

アジャイル方式は、非定型的業務におけるヒューリスティック・アプローチに適した管理方式である。

大規模組織においても、研究開発や製品企画開発のように、アジャイル経営が有効な部署部門が存在する。

しかし、企業の一部の部署部門の部分的なものとしてではなく、会社全体でアジャイル経営を行っているような企業もある。

例えば、菓子業界において、新製品を中心に委託製造を行っている企業である。

菓子業界では、業界恒例で、春のバレンタインと秋の始まりの9月に、消費者向けの販売キャンペーンを行う。

バレンタインはチョコレート製品の販売拡大のチャンスであり、気温の下がる秋は菓子の需要が戻る時である。

全国展開する大手菓子会社は、年二回のキャンペーンに向けて、新製品を投入する。

新製品は売れれば品不足で小売りから催促され、売れなければ大量の在庫返品となる。

大手菓子メーカーにとっては、新製品のために製造ラインの競合が起こり、新製品の製造には頭を悩まされる。

大手菓子メーカーにとって、新製品の製造受託会社の出現は、新製品製造の悩みを解決する救いの神であった。

ひとつの製造受託会社が、ほとんどすべての大手菓子メーカーの新製品を製造している。

その会社がすべての大手メーカーから製造の受託を受けることができる秘密は、アジャイル経営にある。

会社の経営会議はとても騒がしく、会議では誰が社長か分からない。

役員はそれぞれ製造ラインを担当してるが、依頼案件の検討では喧々諤々の議論が行なわれる。

各菓子メーカーからの依頼内容の検討、菓子メーカーごとの製造受託金額の決定、時期の重なる複数製品の製造方法の検討、製造ラインの確保や製造計画の調整などに関して、役職の上下などお構いなく、役員がそれぞれ意見や考えを主張し合う。

尊重されるのは最も有効な意見や考えの有効性である。

また、実際の製造では、大手菓子メーカーが考えられないほど、製造ラインの組み換え時間が短い。

常に、役員間の意思疎通はスムースで、チームとして必要に応じてそれぞれがお互いに他の担当領域を補佐し合っている。

鈍重なJTCにも大きな変化が求められている。

社会からの、また、市場や消費者/顧客からの期待や要請に、JTCも素早く対応することが求められている。

役員がそれぞれの自分の担当の役割を果たせば、結果的に経営課題が解決されるとのいうことが、従来のJTCの常識であった。

「自分のことだけに専念し、他には干渉しない」というような、そんな従来の経営常識が通用しなくなってきている。

VUCAの環境下でスピード経営が重視される今、社長ばかりでなく役員全員が、ゼネラル・マネジメントのチームの一員として、全員で知恵を出し合い、チーム全体として問題解決に取り組まなければ、解けない経営課題が増えている。

正解のない経営課題に、JTCの役員層にはアジャイル経営が求められている。





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