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【英国判例紹介】In Re Duomatic ー株主全員による非公式な同意の効力ー

こんにちは。
お読みいただきありがとうございます。

今回ご紹介するのは、Re Duomatic事件(*1)です。

この判例は、会社法に関する重要な判例であり、この事件で定立されたルールは、Duomatic principleという名前が付けられるまでになっています。

このDuomatic principle、英国法特有のルールではありますが、日本の会社法を勉強していれば、そりゃそうだよねという結論に至ると思います。
この判例は、英国法の実務でも日本での考え方と同じOKだよね、と安心できるものだと思います。

事件の中身を触れていないので、なんだか回りくどい書き方になってしまいました。早速始めたいと思います。

なお、このエントリーは、法律事務所のニューズレターなどとは異なり、分かりやすさを重視したため、正確性を犠牲しているところがあります。ご了承ください。


事案の概要

Duomatic Ltd(以下「会社」)は、E氏、H氏、T氏の3人の取締役が普通株式のすべてを保有する会社でした。この他に、会社は、議決権を有しない償還優先株式を発行しており、これらは全てオランダのとある企業が保有していました。

会社の定款では、取締役の報酬について、株主総会の決議で定めることが規定されていました。しかし、会社は、3名の普通株主全員の合意の下で、総会の決議を経ずに、E氏に対して10,151ポンド、H氏に対して5,510ポンドを報酬として支払いました。

その後、会社は、Member's Voluntary Liquidation(日本の通常清算に似た手続)に入り、清算人は、E氏及びH氏に対して、報酬の返還請求訴訟を提起します。

なお、本件では、上記の報酬のほかにも会社からE氏とH氏にお金が流れており、これらについても返還請求がされています。もっとも、上記のE氏とH氏に対する報酬の件が一番わかりやすいので、その他のお金についてはここでは触れません。

争点:株主総会の外で行われた株主全員の株主総会決議事項への同意の効力

既に書いたとおり、会社の定款では、取締役への支払を総会決議事項と定めていました。しかし、会社は、普通株主(=議決権を有する株主)全員の同意を得ただけで、総会決議をせずにE氏とH氏に報酬を支払っています。

このような、いわば株主全員の非公式な同意が、総会決議と同様の効力を持つのでしょうか。

これが、本件の争点です。

裁判所の判断

清算人の主張は退けられます。
Buckley裁判官は、次のように述べました。

… where it can be shown that all shareholders who have a right to attend and vote at a general meeting of the company assent to some matter which a general meeting of the company could carry into effect, that assent is as binding as a resolution in general meeting would be.

日本語に訳すと、こういう感じでしょうか。

株主総会に出席して議決権を行使できる株主全員が、会社の株主総会の決議事項に同意していることを示すことができる場合、その同意は、株主総会の決議と同等の拘束力を有する。

これがまさに、「Duomatic Principle」と呼ばれる原則です。つまり、議決権を有する全株主が同意していれば、株主総会で決議しなくても、決議と同等の効力を有するということです。

なお、清算人は、無議決権の償還優先株式を保有するオランダ企業の同意がないことを理由に、議決権株主全員の同意があっても、決議と同等の効力を有しないとも主張していました。

しかし、Buckley裁判官は、オランダ企業は、総会通知を受けとる権利も総会で議決権を行使する権利もないのであり、株主総会の外で合意がなされたところで、株主総会で決議をする場合よりも悪い立場になることはないと述べ、清算人の主張を一蹴しました。

考察

会社は誰のもの?

色々な考え方があるとは思いますが、会社法の観点で言えば、株式会社は、株主のものです。ちょっと乱暴な言い方をすると、Duomatic Principleは、株主が良いって言ってるんだから、細かいことは良いじゃん!という原則と言えるかもしれません。

取締役の報酬の話に引きつけて考えるのであれば、例えば、日本の会社法では、取締役の報酬は総会決議事項ですが、その趣旨は、取締役が自分の報酬を過大に盛ることで、株主に損害が及ぶことを防止することにあるわけです。この趣旨は、イギリスの会社でも妥当するはずです。

もし、取締役が不釣り合いな報酬を得ていても、それを会社の持ち主である株主が良いと言っているのなら、そこに利害関係を持たない第三者が口をはさむことではないということですよね。

日本ではどうなの?

本件と似たシチュエーションの事件で、株主総会決議は無かったものの、株主全員の同意があった事例において、最高裁は、取締役の報酬請求権が認めています(*2)。

小規模な会社にフレンドリーな判例

日本でも、英国でも、会社法は条文が多くてとても読みにくく、ルールが複雑です。人よりも法律の条文に親しんでいるはずの弁護士ですらそうなので、小規模な会社にとっては、会社法の厳密にルールに従うのは、時に非常に困難です。

英国では、非公開会社には定時株主総会の開催義務はなく、日本以上に定款のカスタマイズが利きますが、それでも株主による決議を得なければいけない場面は少なくありません。

そんな小規模な会社にとって、Duomatic Principleは、実害がない限りにおいて、柔軟な組織運営を可能にする原則だろうと言えます。

拡大するDuomatic Principle

まず、特定の事項に同意するための正式な手続きが、株主間契約に定められていたとしても、株主全員の同意があれば足りると考えられています(*3)。

次に、種類株主総会の決議が必要な場面において、全種類株主の同意があれば、種類株主総会の決議が不要であると示唆する判例があります(*4)。

さらに、取締役全員による非公式な同意も、取締役会の決議として拘束力を有すると考えられています(*5)。

もう一つ付け加えると、英国の会社法では、取締役会の関与なく、株主が法定の手続に従って書面決議を実施することができない建付けになっているところ、Duomatic Principleは、この不備を埋める役割を果たすのではないかと言われています。

Duomatic Principleの例外

定められている手続が、株主以外の利益を保護する趣旨を含む場合には、Duomatic Principleに依拠できない可能性が高いです。

「株主が良いって言ってんだから良いじゃん」に対して「でも、それやられると第三者が困るんだよ」というツッコミが入る場面ですね。この第三者の例で真っ先に上がるのは、債権者でしょうね。

その他にDuomatic Principleの適用が議論されている場面は、自己株式の取得です。これを書くとちょっと長くなりそうなので、ここでは控えます。

まとめ

いかがだったでしょうか。
会社の実質的所有者である株主の同意の効力について、日本の会社法とかなり近い考えにあることを分かって頂けたかなと思います。

在英日本企業で言うと、日本の本社が一人株主となっている完全子会社の例が多いと思います。そのため、不測の事態には、Duomatic Principleに依拠しなければいけないときがあるかもしれなません。

そんなときには、このエントリーを思い出して頂ければ嬉しいです。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました!


【注釈】
*1 In re Duomatic Ltd [1969] 2 Ch 365
*2 最判平成15年2月21日金融・商事判例1180号29頁
*3 Monecor (London) Limited v Euro Brokers Holdings Limited [2003] EWCA Civ 105
*4 Re Torvale Group Ltd [1999]
*5 Base Metal Trading v Shamurin [2004] EWCA Civ 1316


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