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【英国LLM留学】英国法弁護士への道#8 │SQE2の概要

こんにちは。
お読みいただきありがとうございます。

ぼくは、イギリスに留学中の弁護士です。
2023年にロンドンのロースクール(LLM)を修了し、現在は、ロンドンの法律事務所に出向中です。

引き続き、ぼくが英国法弁護士に登録されるまでを振り返っていきます。もしかしたら、聞きなれない略語が出てくるかもしれません。よければ、第1回の分からお読みいただけると分かりやすいかと思います。

※ 最近、SQE2の免除を受けた人がSRAに登録する際の英語要件に変更がありました。かなり重要な変更なので、詳しくは第1回をお読みください。

前回は、SQE1を受けたときのレポを書きました。今回は、SQE2について書きたいと思います。

なお、英国法弁護士で大変なのは、試験勉強ではなく事務手続です。各手続に関する要件等については、できるだけ確実な情報に基づいて話を進めていきますが、最終的には、ご自身で確認頂くようお願いします。


はじめに

まず断っておきたいのですが、ぼくは、SQE2を外国法曹の資格に基づく免除でクリアしており、実際に試験は受けていません。

もっとも、当時はSQE2の免除の運用が始まったばかりで、非コモンロー国家である日本の弁護士で、かつ、英国法の法律実務の経験がほとんど無いぼくが免除を得られるとは思っていませんでした(実際は、第1回で触れたとおり、基本的に免除申請は通ります)。

そのため、SQE2についても試験を受けるつもりでQLTSchoolと契約して、約半年ほど、割と真剣に勉強をしました。

そこで、本日は、SQE2の試験内容について、簡単に触れたいと思います。もちろん、ぼくはSQE2に合格どころか受験すらしていないので、その前提でご覧ください。とはいえ、ぼくとしては、弁護士資格を持っていない英国法弁護士志望者の方にもこのnoteが参考になれば良いなと思って書いており、今回の記事がその一助になればと思っています。

では、始めます!

2023年2月初旬:SQE2の勉強開始

勉強の計画

前回書いたとおり、1月末に受けたSQE1は正直言って微妙な感触でした。受かっている自信はまったくなかったのですが、受験から2,3日休んでからすぐに、SQE2に向けた準備を始めました。

理由は、SQE1の短答の勉強がつまらなさすぎて、さっさと論文の勉強を始めたかったからです(笑)

以前も書いたと思いますが、一旦の目標として、2023年7月頃に実施されるSQE2の受験を目標に、勉強を始めることにしました。

QLTSchoolへの申込み

独学での勉強は無理だと感じていたので、SQE1に引き続き、QLTSchoolを利用することにしました。

SQE1と同じく3つのコースがあり、ぼくは、真ん中のAdvancedコースを取ることにしました。理由は、一番安いコースは、Mock Testの数が120しかない一方で、Advancedは300あり、一番高いコースもMock Testの数が変わらなかったためです。

お値段は、£2,390です(*1)!
やっぱり高いですね。もし初めから免除のスキームを利用していれば、このお金でもう一回家族旅行できたはずで、自分の無知が憎いです。

補足:SQE2の試験内容

確か第1回で簡単に触れましたが、もう少し詳しめに紹介します。
もっとも、以下の説明は、基本的に、こちらのSRAのインストラクションをまとめたものなので、もしかしたら、こちらを直接読まれる方が早いかもしれません。

SQE2は、次の試験で構成されています。

オーラル Day 1:弁論(Dispute Resolution)、法律相談(Property Practice)
オーラル Day 2:弁論(Criminal Litigation)、法律相談(Wills and the Administration of Estates)
筆記 Day 1:事例分析、リサーチ、リーガルドラフティング、リーガルライティング(これらの4つのうち、どれか2つがDispute Resolution、どれか2つがCriminal Litigation)
筆記 Day 2:事例分析、リサーチ、リーガルドラフティング、リーガルライティング(これらの4つのうち、どれか2つがProperty Practice、どれか2つがWills and Administration of Estate)
筆記 Day 3:事例分析、リサーチ、リーガルドラフティング、リーガルライティング(4つすべて、Business Law)

つまり、5日間にわたる試験です。長丁場ですね。

SQE2には、弁論、法律相談、事例分析、リーガルドラフティング、リサーチ、リーガルライティングという、試験形式で分けた縦軸と、Dispute Resolution, Criminal Litigation, Property Practice, Wills and Administration of Estate, Buiness Lawという科目で分けた横軸でマトリックスを作ることができます。

① 試験形式

弁論(Adovocacy)
文字通り、模擬法廷で、弁論を行います。

課題が渡されて45分で弁論内容を考えて、15分で弁論を行います。弁論の時間には、裁判官役の試験官との質疑応答も含まれます。

Dispute ResolutionとCriminal Litigationについて、この試験が課されます。たとえば、前者ではサマリージャッジメントや中間払いの申立て、後者では保釈の申立てもあれば、無罪を主張する弁論などが考えられます。

法律相談
課題が渡されて10分間の準備時間が与えられます。その後、25分間、依頼者役の試験官から法律相談を受けます。この内容をもとに、25分間で面談メモを作成するという試験です。

