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【英国法】バリスターとソリシター ーイギリスの弁護士制度ー

こんにちは。
お読みいただきありがとうございます。

本日は、法律の解説というよりは、ちょっと周辺的なトピックとして、イギリスの弁護士制度について書きたいと思います。


弁護士の一般的なイメージ

「弁護士」と聞いて、皆さまはどんなイメージを持ちますか?

やはり、裁判で弁論をしている姿を想像するのではないでしょうか。

企業で法務に携わっている方であれば、ご存じだと思います。実は、訴訟代理人の業務は、弁護士の数ある仕事のうちの一つにすぎず、ぼくたちのフィールドは意外と多様です。

例えば、企業買収の際のアドバイスの提供、不祥事を起こしてしまった会社の第三者委員会、シンジケートローンの組成など、裁判とは全く関係のない仕事を専門にする弁護士は、特に東京を中心に、山ほどいます。

しかし、日本では、刑事被告人の弁護も、クロスボーダーM&Aのアドバイザリーも、同じ「弁護士」という資格に基づいて、仕事をしています。どれだけ活動分野がバラエティ豊かであっても、その資格は基本的に弁護士以外ありえません。

イギリスでは弁護士が主に二種類に分かれる

他方で、イギリスでは、次のように弁護士の資格が二つに分かれています。

バリスター(barrister):裁判における弁論や尋問を行う法廷弁護士
ソリシター(solicitor):それ以外の法律事務に携わる事務弁護士


なので、先ほど述べた典型的なザ・弁護士は、イギリスではバリスターに該当し、海外ドラマのSUITSに出てくるような企業法務の弁護士などは、ソリシターに当てはまります。

なお、コーヒーの達人は、バリスタ(barista)であり、紛らわしいですが、バリスターとは綴りも、語源も違います。

バリスター(法廷弁護士)

概要

2020年のデータでは、約17,000人のバリスターがいるようです。
そのうち、女性は約38%、マイノリティに分類される人種は約14%です。

登録までの道のり

※ 例外的なルートも含めると色々あるのですが、以下では、イギリスで育った人が登録までに歩む代表的なルートをご紹介します。

第一に、バリスターを目指す人は、イギリスにある4つの法曹院(Inns of Court)のいずれか(Lincoln’s Inn、Gray’s Inn、Inner Temple、Middle Temple)に入会しなければいけません。

歴史的には、4つの法曹院にそれぞれ役割があったようですが、現在ではどこでも同じ、ほとんど趣味の問題だそうです。東京の弁護士会が、東弁、一弁、二弁に分かれているみたいなものでしょうか。

入会のためには、基本的に、法学の学士が必要です。外国の学位しか持っていない場合には、BSB(バリスターの監督機関)の承認を得た上で、法学のGraduate Diplomaを取得する必要があるようですね(*1)。

第二に、法曹院に入会後、Bar courseと呼ばれる1年間の専門課程に入学しなければなりません。認証を受けている学校は10つあり(*2)、アカデミックな機関というよりは、日本でいう司法試験予備校のような印象です。

Bar courseの志願者の合計は例年3000人程度であり、合計1500人ぐらいが入学し、1000人程度が修了しているようです。

第三に、Bar courseの修了者は、バリスター事務所(○○ Chambersと言った名称が多いです)に、見習い(pupillage)として1年間雇ってもらう必要があります。この枠は例年500人で推移しており、約半分の人は、Bar courseを修了しても見習いとして雇ってもらえないという事態が生じます。

このように見習いの地位を得るための就職活動は熾烈で、見習いになれた人のうち40%弱がオックスブリッジの卒業生、40%弱がラッセルグループと呼ばれるイギリスの有名大学群の卒業生だそうです。イギリスも割と学歴社会ですね。

見習い期間を終えると、所属元の法曹院から、バリスターの資格を授与されることになります。このことを、call to the Barと言うらしいです。

お給料事情

大手のバリスター事務所は、優秀な新人を確保するために大盤振る舞いをしています。例えば、商事訴訟のトップチェンバーの一つであるBrick Court Chambersでは、見習い期間中に75,000ポンド、バリスター登録2年目には平均して250,000ポンドの報酬を得るそうです(*3)。

