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【英国法】株式会社の組織・運営に関する日英比較#2 ー株主総会ー

こんにちは。
お読みいただきありがとうございます。

本日は、株式会社の組織・運営に関する日英比較の第2回です。今回は、株主総会周りについて、比較していきたいと思います。

いきなりこの記事にたどり着いてしまった方は、前回の記事から読んで頂けると分かりやすいかも知れません。

今回のトピックのバックグラウンド等は前回に譲り、早速中身に入っていきたいと思います。

なお、法律事務所のニューズレターとは異なり、分かりやすさを重視して、正確性を犠牲にしているところがありますので、ご了承ください。


株主総会

定時株主総会

日本では、毎事業年度の終了後一定の時期に、定時株主総会を開催する必要があります(*1)。法人税の申告期限等の関係で、多くの会社が事業年後終了後3か月以内の開催としており、日本公証人連合会の「2 中小規模の会社」の定款記載例(以下、単に「定款記載例」)もそのように定めています(*2)。

他方で、イギリスの2006年会社法(Companies Act 2006)(以下「CA 2006」)は、非公開会社に対して、定時株主総会の開催を求めていません。モデル定款にも、定時株主総会の定めはおかれていません。

招集権者

日本もイギリスも、基本的には、取締役が株主総会を招集します。

また、株主にも招集権が与えられており、それが少数株主権とされている点も同様です。ただし、日本の会社法では、原則として議決権の3%+6か月以上の保有要件がある一方で(*3)、CA 2006では、議決権の5%のみが要件とされています(*4)。

日本もイギリスも、上記のルールについて、定款記載例又はモデル定款では、特に変更が加えられていません。

招集通知

日本では、非公開会社は、取締役会設置会社でない限り、開催の一週間前までに招集通知を発送する必要があります(*5)。もっとも、定款記載例は、非取締役会設置会社のバージョンであるため、定款によって期間を5日間に短縮しています(*6)。

他方で、CA 2006は、非公開会社について、開催の14日前の通知を要求しています(*7)。モデル定款では招集通知について言及がありません。

なお、日本には、株主全員の同意がある場合に、招集手続を省略することが認められています(*8)。イギリスでも、過去の事件名に由来するDuomaticルールというものがあり、株主全員の同意があれば、招集手続を省略することが可能だと思われます。詳しい話は、こちらをどうぞ。

株主総会決議

日本もイギリスも基本的な建付けは同じです。つまり、議決権の過半数を決議要件とする普通決議(イギリスではordinary resolutionといいます)と、決議要件が加重された特別決議(special resolution)があります。

もっとも、決議要件について、日本の特別決議は、出席株主の議決権の3分の2以上を原則とする一方で(*9)、イギリスでは、総議決権の75%以上の賛成が要求されます(*10)。

また、定足数について、日本では、議決権の過半数であり、定款を変更することで普通決議については排除可、特別決議については3分の1以上とすることができます。他方で、イギリスでは、一人株主の場合はその者の出席、それ以外の場合は、議決権株主2名以上です。「名」というのがポイントかもしれません。もっとも、定款で定足数については排除可能と思われます(*11)。

なお、総会決議事項については、日本もイギリスも似通っていますが、ここで比較を始めると分量が膨大になってしまうので割愛させて頂きます。また、以前にイギリスの総会特別決議事項をまとめたことがありますので、よければご覧ください。

さて、定款記載例・モデル定款による修正ですが、どちらも、決議要件と定足数ともにいじっていません。したがって、法律にしたがって普通決議と特別決議がなされることになります。

ちなみに、日本の特殊決議に相当する第三のカテゴリーは、イギリスにはありません。ただし、一定の特別決議事項について、要件が加重されることがあります。主要なものは上記の特別決議事項のまとめにありますので、よければご覧ください。

書面による決議

日本では、株主全員の同意があった場合に、総会決議があったものとみなす規定が置かれています(*12)。

他方で、イギリスでは書面決議(written resolution)が制度化されており(*13)、より柔軟な対応が可能です。株主又は取締役の提案について、議決権の過半数(特別決議の場合は75%以上)の賛成の署名が集まれば、これを決議とすることができます。定款に定めのない限り、提案から28日以内に決議が通れば足り(*14)、モデル定款には期限について定めはありません。

留意すべきなのは、取締役の解任に関して、書面決議が認められていない点です(*15)。以前、この規定を担当者の方が失念していたため、予定していた時期に取締役を解任できなかった例に接したことがあります。

議事録

日本では、株主総会の議事録の作成が義務付けられ、10年間、保管しなければいけません(*16)。イギリスでも同様に、作成と10年間の保管義務があります(*17)。

なお、日英とも、電磁的記録による保存が認められます。

特別決議の登録

CA 2006は、特別決議について、カンパニーズハウス(日本の法務局に相当する期間)への登録を要求しています(*18)。決議から、15日以内の登録が求められます。

日本の場合は、当該決議が登記記載事項に変更を加えるものであれば、登記記載事項の変更を理由に登記が必要になりますが、特別決議という切り口から登記を求めてはいません。イギリスでは、登録事項にない事項であっても、特別決議であれば登録が必要となる点、注意が必要です。

なお、イギリスでも、登録事項に変更があれば、変更手続を行わなければならないのは同様です。例えば取締役の変更などの場面ですね。

おわりに

いかがだったでしょうか。
本日は、前回に引き続いて、日英の株式会社の組織・運営に関する比較を行ってみました。

すみません、本当は今回で全てまとめる予定だったのですが、分量が多くなってしまいそうなので、第3回に持ち越します。

また次回もよろしくお願いします。
追記:こちらです!

ここまで読んで頂きありがとうございました。
この記事がどなたかのお役に立てば、嬉しいです。


【注釈】
*1 会社法296条1項参照  *2 記載例14条
*3 会社法297条1項  *4 S. 303, CA 2006
*5 会社法299条1項  *6 記載例16条
*7 S. 307, CA 2006  *8 会社法300条
*9 会社法309条2項  *10 S. 283, CA 2006
*11 S. 318, ibid  *12 会社法319条
*13 Ss. 288-300, CA 2006  *14 S. 297, ibid
*15 S. 288, ibid  *16 会社法318条
*17 S. 355, CA 2006
*18 S. 30, CA 2006。なお、正確には、特別決議以外にも登録すべきものが定められていますが、ここでは割愛します。


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