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【英国法】ソリシターの独占業務 ー非弁行為規制ー

こんにちは。
お読みいただきありがとうございます。

本日は、イギリスの事務弁護士(ソリシター)の独占業務Reserved Activities)についてまとめたいと思います。

ぼくの記事はいつもニッチであることは承知しているのですが、とりわけ今回のテーマはマニアックかもしれません。

とはいえ、弁護士が留学2年目にイギリスの法律事務所で研修を行うとき、多くの人は無資格者でしょうから、独占業務の範囲は、そのまま研修先で何ができるかという話にもつながります。

個人的には、日本の弁護士法と全然違うので興味深いです。
ぜひ、気楽に読んで頂ければと思います。

なお、法律事務所のニューズレターとは異なり、分かりやすさを重視して、正確性を犠牲にしているところがありますので、ご了承ください。


日本における非弁行為

弁護士法第72条は、次のように定めています。

(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

つまり、日本では、弁護士以外の者が、有償で法律に関するサービスを提供したり斡旋したりすることは、原則として、禁止されています(*1)。これに違反する法律サービスの提供は、非弁行為と呼ばれています。

もちろん、司法書士や行政書士など、他の士業の方々にも、これらのリーガルサービスの一部を提供することが認められていますが、その範囲は法律に従うということになります。

非弁提携とは何か

上記弁護士法72条の文言から分かるように、自らが業務を行うだけではなく、弁護士でない者によるあっせん行為も禁止されています。我々の業界では、弁護士が、非弁護士の法律事務の取扱いに関与することは、非弁提携と呼ばれ、ご法度とされています。

非弁提携を禁止する趣旨は、法律家として適切な訓練を受けていない者が法律に関するサービスに関与することで、サービスの質が低下し、ひいては国民の権利保護が果たされなくなるというところにあります。

ぼくは、とある訴訟事件で、ちょっと怪しいビジネスをやっている企業が相手方になったことがあるのですが、相手方の代理人が、全身ブランドロゴのスーツで、裁判官が話している間もずっと誰かとラインをしており、「こいつ絶対やべぇだろ、、」という弁護士でした。事務所に戻って調べてみると、どうやら非弁提携をやっている弁護士として有名だったらしく、意外と身近にいるものだなと思ったものです。

まとめると、日本では、弁護士の独占業務の範囲は極めて広範です。
これは、裏を返せば、弁護士資格やその他の法律資格を持っていないと、事実上、法律サービスのビジネスは行えないということを意味します。

イギリスの場合:Legal Services Act 2007

イギリスにおいて、法律サービス業を規制する主要な法律は、Legal Services Act 2007です。

無資格者が実施できない業務

Legal Service Act 2007では、次に掲げる「reserved legal activity」について、無資格者が実施することを禁止しています。

無資格者ができない行為:
① 裁判所での弁論や承認への尋問(Rights of Audience)
② 訴訟の追行(Conduct of litigation)
③ 土地の譲渡証書や担保証書、不動産登記の申請等(Reserved instrument activities)
④ 相続に係る検認(Provate activities)
⑤ 公証(notarial activities)
⑥ 宣誓に係る事務(administration of oath)

つまり、これら①~⑥が、英国における非弁行為と呼べそうです。

⑤と⑥については、少しなじみがありませんが、それ以外の①~④でいうと、訴訟の代理、土地の取引、相続関係の業務にまとめることができます。他にもまた別の法律で無資格者による実施が禁止されているものもありますが、基本的には、禁止の範囲は上記に限られると考えてよいです。

無資格者であっても実施できる業務

つまり、英国では、無資格者であっても、上記①~⑥に該当しない業務であれば、実施が可能です。⑤と⑥を除けば、訴訟、土地取引、相続にさえ気を付ければ、事務弁護士の資格をもっていなくても、ビジネスを行うことができてしまいます。

弁護士の独占業務が広範で、弁護士法によってガチガチに守られている日本とはかなり事情が異なりますね。

M&Aのアドバイザリー、不正調査、ファイナンスキームの組成のような、弁護士っぽくない業務はもちろんのこと、訴訟外の紛争の代理人のような日本では明らかに弁護士しかできない業務であっても、無資格者がこれらを行うことについて、Legal Services Act  2017は禁止していません。

したがって、もし英国弁護士の資格を取らずにイギリスの法律事務所で研修をすることになっても、ほぼ全ての企業法務を実施することが可能です。ただし、無資格者と弁護士では、加入できる責任賠償保険が全く異なるので、実際には、無資格者のみで事務所を構えて事業を営むのは、ハードルが高いです。

登録外国弁護士(Registered Foreign Lawyer)

日本では、外国の弁護士資格を持っていれば、外国法事務弁護士として、一定条件の下で、その外国の法律事務を行うことが認められています。日本の外資系事務所の外国人パートナーは、90%以上がこの資格ですよね。

イギリスでも、Registered Foreign Lawyer(RFL)と呼ばれる資格があります。既に、ゆるゆるの弁護士業規制ですが、この登録を行うことで、主に次のような業務も可能となります。

(1) 有資格者の監督の下で、訴訟の追行を補助することができ、一部の下級裁判所での家事訴訟以外の事件であれば、弁論と証人尋問ができる
(2) 有資格者の監督の下で、土地の譲渡証書等の作成ができる

ぼくも、出向先と相談して、英国弁護士の登録が済むまでの間、一応、このRFLの登録を行いました。

結局、実際にこれらに携わることがないまま、英国弁護士の登録が完了してしまったのですが、既にRFLの登録手数料を払っていたおかげで、期中に英国弁護士へと資格を切り替える際の手数料が一部無料になりました。

このように、一見制度の意義が薄いように見えるRFLですが、外国の資格しか持っていない者がSRAの監督下にある法律事務所のパートナーになるためには、RFLの登録が必須です。また、これは推測なのですが、純粋な無資格者とRFLでは、加入できる責任賠償保険が異なると思われます。これらは、我々のようなアドバイザリーには、非常に大きな問題ですので、RFLも意義がある制度です。

おわりに

いかがだったでしょうか。
イギリスにおける事務弁護士の業務について、次のとおり、まとめます。

・ イギリスでは、無資格者は、訴訟、土地取引、及び相続を含む一部の法律事務を行うことができない
・ もっとも、企業法務の分野においては、無資格者であることによる業務の制限はほとんどない

ここまで読んで頂きありがとうございました。
この記事がどなたかのお役に立てば、嬉しいです。


【注釈】
*1 この注釈を敢えて見に来られた方は、きっと、ぼくのまとめ方が大雑把すぎると思われて飛んで来られたのだと思います。この記事の主旨との関係で、かなり端折ったものとなっている点、ご容赦ください。


免責事項:
このnoteは、ぼくの個人的な意見を述べるものであり、ぼくの所属先の意見を代表するものではありません。また、法律上その他のアドバイスを目的としたものでもありません。noteの作成・管理には配慮をしていますが、その内容に関する正確性および完全性については、保証いたしかねます。あらかじめご了承ください。


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