こちらのエントリーで、イギリスの訴訟費用がめちゃくちゃ高額になることに触れましたが、そりゃあ高くなりますよね。

ソリシター(事務弁護士)

概要

2021年のデータでは、約150,000人のソリシターが実際に活動しています。そのうち女性の割合は49%で、マイノリティに分類される人種は21%とのことでした。バリスターよりも、ダイバーシティが進んでいますね。

登録までの道のり

※ 例外的なルートも含めると色々あるのですが、以下では、イギリス国内の人が登録までに歩む代表的なルートをご紹介します。

第一に、ソリシターを目指す人は、学士を取得している必要があります。基本的には、イギリスの学位が想定されていますが、外国の学位でもOKです。

第二に、Solicitor Qualifying Examinartion(SQE)と呼ばれるソリシター試験に合格する必要があります。一次試験が択一式で、二次試験が論述や模擬法廷、模擬法律相談などの形式で行われます。

SQEについては、また別の機会に詳しくご紹介できたらと思っています。なので、今回はちょっと詳細は割愛します。

第三に、2年以上の実務経験を積む必要があります。これは、SQE合格後でも、合格前でも構いません。合計で2年以上あればOKです。

イギリスのソリシター事務所の多くは、2年間の研修契約を提供しています。そのため、ソリシターを目指す人は、民間企業のそれと同様に就活を行い、研修契約を目指します。ここまででお気づきのとおり、ソリシターになるために法学の学士やロースクールの修了は必要とされていません。そのため、イギリスでは、たとえ大手事務所であっても、例えば文学部を卒業して、高等教育機関で法学を修めていないパートナーが所属していることも、まったく不思議ではありません。

これら3つの要件をクリアすることで、ソリシター協会への入会を申請することができ、申請が通って実務許可証が得られれば、晴れてソリシターを名乗ることができます。

お給料事情

バリスターほどではありませんが、大手の事務所では、研修契約1年目の給料として50,000ポンド以上をオファーしているようです。無資格の大卒1年目の給与としては、やはり破格ですよね。

崩れつつある棲み分け

歴史的に、裁判を行うバリスターとそれ以外の法律事務を担うソリシターが異なる資格として発展してきたイギリスですが、近年、その区別は厳格なものではなくなってきています。

まず、少し前の法改正により、ソリシターであっても、一定の認証を得ることで、バリスターと変わらない訴訟活動を行えるようになりました。このような資格を得た者は、ソリシター・アドヴォケイトと呼ばれます。

他方で、バリスターは、これまでクライアントから直接依頼を受けるのではなく、ソリシターを通じて依頼を受けていたところ、現在では、一部の企業が企業内バリスターを抱えるようになってきているそうです。とはいえ、これはまだ一般的な慣行ではありません。

区別がなくなりつつあると言いながらも、一方で問題もあります。

例えば、イギリスでは近年、刑事弁護の質の悪化が問題となっているようです。その背景には、ソリシターが訴訟代理人を頻繁に務めるようになったことが関係していると指摘されています。

規制緩和のかじ取りがうまいイギリスですから、クライアントにとって無駄がなく、裁判のクオリティも維持される制度にしていってほしいですね。

いかがだったでしょうか。

ここまで読んで頂きありがとうございました。
このエントリーが、どなたかのお役に立つことがあれば嬉しいです。


【注釈】
*1 詳しくは、こちらのWEBサイトに載っています。
*2 こちらで確認できます。
*3 こちらのとおりです。


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このnoteは、ぼくの個人的な意見を述べるものであり、ぼくの所属先の意見を代表するものではありません。また、法律上その他のアドバイスを目的としたものでもありません。noteの作成・管理には配慮をしていますが、その内容に関する正確性および完全性については、保証いたしかねます。あらかじめご了承ください。


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