Property PracticeとWills and Administration of Estateについて、この試験が課されます。前者であれば、持ち家を売却したい人の相談、後者であれば、例えば夫に先立たれてしまった奥さん(役の試験官)が相談にやってきます。

なお、意外かもしれませんが、法律相談における受験者の受け答えについて、評価対象とされるのは依頼者とのコミュニケーション能力であり、回答内容の法的正しさは評価対象となりません。もっとも、この点は、面談メモの中で評価されることになります。

事例分析
60分間のコンピュータベースの筆記試験であり、与えられた事例を分析し、法的分析を展開し、自身の見解を述べる試験です。おそらく、これが、日本の司法試験の問題に一番近い形式ではないかと思います。

Business LawについてはDay 3で必ず出題され、Dispute ResolutionとCriminal Litigationについては、Day 1でいずれかが出題、Property PracticeとWills and Administration of Estateについては、Day 2でいずれかが出題されることになります。なお、以下で述べる、リサーチ、リーガルドラフティング、リーガルライティングも同様の試験区割りです。

リサーチ
こちらも、60分間のコンピュータベースの筆記試験です。事例分析で求められるよりも高度な質問について、与えられた資料(書籍の抜粋やケース)に基づき、回答をする試験です。

QLTSのときはPractical Lawのようなデータベースを実際に検索することも試験内容に含まれていたようですが、SQE2では、資料は全て試験時に配布されます。もっとも、この資料には無関係なものも含まれます。

リーガルドラフティング
45分間で、訴訟や権利義務に関わる文書を作成します。たとえば、訴状や準備書面の起案、登記所に提出するフォームの作成などが出題されます。また、契約書のレビューの形式で出題されることもあるようです。

長い時間が与えられていない試験なので、法的分析というよりは、事務処理的に書面を作成していくことになります。

リーガルライティング
30分間で、法律事務に係る文書を作成します。相手方ソリシターとのコレポンや依頼者へのレターの作成といった題材で出題されます。

リーガルドラフティングよりもさらに短く、非ネイティブには厳しい試験です。カリフォルニア州の弁護士試験では英語の巧拙は評価の対象外と聞いたことがあるのですが、SQE2の筆記試験では、"Use clear, precise, concise and acceptable language"であることが、しっかり評価項目に入っています。

② 科目

Dispute Resolution
弁論+筆記4形式の勉強が必要になります。

SQE1では、純粋に日本で言う民事訴訟法の科目でしたが、SQE2では、試験に当たって実体法の知識も問われるため、事実上、SQE1における契約法、不法行為についても、この科目がカバーしています。

Criminal Litigation
こちらも、弁論+筆記4形式の勉強が必要になります。

SQE1における刑法についても、この科目がカバーすることになります。Dispute Resolutionでは、実体法の知識はオマケ的なものになることが否めませんが、Criminal Litigationでは、問題の性質上、実体法の知識ががっつり必要になる印象です。たとえば、各罪の成立要件は、事実上、暗記が必要なのではないかと思っています。

Property Practice
法律相談+筆記4形式の勉強が必要です。

SQE1でも、Property Practiceは個人的に鬼門でしたが、SQE2の勉強でも、大変苦労しました。もし、SQE2を受験予定の方がいれば、SQE1のときから、気合を入れて学習されることをおススメします。

Wills and Administration of Estate
マトリクス上の位置づけがProperty Practiceと同じとなっている科目で、法律相談+筆記4形式の勉強が必要です。

SQE1だけ学習しているとマイナー科目のような印象を受けるかもしれませんが、SQE2では、契約法や不法行為よりもよっぽど重要な科目です。

あとは、Taxの知識も問われます。

余談ですが、法律相談では、依頼者(役)は大抵近しい家族を亡くしている設定ので、その前提で面談に当たらないといけません。法的な説明に終始するのではなく、依頼者(役)への"I'm sorry to hear that your wife has sadly passed away last week"といったような声掛けも重要です。

Business Law
弁論や法律相談は課されません。その代わり、筆記では4形式全てで出題があります。

企業の法務部などに勤務している人であれば、SQE1に引き続き、馴染みのある題材が多いのではないかと思います。ただ、QLTSchoolのMock Testでは、例えば会社の設立の申請フォームの作成などが用意されており、日本で言う司法書士の実務的な題材も試験に含まれます。

小括

もともとは各科目の勉強方法についても書こうと思っていましたが、既に述べたとおり、受験もしていないぼくの勉強方法が役に立つ場面はきっと限定的だろうと思い、割愛することにしました。

次回は、SQE2の免除について書きたいと思います。X(Twitter)のDM等でも複数の方からご質問を頂いている事項で、皆さまの関心も高いかもしれません。次回一回で終わらせるつもりですが、もし前後編となったときはすみません!

このエントリーがどなたかのお役に立てば、嬉しいです。
また次回もよろしくお願いします!


【注釈】
*1 このnoteの投稿時点は、£2490となり、更に値上がりしています。


免責事項:
このnoteは、ぼくの個人的な意見を述べるものであり、ぼくの所属先の意見を代表するものではありません。また、法律上その他のアドバイスを目的としたものでもありません。noteの作成・管理には配慮をしていますが、その内容に関する正確性および完全性については、保証いたしかねます。あらかじめご了承ください。


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